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改正公益通報者保護法のポイントを解説 事業者がとるべき措置は?

改正公益通報者保護法のポイントを解説 事業者がとるべき措置は?

公益通報者保護法が2020年に改正され、2022年6月1日に施行されました。本改正により、内部通報に適切に対応するための体制を整備する義務等が事業者に課されました。

本記事では、公益通報者保護法の改正のポイントや、本改正に伴い事業者が取るべき対応について解説します。

公益通報者保護制度とは

「公益通報者保護制度」とは、事件や不正行為などに関する情報を公益を目的として提供する者(通報者)を保護する制度です。

例えば、自動車のリコール隠しや、食品偽装などの組織の不正や不祥事は外部からは見つかりにくく、内部の人の通報によって明らかになるケースが多くあります。ただ、通報すれば企業内で不利益を被るかもしれないことを恐れて、通報をためらう人もいます。そうしたことを避けるため、内部通報者が解雇等の不利益な扱いを受けないようにする必要があります。

内部通報は、組織にとっては、通報によって問題や不正行為が早期に発見されることで、早期に対応することが可能になります。また、通報者を保護し、通報に適切に対処することは、組織の自浄作用を促し、社会的な信用を高め、企業価値を向上させるというメリットもあります。

公益通報者保護制度は、このような観点から、内部通報者の保護を図ることにより、事業者の法令遵守を促進し、国民の安全・安心を確保することを目的にしています。

公益通報者保護法改正のポイント

2020年(令和2年)の改正は、この内部通報制度の実効性をより向上させるために行われました。この改正には、次のポイントがあります。

事業者の体制整備を義務化

事業者に対し、以下が義務付けられました(公益通報者保護法第11条)。

  • 公益通報対応業務従事者を定めること
  • 内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等

ただし、従業員数(パートを含む)が300人以下の中小企業については、努力義務にとどまります。

これらの義務について、内閣総理大臣が必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、助言・指導・勧告をすることができるとされています(同法第15条)。また、勧告に従わなかった場合は、その旨を公表できるものとされています(同法第16条)。

さらに、公益通報対応業務従事者に対しては、通報者を特定することができる情報について守秘義務が課され、守秘義務に違反した場合には、30万円以下の罰金が科される可能性があります(同法第12条、第21条)。

ここでいう通報者を特定することができる情報とは、通報者の氏名や社員番号等を指し、性別等の一般的な情報であっても、他の情報と組み合わせることにより通報者を特定できるような情報も該当します。

行政機関等への通報を行いやすくする

行政機関等への通報を行いやすくする

行政機関や報道機関への通報を理由に企業が通報者を解雇した場合、その解雇が無効とされる要件が緩和され、より通報しやすくなりました(同法第3条)。

行政機関への通報の場合は、従来の「信じるに足りる相当の理由がある場合」だけでなく、「氏名や住所等を記載した書面を提出した場合」も要件に追加されました。

報道機関への通報については、改正前は生命・身体に対する危害のみでしたが、改正後は「財産に対する危害」も加わりました。また、「企業が通報者を特定する情報を漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合」も追加されました。

公益通報者の保護を拡大

従来は保護の対象となるのは従業員のみでしたが、改正により、退職後1年以内の退職者や役員も追加されました(同法第2条第1項)。

保護の対象に役員が追加されたことに伴い、役員に対する不利益な取扱いも禁止され、公益通報をしたことにより役員を解任された場合には、損害賠償請求を行うことができるようになりました(同法第5条第3項、第6条)。また、保護される通報の対象が刑事罰のみでしたが、行政罰も対象となり、範囲が広がりました(同法第2条第3項)。

また、通報を理由とした解雇の無効、降格・減給などの不利益取り扱いの禁止等に加えて、事業者から公益通報者に対し、公益通報による損害を理由とした損害賠償請求を行うことが禁止されました(同法第7条)。

保護される通報対象となる事実の範囲を拡大

この改正により、保護される通報対象となる事実の範囲が拡大されました(同法第2条第3項)。

「この法律及び別表に掲げる法律(これらの法律に基づく命令を含む。)に規定する罪の犯罪行為の事実 またはこの法律及び別表に掲げる法律(これらの法律に基づく命令を含む。)に規定する過料の理由とされている事実」と定められています。

この「別表に掲げる法律」は、公益通報者保護法別表及び別表8号に基づき「公益通報者保護法別表第8号の法律を定める政令(平成17年政令第146号)」で定められています。法律の一覧は「通報対象となる法律一覧(474本)(令和3年2月1日現在)」として、消費者庁が公開しています。

内部通報に適切に対応するために事業者がとるべき措置

内部通報に適切に対応するために事業者がとるべき措置

従業員が300人を超える事業者は、今回の改正により義務化された内容を把握し、適切に対応する必要があります。ここでは、事業者のとるべき措置について解説します。

内部通報に適切に対応するための体制を構築

公益通報者保護法には内部通報窓口の設置方法についての規定がなく、実際の通報窓口の設置の形態については事業者の判断に委ねられています。人事部など組織の内部に通報窓口を設けるケース、法律事務所など組織外に通報窓口を委託するケース、その両方に通報窓口を設けるケースなどさまざまなケースが考えられます。

どの形態を取ったとしても、以下の点を遵守しておくことが必須です。

  • 内部公益通報窓口の設置:調査・是正措置を行う部署や担当者を明確に定める
  • 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置:組織の長やその他幹部にかかわる事案である場合、組織の長等からの独立性を確保する
  • 公益通報対応業務の実施に関する措置:社内調査や是正措置の実施
  • 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置:事案にかかわる者を公益通報対応業務に関与させないようにする

事業者は、公益通報対応業務従事者を定め、公益通報を受け、社内調査を行い、調査の結果、必要であれば是正措置を行う業務に従事させなければなりません。

公益通報者を保護する体制の整備

内部通報の窓口を設けたとしても通報者の保護を確保しなければ、公益通報者保護制度は正常に機能できなくなります。そのため、事業者は、以下の措置を講じておく必要があります。

  • 不利益な取扱いの防止に関する措置:不利益な取扱いを防止し、不利益な取扱いを発見した場合には救済する/不利益な取扱いをした者に対する処分を行う等
  • 範囲外共有等の防止に関する措置:範囲外共有を防止し、それを発見した場合には救済する等

公益通報者に対する不利益な取扱いには、解雇だけでなく、減給、降格、退職の強要等も含まれます。

事業者が取るべき措置については、公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関し て、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)に詳しくまとめられています。

まとめ:公益通報者保護法への対策は、弁護士にご相談を

公益通報者保護法が改正され、事業者には、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備が義務付けられる等、企業として対応しなければならないことが増えました。また、通報があった場合には、適切に通報に対応するための体制をあらかじめ構築しておく必要があります。

通報者を適切に保護し、通報に誠実に対応することは、事業者にとっても社会にとっても重要なことです。公益通報者保護制度については、弁護士へご相談ください。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。公益通報者保護法は注目を集めており、リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所ではIT・ベンチャーの企業法務全般にわたってソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:IT・ベンチャーの企業法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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