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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

XのGrokによる画像編集・悪用への法的対処法――AIに著作権・人格権を侵害されたときにできること

風評被害対策

2025年末から2026年始にかけ、xAI社の生成AI「Grok」を悪用した深刻な権利侵害がSNS「X」上で相次ぎ、国際的な波紋を広げました。報道によれば、Grokの画像編集機能を用い、実在する人物の写真を本人の同意なく性的な画像へと加工・拡散する事例が急増。被害は著名人のみならず一般女性や未成年者にも及んでおり、児童保護の観点からも強い懸念が示されています。

この事態を受け、フランス当局が検察へ通報したほか、欧州連合(EU)のデジタルサービス法(DSA)に基づき、AIを組み込んだプラットフォームの責任を問う動きが加速しています。xAI側は安全対策の不備を認め、是正を表明しましたが、この騒動は、生成AIの利便性の裏にある「非同意の画像加工」や「プライバシー侵害」という法的リスクを改めて浮き彫りにしました。

本記事では、生成AIによる権利侵害の法的構成を解説し、被害回復のための具体的な実務フローについて解説します。

AI(Grok等)による画像生成と著作権法

AIによる画像生成・編集が直ちに著作権侵害になるわけではありません。しかし、既存の画像を入力画像として使用する「i2i(image-to-image)」方式や、特定の作品を意図的に模倣させるプロンプトエンジニアリングにおいては、侵害の成立要件を満たす可能性が高くなります。ここでは、著作権法の原則に基づき、AI特有の論点を整理します。

著作権侵害の成立要件:「依拠性」と「類似性」

著作権侵害が成立するためには、主観的要件である「依拠性」と、客観的要件である「類似性」の双方が認められる必要があります。

依拠性とは、「既存の著作物をもとにして創作したこと」を指します。従来の議論では偶然の一致であれば侵害にはなりませんが、i2i(AI編集)の場合、ユーザーが既存のイラストや写真をAIにアップロードし、それを下敷きに生成指示を出している以上、依拠性は明白に肯定されます。元の画像がなければその生成物は生まれなかったからです。また、特定の作家の画風を学習させた追加学習モデル(LoRA等)を使用した場合も、そのモデル自体が特定の著作物群に依拠しているため、生成された画像の依拠性が認められる可能性が高まります。

類似性とは、「後発の作品が、先行作品の『表現上の本質的な特徴』を感得させること」です。ここで重要なのは、著作権法が保護するのは「具体的な表現」であり、「アイデア(画風、タッチ、構図など)」は保護されないという原則です。i2i生成では、元の絵の線画や配色の配置がそのまま残ることが多く、キャラクターの具体的なデザインが維持されたままポーズや服装の一部を変える行為は、表現の類似と判断されやすく、翻案とみなされる可能性が極めて高いといえます。

AIにより侵害される可能性が高い権利

i2i(AI編集)の場合に侵害される可能性が高い権利には、「翻案権」「同一性保持権」「公衆送信権」などがあります。

翻案権(著作権法第27条)

AIによる画像編集で最も問題となるのが「翻案権」です。翻案とは、既存の著作物に依拠しつつ、その表現上の本質的な特徴を維持しながら、新たな創作性を加えて別の著作物を創作する行為を指します。X上で「服を着せ替える」「表情を変える」といったAI編集を行うことは、まさに原著作物の翻案にあたり、著作者の許諾がなければ侵害となります。

同一性保持権(著作権法第20条)

著作者は、自分の意に反して著作物を改変されない権利を持っています。純真なキャラクターの画像をAIで性的な画像に加工したり、残酷な描写を加えたりする行為は、著作者の意図を著しく歪めるものであり、著作者人格権の一つである同一性保持権の侵害として、高額な慰謝料請求の根拠となり得ます。

公衆送信権(著作権法第23条)

作成したAI画像をXに投稿(アップロード)する行為は、不特定多数の人が閲覧できる状態に置く「公衆送信」にあたり、権利者の許可が必要です。SNSへの投稿は「私的使用」の範囲を超えているため、個人で楽しむためという抗弁は通用しません。

AI(Grok等)による画像生成と人格権侵害――肖像権・パブリシティ権・名誉毀損

人格権侵害――肖像権・パブリシティ権・名誉毀損

被写体が実在の人物である場合、著作権とは別に「人格権」の問題が発生します。人格権とは、生命、身体、自由、名誉、プライバシー、肖像といった、個人の尊厳に直結する人格的な利益を他者から不当に侵害されないために、すべての人が等しく有する権利のことです。

肖像権とパブリシティ権

何人も、みだりに自己の容貌等を撮影・使用されない「肖像権」が存在します。本人の同意なく、顔写真をAIの学習データにしたり、AIで生成した画像の顔部分に本人の顔を合成したりする行為は肖像権侵害となります。

また、著名人のように肖像に経済的価値がある場合、無断でその肖像を広告等に利用する行為は「パブリシティ権」の侵害となります。

ディープフェイクと名誉毀損・侮辱

AIを用いて実在の人物が性的な行為をしているかのような画像を捏造する行為は、極めて悪質な不法行為です。一見して本物に見える精巧な画像によって「このような行為をしている」と一般閲覧者が誤信する場合、社会的評価を低下させる「名誉毀損」が成立します。また、具体的な事実摘示がなくとも、著しく品位を貶める改変は「侮辱」に該当します。

AI(Grok等)による画像生成とリベンジポルノ防止法・児童ポルノ禁止法

生成された画像の内容によっては、刑事犯罪となる可能性があります。実在の人物の性的画像を拡散した場合は「リベンジポルノ防止法」に、被写体が18歳未満、あるいはそう見えるように生成された場合は「児童ポルノ禁止法」に抵触します。X社はこれらのコンテンツに対し、アカウント凍結に加え警察機関への通報義務を負っています。

Xの利用規約とAI(Grok)利用への同意:画像の加工は「許諾済み」なのか

Xの利用規約とAI利用への同意:画像の加工は「許諾済み」なのか

ここで多くのユーザーや企業が直面する疑問が、「Xに画像をアップロードした時点で、AIによる加工を許可したことにならないのか」という点です。

Xの利用規約、特に2024年11月以降の最新版においては、ユーザーがコンテンツを投稿した時点で、X社に対してそのコンテンツを使用、コピー、複製、処理、適応、修正、公開、送信、表示、配布するための広範なライセンスを無償で付与することに同意したとみなされます。

参考:X|サービス利用規約

この規約内に含まれる「適応(adapt)」や「修正(modify)」という文言は、GrokなどのAI機能によって画像が加工・編集されることへの法的な根拠として機能しています。また、投稿されたデータが機械学習に利用されることも明文化されており、システム上の機能として提供される画像生成プロセスにおいて、ユーザーはあらかじめ一定の同意を与えていると解釈される可能性が極めて高いのが現状です。

しかし、この規約上の同意は、あくまで「ユーザーとX社との間の契約」に基づくライセンス付与に過ぎません。X社に対して加工の権利を与えていたとしても、それは第三者がその機能を使って他者の著作権や人格権を無制限に侵害してよいという免罪符にはなりません。

例えば、あるユーザーが別のユーザーの画像をGrokで性的に加工して拡散した場合、加工したユーザーは依然として元画像の権利者に対して翻案権侵害や同一性保持権侵害、あるいは名誉毀損としての責任を負います。

規約はプラットフォーム運営側の免責を主眼としたものであり、ユーザー間の不法行為を正当化するものではないという点は、法的追及において極めて重要な論点となります。

Xにおける投稿者特定のための技術的問題点

利用規約によってプラットフォーム運営側が守られているとしても、ユーザー間における悪質な権利侵害が正当化されるわけではありません。侵害を受けた被害者は、裁判手続を通じて投稿者の身元を特定し、後述する法的措置を講じることができます。

そのためには、侵害の事実を客観的に証明できる「証拠」が必要です。SNS上のデータは投稿者によって消去される恐れがあるため、まずは権利侵害を受けた証拠の保全を行う必要があります。

ログ保存期間と「3ヶ月ルール」

通信記録(アクセスログ)は永久には残りません。コンテンツプロバイダであるX社は比較的長期間保存している可能性がありますが、NTTドコモやソフトバンク等の接続業者(ISP)が保有するログは、概ね3ヶ月から6ヶ月で消去されます。

被害発見から弁護士への相談、裁判所への申し立てというプロセスには時間がかかるため、被害を発見したらすみやかにアクションを起こさなければ、ログ消失により投稿者の特定が物理的に不可能になるリスクがあります。

「ログイン時IP」と「投稿時IP」の違い

Xに対する発信者情報開示請求において、最大の技術的ハードルとなるのがIPアドレスの種類です。多くの掲示板サイトなどでは「投稿した瞬間」のIPアドレスが保存されますが、X社は個別の投稿時のIPアドレスを保有せず、アカウントに「ログインした際」のIPアドレスを開示する傾向にあります。

これにより、ログインしてから投稿するまでに時間が空いている場合、プロバイダ側の記録と照合できず、投稿者の特定が困難になるという事態が生じます。この技術的な壁を突破するためには、単一のIPアドレスだけでなく、可能な限り複数のログイン履歴の開示を求めるなど、インターネットの仕組みとX社の仕様に精通した専門的なノウハウが不可欠となります。

また、裁判手続きにより投稿者を特定するためには、裁判所が証拠として認める要件を備える必要もあります。詳細については、弁護士にご相談ください。

発信者情報開示請求による投稿者特定の仕組み

現在、発信者情報開示請求を行って投稿者を特定するには、主に二つのルートが存在します。

一つ目は、従来から利用されてきた「仮処分と訴訟の併用」です。まずX社などのプラットフォームに対し、投稿時の接続情報を求める「仮処分」を申し立ててIPアドレス等を取得します。その後、その情報を基に接続業者(プロバイダ)を特定し、契約者の氏名・住所の開示を求める「本案訴訟」を提起します。

二つ目は、令和4年施行の改正法により新設された「発信者情報開示命令」という非訟手続です。これは一つの申し立てで、プラットフォームとプロバイダの両方に対して開示命令を出すことが可能な「ワンストップ」の手続きであり、従来よりも特定までの期間が短縮されました。

これらの手続きにおいて、裁判所が投稿内容による権利侵害を認めれば、発信者の秘匿性は法的に解除されます。これにより、匿名性に隠れた誹謗中傷や著作権侵害に対し、現実の個人を相手として、損害賠償や刑事告訴といった実効性のある法的責任を追及する道が開かれることになります。

AI(Grok)を悪用した投稿者特定後にできる法的措置

投稿者特定後の法的措置――削除・損害賠償・刑事告訴

ここでは、発信者情報開示請求により特定された加害者に対し、どのような法的手段を用いて責任を追及し、被害を沈静化させるべきか、その実務的な選択肢を詳説します。

侵害投稿の完全削除と再発防止の確約

加害者が特定された後、まず行うべきは当該投稿の速やかな削除と、将来にわたる権利侵害の防止です。裁判所を通じた削除命令はもちろん有効ですが、特定後は弁護士を通じて加害者へ直接通知し、任意での削除を依頼することが一般的です。

この際、単にネット上の投稿を消させるだけでなく、加害者が保有する「加工元のデータ」や「生成に使用したプロンプト(指示文)」の完全破棄を求めることが、デジタル空間における再拡散を防ぐための重要なポイントとなります。また、同様の侵害行為を二度と行わない旨を記した誓約書を交わし、万が一違反した場合には高額な違約金を課す条項を盛り込むことで、実効性のある再発防止策を講じます。

精神的苦痛に対する慰謝料と肖像権侵害への賠償

民事上の責任追及の核となるのが損害賠償請求です。AIを用いた悪質な画像加工、特に性的な意図を含むディープフェイクなどは、被害者の名誉や平穏な生活を著しく破壊するものであり、高額な慰謝料が認められる傾向にあります。

判例上、単純な誹謗中傷に比べ、視覚的な衝撃を伴う画像による権利侵害は精神的苦痛が大きく見積もられることが多い傾向にあります。また、実在の人物の容貌を無断でAIに学習・出力させたことによる肖像権侵害についても、その態様や拡散規模に応じた賠償を求めていくことになります。

クリエイターの権利を守る財産的損害の算定

被害者がクリエイターや企業である場合、精神的苦痛のみならず、経済的な損失についても厳格に追求する必要があります。著作権法第114条では、侵害者が得た利益を損害額とみなす、あるいはライセンス料相当額を損害として請求できる旨が規定されています。AIによって自分の作風が模倣され、正規の作品販売や依頼が阻害された場合、その減少した利益を論理的に算定し、加害者に請求します。AI生成物が普及したことで本来得られるはずだった「潜在的な収益」をどこまで立証できるかが、実務上の大きな焦点となります。

刑事告訴を通じた社会的責任の追及

侵害行為が悪質極まりない場合や、再犯の恐れがある場合には、民事上の賠償とは別に刑事告訴を検討します。名誉毀損罪や侮辱罪、さらには著作権法違反といった罪名は、近年の法改正により厳罰化が進んでいます。

特に2025年以降、生成AIを悪用した画像偽造については捜査当局の関心も高く、警察への告訴状が受理されれば、加害者は家宅捜索や逮捕、そして前科がつくという重大な社会的不利益を被ることになります。刑事手続きが進むことは、民事上の示談交渉においても被害者側に有利な材料となり、より誠実な謝罪や賠償を引き出す力強い後ろ盾にもなりえます。

まとめ:AI(Grok)を悪用した権利侵害は弁護士への早期相談が鍵

X上でのAI画像侵害への対処は、法的知識だけでなく、プラットフォームの仕様やインターネット技術への深い理解、そして何より「スピード」が要求される総力戦です。

証拠保全の不備や、X社の特殊なログ仕様への対応ミスは、致命的な投稿者の特定失敗を招きます。また、海外法人を相手取った手続きや、複雑な「依拠性・類似性」の立証は困難を極めます。被害を最小限に食い止め、加害者に正当な責任を取らせるためには、IT・SNSトラブルへの対応に実績のある弁護士への早期相談をおすすめします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面で豊富な経験を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報を看過すると深刻な被害をもたらします。当事務所では風評被害や炎上対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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