弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ノルウェーにおける会社設立手続きを弁護士が解説

ノルウェーにおける会社設立手続きを弁護士が解説

ノルウェーは、堅牢な経済基盤と高度なデジタル行政を有する魅力的な市場ですが、日本企業が進出する際には、欧州経済領域(EEA)特有の法規制への適応が求められます。事業拠点設立の主要な形態として、日本の株式会社に相当する「非公開有限会社(AS)」と、支店形態である「ノルウェー登録外国事業体(NUF)」があります。ASは最低資本金30,000クローネで設立でき、有限責任のメリットを享受できますが、役員の半数以上がEEA居住者である必要があり、2024年以降はジェンダーバランス規定も適用されるなど、ガバナンス要件が厳格です。一方、NUFは資本金不要ですが、日本本社が無限責任を負うリスクがあります。

本記事では、2025年9月の最高裁判決による取締役責任の厳格化や、現物出資における監査役の必須関与など、最新の法的論点と実務上の障壁(D-number取得や口座開設)について、日本法との比較を交えて詳説します。

ノルウェー会社法制の基礎と日本法との構造的比較

ノルウェーにおける法人形態の概観

ノルウェーにおいて事業を行うための法的枠組みは、主に「有限会社法(Aksjeloven)」および「事業体登録法(Foretaksregisterloven)」によって規律されています。外国企業が進出する際に検討すべき主要な形態は、日本における「株式会社(譲渡制限会社)」に相当し最も一般的で信頼性の高い形態である「非公開有限会社(Aksjeselskap – AS)」と、外国企業の「支店」として機能する「ノルウェー登録外国事業体(Norskregistrert utenlandsk foretak – NUF)」の二つです。これらに加え、公開有限会社(Allmennaksjeselskap – ASA)やパートナーシップ(ANS/DA)も存在しますが、日本企業が現地子会社を設立するケースでは、圧倒的にASが選択されます。

日本の会社法との基本哲学の異同

日本の会社法とノルウェーの会社法(Aksjeloven)は、ともに株主有限責任の原則を採用していますが、規制の重心に違いが見られます。日本の会社法は2005年の改正により、最低資本金制度を実質的に撤廃し、設立の容易さを優先しました。対してノルウェーでは、最低資本金(30,000 NOK)を維持しており、さらに「十分な自己資本(forsvarlig egenkapital)」を維持する継続的な義務を取締役会に課しています。これは、資本充実の原則をより実質的に運用しようとする姿勢の表れと言えます。

また、ノルウェーは行政手続きのデジタル化において世界をリードしており、会社設立から登記変更、年次報告に至るまで、政府ポータルサイト「Altinn」を通じた電子申請が基本となります。これは、書面申請や実印の使用が依然として残る日本の実務とは大きく異なり、迅速性において優位性がある一方、現地の電子ID(BankID等)を持たない外国人にとっては初期参入の障壁となる側面もあります。

ノルウェー非公開有限会社(AS)の設立要件とプロセス

ノルウェー非公開有限会社(AS)の設立要件とプロセス

ASは、ノルウェーで独立した法人格を持つ事業体であり、株主はその出資額を限度として責任を負います。

最低資本金制度とその実務的運用

ASの設立には、最低30,000 NOK(約40万円〜50万円相当、為替レートによる)の資本金が必要です。かつてはこの最低額が100,000 NOKでしたが、起業促進の観点から引き下げられました。この30,000 NOKという金額は、会社設立にかかる登録費用や専門家への報酬支払いに充当することが認められています。

以下の表は、資本金制度等に関する日本法との比較です。

項目ノルウェー (AS)日本 (株式会社)
最低資本金30,000 NOK1円
資本金の使途設立費用への充当可自由(事業資金)
現物出資可能(要監査役証明)可能(少額なら検査役不要)

物理的事業所住所の要件

会社設立において、ノルウェーの法律は「物理的な事業所住所(Forretningsadresse)」の登記を義務付けています。ここで特筆すべきは、私書箱(Postboks)のみの登録は認められないという点です。登記には、通り名、番地、郵便番号、都市名を含む物理的な所在地が必要となります。これは、ペーパーカンパニーの濫用を防ぎ、法的文書の送達先を確実に確保するための措置です。日本企業が進出初期にバーチャルオフィスを利用する場合でも、単なる郵便転送サービスではなく、物理的な所在として登記可能な契約形態であるかを確認する必要があります。

設立プロセスの詳細

ASの設立プロセスは、設立証書の作成から登記完了まで厳格な手順を踏みます。まず、発起人(Stiftere)は設立証書(Stiftelsesdokument)を作成し署名します。これには、定款(Vedtekter)、取締役の氏名、株式割当、払込金額などが記載されます。次に、定款において商号(必ず「Aksjeselskap」または「AS」を含める)、事業目的、資本金額、株式の額面、取締役会の構成などを策定します。

資本金の払込確認は重要なステップです。資本金は会社設立用の銀行口座に払い込まれる必要がありますが、この払込の事実は、銀行、弁護士、公認会計士、または監査役(Revisor)によって確認・署名されなければなりません。現金出資の場合はこれらのいずれの専門家でも確認可能ですが、現物出資(Non-cash contribution)の場合は、監査役のみが確認権限を有します。最後に、ブレノイスン登録センター(Brønnøysundregistrene)に対し、統合登録フォーム(Samordnet registermelding)を提出して登記を完了させます。

電子申請と紙申請の分岐点

手続きのスピードを左右するのは、発起人や役員が「ノルウェーの国民ID番号(Fødselsnummer)」または「D-number(外国人用識別番号)」を持っているか否かです。全員がIDを持っている場合はAltinnを通じた完全電子申請が可能であり、数日で登記が完了します。一方、IDを持たない場合は紙のフォームによる申請が必要となり、同時にD-numberの申請を行う必要があります。この場合、パスポートの認証コピー等の提出が必要となり、処理に数週間〜数ヶ月を要することがあります。

ノルウェーの現物出資と監査役の役割

日本の会社法と同様、ノルウェーでも現金以外の資産(不動産、知的財産権、設備など)による出資(現物出資、Tingsinnskudd)が認められていますが、その手続きはより厳格です。

監査役による独占的確認権限

現金出資の場合、銀行や弁護士による払込確認が可能であるのに対し、現物出資の場合は、公認監査人(Statsautorisert revisor)による確認報告書が必須となります。設立証書には、現物出資される資産の内容、評価額、対価として発行される株式数などを詳細に記載した報告書を添付しなければなりません。監査役は、その資産が会社にとって実際の経済的価値を有しているか、評価額が過大でないかを検証し、署名を行います。

日本の会社法第33条では、現物出資の価額が500万円以下の場合や、市場価格のある有価証券の場合など、検査役の調査を省略できる例外規定が広く設けられています。しかし、ノルウェーでは現物出資に関しては監査役の関与が原則として必須であり、簡便な手続きでの現物出資は認められにくい傾向にあります。これは、資本充実原則を厳格に守らせる意図があります。

ノルウェー登録外国事業体(NUF)の法的性質とリスク

AS設立の代替案として、外国企業が支店として進出する形態がNUFです。

NUFの法的枠組みと責任帰属

NUF(Norskregistrert utenlandsk foretak)は、ノルウェー国内に独立した法人格を有さず、あくまで外国企業(日本本社)の一部門として扱われます。この法的性質から導かれる最大の特徴は、無限責任の帰属です。NUFの事業活動から生じた債務、法的責任、損害賠償義務は、すべて直接的に日本本社に帰属します。子会社(AS)であれば、親会社の責任は出資額の範囲内に限定されますが、NUFの場合はその遮断効が働きません。

NUF設立の手続き

NUFの設立には、ノルウェー国内での資本金要件はありません。しかし、登記手続きには以下の書類(翻訳含む)が必要となります。

必要書類概要
統合登録フォーム (BR-1080)NUF用の登録申請書(Paper form for Norwegian-registered foreign company)
本国の登記証明書日本の法務局が発行する現在事項全部証明書など(発行から3ヶ月以内)
定款 (Articles of Association)日本本社の定款
設立決定の記録取締役会議事録など、ノルウェー支店の設置を決議した文書

これらの文書は、ノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語、または英語に翻訳されている必要があります。また、NUFには、ノルウェー当局との連絡窓口となる担当者(Kontaktperson)または支店長を置く必要があります。この人物はノルウェーに居住している必要はありませんが、ノルウェーのID番号またはD-numberを保有している必要があります。

役員のノルウェー居住要件とガバナンスにおける日本企業への影響

役員のノルウェー居住要件とガバナンスにおける日本企業への影響

日本企業がノルウェーへ進出する際、最も大きな障壁の一つとなるのが、役員の居住要件です。

EEA居住要件の壁

Aksjeloven § 6-11 第1項は、ASのゼネラルマネージャー(Daglig leder)および取締役(Styrets medlemmer)の少なくとも半数が、ノルウェーまたはEEA(欧州経済領域)加盟国、もしくは英国の居住者であることを求めています。これは、会社経営の実効的な管轄権を確保するための規定です。日本はEEA加盟国ではないため、日本本社から派遣される日本人駐在員のみで取締役会を構成することはできません。例えば、取締役が3名の場合、そのうち2名はEEA居住者(ノルウェー人である必要はないが、EEA圏内に居住している必要がある)でなければなりません。

日本では、2015年の法務省通達により、外国会社の日本における代表者の全員が日本に住所を有しない場合でも登記が受理されるようになり、居住要件が実質的に撤廃されました。これに対し、ノルウェーでは依然として物理的な居住要件が維持されており、グローバル企業にとっては人事戦略上の制約となります。

ジェンダーバランス要件の強化

ノルウェーはジェンダー平等の先進国として知られていますが、近年、その要件はさらに強化されています。2024年以降、特定の規模を超えるASに対しても、取締役会の構成における男女バランス(クオータ制)が義務付けられました。

以下の表は、従業員数や収益に基づく導入スケジュールの概要です。

適用時期対象企業要件(例)
2024年12月31日まで営業・金融収益が合計1億NOK超
2025年6月30日まで従業員数が50名超
2026年6月30日まで従業員数が30名超
2027年6月30日まで営業・金融収益が合計7,000万NOK超
2028年6月30日まで営業・金融収益が合計5,000万NOK超

例えば、取締役が3名の会社であれば、一方が2名、他方が1名となるように選任しなければなりません。日本企業が現地法人を設立する際、日本から男性役員のみを派遣する構成は、この法的要件に抵触する可能性が高まっており、現地での女性役員の登用を含めた組織設計が不可欠です。

ノルウェーにおける取締役の責任と最新判例

ノルウェーの会社法は、取締役に対して極めて厳格な忠実義務と善管注意義務を課しています。特に、会社が財務的危機に瀕した際の対応については、法的責任追及が厳格化する傾向にあります。

支払不能時の作為義務

取締役会は、会社の自己資本が事業のリスクと規模に見合った適切な水準にあるかを常に監視する義務(Aksjeloven § 3-5)を負っています。もし自己資本が不十分であると判断された場合、取締役会は直ちに株主総会を招集し、再建策を提案するか、あるいは会社の解散・破産申立て(Oppbud)を行わなければなりません。

最高裁判決 HR-2025-1841-A の詳細解説

2025年9月23日、ノルウェー最高裁判所(Høyesterett)は、倒産状態にある会社の清算申立てを怠った取締役の責任に関して、極めて重要な判決(HR-2025-1841-A)を下しました。本件は、取締役会議長が会社が支払不能状態(Insolvency)にあることを認識しながら、適時の破産申立てを怠った(Wrongful Trading)事案です。

最高裁は、取締役会議長に対し、不作為によって債権者の損失を拡大させたとして損害賠償責任を認めるとともに、実刑判決を支持しました。この判決で特筆すべき点は、取締役の責任が「会社」に対してだけでなく、「債権者」に対する直接的な不法行為責任としても構成され得る点、そして民事責任にとどまらず刑事責任(拘禁刑)までもが科された点にあります。

日本の会社法第429条においても、役員が悪意または重大な過失によって第三者(債権者等)に損害を与えた場合、賠償責任を負うとされています。しかし、ノルウェーの判決は、破産申立ての「遅延」という経営判断に対し、実刑を含む極めて厳しい法的制裁を科した点で、日本以上に取締役の責任が重く解釈されていることを示唆しています。日本の経営者が「再建の可能性がある」として判断を先送りするような場面でも、ノルウェーでは即座に法的義務違反とみなされるリスクがあります。

ノルウェーの監査制度と財務報告義務

ASは原則として会計監査を受ける義務がありますが、小規模な会社については例外規定が設けられています。

監査義務のオプトアウト(Fravalg av revisjon)

特定の条件をすべてを満たす小規模なASは、株主総会の決議により、会計監査人の監査を受けないこと(オプトアウト)を選択できます。

オプトアウト要件基準値(目安)
営業収益700万 NOK 未満
貸借対照表の資産合計2,700万 NOK 未満
平均従業員数10人(フルタイム換算)未満

日本企業の子会社として設立される場合、連結決算の必要性から監査を受けるケースが多いですが、設立当初の小規模な段階では、コスト削減のためにオプトアウトを選択することも可能です。ただし、前述の通り、現物出資を行う場合は監査役の関与が不可欠であるため、完全な排除はできません。

ノルウェー進出の実務上障壁:D-numberと銀行口座開設

ノルウェー進出の実務上障壁:D-numberと銀行口座開設

法的な設立手続きとは別に、実務上、日本企業が最も苦労するのが「D-numberの取得」と「銀行口座の開設」です。

D-number(暫定ID番号)

ノルウェーでは、個人識別番号が社会インフラの基盤となっています。非居住者が役員に就任する場合、国民ID番号の代わりにD-numberを取得する必要があります。申請は会社設立登記と同時に可能ですが、紙のフォームでの提出となります。マネーロンダリング防止規制の強化により、D-number取得のための本人確認(ID check)が厳格化しています。場合によっては、ノルウェーの税務署(Skatteetaten)や指定された機関に本人が直接出向いてパスポートを提示する必要があります。これは、日本に居ながらにして全てを完結させることを困難にしています。

銀行口座開設の厳格化(KYC)

AS設立には資本金の払込が必要ですが、そのための銀行口座開設(または資本金払込用口座の利用)において、銀行側のコンプライアンス審査(KYC:Know Your Customer)が非常に厳しくなっています。銀行は、実質的支配者(UBO)の特定、資金源の証明、事業計画の詳細な説明を求めます。特に、役員全員が非居住者である場合、銀行は「ノルウェーとの結びつきが薄い」と判断し、口座開設を拒否するケースも散見されます。現地の取締役(resident director)を選任することは、銀行との信頼関係構築の観点からも有効な手段となります。

ノルウェーの税務および雇用に関する基本義務

付加価値税(MVA)

ノルウェーは高福祉国家であり、税制もそれに対応しています。付加価値税(Merverdiavgift、略称MVA)の標準税率は25%です。12ヶ月間の課税売上高が50,000 NOKを超えた時点で、VAT登録義務が生じます。EEA圏外の企業(日本企業含む)がNUFとして活動し、ノルウェー国内に固定事業所を持たない場合、原則としてVAT代表者(VAT Representative)を選任する義務があります。ただし、特定の条件下では免除される場合もあります。

雇用者報告(A-melding)

従業員を雇用する場合、毎月「A-melding」と呼ばれる電子レポートを通じて、給与、源泉徴収税、社会保障負担金などの情報を税務当局や労働福祉局(NAV)に報告する義務があります。これはNUFであっても、ノルウェーで従業員を雇用する限り適用されます。

まとめ

ノルウェーにおける会社設立は、ASとNUFという二つの主要な選択肢がありますが、それぞれにメリットとリスクが存在します。

特徴非公開有限会社 (AS)ノルウェー登録外国事業体 (NUF)
法人格あり(独立法人)なし(日本本社の支店)
親会社の責任有限責任(出資額の範囲内)無限責任
最低資本金30,000 NOK不要
設立手続き電子申請推奨(要ID)紙申請(要翻訳文書)
役員居住要件あり(EEA居住者50%以上)連絡担当者(居住要件なし、要ID)
社会的信用高い相対的に低い場合がある

日本企業にとっては、コンプライアンスとリスク遮断の観点からAS(現地法人)の設立が推奨されるケースが多いですが、EEA居住要件を満たすための人事体制(現地取締役の採用等)や、D-number取得に伴う物理的な本人確認など、実務的な準備を周到に行う必要があります。また、2025年の最高裁判決が示したように、取締役の法的責任は日本以上に厳格であり、安易な撤退や放置は許されないという認識が不可欠です。

ノルウェーは、透明性が高くビジネスフレンドリーな環境ですが、その裏側には厳格な法適合性が求められます。進出にあたっては、現地の法規制に精通した専門家との連携が成功の鍵となります。モノリス法律事務所では、ノルウェーにおけるASおよびNUFの設立支援、現地銀行口座開設のサポート、役員居住要件への対応策、そして複雑化するコンプライアンスへの助言など、日本企業の皆様の北欧展開を幅広くサポートいたします。法制度の微細な違いがビジネスの成否を分ける可能性があるため、ぜひ専門的な知見をご活用ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る