撮影罪とは?迷惑防止条例との違いや違法行為を解説
現代は、スマートフォン等の普及によって盗撮の摘発件数は増加傾向にあります。また、小型カメラなどもインターネットで容易に購入できることもあって、いつ誰が盗撮の被害に遭ってもおかしくありません。
近年、盗撮件数の増加が問題視されており、令和5年(2023年)7月「性的姿態撮影等処罰法(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律)」が施行され、撮影罪が新たに設けられました。これは、従来の法律や条例と異なり、盗撮行為そのものを処罰でき、処罰内容も厳罰化された新しい法律です。
本記事では、撮影罪について説明するとともに、どのような行為が撮影罪になるのかを詳しく解説します。また、撮影の他にも処罰対象となる行為を紹介します。
この記事の目次
新たに創設された「撮影罪」とは
撮影罪とは、正当な理由がないのに相手の同意を得ず、性的な身体の部位や性的な姿をひそかに撮影する罪です。
撮影罪とは、令和5年(2023年)7月13日に新たに施行された「性的姿態撮影等処罰法(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律)」で定められている罪です。
性的姿態撮影等処罰法では、性的な画像についてさまざまな行為に対して処罰対象や罰則が定められており、撮影罪は性的姿態撮影等処罰法に定められている処罰の一つです。撮影罪については、性的姿態撮影等処罰法第2条にて以下のように定められています。
(性的姿態等撮影)
出典:e-gov|性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
(以下略)
例えば、更衣室や入浴施設など、人が衣服をつけないでいる場所において性的な部位を露出している姿を気づかれないように盗撮したり、スカート内にカメラをこっそり差し入れて下着を盗撮したりする行為が該当します。
従来は、性的な盗撮行為を各都道府県の迷惑防止条例等で取り締まっていました。しかし、適用が難しいケースがあったり、罰則が軽いという意見があったり、何よりスマートフォンや小型カメラの普及によって盗撮の摘発件数が近年増加しているため、「撮影罪」が新設されました。
なお、撮影罪が適用されるのは施行日の令和5年(2023年)7月13日以降なので、犯行が発覚したのが撮影罪の施行日以降であっても、犯行が行われたときが施行日以前であった場合は撮影罪は適用されません。
撮影罪と迷惑防止条例違反との違い
性的姿態撮影等処罰法の撮影罪と迷惑防止条例違反との違いについて、撮影罪を定めている性的姿態撮影等処罰法は、条例と異なり全国一律で適用される点が異なります。
迷惑防止条例は各都道府県ごとに定められているため罰則や条文の内容は都道府県ごとに異なっています。そのため、過去には、高速で移動する航空機の機内や新幹線の車内などで犯行が起きた場合、その行為がされた都道府県を特定できず適用できないケースもありました。しかし、撮影罪の新設によって全国一律で適用でき、罰則内容も同一で取り締まれるようになったのです。
また、撮影罪では罰則対象は、撮影以外の行為にも広げられています。撮影罪では撮影行為のみならず、盗撮された動画・画像の保管や送信などの行為もそれらの行為単体で処罰対象としているため、迷惑防止条例よりも広い範囲で法律を適用しやすくなりました。
撮影罪では、罰則内容も厳罰化されています。東京都の迷惑防止条例における違反罰則は、初犯など非常習の場合で1年以下の懲役または100万円以下の罰金、常習性の認められる盗撮行為で2年以下の懲役または200万円以下の罰金です。
一方、撮影罪の刑罰は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(性的姿態撮影等処罰法第2条第1項)で、迷惑防止条例違反と比較して重い罰則となっています。なお、検察官が犯罪について起訴できる期間である公訴時効は、犯行が終わった時点から3年です。
さらに、性的姿態撮影等処罰法第8条では画像・動画の没収、性的姿態撮影等処罰法第9条から第13条では画像・動画の消去や消去命令について定められています。違法に盗撮された画像や動画は、検察官が没収・消去したりもしくは消去命令を出したりできます。
迷惑防止条例では、捜査機関が押収した画像・動画は刑法第19条に基づいて扱うため、不起訴となった場合は強制的に没収することはできません。仮に、起訴となっても原本以外のコピーは対象外であり、犯人以外の所有物も対象外であることから、盗撮画像の没収や消去はできませんでした。
撮影罪では、違法な行為で撮影された動画・画像、そして原本のみならずコピーも没収できると明文化されています。盗撮された動画・画像を出回らなくさせる、被害者に有用な措置です。
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撮影罪の構成要件・類型
撮影罪はさまざまな行為の類型に区分されるため、それぞれ構成要件が異なります。ここでは、撮影罪の構成要件と類型を解説します。
性的な姿態の盗撮
性的な姿態の盗撮とは、正当な理由がなくひそかに性的な姿を撮影する行為で、一般的にイメージされる盗撮行為のことです。性的な姿態については、性的姿態撮影等処罰法第2条第1項にて以下のように定められています。
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
引用:e-gov|性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
臀部や胸部など身体の性的な部位や通常では見えない下着、そしてわいせつ行為や性行為が性的な姿態とされています。これらの姿を、正当な理由もなくひそかに撮影する行為が処罰行為です。
具体的には、スカート内の下着を盗撮する行為や、トイレや更衣室で衣服をつけていない姿を撮影する行為などが該当します。また、性行為をしている場面を相手の許可なく撮影する行為にも適用されます。
不同意撮影
不同意撮影とは、性的な姿を撮影する行為に対して同意が困難な状況に相手を置いて、同意を得ずに撮影をすることをいいます。不同意撮影については、性的姿態撮影等処罰法第2条第2項にて以下のように定められています。
二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
引用:e-gov|性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
撮影への同意が困難な状況に相手を置く行為として、以下が挙げられます。
- 暴行や脅迫で従わせる
- 心身の障害に乗じる
- アルコールや薬物を与えて抵抗できない状態にする
- 睡眠などにより意識がはっきりしない状態にあることを利用する
- 不意打ちなどにより、撮影に同意しない意思を持ったり表明したりする時間を与えない
- 予想外の事態に直面した恐怖や驚きによって抵抗できない状態にする
- 過去の虐待などが原因の無力感や恐怖心によって抵抗できない状態にする
- 経済的・社会的地位を利用して、撮影を拒むと不利益が生じる不安から抵抗できない状態にする
例えば、暴行や脅迫行為によって無理やり撮影したり、泥酔状態や昏睡状態にある相手の性的な姿をこっそり撮影したりする行為などが該当します。
誤信による撮影
誤信による撮影とは、撮影の対象者である相手をだまして性的な画像や動画を撮影する行為です。誤信による撮影については、性的姿態撮影等処罰法第2条第3項にて以下のように定められています。
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
引用:e-gov|性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
例えば、撮影する画像や動画の内容について、「芸術作品である」などと説明して性的なものではないと相手を誤信させたり、また相手が誤信していることに乗じて撮影したりする行為が挙げられます。仮に性的なものと認識していたとしても、「ほかの第三者には見せないから」などと言って同意させて撮影する行為も罰則対象に含まれます。
16歳未満への性的撮影
正当な理由がないのに16歳未満の人物に対して性的な姿を撮影する行為は、たとえ同意があったとしても撮影罪の処罰対象です。ただし、撮影の対象者が13歳以上16歳未満の場合は、撮影者との年齢差が5歳以上でない場合は処罰対象になりません。
16歳未満への性的撮影については、性的姿態撮影等処罰法第2条第4項にて以下のように定められています。
四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
引用:性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律|G-GOV
「五年以上前の日に生まれた者」という要件は、撮影の対象者の生年月日から5年以上前に撮影者が生まれているかどうかで判断されます。高校生同士で交際しているなどの学生カップルによる撮影を除外するため、撮影者と撮影対象者との年齢差が5歳以内は処罰対象としていません。
ただし、年齢差が5歳以内のケースでも、前述したようなひそかに撮影する行為もしくは不同意撮影や誤信による撮影の場合は撮影罪の処罰対象になります。
撮影にまで至らなくても未遂が成立する場合もある
撮影罪の構成要件では、仮に撮影にまで至らなかった場合でも未遂として処罰できる場合があります。性的姿態撮影等処罰法第2条第2項では「前項の罪の未遂は、罰する。」とされており、撮影罪の構成要件の行為は未遂であったとしても処罰対象になります。
例えば、スカート内にスマートフォンを差し入れたが撮影まではしていなかったり、更衣室に小型カメラが設置されていたが着替える前に気づいたりなどのケースは、未遂となります。
未遂の行為もひそかに撮影した行為と同様に処罰されるため、撮影に成功していないケースでも、盗撮行為に着手したと評価できれば、撮影罪の未遂として処罰される可能性があります。
未遂であっても既遂と同様に罪に問えることで、より広範囲にわたって盗撮行為の処罰・抑制が可能となりました。
撮影以外の行為で性的姿態撮影等処罰法の対象となる行為
性的姿態撮影等処罰法では、撮影以外で処罰対象となる行為と罰則も定められています。性的な画像や映像を直接撮影していない場合でも、性的姿態撮影等処罰法で撮影罪以外の罪に問われる可能性のある4つの行為・罰則を解説します。
提供罪
撮影罪に該当する行為で撮影された画像・映像を、違法に撮影されたものと知っていながら特定の人や少数の人に提供した場合に適用されるのが提供罪です(同法第3条)。仮に、自身で撮影したものでなくても、盗撮された画像や動画を第三者に提供する行為は提供罪に該当します。
提供罪は、盗撮された画像や映像の拡散(特に販売)の被害を防ぐために、撮影だけでなく拡散する行為も処罰する目的で新設されました。
提供罪の罰則内容は、提供した相手が特定少数の場合は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金、不特定多数の場合は、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金となります。
保管罪
撮影罪に該当する行為で撮影された性的な画像・映像を提供していなくても、提供または公然と陳列をする目的で保管をする行為は、それだけで保管罪に該当します(同法第4条)。罰則内容は、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金となっています。
自身が撮影した画像や映像でなくても、また、第三者に提供するなどの目的での保管でも、撮影罪に該当する画像や映像と知っていながら保管している時点で保管罪を適用されます。これにより、対象の画像や映像を没収・削除することができ、販売・譲渡を防ぎ拡散させないための措置を取ることができます。
送信罪
性的姿態撮影等処罰法の撮影罪に該当する行為により性的な姿を撮影した画像や映像を不特定多数の人に送信する行為は、性的姿態撮影等処罰法の送信罪に該当します(同法第5条)。
提供罪における不特定多数の人への提供や公然陳列と同様に、罰則内容は、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金となっています。また、撮影罪と同様に送信されることへの同意を困難な状況にすることや、誤信させての送信も処罰対象です。
記録罪
性的姿態撮影等処罰法の送信罪に該当する送信された影像を、違法に撮影されたものであると知りながらダウンロードするなどして記録する行為は記録罪に該当します。罰則内容は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
撮影罪に該当する行為で、性的な姿を送信する行為には送信罪が適用されますが、違法な影像と知りながら記録した側も記録罪で処罰されます。また、撮影罪と同様に未遂も処罰されます。
撮影罪に該当しないケース
撮影罪は、条文のとおり、正当な理由があるかどうかが重要なポイントです。例えば、正当な医療行為の一環として裸体の患部を撮影した場合や、実子の成長記録や思い出のために入浴している姿を撮影した場合などは、正当な理由として判断される可能性があり、撮影罪には問われない場合もあります。
そのほか、近年社会問題となっているのがアスリート盗撮です。新体操や陸上競技の大会で身体に密着したユニフォームを着用した選手を観客が盗撮する事案が問題視されています。
アスリート盗撮のケースでも、試合中の選手の様子を撮影したとしても、性的な部位を撮影したとまではいえないため、撮影罪を成立させることは難しいです。
他方、アスリートの胸部や臀部をアップで撮影するなど悪質な撮影行為の場合は、卑猥な言動として迷惑防止条例違反となる可能性があります。また、アスリートの盗撮画像や盗撮動画をインターネット上にアップした場合、アスリートの社会的評価を下げたとして名誉棄損罪が成立するケースもあります。
まとめ:撮影罪の被害は弁護士に相談を
現代は、多くの人がカメラ付きのスマートフォンを所持しており、小型カメラも容易に購入できるため、誰でも盗撮の被害に遭うリスクがあります。また、インターネットのSNSやライブ配信によって盗撮された画像や映像が拡散するリスクも大きいです。
性的な姿の画像や映像を同意なく撮影されてしまった場合には、被害が拡大するのを防ぐ必要があります。撮影者を厳重に処罰するのはもちろん、画像・動画を速やかに没収したり削除したりする措置が必要です。
性的姿態撮影等処罰法では、盗撮行為を従来の迷惑防止条例よりも厳罰化しており、撮影された画像や動画の没収・削除が可能です。また、撮影だけでなくさまざまな行為を処罰対象としており、対象範囲を広く取り締まるようにしています。
違法な撮影の被害に遭った場合には、弁護士への相談をおすすめします。盗撮被害から迅速かつ的確な対応を実現することで、被害を最小限にとどめることが可能です。被害に遭った際は、拡散を防ぐためにも早めに弁護士に相談してください。
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