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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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モンゴル国の法律の全体像とその概要を弁護士が解説

モンゴルは、ロシアと中国という二大経済大国に挟まれた戦略的な立地と、銅、石炭、金などの豊富な天然資源を背景に、近年急速な経済成長を遂げています。この豊富な天然資源は、大規模な資本と技術を必要とする開発プロジェクトを誘引し、外国直接投資(FDI)をモンゴル経済の主要な推進力の一つとしています。地政学的な位置は、隣接する大国との貿易・投資関係を強化する一方で、経済的自立性を確保するための多様なFDI誘致の必要性も生み出しています。2023年のFDIは22.5億米ドルと前年比で減少したものの、パンデミック後の経済回復は順調に進んでおり、2023年には国際債務市場への参入も成功しています。モンゴル政府は「Vision 2050」という長期的な国家開発戦略の下、社会開発と経済成長を推進しており、これは単に資源を輸出するだけでなく、より付加価値の高い産業やインフラ開発への投資を促すことで、経済の多様化と持続可能な成長を目指す戦略的な選択と捉えられます。

モンゴル政府は、投資家の法的権利と利益の保護、投資の奨励、税環境の安定化を目的とした投資法を制定しており、安定化証明書の発行や投資契約の締結を通じて税率の安定を保証する仕組みを導入しています。これは、投資家にとって予測可能性と安心感を提供する重要な要素です。また、汚職対策やガバナンス強化にも注力しており、内部告発者保護や資産回収などの改革を通じて、透明性の高いビジネス環境の構築を目指しています。

本記事では、モンゴルの法律の全体像とその概要を弁護士が解説します。

モンゴルの司法制度と裁判所の種類

モンゴルの司法制度は、三審制を基本とする階層構造を持ち、民事、刑事、行政の各事件を扱う裁判所と、憲法問題を専門とする独立した憲法裁判所が併存しています。憲法問題を扱う憲法裁判所は、日本の最高裁判所が違憲審査権を持つ点とは異なる特徴です。

裁判所の階層は、第一審裁判所、控訴裁判所、そして最高裁判所から構成されます。第一審裁判所には、スーム、インター・スーム、地区裁判所があり、民事、刑事、行政、労働事件を扱います。ウランバートル市には、民事事件と刑事事件それぞれに地区第一審裁判所が4つずつ設置されています。控訴裁判所は、アイマグ裁判所(県の中心都市に所在)とウランバートル市に設置されており、第一審裁判所の判決に対する控訴を審理します。モンゴル最高裁判所は、憲法問題以外の最終審裁判所であり、控訴裁判所からの事件を審査するほか、下級裁判所を指導するための立法解釈を提供し、裁判所関連の草案を立法府に提出することも可能です。最高裁判所は25名の裁判官で構成され、民事、刑事、行政の専門部会で事件を審理します。また、憲法問題に関しては、モンゴルには1992年に設立された独立した憲法裁判所(Монгол Улсын Үндсэн хуулийн цэц)が存在します。

モンゴルにおける会社設立とコーポレートガバナンス

会社設立とコーポレートガバナンス

モンゴルにおける会社設立は、日本の会社法と同様に、法人の形態、設立手続き、ガバナンス構造が詳細に規定されています。特に、公開会社と有限責任会社の区別は日本における株式会社と合同会社(または非公開会社)の概念と類似していますが、細部に異なる点があります。

モンゴルの会社法は、資本が株式に分割され、独立した財産を持ち、利益追求を主目的とする法人を「会社」と定義しています。主要な会社形態は、公開会社(Joint Stock Company, XK)と有限責任会社(Closed or Limited Liability Company, XXK)の2種類です。公開会社(XK)は株式が自由に取引可能であり、株主数に制限はありません。取締役会(最低9名)と監査役会(Supervisory Board)の設置が義務付けられています。最低自己資本は1,000万トゥグルグです。一方、有限責任会社(XXK)は株式の譲渡が定款により制限され、設立時の創設者数は50名以下に制限されますが、設立後の株主数に制限はありません。取締役会の設置は任意であり、監査役会の設置も任意です。最低自己資本は100万トゥグルグです。

項目モンゴル:公開会社(XK)モンゴル:有限責任会社(XXK)日本:株式会社(公開会社)日本:株式会社(非公開会社)
設立要件最低自己資本:1,000万MNT最低自己資本:100万MNT最低資本金:1円最低資本金:1円
創設者数制限なし50名以下(設立時)なしなし
株式の譲渡制限なし(自由譲渡)定款により制限なし定款により制限
株主数制限なしなし(設立後)なしなし
取締役会設置義務義務(最低9名)任意義務任意
監査役会(Supervisory Board)設置義務義務任意任意(監査役会設置会社、監査等委員会設置会社など)任意

会社は、設立決定後10営業日以内に国家登録庁に登録する必要があります。登録に必要な主な書類は、会社名、所在地、郵便番号を含む、権限のある者が署名した会社登録申請書、設立総会で採択された会社設立決議書、会社の定款、登録料の支払いを確認する書類、そして必要な最低自己資本額を示す開始貸借対照表です。国家登録庁は、提出された書類が要件を満たしているかを確認し、3営業日以内に登録または拒否の決定を行います。日本の会社設立と似た手続ですが、モンゴルでは「開始貸借対照表」の提出が求められる点が特徴的です。

コーポレートガバナンスの構造と役割に関して、株主総会は会社の最高意思決定機関です。定時総会は各会計年度終了後4ヶ月以内に開催され、定款変更、再編、清算、取締役・監査役の選任・解任、財務諸表の承認など、重要な事項を決定します。取締役会は株主総会と株主総会の間で会社を経営する機関であり、公開会社には設置が義務付けられ、有限責任会社では定款で定める場合のみ設置されます。取締役は株主である必要はありません。取締役会の権限には、株主総会の招集、株式・証券の発行、執行機関の選任・変更、監査人の選任、年次報告書・財務諸表の作成などが含まれます。執行機関は会社の日常業務を管理し、個人(執行役員)または合議体(執行委員会)のいずれかの形態をとることができます。取締役会の承認があれば、他の会社や事業体で役職を兼任することも可能です。

取締役、執行役員、主要な幹部職員などの「統治者(governing persons)」は、不法行為によって会社に生じた損失に対して責任を負います。特に、意図的な不法行為(個人的利益のための事業遂行、虚偽情報の提供、利益相反取引の不開示など)に対しては、個人的な責任を負う可能性があります。さらに、1%以上の株式を保有する株主は、統治役員に対する損害賠償請求を裁判所に提起できると定められています。

関連記事:日本企業や経営者によるモンゴル国における会社設立の方法

モンゴルにおける海外資本からの投資と保護

モンゴル投資法

モンゴルは外国直接投資を積極的に誘致しており、投資家の権利保護と税環境の安定化を法的に保証しています。しかし、土地所有権に関しては日本とは大きく異なる重要な制限が存在します。

モンゴル投資法(Investment Law)の目的は、モンゴル領内における投資家の法的権利と利益を保護し、投資に対する共通の法的保証を確立し、投資を奨励し、税環境を安定させ、投資家の権利と義務、および管轄当局の権限を定めることです。外国投資は、モンゴルの法律で禁止または制限されていない限り、すべてのセクターおよび生産・サービス分野で自由に行うことができます。外国投資は、憲法、投資法、およびモンゴルが締約国である国際条約によって法的に保護されます。外国投資は国有化されたり、不法な収用を受けたりすることはありません。収用は公共目的の場合に限り、適正な法的手続き、非差別的な根拠、および完全な補償の支払いによってのみ可能です。

投資は、単独または共同での新事業体設立、株式・債券・その他の証券の購入、企業の完全買収または合併、コンセッション契約、製品分与契約、マーケティング・管理契約、ファイナンシャルリース、フランチャイズなど、法律で禁止されていないあらゆる形態で行うことができます。投資家は、モンゴル領内での納税義務を適切に履行していれば、資産および収益をモンゴル国外へ支障なく送金する権利を有します。

関連記事:モンゴル国における外国投資規制の解説

「安定化証明書」による税率安定保証

国は、安定化証明書の発行または投資契約の締結を通じて、投資家に対する税率の安定を保証します。税制優遇措置には、税金の免除、税額控除、加速償却、繰越欠損金の計上、従業員研修費の控除などがあります。特定の産業(建設資材、石油・農業加工、輸出製品工場、ナノ・バイオ・イノベーション技術工場、発電所、鉄道建設など)の建設工事期間中は、輸入機械・技術設備が関税およびVATから免除される場合があります。日本には投資法のような包括的な外国投資保護法は存在せず、個別の法律(会社法、外為法など)で規制されます。また、税制優遇措置も産業や地域によって異なりますが、モンゴルの「安定化証明書」による税率安定保証は、日本にはない特徴的な制度であり、長期投資を計画する企業にとっては大きなメリットとなり得ます。

非税制上の優遇措置としては、土地のリースおよび使用権を最大60年間付与し、さらに1回に限り最大40年間延長できる契約が可能であることが挙げられます。これは、外国人が土地を所有できないモンゴルにおいて、長期的な事業運営を可能にする重要な代替手段です。また、イノベーションプロジェクトの支援や、輸出志向型イノベーション製品の生産資金保証、モンゴルに投資した外国人投資家とその家族に、モンゴル法に基づき複数ビザおよび居住許可を提供する制度も存在します。

投資と土地所有権

土地所有権に関しては、日本との決定的な違いが存在します。モンゴル憲法は、「国家はいかなる形態の公有財産および私有財産も承認する」と規定していますが、不動産(土地)の所有権はモンゴル国民の成人市民に限定されています。外国人および非居住投資家は、建物(structure)を所有し、土地の利用権(use rights)を取得することはできますが、土地そのものを所有することはできません。建物の所有権は、その建物が建つ土地の利用権を所有者に付与します。

この制限は、日本企業がモンゴルで事業を行う際に重大な影響を及ぼす可能性があるものです。例えば、土地を担保とした融資や、土地の価値上昇を期待する投資モデルは適用できません。その代わりに、長期リース契約や利用権の確保が事業の基盤となります。特に製造業、農業、大規模小売業など、広大な土地を必要とする事業では、利用権の期間、更新条件、そして利用権の法的安定性を確認することが不可欠です。

また、不動産(建物や土地)の登記制度は確立されていますが、利用権に関する中央登録制度が不足しており、特に地方での投資においては、競合する利用権の有無を容易に確認できないという課題もあります。登録制度の未整備は、利用権の法的確実性を低下させ、同一土地に対する複数の権利主張や紛争のリスクを高めるため、契約交渉段階での詳細な法的デューデリジェンスと、紛争発生時の対応策(契約上の明確化、仲裁条項の導入など)の検討が不可欠となります。

関連記事:モンゴル国における外国人による不動産利用と土地法

モンゴルの民法(契約法・不動産法)の主要な特徴

民法(契約法・不動産法)の主要な特徴

モンゴルの民法は、契約の自由、財産権の保護、および債務不履行に関する規定を包括的に定めており、日本の民法と共通する多くの原則を有しています。

モンゴル民法典の第1部には、人の法的地位と能力、取引に関する一般規定が含まれており、第4部では契約責任、第5部では不法行為責任(人身損害、労働能力喪失に対する損害賠償など)が規定されています。契約の基本原則、債務の履行、債務不履行時の罰金やその他の救済措置、消費者権利に関する規定が含まれています。

不動産法と財産権に関しては、民法典の第2部で扱われ、知的財産、土地所有権、公有財産が含まれます。モンゴル市民には私有財産権が保証されています(民法典第140条)。しかし、前述の通り、モンゴル憲法により土地所有権はモンゴル国民に限定されており、外国人は建物所有と土地利用権のみを取得できます。建物の所有権は、その建物が建つ土地の利用権を所有者に付与します。この外国人による土地直接所有の禁止は、日本法との最も根本的な違いです。

担保権に関しては、債権者は、担保として提供された財産を差し押さえ、処分することで債務を回収することがモンゴル法で認められています。不動産、固定された建物、その他の不動産を担保とする抵当権やその他の債務証書は、知的財産・国家登録総局(GAIPSR)の不動産登記局に登録が義務付けられています。さらに、2017年3月からは、動産(自動車、設備、家畜、売掛金など)もGAIPSRに担保として登録できるようになりました。この動産担保登記制度の導入は、企業が不動産以外の資産を担保として活用し、資金調達の選択肢を広げることを可能にします。特に、土地所有が制限される外国人投資家にとっては、事業に必要な設備投資などの資金調達において、より柔軟な担保設定が可能となるため、重要な進展です。

モンゴルにおける広告規制と消費者保護

モンゴルの広告法は、広告の真正性、明確性、倫理性を重視し、不当な広告や消費者を誤解させる広告を厳しく規制しています。日本の景品表示法(景表法)における不当表示規制と共通する部分が多いですが、モンゴル独自の禁止事項も存在します。

モンゴル広告法(Law on Advertisement)の目的は、モンゴル領内での広告の制作、配置、普及、管理に関する関係を規制し、公正な競争を阻害し、消費者を混乱させ、誤解させ、その利益を害する可能性のある広告を禁止することです。広告は、その内容、形式、普及手段に関わらず、真正であり、アクセス可能で、広告として明確に認識できるものでなければなりません。統計データ、研究結果、文書を使用する場合は、関連する情報源を明記する必要があります。

禁止される活動には、ライセンスが必要な活動について、ライセンスなしで広告すること、製造、取引、輸入がモンゴル法で禁止されている製品の広告、必須の標準、品質、衛生認証を受けていない製品の広告、市民を暴力やポルノに扇動したり、人命、健康、安全に危険をもたらす可能性のある広告などが含まれます。

不法広告は、不当広告、非真正広告、非倫理的広告、サブリミナル広告に分類されます(広告法第7条)。不当広告には、他者の製品を模倣した自社製品の広告、他者の名誉、功績、事業上の評判を傷つける広告、消費者の知識不足や経験不足、信頼性を利用して誤解させる広告などが含まれます。非真正広告は、製品の目的、組成、製造方法、特性、品質保証、数量、原産地などについて消費者を誤解させる広告であり、広告掲載時の製品価格や追加支払い条件、アフターサービス条件に関する誤解を招く表示も含まれます。非倫理的広告には、他者の製品を貶める広告、モンゴルや他国の国家象徴、歴史上の有名人、通貨、宗教を中傷する広告、特別国家機関の象徴や制服を誤用する広告、国籍、言語、人種、出自、社会的地位、年齢、性別、職業、教育、宗教、信条を侮辱する表現や比較を使用する広告などが含まれます。サブリミナル広告は、消費者の無意識に影響を与える広告です。

メディア別の広告規制も存在します。インターネット広告では、事前の許可なく他者が所有するインターネットサイトに広告を掲載することは禁止されています。広告には、広告普及者の名称、住所、連絡先電話番号、その他消費者が連絡を取るために必要な情報を含める必要があります。サイトへのアクセスに特別な支払いが必要な場合は、消費者がサイトにアクセスする前にその旨を明示しなければなりません。テレビ・ラジオ広告では、劇映画、ドキュメンタリー、ラジオドラマ中の広告には、著者または著作権者の許可が必要です。子供向け番組中には子供向け広告のみが許可され、通常のニュース番組中の広告は禁止されています。

日本企業がモンゴルでデジタルマーケティング戦略を立てる際には、日本の慣行とは異なるこれらの規制を理解する必要があります。特に、インフルエンサーマーケティングやアフィリエイト広告、SNS広告など、第三者のプラットフォームを利用した広告活動は、モンゴル広告法の「事前の許可なく他者サイトに掲載禁止」の規定に抵触する可能性があります。

モンゴルの個人情報保護法

モンゴルでは、2022年5月1日に施行された個人情報保護法(Law of Mongolia on Personal Data Protection)により、個人データの収集、処理、利用、セキュリティに関する包括的な法的枠組みが確立されました。これは、日本の個人情報保護法と比較しても、国際的なデータ保護のトレンドに沿った現代的な法律と言えます。

モンゴル個人情報保護法は、データを主に「個人データ(Personal Data)」と「機微な個人データ(Sensitive Personal Data)」の2つのカテゴリーに分類しています。個人データには、氏名、生年月日、住所、位置情報、市民登録番号、財産、学歴、オンライン識別子、その他直接的または間接的に個人を特定できる情報が含まれます。機微な個人データは、民族、人種、宗教、信条、健康、通信、遺伝子、生体認証データ、電子署名の個人キー、犯罪歴、性的指向、性的関係に関するデータなど、個人のプライバシーに関わる情報と定義されています。日本の個人情報保護法における「個人情報」と「要配慮個人情報」の区分と概念的に類似していますが、モンゴル法では、電子署名の個人キーが機微な個人データに含まれる点が特徴的です。

個人データおよび機微な個人データの収集、処理、利用は、原則としてデータ所有者(Data Owner)の許可(同意)が必要です。同意は、書面または電子形式で、明確な目的、データ管理者の情報、収集されるデータのリスト、処理・利用期間、公開の有無、他者への移転の有無、同意撤回方法などを提示された上で、自由に与えられ、情報に基づいたものでなければなりません。未成年者の場合は、法定代理人の同意が必要です。

同意が不要となる例外も存在します。国家機関の場合、法律で許可されている場合、契約上の義務の履行、雇用関係における権利義務の行使、モンゴルが締約国である国際条約の義務履行、法的権限に基づく執行措置などが挙げられます。法人およびその他の者(国家機関以外)の場合では、法律で許可されている場合、契約上の義務の履行、雇用関係における権利義務の行使、データが合法的に公開されている場合、データ所有者の匿名性を維持しつつ歴史的・科学的・芸術的・文学的作品を作成する場合などが該当します。

機微な個人データについては、原則として収集・処理が禁止されていますが、データ所有者の許可がある場合や、保健医療従事者が個人の健康保護のために職務を遂行する場合などが例外として認められています。遺伝子・生体認証データは、特定の国家機関が市民登録、国境警備、犯罪対策などの目的で法律に従ってのみ収集・利用できます。雇用主は、従業員の同意があれば、勤怠管理やアクセス制御などの内部労働手続きのために生体認証データを使用できますが、目的外利用は禁止されています。データ所有者が死亡した場合のデータ処理には、原則として後継者、家族、または法定代理人の書面による許可が必要です。

データ管理者は、個人データの収集、処理、利用活動、および個人データに発生した損害への対応記録を保持する義務があります。情報セキュリティを維持するための内部規則・規制を策定し、情報セキュリティ担当部署または担当者を配置しなければなりません。データ侵害が発生した場合は、データ所有者および関連する国家機関に直ちに通知し、被害を軽減するための措置を講じる義務があります。

モンゴルの薬機法と医療広告ガイドライン

モンゴルでは、2024年10月1日に施行された改正医薬品・医療機器法(Law on Medicines and Medical Devices, LMMD)により、医薬品および医療機器の価格規制、広告規制、プロモーション活動に関する規定が大幅に強化されました。これは、日本の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)および医療広告ガイドラインと類似の目的を持つものですが、より詳細な規制が導入されています。

改正LMMDは、医薬品および医療機器の価格上昇を制限し、価格透明性を確保するための新たな規制を導入しました。保健大臣と財務大臣は共同命令により、必須医薬品および医療機器の最大価格上昇率を設定する義務があります。卸売および小売価格の両方で最大上昇率が規制され、正当な理由のない価格上昇は禁止されます。供給業者は、最小測定単位、基本価格、卸売価格、小売価格を統一された電子情報システムにアップロードすることが義務付けられ、薬局は小売価格を一般に透明かつアクセス可能にする必要があります。この価格規制は、国民の医療アクセスを確保し、医薬品・医療機器の価格高騰を抑制することで、医療費負担を軽減し、公衆衛生を保護することを目的としていると考えられます。

LMMDは、医薬品・医療機器の広告に関する一般原則を拡大し、要件と禁止事項を詳細に規定しています。広告を普及させる前に、医薬品および生物活性添加物自体がモンゴルで登録されている必要があり、かつ広告に対する正規の許可(permit)を取得しなければなりません。許可は1年間有効で、延長申請は期限の1ヶ月前までに行う必要があります。許可を受けた製造業者および供給業者のみが、医薬品・医療機器規制当局が発行した許可の範囲内で広告できます。広告は、視覚障害者向けに音声説明、聴覚障害者向けに手話または書面による説明を含める必要があります。

主な禁止事項としては、許可なく一般向けに医薬品を広告すること、医療専門家が医薬品を広告すること、麻薬および向精神薬の広告、不適切、非現実的、非倫理的、または隠蔽された方法での広告、未登録の医薬品、医療機器、健康補助食品のプロモーション、健康補助食品を診断または治療効果があるかのように広告し、一般を誤解させること、ソーシャルメディアやテレビ、ラジオ、看板、専門誌、公式サイト以外の手段による広告などが挙げられます。さらに、医療専門家をマルチレベルマーケティング事業に関与させたり、インセンティブや教育クレジットを提供したりすること、医療専門家が贈り物、寄付、インセンティブ、または国内・国際研修への参加などの支援を受けることも禁止されています。

モンゴルの税法の特徴と優遇措置

モンゴルの税法は、比較的低い税率と多様な優遇措置を特徴としており、外国直接投資を誘致するための重要な要素となっています。2019年の大規模な税制改革(2020年1月1日施行)により、税率の引き下げ、税額控除の範囲拡大、納税者登録、税額査定、納税義務、税申告、免除・減額、還付、報告などの標準化が行われました。優遇政策の例としては、農業・畜産関連製品(肥料、種子、農薬、獣医薬など)の輸入関税の免除・減額、法人所得税の累進税率の閾値が30億トゥグルグから60億トゥグルグへの引き上げ、個人所得税における銀行ローン利息、不動産購入、教育、医療費に関連する費用の控除対象化、医療、科学技術、文化、越境貿易などの分野におけるVATの減額または免除などが含まれます。

モンゴルの労働法の最新動向と雇用関係

モンゴルでは、2022年に新たな労働法が施行され、1990年代初頭の市場経済移行期に制定された旧法を置き換えました。

新労働法は、労働者の権利保護、雇用主と従業員の義務と責任の明確化、職場における健康と安全の促進を目的としています。旧法ではカバーされていなかった非定型雇用(パートタイム、リモートワーク、在宅勤務)に関する労働者の権利と労働条件を定義し、すべての形態の労働が平等に扱われるべきであるという原則を導入しました。例えば、在宅勤務者は、雇用主の職場で働くフルタイム従業員と同じ労働権にアクセスできると規定されています。

雇用契約には、有期契約(最長5年)と無期契約があります。契約には、職務名、職務内容、給与、労働時間、休暇、解雇条件などを明記する必要があります。契約はモンゴル語で作成され、給与および金銭はモンゴル・トゥグルグ(MNT)で表示されなければなりません。モンゴル語での作成義務や通貨指定は、外国企業にとっては翻訳や換算の手間が生じる点で留意が必要です。

労働時間と休暇制度に関しては、標準労働時間は週40時間、1日8時間です。休息日と休憩は、週に2日の連続した休息日(通常は土日)があります。年次有給休暇は、勤続年数に応じて、初めの6年間は年間15日、32年以上で28日まで増加します。祝日は年間15日です。特別休暇として、病気休暇は無制限とされています。産前産後休暇は120日(産前60日、産後60日)です。育児休暇(Paternity leave)は新法で導入され、父親にも少なくとも10労働日の有給休暇が与えられます。また、3歳未満の子供を持つ母親またはシングルファーザーからの要求があれば、雇用主は育児のための親休暇を付与する必要があります。

関連記事:モンゴル国の労働法と外国人雇用に関わる労働移動法

AIおよびオープンソースソフトウェア関連法分野

AIおよびオープンソースソフトウェア関連法分野

モンゴル政府は、AIを国家計画に組み込むための積極的な動きを見せています。2024年には、デジタル開発・イノベーション・通信省(MDDIC)が国連開発計画(UNDP)と協力し、国家AI戦略を開始しました。この戦略は、教育、インフラ、倫理的ガバナンスに焦点を当てることで、モンゴルを地域的なAIリーダーとして位置づけることを目指しています。戦略の重要な部分として、2025年までに教師の25%をデジタルリテラシーで訓練し、地元のAI人材を育成するためのコーディングブートキャンプを展開する目標が掲げられています。

また、オープンソースソフトウェア(OSS)の概念は、モンゴルで「サクラプロジェクト」の枠組みの中で採用されており、教育分野におけるOSSの効率性に関する研究が行われています。OSSは、開発途上国において、スキル向上プラットフォーム、コスト削減、地域ニーズへの適応性という点で大きな利点があると認識されています。モンゴルは、オープンガバナンスパートナーシップ(OGP)の一員として、政府の透明性を高めるための国家行動計画(NAP)を策定しており、これには情報透明性の法的枠組みの改善や、抽出産業における統合データベースの構築と国家オープンデータベースへの連携などが含まれています。これは、政府活動の電子化と透明性の確保を目指すものであり、OSSの活用とも関連する可能性があります。

まとめ

モンゴルは、その戦略的な地理的優位性と豊かな天然資源を背景に、外国直接投資を積極的に誘致し、経済の多角化と持続可能な成長を目指す「Vision 2050」の下、ダイナミックな発展を遂げています。

会社設立においては、公開会社と有限責任会社という二つの形態が提供されており、事業規模や資金調達のニーズに応じて柔軟な選択が可能です。日本の経営者や法務部員は、自社の事業特性に最も適した法的形態を慎重に検討し、設立手続きにおける「開始貸借対照表」の提出など、日本とは異なる要件に留意する必要があります。

海外資本からの投資保護は法的に保証されていますが、土地所有権に関する制限は、日本企業にとって最も重要な相違点です。外国人が土地を直接所有できないため、長期リース契約や土地利用権の確保が事業の基盤となります。しかし、利用権の登録制度が未整備であるため、事業用地の確保に際しては、広範な法的デューデリジェンスと、契約における詳細なリスクヘッジ条項の導入が不可欠です。一方で、安定化証明書による税率安定保証や、特定の産業への税制優遇措置、動産担保登記制度の導入は、投資家にとっての魅力的なインセンティブとなり得ます。

個人情報保護法は、国際的なデータ保護のトレンドに沿った包括的な枠組みを提供し、特に「機微な個人データ」に対して高い保護レベルを要求しています。厳格な同意要件、データ管理者の広範な義務、そしてデータ侵害時の通知義務は、日本企業がモンゴルで顧客データや従業員データを扱う際に、現地のコンプライアンス体制を日本の基準以上に強化する必要があることを意味します。税法は、中小企業向けの非常に低い法人税率や、繰越欠損金、加速償却などの優遇措置を提供し、特定の産業への投資を奨励しています。これは、初期段階の事業コスト削減に大きく寄与する可能性がありますが、事業成長に伴う税負担の変化を予測し、長期的な税務戦略を立てることが重要です。労働法は、2022年の改正により、非定型雇用形態の労働者の権利を明確化し、父親の有給育児休暇を導入するなど、国際的な労働基準への適合を進めています。

関連取扱分野:国際法務・海外事業

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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