ウィキペディア(wikipedia)の削除依頼のやり方と削除基準を解説
ウィキペディアに「社員が痴漢で逮捕された」「不良品の連絡を受けても、交換等の対応を行わなかった」と自社にまつわるネガティブな内容の記事が投稿され、お困りの企業担当者は少なくありません。
そこで今回の記事では、ウィキペディアで削除対象となる記事の例、ウィキペディアの削除方針、削除依頼する方法について解説します。
この記事の目次
ウィキペディア(wikipedia)とは
ウィキペディアは、フリーのインターネット百科事典です。
人物名や会社名を検索すると、略歴などの詳細を確認できます。 ウィキペディアの無料アプリをスマホにダウンロードすれば、ウィキペディアの記事をスマホで読むこともできます。
また、誰もが新規記事の執筆や既存の記事の編集を行うことが可能です。
そのため、自社との取引を開始するか考えているユーザーが検索エンジンやアプリで会社名を検索した場合、ウィキペディアに記載されているネガティブな記事を見て、取引をためらってしまうおそれがあります。
ウィキペディア(wikipedia)の削除方針
ウィキペディアでは、ページやファイルの削除に関し、削除の方針が定められています。
削除の方針に基づき、ページやファイルを削除するためには、削除依頼での審議を経て合意が得られることが必要です。
引用:Wikipedia:削除の方針
また、即時削除の方針に合致し、削除対象となることが明らかなページやファイルは、即時削除の対象となります。即時削除の対象となるページやファイルは、審議を経ることなく、管理者や削除者の単独の判断で削除されます。
管理者や削除者が単独で判断できないときは、審議の場に移される場合があるようです。
削除の方針によれば、以下の事由に当たる場合は、削除依頼での審議を経て合意が得られれば、審議結果に基づき、管理者や削除者が削除などの処置を実施します。
ケースA:即時削除の対象となるかどうかが微妙なもの
<削除の方針(2019年12月19日現在)より抜粋>
ケースB:法的問題がある場合
o 著作権に関するもの
o プライバシーを侵害するもの
o 他者の名誉等を傷つけ、結果的に名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪などに問われる可能性のあるもの
o 他社の利益を侵害する可能性のあるもの
o 合法ではない可能性があるもの
ケースC:ページ移動の障害になる場合
ケースD:ページ名に問題がある場合。
ケースE:百科事典的でない記事
ケースF:投稿者本人から依頼がある場合
ケースG:他言語・翻訳についての問題がある場合
ケースZ:その他の問題がある場合
この削除の方針によれば、上記の例の「社員A(実名)が痴漢で逮捕された」といった記事は、ケースEの「百科事典的でない記事」、または、ケースBの「プライバシーを侵害するもの」として削除依頼ができると考えられます。
引用:Wikipedia:削除依頼
プライバシー権の侵害要件についての詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています。
ウィキペディア(wikipedia)で削除対象となる記事
ウィキペディアで削除される記事には、以下のような記事があります。
法律に違反している記事
著作権や肖像権の侵害、プライバシーの侵害、名誉毀損など、その記事が法律に違反している場合は削除の対象となります。
なお、ウィキペディアでは誰でも自由に内容を編集することができるため、記事の内容が間違っているだけでは削除の対象とはなりません。記事が削除されるためには、記事の内容が事実に反するというだけでなく、法律に違反している必要があります。
百科事典に当てはまらない記事
ウィキペディアはネット上の百科事典であるため、記事の内容が百科事典の内容ではないとみなされる場合は削除の対象となります。
具体的には、著名性のない記事、裏付けのない独自の研究発表や広告・スパムなどが挙げられます。
その他、根も葉もない誹謗中傷記事や風評被害をもたらす記事など
ウィキペディアでは、フリーの百科事典の範疇を超えて、ある人物や会社に対する誹謗中傷記事や風評被害記事の投稿が行われるケースがあります。
このような投稿は、5ちゃんねるなどの匿名掲示板の誹謗中傷投稿や風評被害投稿と同様に削除されるべきであると考えられます。
参考記事:5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)の書き込みの削除依頼の方法
削除対象になる可能性がある記事の例
ウィキペディアで会社名を検索すると、その会社の事業内容や沿革などを確認することができます。その中には、誹謗中傷などのネガティブな記事が投稿されている場合もあります。
「社員Aが痴漢で逮捕された」という記事
社員が痴漢で逮捕されたとすると、当該会社のイメージダウンは避けられません。
痴漢で逮捕された社員がいるという記事は、当該会社の経営に悪影響を及ぼす危険性があります。
例えばある企業に関するウィキペディアページが、「その企業自身の不祥事」を掲載することは、あるレベルでは「やむを得ない」ものではあります。
しかし、単なる一従業員の逮捕の事実などが「その企業に関する百科事典のページ」に記載されることは、少なくとも当然に許容できるものではないのではないでしょうか。
ウィキペディアは「インターネット百科事典」を名乗るサイトで、「百科事典的でない記事」を削除対象にする旨を定めています。
従って、社員が痴漢で逮捕された記事は削除を求められる可能性があります。
「不良品の連絡を受けても、交換等の対応を行わなかった」という記事
「不良品の連絡を受けても、交換等の対応を行わなかった。」という記事です。
こうした記事も上記と同様で、「百科事典的でない記事」と言える可能性があります。
ウィキペディア特有の議論を離れた一般論としては、こうした記事は、当然には削除できません。
「名誉毀損に該当して違法を言えるか否か」というレベルの判断では、ある企業と顧客間のトラブルに関する注意喚起はユーザーにとって必要な情報で、公共の利益に適うものだから名誉毀損には該当しない、という判断になってしまう可能性があるからです。
「名誉毀損に該当するか否か」というレベルでは、例えば、投稿者と当該企業の間で行き違いがあり、投稿者の誤った使用法が原因の故障だったために、当該企業が対応しなかっただけである、など当該記載をインターネット上に行うことの是非が、問題視されることになります。
ただ、違法ではないとしても、ウィキペディアが自主的に定めている規約との関係では「違反であり削除されるべき」と主張できる可能性がある、といえるでしょう。
ウィキペディア(wikipedia)の記事を削除する方法
ウィキペディア(wikipedia)に記事を削除依頼する
ウィキペディアに記事の削除を依頼する場合、以下の流れで行います。
- 削除依頼対象の記事を編集
- 依頼サブページを作成
- 「Wikipedia:削除依頼」に掲載
- ユーザーによる投票・コメント
- 管理者または削除者による終了判定
削除依頼に応じてもらえない場合は弁護士に相談
削除依頼をしても応じてもらえない場合の対処方法を説明していきます。
削除の方針のケースB「法的問題がある場合(他者の名誉等を傷つけ、結果的に名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪などに問われる可能性のあるもの)」については、名誉毀損(名誉権の侵害)を検討します。
名誉毀損が成立する要件は、以下の3つです。
- 公然と
- 事実を摘示し
- 人の名誉を毀損する
上記の例で挙げた、「不良品の連絡を受けても、交換等の対応を行わなかった。」と書かれてしまった場合であれば、
- 「不良品の連絡を受けても、交換等の対応を行わなかった。」といった記載は、具体的な意味内容であり、
- 不良品に関する返品交換等の対応は、法律上一定の規制を受けるものであり、そうした対応を行っていない企業であると思われることは当該会社にとって不利益であるところ
- 当該企業は、不良品についての返品交換等の対応は適切に行っている
と主張をすることになります。
ただし、名誉毀損の要件を満たしていても、以下の条件を満たしている場合、名誉毀損は成立しませんので、ご注意ください。
- 公共性がある
- 公益性がある
- 真実である又は真実相当性が認められる
名誉毀損に該当するかどうかの判断は簡単ではありませんので、迷われる場合は名誉毀損関連の案件を多く扱う弁護士へご相談ください。
名誉毀損の成立要件については、下記記事にて詳細に解説しています。
参考:名誉毀損で訴える条件とは?認められる要件と慰謝料の相場を解説
ウィキペディア(wikipedia)への投稿者の特定
根も葉もない誹謗中傷記事や風評被害をもたらすような記事が、多数にわたり何度も投稿されている場合は、弁護士へ依頼して発信者情報開示請求を行うことができます。
発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法第4条1項に基づく手続です。
この手続により、誹謗中傷・風評被害記事の投稿者のIPアドレス、氏名、住所などの情報の開示を求めることができます。
ウィキペディアは、誰もが無料で自由に編集できるサイト・アプリなので、その会社や人物に恨みを持つ人間が、根拠のないデマや誹謗中傷を投稿しているケースもあります。そのような場合、投稿者のIPアドレスなどの発信者情報がわかれば、投稿者を特定できるケースがあります。
発信者特定の手続は、以下の通りです。
- コンテンツ・サービス・プロバイダ(ウィキペディア)へ投稿者のIPアドレスに関する情報開示請求を行う
- 投稿者のIPアドレスに関する発信者情報開示の仮処分申請を行う
- 経由プロバイダ(例えばdocomoやニフティ)を特定する
- 経由プロバイダへ発信者情報消去禁止の仮処分申請や裁判外での請求を行う
- 発信者情報開示請求の訴訟を提起する
- 裁判所の判決に基づき、発信者情報(住所や氏名)が開示される
上記はウィキペディアに限らず各サイトに共通して言える一般論なのですが、ウィキペディアの場合、重要な特徴が一つあります。
ウィキペディアは、ユーザー登録を行っても、行わなくても記事投稿や編集を行えるサイトです。ユーザー登録がなされていない場合でも、記事投稿や編集を行った者のIPアドレスが、各記事の「履歴表示」内の変更履歴画面内に表示されるのです。
引用:ウィキペディアの変更履歴
上記の場合、2020年1月30日の編集行為は登録済ユーザーによって行われており、そのユーザーに関する情報はユーザーID(モザイクで隠した部分)しか表示されていません。しかし、1月26日 16:49の編集行為は、未登録なユーザーによって行われており、そのユーザーのIPアドレス(220.221.*.*)は表示されています。
つまり、上記の手順における、1-2の部分、「ウィキペディアから投稿者のIPアドレスを開示させる」という部分が不要で、最初から投稿者のIPアドレスが判明している状態で投稿者特定を進められる、ということです。
上記の手続を経て投稿者が明らかになった場合、投稿者の特定に要した弁護士費用や慰謝料を、投稿者に対して損害賠償請求することができます。
ウィキペディアの投稿者を特定する方法については下記記事にて詳しく解説しています。
参考記事:ウィキペディア(Wikipedia)の投稿者を特定する方法と弁護士費用の相場
まとめ:ウィキペディア(wikipedia)の削除依頼で風評被害対策を取ろう
ウィキペディアは、便利な百科事典サイト・アプリですが、ときには、誤解や悪意などに基づく誹謗中傷記事・風評被害記事もあります。そのような記事に対しては、削除依頼を行うことができます。しかし、削除依頼をしても削除されない場合は、裁判所を通して削除請求をしたり、投稿者特定手続をしたりする必要のあるケースもあります。
裁判所を通しての削除請求や、投稿者を特定して損害賠償請求の手続きを行いたい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
当事務所による対策のご案内
モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷は企業にとって深刻な被害をもたらしています。当事務所では、ITと法律両面のスペシャリストとして、企業における立場を理解し、風評被害対策サポートを行うことが可能です。下記にて詳細を記載しております。
モノリス法律事務所の取扱分野:上場企業等の風評被害対策
カテゴリー: 風評被害対策