ゲームと法律(前編):著作権法・景品表示法・資金決済法
近年、インターネットの発展に伴い、ゲームの形態も変化しています。
インターネットが発展する前は、オフラインのゲームが主流でしたが、インターネットが発展するとともにオンラインのゲームが主流となってきました。
また、旧来は、売り切り方式のゲームが主流でしたが、最近では、ゲーム内で課金をする方式のゲームも増えてきています。
このようにゲームは日々様々な変化をしており、ゲームの変化とともに、ゲームに関する法律も変わってきていますが、ゲームに関する法律について、十分に理解できていない人もいると思います。
そこで、本記事では、意外と知られていないゲームに関する法律について説明をします。
なお、ゲームに関する法律が多くあることから、2つの記事に分けて、ゲームに関する法律の説明をします。
この記事の目次
ゲームに関する法律にはどのような法律があるか
ゲームについては、著作権法、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)、消費者契約法、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます。)並びに電気通信事業法など、様々な法律が関係することとなります。
以下では、これらの法律の概要を説明し、これらの法律がゲームとどのように関わっているかを説明します。
著作権法について
著作権法とはどのような法律か
著作権という権利を耳にしたことがある人は多いと思いますが、「著作権」とは、著作物について、著作者に認められる権利のことをいいます。著作権については、特許権のように登録等の手続を行わなくとも、著作をした時点で、何らの手続を要することなく法律上当然に発生します。著作権は、法律上認められるために、特別な手続を要しないことから、無方式主義と言われます。
この著作権を保護するための法律が、著作権法となります。
著作権法の目的
著作権法の目的については、以下の著作権法第1条で規定されています。
(目的)
第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
つまり、著作権法は、著作権を保護することにより、著作者の創作活動等を保護し、文化の発展に寄与することを目的としています。
著作権法による規制内容
まず、ゲームが著作権法上の保護を受けるためには、ゲームに著作権が認められる必要があります。
そこで、ゲームに著作権が認められるかですが、これについては、東京地裁昭和59年9月28日判決(パックマン事件)、最高裁平成13年2月13日判決(ときめきメモリアル事件)、最高裁平成14年4月25日判決(中古ゲームソフト事件)及び東京地裁平成28年2月25日判決(神獄のヴァルハラゲート事件)などで、ゲームは、映画の著作物として扱われるものとして、著作権が認められています。
ただ、ゲームであるというだけで著作権が認められるわけではなく、東京高裁平成11年3月18日判決(三國志Ⅲ事件)や知財高裁平成21年9月30日判決(猟奇の檻事件)で示されているように、多数の静止画が使用されているようなゲームについては、著作権が認められない可能性があるので注意が必要です。
著作権が認められるゲームについては、権利者の許諾なく使用すると著作権侵害となる可能性がありますので注意が必要です。
景品表示法について
景品表示法とはどのような法律か
景品表示法とは、事業者等が、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを規制する法律です。
景品表示法の目的
景品表示法の目的については、以下の景品表示法第1条で規定されています。
(目的)
第一条 この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。
つまり、景品表示法は、商品等の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘因を防止するなどして一般消費者の利益を保護することを目的としています。
景品表示法による規制内容
景品類に関する規制
オンラインゲーム、特にスマホゲームでは、多くの場合、有料ガチャというシステムがあります。
この有料ガチャが、以下の景品表示法第2条第3項で規定される「景品類」に該当する場合には、景品表示法上の規制を受けることとなります。
3 この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
そこで、有料ガチャが、「景品類」に該当するか否かが問題となりますが、消費者庁が、「オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について」という文書を公表しており、その中で、以下のように述べ、有料ガチャが「景品類」に該当することを否定しています。
有料のガチャ自体への景品規制の適用について
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/120518premiums_1.pdf
一般消費者は、事業者への金銭の支払いと引き換えに有料のガチャを行い、アイテム等何らかの経済上の利益の提供を受けています。つまり、有料のガチャによって一般消費者が得ている経済上の利益は、一般消費者と事業者間の取引の対象そのものであるといえます。言い換えれば、有料のガチャによる経済上の利益は、事業者が有料のガチャとは別の取引を誘引するために、当該取引に付随させて、一般消費者に提供しているものではありません(景品類指定告示第1項。前記4(1)ア参照)。
したがって、有料のガチャによって一般消費者が何らかの経済上の利益の提供を受けたとしても、それは景品表示法上の景品類には該当せず、景品表示法の景品規制は及びません。
有料ガチャについては、景品表示法上の「景品類」に該当しない以上、景品表示法上の規制の対象にはならないものと考えられます。
また、スマホゲームでは、ゲームが緊急メンテナンスやアップデートでプレイできなくなった場合に、お詫びとして、ゲーム内で使用できるアイテムなどが配布されることがあります。
これについては、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/public_notice/pdf/100121premiums_7.pdf#search=’%E7%B7%8F%E4%BB%98%E6%99%AF%E5%93%81%E5%91%8A%E7%A4%BA’)によれば、総付景品に該当すると考えられ、また、お詫びとして配布されるものですと取引価額は0円となると考えられますので、景品類の限度額は200円となりますので注意が必要です。
表示に関する規制
表示に関する規制については、優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)や有利誤認表示(景品表示法第5条第2号)との関係が問題となります。
これらについては、以下の記事で詳しく説明をしていますので、以下の記事をご参照ください。
資金決済法について
資金決済法とはどのような法律か
資金決済法とは、商品券やプリペイドカードなどの金券(電磁化された電子マネーも含まれます)と、銀行業以外における資金移動業に関して規定する法律になります。
現在、様々な決済方法が登場しており、それらを規制する法律になります。
資金決済法の目的
資金決済法の目的については、以下の資金決済法第1条で規定されています。
(目的)
第一条 この法律は、資金決済に関するサービスの適切な実施を確保し、その利用者等を保護するとともに、当該サービスの提供の促進を図るため、前払式支払手段の発行、銀行等以外の者が行う為替取引、仮想通貨の交換等及び銀行等の間で生じた為替取引に係る債権債務の清算について、登録その他の必要な措置を講じ、もって資金決済システムの安全性、効率性及び利便性の向上に資することを目的とする。
つまり、資金決済法は、資金決済の利用者等を保護するとともに、資金決済システムの提供を促進し、資金決算システムの安全性、効率性及び利便性を向上させることを目的としています。
資金決済法による規制内容
オンラインゲームなどで、利用者が、課金をすることにより、ゲーム内で使用できるアイテムなどを事前に購入し、そのアイテムなどでガチャを引く場合や、ゲーム内で使用できる武器などを購入する場合があります。
このような、利用者による課金に関して、規制を行っているのが資金決済法になります。
資金決済法では、以下の第3条第1項で、「前払式支払手段」が規定されていますが、ゲームにおける課金は、この「前払式支払手段」に該当するものと考えられます。
(定義)
第三条 この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
課金が、上記のように、「前払式支払手段」に該当する場合、資金決済法による規制を受けることとなります。
具体的には、課金システムを導入しているゲームを提供している企業は、以下の義務を負うことになります。
- 情報の提供義務
- 発行保証金の供託義務
情報の提供義務について
情報の提供義務について、前払式支払手段発行者は、以下の情報を利用者に提供しなければならないものとされています(資金決済法第13条1項)
- 氏名、商号又は名称(資金決済法第13条1項1号)
- 前払式支払手段の支払可能金額等(資金決済法第13条1項2号)
- 物品の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合にこれらの代価の弁済のために使用し、又は物品の給付若しくは役務の提供を請求することができる期間又は期限が設けられているときは、当該期間又は期限(資金決済法第13条1項3号)
- 前払式支払手段の発行及び利用に関する利用者からの苦情又は相談に応ずる営業所又は事務所の所在地及び連絡先(資金決済法第13条1項4号)
- 前払式支払手段を使用することができる施設又は場所の範囲(前払式支払手段に関する内閣府令第22条第2項第1号)
- 前払式支払手段の利用上の必要な注意(前払式支払手段に関する内閣府令第22条第2項第2号)
- 電磁的方法により金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第四項において同じ。)又は物品若しくは役務の数量を記録している前払式支払手段にあっては、その未使用残高(法第三条第一項第一号の前払式支払手段にあっては代価の弁済に充てることができる金額をいい、同項第二号の前払式支払手段にあっては給付又は提供を請求することができる物品又は役務の数量をいう。)又は当該未使用残高を知ることができる方法(前払式支払手段に関する内閣府令第22条第2項第3号)
- 前払式支払手段の利用に係る約款若しくは説明書又はこれらに類する書面(以下この条において「約款等」という。)が存する場合には、当該約款等の存する旨(前払式支払手段に関する内閣府令第22条第2項第4号)
情報の提供義務を怠った場合には、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(資金決済法第114条第2号)。
発行保証金の供託義務について
発行保証金の供託義務については、以下の資金決済法第14条で規定されています。
(発行保証金の供託)
第十四条 前払式支払手段発行者は、基準日未使用残高が政令で定める額(以下この章において「基準額」という。)を超えるときは、当該基準日未使用残高の二分の一の額(以下この章において「要供託額」という。)以上の額に相当する額の発行保証金を、内閣府令で定めるところにより、主たる営業所又は事務所の最寄りの供託所に供託しなければならない。
2 前払式支払手段発行者は、第三十一条第一項の権利の実行の手続の終了その他の事実の発生により、発行保証金の額(次条に規定する保全金額及び第十六条第一項に規定する信託財産の額の合計額を含む。第十八条第二号及び第二十三条第一項第三号において同じ。)がその事実が発生した日の直前の基準日における要供託額(第二十条第一項の規定による払戻しの手続又は第三十一条第一項の権利の実行の手続が終了した日の直前の基準日にあっては、これらの手続に係る前払式支払手段がないものとみなして内閣府令で定める方法により計算された額)に不足することとなったときは、内閣府令で定めるところにより、その不足額について供託を行い、遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に届け出なければならない。
3 発行保証金は、国債証券、地方債証券その他の内閣府令で定める債券(社債、株式等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)第二百七十八条第一項に規定する振替債を含む。第十六条第三項において同じ。)をもってこれに充てることができる。この場合において、当該債券の評価額は、内閣府令で定めるところによる。
発行保証金の供託については、複雑な条文となっていますので、以下、詳解します。
まず、発行保証金の供託はどのような場合に必要となるかですが、資金決済法第14条第1項では、「基準日未使用残高が政令で定める額を超えるとき」と規定されています。
基準日については、資金決済法第3条第2項柱書で規定されており、毎年の3月31日及び9月30日とされています。
また、基準日未使用残高については、資金決済に関する法律施行令第6条で、1000万円と規定されています。
つまり、毎年の3月31日及び9月30日を基準として、基準日における未使用残高が1000万円を超えるときには、未使用残高の2分の1以上の金額を主たる営業所又は事務所の最寄りの供託所に供託しなければなりません。
例えば、ゲームの利用者が、合計で1億円を課金しており、1億円分のゲーム内のアイテム等が使用されていない場合、ゲーム会社は、発行保証金として、1億円の2分の1である5000万円を主たる営業所又は事務所の最寄りの供託所に供託しなければならないこととなります。
このように発行保証金を供託する義務が規定されている趣旨は、ゲーム会社が突然倒産したり、サービスの提供が終了したりした場合に、課金を行った利用者に返金を行い、利用者を保護するという点にあります。
発行保証金の供託義務を怠った場合には、6か月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(資金決済法第112条第3号)。
まとめ
以上、意外と知られていないゲームに関する法律について(前編)という形で、著作権法、景品表示法及び資金決済法についての説明をしました。
以下の意外と知られていないゲームに関する法律について(後編)では、消費者契約法、特定商取引法及び電気通信事業法について説明をします。