【令和6年4月施行】商標法・意匠法改正のポイントは?知っておくべき変更点を解説
令和5年(2023年)に商標法や意匠法などの一部が改正され、令和6年(2024年)4月に施行されました。この令和5年改正に伴って商標や意匠の運用戦略も変わる可能性があるため、改正点の趣旨や細かな変更内容を把握しておくことは重要です。
この記事では、改正規定の内容や実務上で意識するべきポイントを解説します。商標法と意匠法の主な改正点を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
令和6年4月施行改正商標法・意匠法の変更点の概要
令和5年の商標法や意匠法などの改正は、近年のデジタル化や国際化に伴う法制度の整備を主な目的としています。
商標法の主な変更点は次の2点です。
- コンセント制度の導入
- 他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和
また、意匠法の主な改正点には、新規性喪失に関する例外規定の要件緩和があげられます。
この改正案は令和5年(2023年)6月14日に公布され、令和6年(2024年)4月1日に施行されました。ただし、意匠法の変更規定に関しては、令和6年(2024年)1月1日から施行されています。
改正点1:コンセント制度の導入(商標法)
コンセント制度とは、先に登録していた商標の権利者が同意すれば、後願の類似商標の登録を認める制度のことです。以前から検討されていた商標におけるコンセント制度が、本改正で導入されました。なぜこのような改正が行われたのか、詳しく説明していきましょう。
従前の規定内容
商標法では、次のような場合、商標登録を受けることができないものと規定しています。
(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
商標法|e-Gov法令検索
商標権とは、ひとことで言うと、商品やサービスの目印(商標)を独占できる権利のことです。ビジネスをするにあたっては、自社の商品やサービスを選んでもらうために、他社の商品・サービスと区別するための「目印」が付いています。その「目印」が「商標」であり、その目印(商標)を独占できる権利が商標権です。
商標法4条1項11号は、先に登録した商標に抵触する商標の登録を拒絶する規定で、いわば当然の規定でしょう。
本規定の趣旨は、
- 先行登録商標の権利者の保護
- 商品・役務の出所混同の防止
であるといわれています。
改正の背景
改正の背景には、従前の規定における次のような問題があります。
- 商標が登録拒絶された場合の対応コストの大きさ
- グローバル契約での弊害
従前の制度では、同一・類似の先行登録商標の存在を理由に出願商標が拒絶された場合に、対応にかかる負担が大きいという問題点がありました。
登録を拒絶された出願商標に関して、抵触する内容の補正ができない場合、反論意見書の提出や先行登録商標の権利取消訴訟などの対応が必要です。再び登録の承諾を目指すためには、時間的・金銭的なコストが大きな負担となります。
また、欧米諸外国では、他人の先行登録商標に抵触する商標が出願された場合でも、先行登録商標の権利者の同意があれば両商標の併存登録が認められる制度が以前から導入されています。
日本法でコンセント制度が認められていないため、2つの商標が存在する併存合意契約が結べず、グローバル契約に弊害が発生している問題点も指摘されていました。
そこで、企業からのニーズや国際的な制度調和の観点を踏まえて、日本にもコンセント制度が導入されることになったのです。
改正の内容
上記した背景を踏まえ、次のような規定が新設されました。
商標法4条
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4 第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。
この規定により、商標法4条1項11号に該当する商標であっても、次の2点を要件に商標登録を受けられるようになったことがわかります。
- 先行登録商標の権利者の承諾を得ていること
- 先行登録商標との間で出所混同のおそれがないこと
また、4条1項11号の趣旨を担保するために、以下のように諸制度が整備されました。
- 併存する商標の一方の商標権者は、他方の商標権者に混同防止表示を付すことを請求できる(商標法24条の4第1号)
- 一方の商標権者が不正競争の目的で出所混同を生じさせるような商標を使用したときは、誰でも商標登録の取消審判の請求ができる(商標法52条の2)
コンセント制度の導入は認められたものの、あくまでも先行登録商標の権利保護と出所混同の防止が重要視されることに注意が必要です。
不競法の改正との関わり
商標法の改正に伴い、不正競争防止法も一部改正されました。
問題は、コンセント制度導入により併存することになった2つの商標のうち、一方が不競法2条1項1号・2号が定める周知性や著名性を獲得した場合にあります。
周知性等を獲得した商標権者は、もう一方の商標権者に対して、不競法に基づく差止請求等が可能です。ですが、この差止請求が認められてしまえば、コンセント制度の円滑な利用を阻害しかねません。
そこで、コンセント制度により併存することになった両商標権者は、他方の商標権者に対して不競法2条1項1号・2号を理由とする差止請求等はできない旨が、不競法19条1項3号に規定されました。
不競法のその他の改正点は、以下の関連記事をご参照ください。
関連記事:【2024年4月施行】改正不正競争防止法のポイントとは?知っておくべき変更点を解説
改正点2:他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和(商標法)
令和5年の本改正では、他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和が行われました。
改正の背景や改正規定について解説します。
従前の規定内容
従前の商標法では、4条1項8号によって、他人の氏名などを含んだ商標は認められていませんでした。
(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。八 他人の肖像若しくは他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
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この規定の趣旨は、他人の人格的利益の保護にあります。つまり、自らの承諾がないまま氏名や名称が商標に使われることがないようにすることが目的です。
改正の背景
他人の人格的利益の保護法益がある一方で、以前より、創業者やデザイナー等の氏名をブランド名に使いたい場合に商標登録ができないことから課題とされていました。
他人の承諾を得れば商標登録はできますが、同姓同名の人物からすべて承諾を得ることは現実的ではありません。こうした場合の商標権を認めないとすると、氏名からなるブランドの保護に欠けるといえます。
こうした問題に対して、欧米諸外国では、他人の氏名を含む商標について、知名度を要件として設けることで対処していました。国際的な制度調和のため、商標法4条1項8号の改正が求められていたことも、本改正の背景にあります。
改正の内容
商標法4条1項8号は、令和5年改正で以下のように改正されました。
商標法4条1項
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八 他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの
この改正により、商標の使用をする商品・役務の分野で需要者に広く認識されていない氏名であれば、他人の氏名であっても登録できることになります。
また、他人の氏名を含む商標のうち、政令で定める要件に該当しないものは商標登録できない旨も併せて規定されました。今後制定される政令の内容に注視する必要があるでしょう。
さらに、商標制度小委員会は、他人の氏名が一定の知名度を有しない場合であっても、他人の人格的利益が侵害されるような濫用的出願は拒絶されると述べています。
政令も含め、人格的利益を保護する制度設計をすることで、本規定の従来の趣旨を担保しているといえるでしょう。
改正点3:意匠の新規性喪失に関する例外規定の要件緩和(意匠法)
「意匠権」は、コピー商品、類似商品などの模倣品対策に活用できる知的財産権の1つです。意匠権が認められるためには新規性が必要です。意匠登録出願よりも先にその意匠を刊行物やウェブサイトなどで発表をしてしまうと、新規性の喪失によって意匠登録が認められなくなってしまいます。ですが、一定の要件を満たせば、その意匠の新規性は喪失していないものとされています。今回の改正では新規性喪失に関する例外規定の要件緩和が行われました。
改正の背景や改正内容について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
従前の規定内容
意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性が喪失された場合でも、次の規定内容を満たすならば、新規性は喪失していないとみなされます。
(意匠の新規性の喪失の例外)
第四条
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(以下この条及び第六十条の七において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
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この規定は、展示会や刊行物、ウェブサイトへの発表などによって自らの意匠を公開した後、意匠登録出願をする場合を想定しています。
意匠創作者の表現として同一範囲の活動と理解できる行動を制限しないことが目的です。
改正の背景
従前の規定内容では、意匠法4条3項に定められる「例外適用証明書」の提出にあたる出願の負担の大きさが指摘されていました。
近年ではSNSやECサイトを利用したPRや販売が行われ、意匠の公開態様が多様化・複雑化しています。また、クラウドファンディングで先にデザインを公開してから製品化するなど、開発過程において意匠を公開するケースも多く見られます。
このような状況で、30日以内にすべての公開行為を網羅した証明書を作成することは、出願人にとって大きな負担であるといえます。
そこで、令和5年改正では、4条3項の要件が緩和されました。
改正の内容
意匠法4条3項は、令和5年改正で次のように改正されました。
意匠法4条
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3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(以下この条及び第六十条の七において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。ただし、同一又は類似の意匠について第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至る起因となつた意匠登録を受ける権利を有する者の二以上の行為があつたときは、その証明書の提出は、当該二以上の行為のうち、最先の日に行われたものの一の行為についてすれば足りる。
改正前は、すべての公開意匠を網羅した例外適用証明書の作成が必要でした。本改正により、最初の公開意匠についての証明書を提出すれば、新規性喪失の例外規定の適用を受けられるようになります。
出願人の負担が軽減されたと同時に、最初の公開意匠が証明書に掲載されることで第三者の予見可能性にも配慮がされているといえます。
改正による実務への影響ととるべき対策
令和5年の商標法、意匠法の改正にあたり、本改正の内容を十分に把握することが重要です。特に、改正に関わる政令や審査基準は整備されていないものもあります。今後の制定を注視すべきでしょう。
また、本改正は、商標や意匠をより広く使いやすくなった内容が多いといえます。特に商標法の改正は、今まで商標登録をできなかった商標についても商標登録が認められる可能性を高めるものです。今後はより幅広くブランド戦略を展開していくことが、事業者には期待されているといえます。
改正規定の内容に当てはまる場合が到来した際に、規定を効果的に活用できるように、改正内容の理解を深めておきましょう。
まとめ:商標法・意匠法改正への対応は専門家に相談を
商標法と意匠法の令和5年改正は、近年のデジタル化や国際化を背景に、法制度の整備を主な目的として行われました。
商標法では、今まで商標登録をできなかった商標も登録できる可能性が高められ、意匠法でも意匠出願をよりしやすくなる内容となっています。本改正による規定を効果的に活用し、より幅広い事業展開を進めるためには、改正内容への適切な理解が不可欠です。
商標や意匠の登録は自社の事業戦略に大きく影響するため、迅速かつ着実な対応が求められます。改正内容に関してお悩みの場合は、専門家にアドバイスを受けることをおすすめします。
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