日本との働き方の違いは?アメリカの労働基準法を解説
アメリカには、日本とは異なる働き方や労働基準が存在します。アメリカで人材を雇用する際は、労働環境や法的な特徴について理解を深めることが大切です。
本記事では、アメリカの労働基準法に焦点を当て、日本との違いを解説します。異なる文化や法制度がもたらす、労働者の権利や労働条件の違いを知っておきましょう。アメリカでの雇用に関する情報を得たい方や、海外進出を検討している企業の法務担当者は必見です。
この記事の目次
アメリカでの雇用において知っておくべきこと
アメリカでの雇用には「Employment at will」や「Employee Handbook」など特有の概念が存在します。
Employment at Willは(任意の雇用)を意味します。アメリカの雇用の原則となる考え方です。雇用者と労働者は合意なしに雇用関係を解消でき、明確な契約条件がない限りはいつでも解雇や辞職が可能です。ただし、差別的な解雇や違法な理由に基づくものは含まれません。
Employee Handbook(従業員ハンドブック)は多くの企業が作成し、従業員に提供するものです。これは企業の規則や方針、福利厚生などについてまとめたものであり、労働者が労働に関する情報を得る上で重要といえます。ハンドブックは法的文書でもあり、労働者の権利と義務・雇用条件・福祉制度などが記載されています。
これらの概念の理解は、アメリカの雇用を行う上で不可欠です。雇用者は法的な規制の遵守と、公正かつ透明性のある雇用環境の提供が求められます。
アメリカにおける労働に関わる法律
アメリカにおける労働に関わる法律は、下記の3つです。
- 公正労働基準法
- 職業安全衛生法
- 家族・医療休暇法
アメリカでは各州が連邦とは別に独自の憲法を制定しており、アメリカにおける雇用・労働に関わる諸規制においても、連邦が定めるものと州が定めるものとに分けられます。
公正労働基準法
公正労働基準法(FLSA)は、アメリカの最も重要な労働法の一つであり、働く人々の権利と働き方を保護するために制定されたものです。
この法律は、最低賃金・労働時間・残業手当・労働者の年齢に関する基準を規定しています。FLSAは全国的に適用され、全ての雇用主に最低賃金の支払いや労働時間の制限、残業手当の提供などを義務付ける法律です。また、18歳未満の労働者に対しては特別な保護措置も設けられています。
職業安全衛生法
職業安全衛生法(OSHA)は、職場での労働者の安全と健康を確保するための法律です。
この法律は、労働者が安全な環境で働けるように、雇用主に対して労働安全基準の遵守を求めています。OSHAは労働者に対する訓練と情報提供、危険物の取り扱い方法の指導、適切な保護具の提供などが定められており、雇用主は労働安全衛生標準を遵守する義務があり、定期的な監査や報告も求められています。
家族・医療休暇法
家族・医療休暇法(FMLA)は、労働者の家族や医療関係の事情を理由とする休暇を認める法律です。例えば、自身や家族の健康問題に対して治療するために必要な期間、無給で休暇を取得できます。他には、新生児の世話のためにも取得が可能です。
FMLAによって、雇用主は労働者に最大12週間の休暇を提供し、休暇後に復帰できるように手配することが求められています。
アメリカにおける賃金に関する制度
アメリカの賃金制度は複雑であり、連邦最低賃金と各州が独自に設定する最低賃金が存在します。
まず、連邦最低賃金は全国的に適用され、全ての州で最低限保障される賃金水準を示しています。現行の連邦最低賃金は時給7.25ドルです。ただし、一部の州ではこの水準が生活費に対して不十分であると見なされ、州独自の最低賃金を設定しています。
次に、州別最低賃金として各州は独自の最低賃金を設定できます。これは州の経済事情や生活費の違いを考慮し、より適切な水準を確保するためです。州別最低賃金は連邦最低賃金よりも高い場合がありますが、低い場合でも連邦最低賃金を下回ることは許されません。
以下は一部の州における最低賃金の一覧です。(※2024年1月時点)
※1USD=145JPYとして計算
州 | 最低賃金(USD) | 最低賃金(JPY) |
---|---|---|
カリフォルニア州 | 15.00ドル | 2,175円 |
ニューヨーク州 | 15.00ドル | 2,175円 |
テキサス州 | 7.25ドル | 1,051.25円 |
フロリダ州 | 8.65ドル | 1,254,25円 |
イリノイ州 | 11.00ドル | 1,595円 |
テネシー州 | 7.25ドル | 1,051.25円 |
このように、各州で最低賃金は異なります。雇用者は従業員が所在する州の最低賃金に従って賃金を支払うことが必要です。また、労働者の居住地と勤務地の州が異なる場合は、勤務地の州の最低賃金が適用されます。
最低賃金の設定は定期的に見直され、変更される場合があります。雇用者は最新の情報を確認し、適切な賃金水準を設けるべきです。
アメリカにおける労働時間に関する制度
アメリカの労働時間に関する制度は、主に公正労働基準法(FLSA)に基づいています。以下に、労働時間に関する重要なポイントを解説します。
労働時間に関する項目 | 公正労働基準法(FLSA)で定める内容 |
---|---|
労働時間と残業 | 週40時間を超える労働は残業と見なされ、労働者は通常の賃金に加えて残業手当を受ける権利がある。残業手当は通常の賃金の1.5倍とされ、週に40時間を超えて労働した場合に発生する。ただし、一部の職種や給与水準が高い労働者は残業手当の対象外となることもある。 |
休憩時間 | 8時間以上働く場合は30分以上の休憩を与える。ただし、これは連続して働く場合に限り、短時間の休憩が何度か許可されることもある。休憩時間は労働者に支払われる労働時間から差し引かれない。 |
雇用形態による労働時間の違い | 正規労働者やパートタイム労働者など、雇用形態によって労働時間に関する権利や規制が異なる。正規労働者は通常の労働時間や残業手当などが適用されるが、一般的にパートタイム労働者は契約に基づいて労働時間や報酬が設定される。 |
フレキシブル労働制度 | 労働者と雇用主が合意した労働時間(フレックス制度)やスケジュールを設定できる。これにより、柔軟性を持たせながら生産性の向上を期待できる。 |
以上のように、アメリカの労働時間には法的な規制が存在し、労働者の権利が保護されています。雇用主と労働者は労働契約や雇用形態に基づいて合意し、柔軟な働き方を実現する一方で、法的な枠組みを遵守する必要があります。
アメリカにおける解雇に関する制度
アメリカにおける解雇には個別的解雇と集団的解雇の2種類があり、異なる要件やプロセスが存在します。
まず、個別的解雇とは雇用者が一人の労働者を雇用関係から解雇する場合を指します。アメリカでは「雇用の契約が口頭である場合」や「雇用契約が定められている場合」を含む、ほとんどの州で「雇用の契約が無期限である」場合に、雇用者は慎重な手続きを踏む必要があります。個別的解雇は、労働者が規定されたプロセスや法的権利に基づいて行われるべきです。
一方で、集団的解雇は通常、多数の従業員が同時に解雇される状況を指します。これは通常、組織の業績不振、業態変更、倒産などによる大規模な人員整理の一環として行われます。アメリカでは、集団的解雇にはワーナー法(WARN法)と呼ばれる法的要件があります。WARN法は、50人以上の従業員を抱える企業が30人以上の労働者を解雇する場合、事前に労働者と州への通告が必要であると規定しています。この通告には、解雇の理由や予定されるスケジュールなどが含まれます。
いずれの解雇も、公正で公平なプロセスが求められます。適切な通告と法的要件の遵守は、労働者の権利を守るだけでなく、雇用主にとっても法的リスクを最小限に抑える重要な要素です。ただし、各州や特定の雇用契約によっても要件が異なるため、雇用主や労働者は関連法規を確認し、専門家の助言を得つつ、適切な対応を講じることが重要です。
アメリカ雇用法の最新動向
アメリカ雇用法の最新動向として、下記3つを知っておきましょう。
- 反トラスト法違反に関わる協定
- 退職合意書の使用制限
- 競業避止義務に関するFTC新規則
これらの最新動向は、労働者と雇用主の関係をより公正にするために必要な情報です。法的なリスクを最小限に抑えるためにも、関連法規には迅速に対応しましょう。
反トラスト法違反に関わる協定
アメリカでは、企業間の協定が反トラスト法に違反しないように注意が払われています。
反トラスト法とは、企業や産業の競争を促進し、不当な競争行為や独占を防止するための法律体系です。競合他社との合意や提携が市場を支配し、競争の抑制などが懸念されるとして、取り締まりが強化されています。企業は公正な市場環境を維持するために、反トラスト法を遵守すべきでしょう。
退職合意書の使用制限
アメリカでは解雇や退職に際して、一般的に雇用者と従業員が合意書を交わしますが、この合意書の使用に関して厳格な制限が設けられています。
特に、労働者が雇用主に対して訴訟を提起する権利を制限するような合意書は検討されず、従業員の法的権利が適切に保護されるようになっています。これにより、公正な解雇や退職プロセスが重視されています。
競業避止義務に関するFTC新規則
競業避止義務に関する新しい規則が、FTC(連邦取引委員会)によって導入されたことも重要です。競業避止義務とは、労働者や従業員が離職後に、一定期間内で競合する事業に従事しないよう求める原則を指します。
これにより、雇用者は競業避止契約を結ぶ際に、その有効性や公平性に注意を払わなければなりません。雇用者は労働者に対して、競業避止契約の内容や影響を明確に説明し、違法な労働者の制約を防ぐための対策を講じる必要があります。
まとめ:海外進出は現地の法律に詳しい専門家に相談を
アメリカには公正労働基準法(FLSA)があり、雇用主となる場合は職業安全衛生法や家族・医療休暇法についても知っておくべきです。「Employment at will」や「Employee Handbook」など特有の概念があり、日本の働き方の違いがあると理解しておきましょう。
アメリカの労働基準に関する法規制は、法務の知見がないと理解が難しいものも多々あります。現地の法務に詳しい専門家に相談することをお勧めします。
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