ステマ・自作自演と書かれたら名誉毀損で削除できるか
企業にとって、2ちゃんねるや5ちゃんねるなどの匿名掲示板の過去ログや現行スレッド、Yahoo!知恵袋やAmazonカスタマーレビューなどの口コミサイトで、自身の会社が「ステマ(ステルスマーケティング)をしている」「自作自演で高評価を付けている」などと書かれてしまうことは、売上面・求人面の双方で大きなマイナスです。現代では、消費者は、購入を検討している商品名やその販売元の会社名を、購入前に検索エンジンで検索するケースが多いものといえます。その際に、ステマ・ステルスマーケティング・自作自演の手法で売上を伸ばしているという風評が検索結果に出てしまうと、購入を躊躇されてしまうでしょう。また、アルバイトなどの求人で応募しようとした会社に、ステマ・ステルスマーケティング・自作自演の疑惑が持ち上がっていると、求人応募にも躊躇が生じるでしょう。
「ステマをしている」「ステルスマーケティングを行っている」「自作自演をやっている」といった記載は、削除することが可能なのでしょうか。
なお、このテーマと似て非なるものとして、「他社が明らかにステマ手法を用いている場合に、その他社によるステマ記事やステマサイトを削除することができるのか」というテーマについては、以下の記事で解説しています。
この記事の目次
ステマ・自作自演と書かれることは「名誉毀損」か
自社についてステマ・ステルスマーケティング・自作自演の疑惑が生じてしまった際には、そうした記載が名誉毀損に該当するか否かを検討することになります。名誉毀損に該当する場合は、記事の削除や、当該記事を投稿した人間のIPアドレス開示請求を行い得るからです。
では、「この会社はステマを行っている」「ステルスマーケティングの手法を用いている」「自作自演をしている」などと言われることは、名誉毀損に該当するのでしょうか。
名誉毀損は、単純に言うと、
- 自社について「具体的な事実(事柄)」が記載されており
- その事によって自社の「社会的評価」が低下してしまっており
- その記載が真実に反する
という場合に成立します。
「具体的な事実(事柄)」の記載とは
名誉毀損は、単に「自社にとって不愉快な事が書かれている」というだけでは成立しません。記載されていることが、「具体的な事実(事柄)」でないといけません。例えば、単に「悪い会社」と書かれているだけでは、どのように「悪い」のかが分からず、「具体的」とは、なかなか言い難いものです。
ステマ・ステルスマーケティングの定義
しかし、ステマ・ステルスマーケティングは、例えば
ステルスマーケティングとは、消費者に宣伝行為・販促活動であることを悟られないような形で行われる宣伝・販促活動のことである。英語ではundercover marketing(アンダーカバーマーケティング)と呼ばれることが多い。
ステルスマーケティングとは何? Weblio辞書
(中略)
ステルスマーケティングは、典型的には、売り手・広告主の側から依頼を受けた人物が売り手とは無関係な第三者を装って好評を伝える、という形で行われる。中立的な立場からの公正な評価であるかのような体で、あるいは一般消費者の素朴な感想という体で、評判がよいことを世間に発信するわけであるが、ステルスマーケティングは売り手側からの依頼に応じた「仕込み」としてこれが行われる。すなわち「やらせ」である。
といった定義で一般に用いられている言葉であり、結局、ある会社が第三者に対して依頼を行い、しかし当該第三者が会社とは無関係な中立的な立場を装って、「やらせ」の形で高評価を発信する、という具体的な意味内容の言葉です。
自作自演の定義
自作自演も同様に、例えば
インターネットにおける自作自演(じさくじえん)とは、一つのウェブサイト上で、一人の人間が、同時に複数の人間が活動しているように見せかける行為である。実際にネット上でこの行為を指す際は、単に自演と略されることが多い。
自作自演 (インターネット) – Wikipedia
というように、具体的な意味内容の言葉です。
このように、ネット上における自社に対するネガティブな評価、例えば「ステマをしている」が名誉毀損に該当するか否かは、その言葉の具体的な意味内容による部分があります。そこで、辞書などをあたり、その言葉の具体的な意味内容を検証する必要が生じます。ここではネット上の情報を引用しましたが、実際の裁判では、ある程度の歴史や権威のある辞典・辞書などが用いられるケースが多いものといえます。
一般読者の普通の注意と読み方」に基づく判断
なお、付言すれば、「どのような事実が書かれていると言えるか」というのは、「一般読者の普通の注意と読み方」に基づいて判断されます。どういうことかというと、直接的に「ステマ」と書かれていなくても、文脈上、「ステマをしている」と読み取れるような記載がなされていれば、「ステマをしている」という事実を書いていると判断できる、ということです。例えば、商品を褒める口コミに対して「宣伝代でいくら貰ったの?」と書くのも、結局、「その会社はステマをしている」という事実を仄めかしていると言えるでしょう。
直接的には「ステマ」「自作自演」と言われていないケースであっても、それが文脈上「ステマ」「自作自演」と読み取れる、という主張をいかに説得的に行うかは、仮処分や裁判、それを念頭に置きながら行われる裁判外交渉の場面において、非常に重要なポイントです。
「社会的評価」の低下とは
名誉毀損は、単に「真実とは異なる事柄が記載されている」というだけでは成立せず、「そのように言われてしまうと自社の評価が下がってしまう」という場合にしか成立しません。ここでいう評価とは、対消費者・対求人など、自社外の第三者からの評価、専門用語で言う「社会的評価」を指します。
ステマ・自作自演は社会的評価を低下させる
そこで、ステマ・ステルスマーケティング・自作自演といった口コミが、自社の評価を低下させることを論証しなければなりません。この問題について、「ステマ」という記載が社会的評価を低下させるという判断を行っている裁判例も存在します。
当該表示が名誉又は信用を毀損するものに当たるか否かは,一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきところ,一般読者の普通の注意と読み方によった場合,上記(中略)の表示は,原告教材の口コミが原告教材を実際に購入し,使用した者によって作成されたものではなく,原告がステルスマーケティングによって作成した嘘のもの,すなわち原告が自ら又は第三者に依頼して意図的に作出したものの可能性があるとの印象を与えるものであるということができる。原告が外国語教材の企画・開発及び販売等を業とする法人であることは (中略)のとおりであるところ,原告が,その販売する商品である原告教材につき,高評価の口コミを自ら作出している可能性があるということは,原告の名誉,信用等の社会的評価を低下させるものであるというべきである。
東京地判平成26年6月4日
この判決は、特に明確な根拠を述べてはいませんが、少なくとも、「外国語教材の企画・開発及び販売等」を行っている会社が、その教材について「高評価の口コミを自ら作出している可能性がある」と言われてしまうと、社会的評価が低下する、ということを明確に判断しています。一般化して言えば、事業を営む会社にとって、その商材についてステマ・ステルスマーケティング・自作自演を行っているという評判は、その社会的評価を低下させるものである、ということでしょう。
「ステマは違法行為だから」という論法
実務的には、「ステマをしている」という事実が社会的評価を低下させる、という主張のために、以下のような主張を行うケースも多いように思えます。
(原告の主張)
東京地判平成26年6月4日
(中略)
「ステマ」とは,「ステルスマーケティング」の略であり,一般消費者に宣伝と気付かれないよう宣伝する手法であって,例えば自社商品の宣伝を口コミや感想の形であたかも一般消費者の評判が良いかのように表示する行為等を指すものである。このような行為は,当該事業者の商品又はサービスの内容等が実際のもの等よりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)違反ともなり得るものである(後略)
この主張は、
- ステマは景表法違反ともなり得る行為である
- 1より、「ステマをしている」というのは、景表法違反ともなり得る行為をしているとの事実を述べるものである
- 企業にとって、法律違反をしていると言われると、社会的評価が低下する
という論法であると言えます。実務感覚として、「法律違反をしていると言われてしまうと、社会的評価は低下する」というのは、比較的裁判所に納得されやすい主張であると言え、上記主張もこの枠組みを用いるものであると言えます。
「真実に反する」ことの立証
名誉毀損は、記載されている事柄が真実に反する場合にのみ成立します。そこで結局、ステマ・ステルスマーケティング・自作自演といった疑惑について「名誉毀損である」と認めさせるためには、自社がそうした手法を用いているか否かが、重大なポイントとなります。
では、「ステマを行っていない」という証拠は、どのように揃えれば良いのでしょうか。
広報担当者の陳述書などによる立証
これは、具体的な事案ごとに戦略を考えなければいけない問題ではありますが、比較的多くのケースで使える手法は、下記です。
まず前提として、ステマ・ステルスマーケティングを行う主体は、上記の言葉の定義に照らして、基本的には社外の第三者、いわゆる外注先企業です。そして、多くの企業では、インターネット関連の業務を外注する際には、広報などの担当者が具体的な要件定義を行っているはずです。また、自作自演を行う主体は、上記の言葉の定義に照らして、基本的には社内の人間です。そして同様に多くの企業では、仮にインターネット上で自作自演を行うのであれば、実際に手を動かすのは広報担当者であるはずです。そこで、
- 自社のインターネット関連の外注先を管理し要件定義を行っている立場の広報担当者による、外注先リストに関する情報と、「自社はそうした業務を外注していない」という意味内容の陳述書
- 各外注先企業との、業務内容が記載されている契約書
- 各外注先企業からの、業務内容が記載されている請求書
- 自社のインターネット関連の広報活動をマネージメントしている立場の広報担当者による、「自分はそうした業務を頼まれていないし、部下にも指示していない」という意味内容の陳述書
などを証拠として提出する、という方法が考えられます。
ケースバイケースでの判断が必要
このように、仮処分や裁判では、あらゆる点について、「証拠」が必要とされます。上記では、2箇所を「陳述書」としていますが、言うまでもなく、証拠は、可能であれば、契約書や請求書など、客観的である方が望ましいものではあります。陳述書は、あくまで「その人がそう言っている」というだけのものではあるからです。それは、契約書等の客観的な証拠に比べれば、どうしても「弱い」ものではあります。
したがって結局、具体的な事案の下で、どのように「強い」証拠を揃えるか、検討する必要があります。これは、仮処分や裁判において、非常に重要なポイントと言えます。