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風評被害対策

会社の代表取締役の不倫の暴露は名誉毀損(名誉権の侵害)か

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会社の代表取締役の不倫の暴露は名誉毀損(名誉権の侵害)か

会社の代表取締役の不倫に関する情報が、ネットメディアや個人などによって「暴露」されるケースがあります。こうした「暴露」は、法律的に適法なのでしょうか。つまり、「暴露」をされた側は、「会社の代表取締役という立場である以上、そうした情報の公開を許容しなければならない」のでしょうか。記事の削除や投稿者特定、公開者に対する損害賠償請求を行うことはできないのでしょうか。

この問題に関して、明確な判断基準を示した最高裁判決は存在しませんが、様々な下級審判決によって、一定の「判断基準」は示されています。結論としては、

  • 上場企業の代表取締役の不倫に関する暴露は、原則的に適法(削除や投稿者特定、損害賠償請求は認められない
  • 未上場企業の代表取締役の不倫に関する暴露は、原則的に違法(削除や投稿者特定、損害賠償請求が認められる

となると思われます。この「基準」について、上記の「原則」に対する「例外」がどのようなケースかといった点も含めて、解説します。

名誉毀損の成否に関する判断枠組と「公共性」

会社の代表取締役の不倫に関する暴露は、過去の裁判例において、主に名誉毀損(名誉権の侵害)との関係が問題とされてきたテーマです。名誉毀損(名誉権の侵害)は、簡単に言えば、

  1. 具体的な事柄が暴露されており
  2. それが、書かれた者にとって「社会的評価」を低下させられるような事柄であって
  3. その事柄に、「公共性」がないか、又は、その内容が「真実」ではない場合

に成立します。「社長の不倫」というテーマであれば

  1. 「社長が不倫をしている(いた)」という事柄は十分に具体的であり
  2. 不倫は、いわゆる不貞行為として民法上違法な行為であり、それをしている(いた)という事柄は、「社会的評価」が低下するものであって
  3. 不倫が真実であれば、「公共性」が認められない場合に限って、名誉毀損(名誉権の侵害)が成立する

となります。なお、不倫自体が真実でない場合は、公共性の有無にかかわらず名誉毀損(名誉権の侵害)が成立しますが、本記事ではこのケースについては割愛します。名誉毀損(名誉権の侵害)の全体像に関しては、下記記事で詳細に解説を行っています。

「公共性」とは、一言で言えば、その記事には「ネットメディア上の記事やSNS上の投稿として、不特定多数に対して公開されるべき必要性」があると言えるかどうか、という問題です。

名誉毀損の成否に関する判断枠組と「公共性」

上場企業の社長の不倫の暴露は原則的に適法

企業の代表取締役の不倫に関する名誉毀損の裁判例は、冒頭でも示したとおり、「その企業が上場企業か未上場企業か」という点を、重要な判断要素としています。

上場企業の場合の裁判例には、例えば、東証プライム上場企業代表取締役である原告が、女性と食事やデートを共にする対価に経済的援助をする「パパ活」を行っている旨及び二人でホテルに宿泊したことを「暴露」された事案に関する、以下のような仮処分決定があります。

債権者が代表取締役を務める(株式会社)が、株式を公開して機関投資家や一般投資家の売買の対象に供する上場企業であり、しかも、その市場が我が国を代表する企業が名を連ねるプライム市場であることをも踏まえれば、その代表取締役である債権者の身上、経歴及び行動は、(株式会社)の株主や機関投資家・一般投資家その他の社会公共の重大な関心事であると言い得る。このことに加えて、不貞行為が社会的に非難される行為であることからすれば、本件記事の内容は、公共の利害に関わる事項であるということができる。

東京地決令和4年8月19日

基本的なロジックとしては、

  1. 不倫はプライベートの問題ではある
  2. しかし上場企業の場合、その株式は投資家の売買の対象であり、その社長の行動等は、株式が売買の対象である事を通じて、不特定多数にとって重要な関心事である
  3. したがって、不倫もまた、不特定多数にとっての重要な関心事であり、公共性が認められる(したがって名誉毀損は成立しない)

というものです。

未上場企業の社長の不倫の暴露は原則的に違法

これに対して、未上場企業の場合、「公共性」は、原則否定されています。したがって、不倫の暴露は名誉毀損(名誉権の侵害)に該当します。

例えば、東京地判平成25年8月20日は、「原告が一私企業の代表取締役であることからすれば,不倫等の私生活上の事実が公共の利害に関する事実ということができないことは明らか」として、公共性を否定しています。

また、東京地判平成27年3月20日は、歯科医院の院長の不倫に関して、「歯科医院の院長であり、一定の社会的地位を有するとしても、同人が不倫をしている事実と、歯科医としての技術又は歯科医院における治療等とは何ら関係がないから,本件書き込みに記載されている事実が公共の利害に関する事柄であると認めることは困難である。」として、同様に公共性を否定しています。この裁判例に関しては、以下の記事でも解説を行っています。

上場企業の場合との比較について、上記の通り、上場企業には、「その株式が不特定多数にとって売買の対象である」という性質がありますが、未上場企業にはこの性質がなく、であれば代表取締役(や病院の院長)も私人である以上、そのプライベートに関する事柄には「公共性」がない、という議論となっています。

「原則」に対する例外とは?

裁判例は細かい事情等も踏まえた判断を行っている

ただ、多くの裁判例は、その企業が上場しているか否かのみではなく、ある程度の細かい事情等についても、考慮を行っています。これは、そうした事情等次第では、上記原則が崩れ、単純に「上場・未上場」での二分論とは異なる結論となる可能性がある、という点を述べているものと考えられます。

「原則」に対する例外とは?

未上場であっても社会への影響力が大きいこと

東京地判平成26年3月4日は、日刊新聞社の代表取締役が、女性社員と不倫を行っているという「暴露」に関して、

日刊新聞は、経済界のみならず、日本社会全体にも大きな影響力を持つ全国新聞であるから、これを発行する新聞社の代表取締役(原告)は,その地位にある者として経済界を含む日本社会に大きな影響を与える。特に,(原告)がその部下である女性社員と不適切な関係を持つことは社会人として強く非難されるべきであるから,(原告)の行動は公私を問わず社会に影響力を与えるものとして公共の利害に関する事実に係るものである。

東京地判平成26年3月4日

として、公共性を肯定し、したがって名誉毀損(名誉権の侵害)を否定しています。

ここでいう「大きな影響力」の意味内容には何とも言えない部分はありますが、上記判決文より、単純な事業規模(売上、従業員数等)ではなく、「新聞」という、不特定多数の読者に対して言論を届ける事業の性質に着目しているものと思われます。

不倫相手との利益相反取引等

東京地判平成30年4月25日は、上場企業の代表取締役の不倫に関する裁判例ですが、単に「不倫」のみではなく、不倫相手と利益相反取引を行っている、という事案です。そして判決は、この「暴露」が当該企業の「事業運営上の問題点やコンプライアンス上の問題点を指摘するものであって、公共の利害に関する事実であることは明らか」と述べています。

不倫が単なるプライベートの行為ではなく、利益相反取引など、当該企業のコンプライアンスにも関わるものである場合、その要素は「公共性」を高める方向に作用する、と考えられます。

不倫が社内従業員との間で行われていること

また、同判決では、

  • 不倫相手を当該上場会社の取締役に任命している
  • 社内で気に入った何人もの女性と肉体関係を持った

という点も挙げられています。

先に挙げた日刊新聞社の事案も、不倫の相手が従業員で、男女関係に基づく情実人事を行い、他の社員が当該女性を批判等すると左遷されるといった「暴露」が行われたケースでした。

不倫が社内従業員との間で行われている場合は、そうでない場合と比べて、「純粋なプライベート」と言いにくくなり、その要素は「公共性」を高める方向に作用する、と考えられます。

不倫の暴露とプライバシー権の侵害

なお、余談となりますが、不倫の暴露は、プライバシー権侵害との関係も、問題となります。

そして、不倫の暴露がプライバシー侵害として違法であるか否かは、最高裁判所の判例(最判平成15年3月14日民集57巻3号229頁)により、「その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較考量し、前者が後者に優越するか否か」によって判断されます。

企業の代表取締役の不倫に関する記事の違法性が争点となった事例の中には、原告がプライバシー権侵害を主張し、裁判所がかかる点について判断を行った事例も、一定程度存在します。

プライバシーを違法に侵害するかについては、上記のとおり、プライバシー保護の必要性と、これを公表する利益との間で比較衡量を行うこととなり、その判断の中で、対象者の属性として、会社の代表取締役であることや会社の事業内容等が加味されることとなりますが、結果として名誉権侵害の場合と質的な違いは、基本的には存在せず、この法的構成の違いは結論に質的な違いを生じさせるものではないと思われます。

まとめ:不倫記事の削除等は弁護士に相談すべき

以上のように、少なくとも、「会社の代表取締役である以上、その不倫に関して『暴露』をされることは一般論としてやむを得ない」ということはありません。少なくとも未上場企業の場合は、そうした暴露を受忍すべき謂れはないことが原則ですし、上場企業の場合も、他の要素や記載内容等との関係で、その「暴露」が違法となるケースはあり得ると思われます。

名誉毀損(名誉権の侵害)やプライバシー権侵害の有無の判断は専門的であるため、こうした情報の暴露を受けてしまった場合は、経験やノウハウのある弁護士に相談することが重要だと言えます。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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