弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

モンゴル国における外国投資規制の解説

モンゴルにおける外国投資の法的枠組みは、主に「投資法」によって規定されています。この法律の目的は、モンゴル国内における投資家の法的権利と利益を保護し、投資に対する共通の法的保証を確立し、投資を奨励し、税制環境を安定させ、投資家の権利と義務、および管轄機関の権限を明確にすることにあります。投資法は、外国投資家と国内投資家の双方によるモンゴル国内での投資に適用され、モンゴルの法律で禁止または制限されている場合を除き、原則として自由にセクター、生産、サービスへの投資を行うことができるとされています。

本記事では、モンゴル国内での出資や、既に設立されている企業への投資について、日本人を含めた外国人に対して行われる規制に関して解説します。

モンゴル外国投資法の概要と基本原則

投資家の権利と義務

投資法は、投資家に対して以下の共通の権利を保障しています。

まず、投資家は、投資対象、形態、金額、地域を独立して選択し、単独で投資決定を行うことができます。また、モンゴル国内での納税義務を適切に履行していることを条件に、資産を処分し、合法的な利益や所得を海外に送金・受領する権利を有します。さらに、投資先の事業体の経営に参加または管理する権利、あるいは関連法規に従ってその権利と義務を他者に譲渡する権利も認められています。投資家は、税制および非税制支援を求める権利も有し、資産は不法に没収されることはありません。公共の利益のために資産が収用される場合でも、完全な補償が法的手続に従って行われることが保証されています。国際条約に別段の定めがない限り、モンゴル国家機関との契約に関する紛争を国際または国内仲裁で解決する権利も付与されています。

一方で、投資家はモンゴルの法規に従って事業を行う基本的な義務に加え、いくつかの共通の義務を負います。

これには、生産物、作業、提供されるサービスが国内および国際基準に準拠することを保証すること、関連する税務当局およびその他の政府当局からの要求に応じて、指定された期間内に必要な情報を提供すること、そして消費者の利益を尊重し、経済発展を支援する環境に配慮した投資活動を行うことなどが含まれます。

投資形態

モンゴルにおける投資は多岐にわたる形態で実施可能です。投資家は、単独または他の投資家と共同で新しい事業体を設立すること、株式、債券、その他の種類の証券を購入すること、企業を完全に買収または合併すること、コンセッション、生産物分与、マーケティング、管理、その他の契約を締結すること、金融リースまたはフランチャイズの形態で投資を行うこと、および特定の法律で禁止されていないその他の形態で投資を行うことができます。

登録資本の20%以上が外国投資家による貢献である事業体は「外国投資企業」となります。ただし、外国投資企業を設立するための最低投資額は100,000米ドル以上であり、複数の投資家が共同で有限責任会社(LLC)を設立する場合、各投資家が100,000米ドル以上を投資する必要があるという要件が存在します。これはモンゴル国内投資家には適用されない要件であり、小規模な投機的投資を抑制して、より大規模で長期的なコミットメントを伴う投資を誘致しようとする意図があると考えられます。

この意味で、モンゴルの投資環境は、「完全に自由」ではなく、「戦略的な管理下にある自由」であると言えるでしょう。特に投資規模が大きく、後述する「戦略的セクター」に関わる場合、初期段階から法的デューデリジェンスや政府との対話が不可欠となります。

モンゴル国における外国投資規制の主要なポイント

モンゴルは一般的に外国投資家に対する市場アクセス障壁が少なく、投資制限もほとんどなく、概ね自由な市場アクセスを享受できるとされています。外国投資家と国内投資家は、同じ法律と規制の下で、単独または共同で事業体を設立できます。しかし、いくつかの重要な例外と規制が存在します。

一般投資における規制と例外

主な例外は以下の2点です。第一に、外国投資家は事業を設立するために最低100,000米ドルを投資する必要があるのに対し、モンゴル人投資家には最低投資額の規定がありません。複数の外国投資家が共同で有限責任会社(LLC)を設立する場合、各投資家が10万米ドル以上を投資する必要があります。第二に、モンゴルの成人市民のみが不動産を所有できるという点です。外国投資家は、基礎となる土地の利用権を5年間取得でき、1回限り5年間更新可能ですが、国民にはこのような制限はありません。

外国政府系法人による投資規制

「外国政府系法人」とは、その株式の50%以上が外国政府によって直接的または間接的に所有されている法人を指します。このような外国政府系法人が、モンゴルの特定のセクター(鉱業、銀行・金融、メディア・通信)で事業を行うモンゴル企業の株式の33%以上を取得しようとする場合、投資担当の認可機関からの許可が必要となります。この許可はモンゴル政府によって付与されます。

外国政府系法人には、一般の外国投資家とは異なる、またはより明確な規制が課されています。これは、モンゴルが単なる「外国資本」の流入だけでなく、「外国政府の影響力」の拡大に対して特に警戒していることを示していると言えるでしょう。この規制は、モンゴルが自国の重要産業における外国政府による支配的な影響力を防ぎ、国家の独立性と経済的自立を確保しようとする明確な意思の表れです。特に、鉱業のように国家収入の大部分を占めるセクターでは、この傾向が顕著です。外国政府が間接的にでも関与する投資案件は、通常の商業案件よりも審査が複雑化し、承認に時間がかかる可能性があります。

戦略的セクターへの投資規制

モンゴルは、国家安全保障、国民の基本的ニーズの確保、経済の独立性と正常な機能、国家収入の確保の観点から、以下のセクターを戦略的とみなしています。

  • 鉱業 (Mining)
  • 銀行・金融 (Banking and finance)
  • メディア、情報、通信 (Media, information and communications)

政府が他のセクターを戦略的とみなす場合、国家大会議に提出し、決定を仰ぐ必要があります。

これらの戦略的セクターにおいては、以下の取引に政府からの許可が必要となります。

  • 戦略的セクター企業株式の3分の1以上の取得。
  • 戦略的セクター企業の経営陣、共同経営陣の過半数、取締役会を選出する無条件の権利を付与する取引。
  • 戦略的セクター企業の経営決定に対する拒否権を保証する取引。
  • 戦略的セクター企業の経営方針を強制し、決定を決定し、経済活動を行使する権利を付与する取引。
  • 国際市場およびモンゴル市場における原材料およびその製品の商業化において、買い手と売り手の独占を確立する可能性のある取引。
  • モンゴルの輸出向け鉱業製品の市場または価格に直接的または間接的に影響を与える可能性のある取引。
  • 戦略的セクター企業の株式が、自己または関連当事者、第三者によって減少する結果となる取引。

特に、外国投資家の戦略的セクター企業における持分が49%を超え、かつ投資額が1,000億トゥグルグ(約3,000万米ドル)以上の場合、政府の提出に基づき国家大会議が決定を下します。その他の場合は政府が決定します。また、外国投資家は、戦略的セクター企業の株式の5%以上を取得した場合、30日以内に投資担当の国家行政機関に通知する義務があります。

戦略的セクターへの投資は、株式取得の閾値(1/3、49%超)だけでなく、経営権、拒否権、市場独占の可能性、国家予算への影響など、多岐にわたる要素で審査されます。特に、資源が豊富なモンゴルにとって、鉱業セクターにおける外国資本の動向は国家経済の安定に直結するため、非常に敏感な領域です。承認プロセスが長期化する可能性があり、投資家は十分な時間的余裕と、詳細な事業計画、国家安全保障への配慮を示す準備が必要となります。

項目内容承認機関/義務関連規定
株式取得閾値と承認1/3以上の株式取得政府の許可投資法第6.1.1条
49%超の株式取得かつ投資額1,000億トゥグルグ以上国家大会議の決定投資法第4.7条
上記以外(49%以下)政府の決定投資法第4.7条
通知義務戦略的セクター企業の株式5%以上取得時30日以内に国家行政機関に通知投資法第8.1条
外国政府系法人特定セクターでの33%以上の株式取得投資担当認可機関からの許可(政府)投資法第21.1条

本法に違反して行われた取引は無効とみなされ、違反した戦略的セクター企業の事業は停止され、許可は無効となる厳格な措置が定められています。

投資促進策と優遇措置

モンゴル政府は、外国投資の誘致と経済発展を目的として、様々な投資促進策と優遇措置を提供しています。

税制優遇措置

投資家には以下の種類の税制優遇措置が提供されます。これには、税金の免除、税制優遇、課税所得から控除される減価償却費の加速償却計算、将来の収益に繰り越して課税所得から控除される損失の計算、従業員研修費用の課税所得からの控除が含まれます。

特定の建設工事、例えば建材、石油・農業加工・輸出製品工場、ナノ・バイオ・イノベーション技術利用工場、発電所、鉄道建設においては、輸入機械設備が関税免除され、VATがゼロレートになる場合があります。これらの税制優遇措置は、税法によって規制されます。

特に重要なのは「安定化証明書」です。モンゴルで実施されるプロジェクトが以下の基準を満たす投資家には、安定化証明書が発行されます。

  • 事業計画およびフィージビリティ分析に記載された総投資額が、投資法で定められた金額基準に達していること。
  • 法律で義務付けられている場合、環境影響評価が完了していること。
  • 安定した雇用機会を創出すること。
  • ハイテク技術や先進技術を導入すること。

安定化証明書は、税率の安定性を確保するための保証として機能します。この証明書の期間は、投資額と地理的場所によって異なり、モンゴルの長期的な社会経済発展に重要とみなされるプロジェクトや輸入品の代替品を生産するプロジェクトについては、さらに150%延長される場合があります。ただし、安定化証明書は売却、担保、贈与、その他の方法で譲渡できないことに留意が必要です。

優遇措置は、特定の産業(建設材料、石油・農業加工、イノベーション、発電、鉄道)や、雇用創出、ハイテク導入といった基準を満たすプロジェクトに焦点を当てています。これは、モンゴル政府が単に投資を呼び込むだけでなく、経済の多角化、付加価値の高い産業の育成、インフラ整備、雇用創出といった国家の長期的な発展目標に合致する投資を戦略的に誘致しようとしていることによるものでしょう。特に、鉱業以外のセクターへのインセンティブは、資源依存型経済からの脱却を目指す政府の意図を反映していると考えられます。

安定化証明書は、モンゴルの法的・規制システムの透明性や予測可能性の欠如という投資家が抱える主要な懸念(特に税制の不安定性)を直接的に緩和するためのメカニズムとして機能します。これにより、投資家は長期的な事業計画を立てやすくなり、投資リスクが低減される効果が期待できます。ただし、安定化証明書には特定の義務(投資額の遵守など)が伴うため、その条件を厳密に理解し遵守することが重要です。

非税制優遇措置

税制優遇措置に加えて、以下の形態で非税制優遇措置が提供されます。

  • 土地の賃貸および利用契約に基づき最大60年間、契約期間を1回最大40年間延長可能。
  • イノベーションプロジェクトの実施支援、輸出志向型イノベーション製品の資金調達保証。
  • モンゴルに投資を行った外国投資家とその家族に、適用される法律に基づき複数回ビザおよび居住許可を提供する。

投資手続と関連機関

モンゴルで事業体を設立し、外国投資を行う際には、特定の登録および許可申請プロセスを経る必要があります。

事業登録と許可申請プロセス

モンゴルで法人となるには、モンゴル税務総局(GTA)に登録する必要があります 。GTAは、申請料10ドルと、合意書、定款、GAIPSR(General Authority for Intellectual Property and State Registration)からの承認証明書などの書類を要求します。

外国投資企業設立のプロセスには、正式な設立決定、取締役会の選出(決定した場合)、定款、株主間契約(複数の投資家の場合)、設立者の法人登録証明書、会社概要、各外国投資家からの100,000米ドルの初期投資送金領収書、オフィス賃貸契約書、不動産所有権証明書、執行役員のパスポートコピーと「F」登録情報、UBO(最終的受益者)登録フォームと関連書類などが含まれます。

モンゴルは「ワンストップショップ」の導入や許可・ライセンス手続きの合理化など、事業登録プロセスの迅速化を図っています。しかし、外国投資家が事業を閉鎖する際には18〜24ヶ月かかるなど、煩雑な手続きが指摘されています。これは、モンゴル政府が外国投資の誘致には積極的であるものの、投資後の管理や撤退プロセスにおいては、依然として官僚的障壁や非効率性が残っていることによるものです。

「ワンストップショップ」は投資家の利便性を高めるものの、その実効性や、政府機関間の連携の度合いが重要となります。また、事業閉鎖の困難さは、投資家にとって大きなリスク要因となり、投資判断に影響を与える可能性があります。特に、法制度の透明性や予測可能性の欠如は、投資後の予期せぬリスクにつながる可能性があります。

管轄機関:モンゴル投資貿易庁 (Investment and Trade Agency of Mongolia)

モンゴルへの外国投資承認を担当する現在の政府機関は、モンゴル投資貿易庁(ITA)です。ITAは、投資誘致、投資環境の提唱、投資家へのサービス提供の機能を持つ国家行政機関です。ITAは、ビザ、税務、社会保険、公証、事業登録に関するサービスを投資家に提供する「ワンストップショップ」を運営しています。経済開発省は、ワンストップショップの職務を引き継ぐ新しい外国投資・貿易支援機関を設立すると公表していますが、具体的な日付は提供されていません。

まとめ

モンゴルは、その豊富な天然資源と成長する市場により、魅力的な投資先としての大きな潜在力を秘めています。税制優遇措置や土地利用権、ビザ供与といった非税制優遇措置、そして税率の安定性を保証する安定化証明書を活用することで、投資の魅力を高めることができます。

しかしながら、モンゴルへの投資には慎重な検討が求められる側面も存在します。外国投資家には最低投資額が課され、不動産所有権には制限があるなど、国内投資家とは異なる規制が存在します。特に、外国政府系法人や戦略的セクターへの投資は、様々な規律が設けられています。さらに、規制の透明性の欠如、司法の独立性への懸念、紛争解決プロセスの非効率性、そして鉱物輸出への高い依存度からくる外部経済ショックへの脆弱性など、事業環境における潜在的なリスクも無視できません。法制度が整備されつつある一方で、その実務上の運用には依然として課題が残されており、投資家は法文上の規定と実態との乖離を十分に認識する必要があります。

モンゴルへの投資は大きな機会を秘めているものの、その複雑な法的・規制環境、そして変動しうる事業環境を航海するためには、専門的な法的アドバイスが不可欠です。

モノリス法律事務所の取扱分野:国際法務・モンゴル国

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る