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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ショッピングモール運営者の法的責任は?運営者が責任を負うケースを解説

ショッピングモール運営者

今やインターネット上で商品を購入するのは当たり前になりました。経済産業省の「令和5年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、EC取引(電子商取引)の市場規模を見ると、BtoC(事業者対消費者取引型)だけでも、令和5年(2023年)には市場規模は24.8兆円を超えるまでに成長しています。

市場規模の拡大の陰で、プラットフォーム上のEC取引について多くのトラブル事例が報告されています。例えば、BtoC型取引においては、インターネットショッピングモール(以下「モール」といいます)の利用者が、モールに出店していた店舗から商品を購入したところ、商品に欠陥があったが連絡が取れないというトラブルなどがあります。このような場合、損害を受けたモール利用者は、当該店舗に対して契約上の責任を追及することができますが、モールの運営者も責任を追及されることがあるのでしょうか。

本記事では、モール運営者が、個別店舗による損害を受けた利用者に対して責任を負う場合があるのかどうかについて、解説します。

モール運営者の利用者に対する法的責任

経済産業省による令和4年(2019年)12月の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(以下「準則」といいます)では、モール運営者は損害を受けた利用者に対して、原則として責任を負わないとされています。

モールでは、個別の店舗と利用者が商品やサービスの取引を行うわけですから、その両者の間で物品を売買する旨の合意をすれば、当該取引につき売買契約が生じ、店舗は物品の引渡義務を負い、買主は代金支払義務を負うことになります(民法第555条)。このような基本的な権利義務関係が取引の基礎にあるので、店舗が異なる商品を引き渡せば、債務不履行(不完全履行)となり、利用者は店舗に対し、交換を請求することができます(追完請求としての代物請求)。また、店舗が商品を引き渡したにもかかわらず、利用者が売買代金の支払をしない場合には債務不履行(履行遅滞)となり、催告をした上で売買契約の解除をすることができます(民法第541条)。

モール運営者は、あくまでも取引を行う「場」を提供しているに過ぎないので、店舗と利用者の個別の取引について、利用者と直接の売買契約の関係には立ちません。ですから、個別の店舗との取引で売主としての責任を負うのは店舗であるとされています。

ただし、準則は、例外としてモール運営者が責任を負う場合もあるとしています。

モール運営者が責任を負う可能性がある場合

モール運営者が責任を負う可能性がある場合

準則では、例外としてモール運営者が責任を負う可能性がある例として、以下の3つの場合をあげています。

  1. 売主がモール運営者であるとの誤解が生じ得る場合
  2. 特定店舗の特定商品を優良であるとして積極的に品質等を保証した場合
  3. 重大な製品事故の発生が多数確認されていることを知りつつ、合理的期間を超えて放置した場合

この3つの場合につき、説明します。

売主がモール運営者であるとの誤解が生じ得る場合

準則では、

  1. 店舗による営業をモール運営者自身による営業とモール利用者が誤って判断するのもやむを得ない外観が存在し(外観の存在)
  2. その外観が存在することについてモール運営者に責任があり(帰責事由)
  3. モール利用者が重大な過失なしに営業主を誤って判断して取引をした(相手方の善意無重過失)

といったときには、売主がモール運営者であるとの誤解が生じ、商法第14条または会社法第9条にある「類推適用」により、モール運営者が責任を負う場合もあり得る、としています。 

自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

商法(自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任)第14条

自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

会社法(自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任)第9条

この、利用者が「モール運営者が営業を行っているものと誤認」するという「類推適用」を防ぐためには次のような文言を明示しておく必要があります。

例えばウェブ上に、利用者が通常認識することができるような形で「当モールに出店する店舗は、当社とは独立した事業者が自己の責任において運営しており、特に明示している場合を除いて、当社及び関連会社が管理または運営しているものではありません」というように、運営者が売主でないことを分かりやすく記載しておくとよいでしょう。こうした表示はモール運営者の責任を否定する有力な根拠となりえます。

モール運営者が品質等を保証した場合

準則では、モール運営者が特集ページを設けてインタビュー等を掲載するなどし、特定の店舗の特定商品を優良であるとして積極的に品質等を保証して、モール利用者がこれを信じて当該商品を購入したところ、当該商品の購入によって損害が発生した場合にも、モール運営者が責任を負う可能性があるとしています。

ただし、品質等に関してモール運営者の判断が入らない形で商品または店舗の広告を掲載しているにすぎないような場合には、モール運営者が責任を負うことは原則としてないと考えられています。

また、商品に「売れ筋」と表示したり、人気投票結果や売上などに基づいた「ランキング」などを単に表示したり、利用者の購買履歴等に基づき「おすすめ商品」を表示することも、それのみでは商品等の品質等に関してモール運営者の判断を示すものではないので、同じように、責任を負うことはないと考えられています。

重大な製品事故が多数確認されているのを放置した場合

重大な製品事故が多数確認されているのを放置した場合

重大な製品事故の発生が多数確認されている商品の販売が店舗でなされていることをモール運営者が知りながら、合理的期間を超えて放置した結果、当該店舗から当該商品を購入したモール利用者に同種の製品事故による損害が発生したという場合のような、特段の事情がある場合にも、不法行為責任またはモール利用者に対する注意義務違反(モールの利用契約に付随する義務違反)に基づく責任を問われる可能性があります。

国民生活センター「デジタル・プラットフォームに関するトラブル」には、ショッピングモールに関する消費生活相談のトラブル例として、

  • ショッピングモールに出店している販売事業者(店舗)で商品を注文したところ、「注文した商品が届かない」「注文したものとは別の商品が届いた」「商品のイメージが違う」「届いた商品に不具合がある」「商品を使用したところ事故が発生した」などのトラブル
  • トラブルが発生した場合、消費者が返金・返品・交換等を求めても販売事業者が対応しないケース
  • 販売事業者に連絡しても返事がなかったり、サイト上に販売事業者の連絡先の表示がないため連絡が取れないケース

などを挙げています。こうしたトラブルを抑止するために、内閣府による「オンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会報告書」(2019年4月11日)では、「プラットフォーム事業者の取組」として、

  • プラットフォームが健全で安全な取引環境を提供するものとなるために、基本的かつ最低限の安全確認事項として、出店・出品審査、提供者、購入・利用者に係る正確な情報を把握し、それを適切に活用すること
  • 出店・出品審査等にかかる審査基準を可能な範囲で公表
  • 財・サービス提供者(利用者)、購入・利用者、消費生活相談員等から取引に係る情報提供があった場合の調査、適切なモニタリング
  • トラブルの多い利用者等に対する注意、退店勧告等、出店時だけではなく消費者からの情報提供等に基づく事後的な対応
  • 行政機関と連携した法令違反事業者への対応

が求められています。

少なくとも当該違法行為の存在を知って以降は、速やかな対応を取らず、合理的期間経過以後にも放置しておいた場合には、モール運営者も責任を問われる可能性があるので、注意が必要です。

まとめ:ECサイト上でのトラブルは専門家に相談を

モール運営者と利用者は、個別の取引に関しては契約関係にありませんが、モールの利用自体に関しては、利用契約の関係にあるとされています。

そのため、モール運営者としては、利用契約に付随する義務として出店者を調査・管理し、取引環境を整備する義務があると考えられます。問題のある商品や店舗を調査し、未然にトラブルを防ぐということも大切です。

ショッピングモールを運営する際には、これらの法的責任をよく理解したうえで、消費者が誤認しないような表示や、店舗に対する適切な調査・対応を行う必要があります。関連する法令に精通した弁護士に相談しながら、利用者のトラブルを防ぐための措置をとるとよいでしょう。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。インターネット上でショッピングモールを開くにあたって、リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所ではソリューション提供を行っております。

モノリス法律事務所の取扱分野:IT・ベンチャーの企業法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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