Web3に関する法律とは?参入企業が押さえるポイントについても解説
Web3とは、ブロックチェーン技術を活用した分散型のインターネットで、Web2.0の中央集権型インターネットに代わる次世代のインターネットとして注目されています。Web3関連のビジネスに参入するには、プライバシー、セキュリティ、知的財産権など、多岐にわたる法的課題があることを理解し、これらの課題に正しく対応する必要があります。
この記事では、Web3の法的側面に焦点を当て、Web3にまつわる法律と、参入企業が押さえるべきポイントについて詳しく解説します。
この記事の目次
Web3と法律
Web3(Web3.0)とは、進化するワールド・ワイド・ウェブの歴史上の期間を指し、2014年にイーサリアム(ブロックチェーン・プラットフォーム)の共同設立者であるギャビン・ウッドが「ブロックチェーンに基づく分散型オンライン・エコシステム」を指して提唱されました。
Web3領域の主なトレンド技術は、NF(暗号資産・仮想通貨)・NFT・DeFi(分散型金融)・DAO(分散型自律組織)・メタバース・Social Tokenなどがあり、Web3は、Webの技術・法律・決済インフラの次世代型といわれています。
一方Web3と対比されるWeb 1.0は、静的コンテンツで構成されるWebサイトで、「一方通行型」が特徴で、1991年から2004年ころまでの期間を指します。
Web 2.0は「プラットフォームとしてのWeb」という構想に基づき、フォーラムやソーシャルメディアであるSNS・ブログ・ウィキなどにアップロードするユーザー生成コンテンツを中心としたもので、「双方向型」が特徴で、2004年ごろから現在まで続いていると考えられています。
Web3は、Web1.0やWeb2.0をさらに進化させ、個人のデータやコンテンツの管理・取引を自分自身で行えるようになるというメリットがあります。
Web3は法整備が必要なのが現状です。本記事では、現時点における関係する法律について解説します。
Web3に関係する法律(法規制)
アメリカのベンチャーキャピタル会社アンドリーセン・ホロウィッツは、2022年1月22日にWeb3が社会に利益をもたらすための10原則を発表しました。
10原則はWeb3を普及させる各国政府の指針をまとめたものですが、日本も2023年4月に「Web3 ホワイトペーパー」を公表しました。Web3に関係する法律(法規制)は、執筆時点で以下の6つが挙げられます。
暗号資産(仮想通貨)に関する法律
現在、暗号資産(仮想通貨)は主に次の3つの法律で規制されています。
- 資金決済法
- 金融商品取引法
- 金融サービス提供法(金融商品販売法)
資金決済法
暗号資産(仮想通貨)は2009年のビットコインの誕生とともに、その歴史が始まりました。当時、法整備は十分にされておらず、投機的な取引やハッキングによる流出・ICO詐欺事件などが世界中で相次いでいました。
そこで2017年に資金決済法に仮想通貨が追加され(世界初の仮想通貨法)、2021年に金融商品取引法・金融サービス提供法(金融商品販売法)の改正が進められ、現在では一定の投資家保護が図られています。
資金決済法の主なポイントは以下の点です。
(2017年新設施行)
- 仮想通貨交換業者(仮想通貨取引所)の登録制度
(2020年改正)
- カストディ業者(暗号資産の保管・管理に特化した専門業者)の登録制度
- 仮想通貨から暗号資産に名称変更
- 顧客資産の保護強化
- 取り扱い暗号資産(仮想通貨)の事前届出制度
- 広告・勧誘に関する規制
- ICOの規制
(2023年改正)
- ステーブルコイン規制
以下に、それぞれのポイントについて解説します。
- 仮想通貨交換業者(仮想通貨取引所)の登録制度
資金決済法では、暗号資産(仮想通貨)を法定通貨ではない支払い手段の1つと定義し、仮想通貨交換業者(仮想通貨取引所)を登録制としました。
口座開設者の本人確認義務・顧客資産・顧客財産と業者財産の分別管理・顧客への情報提供など、投資家保護の枠組みも整備されました。
- カストディ業者(暗号資産の保管・管理に特化した専門業者)の登録制度
2020年の法改正では、マネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与対策としてカストディ業者(暗号資産管理業者)も登録対象となり、仮想通貨交換業者(仮想通貨取引所)と同様の義務が課されることになりました。
- 顧客資産の保護強化
2017年の資金決済法では、顧客からの預金は別の銀行口座か金銭信託で管理とされていましたが、2020年の法改正で信託銀行や信託会社への信託が義務づけられました。さらに顧客の暗号資産はコールドウォレット(オフライン)など信頼性の高い方法で管理し、ホットウォレット(オンライン)で管理する場合は、同規模の弁済原資を保持することが義務付けられました。
- 取り扱い暗号資産の事前届出制度
2020年の法改正で取引所が取り扱う暗号資産を届出制とし、マネーロンダリングの温床となる匿名性の高い暗号資産の不正取引を防ぐため、事前チェックする仕組みが導入されました。
- 広告・勧誘に関する規制
2020年の法改正で、虚偽表示や誇大広告・投機を助長する広告や勧誘を禁止する、広告・勧誘に関する規制も追加されました。
- ICOの規制
2017年の資金決済法では、ICO(「Initial Coin Offering」=新規暗号資産(仮想通貨)公開トークン)は想定されていませんでしたが、2020年の法改正でICOが規定されました。
金融商品取引法
2021年施行の金融商品取引改正法では、暗号資産のデリバティブ取引やSTOについての規制が整備されました。
金融商品取引法の主なポイントは次の4点です。
- 暗号資産デリバティブ取引の規制
- STOに関する規制
- 風説の流布・相場操縦禁止
- ステーブルコイン規制
以下にそれぞれのポイントについて解説します。
- 暗号資産デリバティブ取引の規制
暗号資産(仮想通貨)を原資産とするデリバティブ取引(金融派生商品)が追加され、第一種金融商品取引業者の登録が必要となりました。証拠金取引のレバレッジ倍率の上限も、個人の場合2倍までと規制されました。
- STOに関する規制の整備
STO(Security Token Offering)とは、有価証券(Security)をデジタルトークンとして発行し、資金調達を行う方法を指します。改正法では、「電子記録移転権利」(後ほど詳しく解説します)の概念を設け、STOのルールを明確化しました。
STOを取り扱うプラットフォーマーは第一種金融商品取引業登録が必要となりますが、一般事業者が「電子記録移転権利」を発行し、プラットフォーマーを介せず自ら取得勧誘を行う場合には、第二種金融商品取引業の登録が必要となります。
一定の条件を満たす場合(公募50人以上・発行総価額1億円以上)には、「有価証券届出書」の提出と目論見書の作成および事業年度ごとに「有価証券報告書」を提出しなければなりません。
- 風説の流布・相場操縦禁止
仮想通貨の取引では、不当な価格操作が横行していたことから、風説の流布や相場操縦などの不公正な行為が禁止されました。
- ステーブルコイン規制
ステーブルコインとは、安定した価格を維持するよう設計された、ブロックチェーン技術を活用する新しいデジタルコインです。
法定通貨や他の暗号資産(仮想通貨)・コモディティ(金や石油などの安定的な資源)といった特定の資産価格と連動することを目的に設計された「担保型」と、アルゴリズムによって価格を安定させる「無担保型」があります。
2023年5月に、無担保型の韓国のステーブルコイン「テラ」で米ドルとの連動が外れ、99%以上暴落する事案がありました。これを受け、世界的にステーブルコインのリスクに対する規制の声が高まっています。
日本では2023年6月から法改正により、銀行や信託会社・資金移動業者による、法定通貨を担保としたステーブルコインの発行が可能となりました。一方、中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)の検討もされています。
金融サービス提供法(金融商品販売法)
金融商品販売法は、2000年に制定されましたが、2021年の法改正により金融サービス提供法に改称されました。
主な法改正は以下のとおりです。
(2021年11月法改正)
- 暗号資産取引・暗号資産デリバティブ取引の規制
- 金融サービス仲介業の登録制度
- 重要事項の説明義務と損害賠償責任
- 認定金融サービス仲介業協会や指定紛争解決機関(ADR)を設置
以下に、それぞれの改正点について解説します。
- 暗号資産取引・暗号資産デリバティブ取引の規制
暗号資産取引・仮想通貨デリバティブ取引が追加され、暗号資産(仮想通貨)が扱えることになりました。
- 金融サービス仲介業の登録制度
金融サービス仲介業が創設され、これまで銀行・証券・保険業の業態別の縦割り仲介業が1つの登録で全て扱えるようになりました。特定の金融機関所属制が廃止された代わりに、兼業が禁止され、高度な説明を要するサービス(仕組預金・デリバティブなど)の扱いを制限されています。
つまり、仮想通貨の仲介は可能ですが、仮想通貨デリバティブ取引の仲介はできません。
- 金融サービス仲介業の説明義務や損害賠償責任
金融サービス仲介業は、利用者財産の受入禁止や分野ごとの保証金の供託義務が課され、損害賠償責任を負うことになりました。
- 認定金融サービス仲介業協会及び裁判外紛争解決制度(ADR)を導入
苦情等対処に関する内部管理体制の確立と共に、外部的な紛争解決手段として、指定紛争解決機関(ADR)を利用することが求められます。自主規制団体である認定金融サービス仲介業協会に加入することで、提携している指定紛争解決機関(ADR)の利用義務を満たすことができます。
関連記事:暗号資産に関する規制とは?資金決済法と金融商品取引法との関係を解説
電子記録移転権利に関する法律
金融商品取引法第2条3項において、電子記録移転権利とは
- 電子情報処理組織を用いて移転することができる
- 財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る)に表示される権利
のことで、有価証券とみなされます。
法令上の「電子記録移転有価証券表示権利等」に該当するセキュリティトークン(ブロックチェーン技術を使って発行されるデジタル証券)は、下記の3種類に分類されます。
- トークン化された有価証券表示権利
- 電子記録移転権利
- 適用除外電子記録移転権利
2021年11月から施行された改正金融商品取引法では、Web3の技術を用いた金融取引に対して、新たな規制や保護を設けました。
改正法では「電子記録移転有価証券表示権利等」に該当するセキュリティトークンを発行・取引する場合に、登録や報告などの義務が課せられます。(STOの項目を参照)
これはデジタル有価証券がもつ、ブロックチェーン上の分散型台帳技術を念頭に置いているためです。
参考:企業会計基準委員会|実務対応報告「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」
スマートコントラクトに関する法律
スマートコントラクトについて、契約法の観点から、法的拘束力、法的リスクなどについて解説します。スマートコントラクトとは、STOやNFTを発行する際に、条件を定めた契約を効率的に実行する契約履行管理の自動化プログラムのことで、ほとんどの仮想通貨に実装されています。
ブロックチェーンには、契約の記録・金融取引の記録・個人情報等(暗号アドレス・公開鍵)が格納されることになります。
ブロックチェーンの取引に関係した個人情報は、ブロックチェーン上では暗号化されたアドレスや公開鍵として表現されます。これらの情報は、第三者には提示されないことで、個人のプライバシーを保護することができます。
このようにブロックチェーンでは、分散型台帳技術と暗号化技術を用いて、データの改ざんや消失を防ぎ、安全性と透明性を高めています。
契約法とスマートコントラクト
スマートコントラクトは、仲介者の必要性を減らし、ブロックチェーン技術の不変性や透明性によって、契約の信頼性や効率性を高めるメリットがあります。
反面、契約履行後当事者が契約の変更や解除に合意した場合、ブロックチェーン上に記録されたデータのレシートは取消不能なので、この不可逆性により実体法上の契約と帳簿上の契約に齟齬が生じることになります。
スマートコントラクトの法的拘束力
スマートコントラクトの法的拘束力については、日本では明確な法律や判例がありませんが、英国では2019年に司法特別委員会が「暗号資産とスマートコントラクトに関する法的声明」を発表し、現在の法的枠組みが「スマート・リーガル・コントラクト(法的拘束力のある契約義務をスマートコントラクトで表現したもの)」の使用を促進し支援するために、十分な堅牢性と適応性を備えていると立証しています。
また、2021年には英国法律委員会が「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」を発表し、スマート・リーガル・コントラクトへの法的取扱いについて具体的な行動目標や参考情報を提示しています。
米国では、スマートコントラクトは一般的な契約と同じく法的拘束力があると認められている州もありますが、暗号資産やトークンの税務や規制に関してはまだ明確な基準が定まっていない状況です。
欧州連合(EU)では、2020年9月に「暗号資産市場に関する規制(MiCA)」と「分散型台帳技術(DLT)を用いた市場インフラストラクチャーに関する規制(DORA)」という二つの規制案が提案されました。
これらの規制案は、暗号資産やトークンの発行・取引に関するルールや監督機関を定めることで、消費者保護や市場統合を目指しています。
スマートコントラクトの法的リスク
スマートコントラクトは、プログラムによって自動実行されるため、人間の意思や判断が介入しないことから、不測の事態や不正な操作に対応できない可能性があります。例えば、スマートコントラクトにバグや脆弱性があった場合や、ブロックチェーン自体に障害や攻撃が発生した場合などです。
したがってこれらの情報は、当事者同士が事前に保存管理しておかなければ、契約内容や当事者の特定が困難になる可能性があります。つまり、ブロックチェーン技術の不変性や匿名性が、契約運用において、証拠や救済の確保を難しくする可能性があることを示しています。
この他にも、ブロックチェーン上で実行された契約内容と、実際の権利関係との整合性を確保することが難しい場合があることも問題となります。
スマートコントラクトは国境を越えて実行される可能性が高いため、どこの国の法律が適用されるのか、紛争を解決する裁判所や仲裁機関はどこになるかという問題も生じる可能性があります。
さらに、ブロックチェーン上で実行された契約内容を証拠として提出することや、裁判所や仲裁機関がそれを認めることも困難になる可能性があることも否めません。これらのリスクに対処するためには、スマートコントラクトを実装する際には、自動実行型のコードをブロックチェーンにプログラミングする開発者は、以下のような対策を講じることが望ましいでしょう。
- スマートコントラクトのコードを十分に検証し、バグや脆弱性を排除すること。
- 不測の事態や不正な操作に対応できるように、緊急停止や修正などの機能を備えること。
- スマートコントラクトの契約内容や当事者の特定を可能にするために、オフチェーン(ブロックチェーン外)での契約文書の作成や署名、保存などを行うこと。
- オンチェーン(ブロックチェーン上)とオフチェーンの契約内容の整合性を確保するために、オラクル(ブロックチェーン外の情報をブロックチェーン上に伝達するシステム)などを利用すること。
- スマートコントラクトに適用される法律や紛争解決の方法を明示的に定めること。
- ブロックチェーン上で実行された契約内容を証拠として提出できるように、ハッシュ値やタイムスタンプなどの技術的な手段を講ずること。
Web3におけるプライバシーとデータ保護に関する法律
Web3は、プライバシーとデータ保護に関する新たな課題をもたらしており、Web3の規制や法的枠組みは国際的にも整備されていません。そこで事業者やユーザーは、適切な知識と対策を講じて、Web3を利用する必要があります。
Web3のプライバシーとデータ保護に関するリスクには、例えば、ブロックチェーン上の取引(契約の記録・金融取引の記録・個人情報等が格納)は公開されるため、個人情報(暗号アドレス・公開鍵)の漏洩や追跡の危険性があります。
Web3と日本における個人情報保護法
日本では、2022年4月に「改正個人情報保護法」が施行されました。この改正法では、「個人関連情報」や「仮名加工情報」といった新たなデータ区分が定義されるなど、事業者において管理が求められる対象が大きく広がりました。
また、法令違反に対する罰則金も大幅に引き上げられ、諸外国の厳格なデータ保護規制に一歩近づく内容となっています。Web3の技術やサービスを提供する場合も、同法の規制に従う必要があります。
ブロックチェーンには、契約の記録・取引の記録・個人情報等(暗号アドレス・公開鍵)が格納されることがありますが、その内容や形式はブロックチェーンの種類や目的によって異なります。
ブロックチェーンに記録されるの個人情報等(暗号アドレス・公開鍵)には、法的な問題や課題が多く存在します。個人情報とは、氏名や住所など個人を識別できる情報です。ブロックチェーン上の情報は原則として暗号化されていますが、暗号化された情報から個人を特定できる場合や、他の情報と照合できる場合があります。その場合、ブロックチェーン上の情報も個人情報として扱われる可能性があります。
事業者は個人情報を適切に管理し、本人の同意なしに第三者に提供したり、利用目的を変更したりすることはできません。
ブロックチェーンの種類とセキュリティ
ブロックチェーンには、以下の3つの型がありますが、規制対象である個人情報取扱事業者すなわち「個人情報データベース等を事業の用に供している者」が、その型により視点が変わります。
ブロックチェーンの特性のひとつは高水準の信頼性をもってデータの記録・管理を可能とすることにあり、ブロックチェーンに関する「個人情報保護法」の適用関係について、それぞれのブロックチェーンの仕組みや特徴を踏まえた上で、適法に処理を行う管理体制を構築することが肝要となります。
① パブリック型ブロックチェーン
仮想通貨交換業者(SBI VC トレード・ビットコイン・イーサリアムなど)が提供し、世界中から自由に参加できる分散型のブロックチェーン。
② プライベート型ブロックチェーン
特定の組織やグループが管理する閉鎖的なネットワークで、参加者や権限が制限されているブロックチェーンのことです。情報の秘匿性やセキュリティが高く、取引の承認やルールの変更が容易な点がメリットです。
一方で、透明性や公共性が低く、システムの稼働や安全を一部の個人や組織に依存している点がデメリットです。(ジャパンネット銀行の契約システムなど)
③ コンソーシアム型ブロックチェーン
複数の組織やグループが共同で管理する協調的なネットワークで、参加者や権限が協議によって決められているブロックチェーンのことです。
パブリック型とプライベート型の中間に位置しており、情報の秘匿性やセキュリティを保ちながら、改竄耐性や透明性も確保できるメリットがあります。例えば、Hyperledgeは、オープンソースのブロックチェーンプラットフォームで、医療・外資系金融・外資系IT企業などがプロジェクトを組織しています。
ブロックチェーンにおける個人情報保護の問題点
本人は自分の個人情報について開示・訂正・利用停止・削除などを請求する権利を有していますが、ブロックチェーン上の情報は一度データを保存すると修正や削除ができません。これは、ブロックチェーンの特徴である改ざん耐性を実現するために必要な仕組みだからです。
ブロックチェーン上のデータが修正や削除もできないということは、以下の不測の事態が生じ、個人情報保護法を遵守できなくなるおそれがあります。
- 法律上の無効・取消原因があったり、合意による変更・解除があったりした場合、ブロックチェーン上の契約と齟齬が生じる
- 不正なデータやウイルスが記録された場合、ブロックチェーンの安全性や信頼性が損なわれる
- 誤ったデータや不要なデータが半永久的に残る
現状このようなブロックチェーンの設計は、法的な問題や技術的な問題を引き起こす可能性があります。このため、事業者は、個人情報をブロックチェーン上に記録する場合には、法律的な問題や課題に注意する必要があります。
一方ブロックチェーンを設計する開発者には、
- ブロックチェーン上に記録するデータの種類や内容を慎重に選択する
- ブロックチェーン外のサブシステムで補完的な管理や対応を行う
- ブロックチェーンのルールや仕様を適切に設計する
などの対策が必要になるでしょう。
ユースケースとしては、特にグローバルにノードをつなぐパブリック型ブロックチェーンにおいて、個人情報保護法制との衝突が議論されています。
総論として個人情報保護法を、中央集権的な事業者を想定した法律であると捉えると、分散台帳に取引情報を記録する分権的なパブリック型ブロックチェーンとは対比するものです。
しかし、個人情報保護法上の規制対象である個人情報取扱事業者すなわち「個人情報データベース等を事業の用に供している者」とは、ブロックチェーンを運用している仮想通貨交換業がこれにあたると考えられます。
外国にある第三者への提供の制限規定においては、パブリック型ブロックチェーンによるノード間での個人情報の共有が「ネットワーク等を利用することにより、個人データ等を利用できる状態」にあると評価される場合には、本人の同意を得るか、あるいはプライバシーポリシーで事前に周知して例外的に本人の同意なしに第三者提供が認められる場合に該当するようにするか、いずれかの対応が必要となります。
万が一トラブルが発生した場合の、法律の適用や紛争解決の方法についてはケースバイケースとなり、弁護士の介入が必要となります。
Web3における知的財産に関する法律
日本で知的財産権のブロックチェーン・レシートを保護するのに適する法律は、主に著作権法と不正競争防止法です。
知的財産権の問題としては、他人が制作したコンテンツを第三者が無断でNFT化する不正が発生することや、NFT・メタバースに係る権利関係の整理が途上であることが挙げられます。
ブロックチェーンのメリットは、データの改ざんや消失を防ぐことができるため、著作物や意匠などの知的財産権の創作時刻や権利所在を証明する強力な手段となります。
さらに取引や情報の透明性を高めることができるため、知的財産権のライセンスや譲渡において、契約の履行や紛争の解決を容易にすることができます。
一方ブロックチェーンは、法律や規制との整合性や、相互運用性に関する問題を生じさせる可能性があります。
ブロックチェーンは、データの削除や修正が困難であるため、知的財産権の消滅や変更に対応することが難しい場合があります。例えば、商標や意匠が無効化されたり譲渡されたりした場合、ブロックチェーン上の記録をどのように更新するかが問題となります。
また、データのプライバシーやセキュリティに関する問題を引き起こす可能性があります。例えば、ブロックチェーン上に保存されたデータが第三者に漏洩したり改ざんされたりした場合、知的財産権の保護者や利用者の個人情報や秘密情報が危険にさらされる恐れがあります。
日本では日本音楽著作権協会(JASRAC)が、2022年10月31日に、ブロックチェーンを活用した存在証明機能とeKYC(オンライン本人確認機能)を実装した、楽曲情報管理システム「KENDRIX」をリリースしました。無料の音楽クリエイターDXプラットフォームです。
JASRACと音楽著作権の管理委託契約をする時に、これまで必要とされた利用実績基準を緩和し、契約手続きまでに要する期間を短縮しました。(オンライン信託契約・作品届提出)
音源ファイル等をKENDRIXに登録すると、ブロックチェーンに以下の情報が登録されることになります。
- 音源ファイルのハッシュ値
- タイムスタンプ
- ユーザー情報
- タイトルとバージョンの情報
これにより、音楽著作権を客観的に証明するとともに、ブロックチェーンの登録情報を表示した「存在証明ページ」を公開することができます。つまり動画配信プラットフォームやSNSに楽曲を公開する場合に、「存在証明ページ」の公開用URLを表示することで、不正利用の抑止力となります。
さらにeKYC(オンライン本人確認機能)により、KENDRIXと連携したサービスに展開できるようになり、JASRACと信託契約した音楽クリエイターが著作権使用料の分配を受けるための手続きも簡素化され適正な対価還元を受けることができます。
ただし、「KENDRIX」は著作権の取得や発生に関与するものではなく、あくまで著作権の管理や証明を支援するものです。著作権は、「KENDRIX」に登録しなくても発生します。
参考:「日本音楽著作権協会(JASRAC)|KENDRIX」
Web3におけるマネーロンダリングやテロ資金供与に関する法律
NFTには高額なものもあり、ブロックチェーンを利用して容易に移転できることに加え、世界的にも法整備が整っていないことから、NFT を利用したマネーロンダリング・テロ資金供与(ML/TF)が行われるリスクをはらんでいます。
マネーロンダリングとは、資金洗浄のことで、不正に得た資金を合法的に得たかのように見せかける手口のことです。
ハッキングやエクスプロイト(脆弱性を利用したコンピューター攻撃)による盗難・詐欺やポンジスキーム(投資詐欺)による詐取により不正に得た資金を、小分け送金したり繰り返し他の暗号資産へ交換したりするなどの手口があります。このときに、本人確認が十分ではない海外の販売所や取引所を経由すると、送金元の特定は困難となってしまいます。
また、一般には公開されない「闇サイト」や「ダークウェブ」と呼ばれるネット上を経由してNFT等を売買し、現金化するという手口もあります。
日本では、マネーロンダリング(ML)やテロ(TF)資金供与に関する法律として、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」や「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」「テロ資金提供処罰法」などがあります。
これらの法律は、金融機関等に対して取引時に本人確認義務や疑わしい取引の届出制度などの義務を課していますが、2021年6月に施行された改正法で、暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者などが特定事業者に追加され、マネロン・テロ資金供与規制が課されなければならないことを規定しました。
国際的なML/TF防止の枠組みをリードするFATF(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)においては、暗号資産等についてはかねてからML/TFリスクの分析がなされ、各国が採用すべき規制枠組みが既に示されていますが、NFTについては議論が開始されたばかりです。
Web3に参入するために押さえておきたい法整備
上述したとおり、日本では2023年4月に「Web3 ホワイトペーパー」が公表され、法整備が進められています。
それでは制度のコンセンサスが取れるまで、上場企業が、Web3に参入することは不可能なのでしょうか?まずFTとNFTの違いについて理解した上で、考えられる方法を解説します。
FTとNFTの違いについて理解する
FTとは、Fungible Token(代替可能トークン)の略で、代替可能な同じ価値や特徴を持つ、暗号資産(仮想通貨)やユーティリティトークンを指します。これらのトークンは、他のFTと交換したり、分割や結合も可能です。
一方NFTとは、Non-Fungible Token(非代替可能トークン)の略で、一点物で唯一無二のトークンのことです。ブロックチェーンを利用することでデジタル資産の希少性や独自性が保証されているトークンのことをいいます。
例えば、デジタルアートや実在する物、あるいはメタバース内の不動産などが取引できるNFTもありますが、これらは他のNFTと交換できず、分割や結合もできません。すなわち、FTには資金決済法等のルールが存在するのに対して、NFTは法律上の観念がありません。
将来的な法整備において注目されているのは、企業が発行・所有するトークンが、税法上の利益と見なされ、法人税の課税対象になる可能性です。特に、資金不足に悩む新興スタートアップ企業にとって、セキュリティトークンを使った資金調達や意思決定が難しくなる懸念があります。
一方多くのVC(ベンチャーキャピタル)が投資事業有限責任組合(LPS)形態のファンドを組成してスタートアップに投資を行っていますが、LPS法上、投資対象としてSTOは含まれているのに対し暗号資産が明示されていないことが問題視されています。
IFRS(国際財務報告基準)を採用する
会計に関する問題点として、FTを保有する上場企業は監査法人によるチェックを受けられず適正意見が出ないことから、Web3の参入が困難になっていることが挙げられます。
IFRS(国際財務報告基準)とは、国際会計基準審議会(IASB)が策定した、世界共通の会計基準のことです。
日本では2010年から、一部の上場企業に対してIFRSの任意適用が認められており、現時点で日本の上場企業のうち約260社がIFRSを適用しています。
1:IFRS(国際財務報告基準)を採用する
FTの発行に関する会計基準については世界的にも議論されていますが、まだルールが定まっていません。
しかし、日本の上場企業に強制適用される「収益認識に関する会計基準」には「FT・STOを対象外とすること」が明記されていますが、IFRS(国際財務報告基準)においてはそのような文言はありません。
つまり、IFRS(国際財務報告基準)における「収益認識に関する会計基準」を採用して、対応することは可能といえます。一般企業でも、一定の条件が満たされれば、IFRS(国際財務報告基準)を採用することも可能です。
2:海外でWeb3ビジネスを始める
世界には、Web3を国家戦略として産業政策の中心に据えている国があります。このような海外に拠点を設立し、Web3ビジネスを始めることも解決策の1つといえます。
海外拠点で行うWeb3ビジネスについては、IFRS(国際財務報告基準)で会計処理し、連結決算に取り込むことは可能といえます。
まとめ:Web3の法律は整備途上、まずは弁護士に相談を
ここでは、Web3にまつわる法律と参入企業が抑えるべきポイントについて弁護士が解説しました。法整備が遅れているこの分野の法律については、頻繁に改正も行われており、最新情報のキャッチアップは欠かせません。Web3ビジネスに関する法律については、実績のある弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所による対策のご案内
モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所は暗号資産やNFT、ブロックチェーンに関わるビジネスの全面的なサポートを行います。下記記事にて詳細を記載しております。
モノリス法律事務所の取扱分野:暗号資産・NFT・ブロックチェーン
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務