詐欺・騙されたと書かれたら名誉毀損で削除できるか

2ちゃんねるや5ちゃんねるなどの匿名掲示板やブログなどで、「詐欺」「詐欺会社」「あの会社に騙された」などと書かれてしまった場合、こうした投稿について「名誉毀損だ」と主張し、記事削除やIPアドレス開示請求を行うことはできるのでしょうか。
匿名掲示板やブログに「詐欺」「騙された」などと書き込まれた場合、名誉毀損に該当する可能性はあります。しかし、全ての投稿が名誉毀損に当たるわけではなく、事実に基づいた正当な批判など名誉毀損の要件を満たさない場合には、削除は認められません。
この記事では、名誉毀損の構成要件について詳しく説明し、「詐欺」などの書き込みを名誉毀損で削除できるかについて解説します。
この記事の目次
詐欺行為の意味解釈
この問題を考える上では、その記事において「摘示」されている「事実」が何なのか、という点が非常に重要なポイントとなります。「詐欺」「騙された」といった言葉が、以下のどちらの意味で使われているのか、その記事を読んだ人がどういう印象を受けるのか。これによって、結論が大きく変わり得るからです。
- 民法や刑法上の「詐欺」を行ったという意味で書かれている
- 単に「結果的に納得できない結末となった」というような意味で書かれている
同じ「詐欺」「騙された」という言葉が使われているケースでも、前後の文脈から、上記のいずれなのか(またはその中間なのか)は変わってきます。
そして名誉毀損は、単純に言うと、
- その記事で書かれている(=摘示されている)事実が
- 虚偽であった場合
に成立します。
関連記事:名誉毀損で訴える条件とは?認められる要件と慰謝料の相場を解説
「詐欺」と書かれた場合に名誉毀損が成立する可能性
法律上の「詐欺」は、なかなか成立しません。
「でもそれは、ヤツらが詐欺師だと「立証」できたら--の話だろ?
漫画「クロサギ」第1巻
実際、詐欺ほど野放しになってる犯罪もないんだぜ。それは、詐欺がものすごく「立証」しにくい犯罪だからさ。
詐欺罪を立証するには、まず……詐欺師が被害者を「騙すつもりだった」ってことを証明しなきゃいけない。
「欺罔」っていうんだけどね。これがすんげえ難しい。なんせ心の中のことだからな。
「カネは借りただけ、返す意思がある」……そう主張して認められたら、詐欺罪で告発することはできない。」
法律上の「詐欺」とは、相手を騙すつもりでお金などを支払わせる行為をいいます。
例えば以下のケースでは、欺罔行為(やその故意)に欠けるため、詐欺は成立しない可能性が高くなります。
システム開発や企業間取引などの場面で、「この人(会社)なら良いものを作ってくれる」と信用されて金銭を預かり、 しかし結果的に完成物を相手が納得しなかった
投資運用やICO(Initial Coin Offering)などの場面で、「この人(会社)なら大丈夫だ」と信用されて金銭を預かり、結果的に運用に失敗した
このようなケースでは、金銭を預かる時点で相手を騙す意思がなかったにも関わらず「詐欺」「騙された」などと書かれたとしたら、それは真実に反しています。このような投稿に対しては、名誉毀損を主張し、記事の削除やIPアドレスの開示請求を行える可能性が高いと言えます。
これに対し、「法律上の詐欺行為が行われた」というような意味内容を読み取れない場合、単に「納得できない」というような意味内容で「詐欺」「騙された」などと書かれている場合、それは個人の「感想」、例えば「あの店のラーメンは不味い」といったものに近く、なかなか名誉毀損を主張することは難しいでしょう。
詐欺の解釈による名誉毀損の判断
このように結論が大きく分かれ得るため、摘示されている事実の特定、掲示板投稿などの「解釈」が、非常に重要です。記事を削除させたい側としては、なるべく、
- その投稿は法律上の詐欺行為が行われたという意味で書かれており
- 我々は法律上の詐欺行為を行っていないのだから
- 当該投稿は名誉毀損にあたり、削除されるべき
といった主張を行うことになるでしょう。そしてこれに対し、相手方は、例えば、単に「騙されたような気分になってしまった」というような個人の感想を書いただけ、といった反論を行うことになるでしょう。
詐欺表現の名誉毀損判断基準
具体的なケースにおいてどのように読み取るべきなのか、という点については、「一般読者の普通の注意と読み方」が基準になるという最高裁判決があります。
名誉を毀損するとは、人の社会的評価を傷つけることに外ならない。それ故、所論新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても、いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合、その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上、これをもつて名誉毀損の記事と目すべきことは当然である。
最判昭和31年7月20日
もっとも、「一般読者の普通の注意と読み方」というだけでは何とも不明確です。実務感覚としては、「一般読者の普通の注意と読み方に従えば、前後の文脈なども踏まえれば、この記事は法律上の詐欺行為があった旨の事実を摘示している」という筋の通った主張を行えるか否かで結論が変わり得る、というところではあります。そして、少なくとも裁判になった場合に、そうした「筋の通った主張」が求められる以上、裁判を念頭に置きながら進められる裁判外交渉(送信防止措置請求)の場面でも、筋の通った主張を行えるか否かで、結論は変わり得るものでしょう。
インターネット上の掲示板での詐欺・名誉毀損の評価基準
さらに、この「一般読者の普通の注意と読み方」は、例えば2ちゃんねるや5ちゃんねるの過去ログ・現行スレッドといった掲示板の場合、前後のレスを含めて「普通の注意」で読んだ場合の読み方を指します。インターネット上の掲示板に作られた特定のスレッドに、合計4個のレスが投稿されたものの、各投稿単体では誰の何について書かれたものなのかが分かりにくいという事案について、
本件投稿は本件スレッド上の中でされたものである以上、それ単体ではなく、本件スレッド全体の文脈の中でどのような意味に受け取るのが通常かを全体的・客観的に考察するのが相当である
東京地判平成25年4月22日
と判示した裁判例もあります。この基準に従って考えれば、たとえ一つのレスを読んだだけでは「法律上の詐欺行為を行った」とは読めないケースであっても、前後のレスと併せて読んだ際に「欺罔行為」といったニュアンスを読み取れるのであれば、「そのレスは、法律上の詐欺行為を行った、と書いてあると読み取れる」というように主張可能でしょう。
「裁判になった場合、さすがにこの記述であれば勝てる(または負ける)はず」といったような相場観、そして最大限に名誉毀損を認めさせるための主張構成のノウハウ。「詐欺」「騙された」と書かれてしまった場合の削除やIPアドレス等の開示請求においては、特にこうした経験やノウハウが必要になると言えます。
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名誉感情侵害の可能性
名誉感情侵害(侮辱)は名誉毀損と類似しながらも異なる法的概念です。名誉感情侵害は刑法上「侮辱罪」として規定されており、名誉毀損が社会的評価の低下を問題とするのに対し、名誉感情侵害は本人の感情を傷つけることを問題としています。
近年の裁判例では名誉毀損よりも名誉感情侵害に基づく請求が多い傾向にあり、令和4年7月7日より侮辱罪が厳罰化されました。
成立要件としては「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」と認められることが必要です。一般的には「普通の人なら我慢できない程度」の罵りや不謹慎な表現が該当します。単に「ブス」「デブ」などの表現では成立しにくいですが、それらに他の侮辱的表現が加わると成立する可能性が高まります。
名誉毀損との主な違いとしては、侵害される利益が名誉毀損では「社会的評価」であるのに対し、名誉感情侵害では「自分の感情」である点です。そのため、名誉感情侵害には必ずしも公然性は必要はなく、公開されていなくても対象者に伝われば成立し得ます。
法人への適用に関しては、法人は感情を持たないため名誉感情侵害は成立しません。さらに、名誉毀損は事実の摘示が必要ですが、名誉感情侵害は事実・罵倒を問わず成立します。
救済方法としては、名誉毀損では謝罪広告を求められますが、名誉感情侵害では原則として金銭賠償のみです。
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まとめ:事実摘示の解釈で変わる法的対応
「詐欺」「騙された」と匿名掲示板やブログに書かれた場合の法的対応は、その言葉の使われ方によって大きく異なります。投稿内容が民法・刑法上の詐欺を意味していると解釈される場合は、実際に「欺罔行為」がなかったのであれば、名誉毀損として記事削除やIPアドレス開示請求ができる可能性が高いです。
一方、単に「納得できなかった」という感想レベルの意味で使われていると解釈される場合は、名誉毀損の主張は困難です。どう解釈すべきかは「一般読者の普通の注意と読み方」が基準となり、掲示板の場合は前後のレスを含めた文脈も考慮されます。
また、事実の摘示が必要な名誉毀損が成立しない場合でも、表現が「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」であれば名誉感情侵害として対応できる可能性があります。ただし、法人は感情を持たないため名誉感情侵害は成立せず、救済方法も名誉毀損と異なり原則として金銭賠償のみです。
投稿内容の適切な解釈と法的対応の選択には、豊富な実務経験とノウハウが必要です。
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