シンガポールでの法人設立の手順は?メリットや費用も合わせて解説
シンガポールは諸外国の企業が法人を立ち上げやすい場所として有名な国となっています。現在では約7,000社の外国企業がシンガポールに法人を置くほどです。
理由として、東南アジアの拠点として各地にアクセスが容易であるという地理的メリットや、企業への優遇制度、法人設立時の規制の少なさなどが挙げられます。また、政治やインフラが安定していることも強みの一つでしょう。
本記事では、シンガポールで会社を設立する方法について詳しく解説していきます。
この記事の目次
シンガポールで法人を設立する方法
シンガポールに進出するには、主に以下の4つの方法があります。目的に合った進出方法を選択すれば、無理のないスムーズなビジネスを展開できるでしょう。
独立した現地法人を設立する
シンガポールでの現地法人の設立について、日本本社とは別に、シンガポールで独立した会社を立ち上げる最大のメリットとして、世界でトップクラスの低い税率の恩恵を受けられることが挙げられます。シンガポールの法人税率は17%となっており、日本の法人税の35%と比較するとほぼ半分であり、課税所得の減免処置も含めるとさらにその差は大きなものとなります。
ただし、シンガポールで税制の優遇を受けるには、シンガポール法人として税務上認められることが必須であり、登録のための要件をクリアする必要があります。
シンガポール法人から日本法人への送金が発生した場合は、日本側の税制(移転価格税制やタックスヘイブン税制)が適用されるため、注意が必要です。
現地法人の設立方法として、まずは株式を公開するか否かのどちらかを選びましょう。
株式を公開する場合、資金調達の公募を行うことができますが、株主が50人以上である必要があります。一方で、株式を公開しない場合は、株主数に制約がない反面、株式の譲渡や売買に制限があります。
このように現地法人の設立には気をつけるべき点も多数存在しますが、他のアジア諸国と比較すると、法人設立の手続きに関しては比較的容易であり、手続きのすべてを英語のみで完結することができることも大きな魅力です。
日本法人の支店を設置する
シンガポールで現地法人を設立する以外にも、日本法人としてシンガポールに支店を設置することも可能です。このケースでは、シンガポールでは独立した法人格を持たずに外国法人として存在することになりますが、経済活動は現地法人と同様に実施できます。
現地法人との大きな違いは、税制面についてです。
シンガポール支店は本社(日本法人)と同一法人格とみなされるため、本社が日本において税務申告を行います。この場合には、シンガポールでの優遇税制を受けられない場合があるので注意が必要です。それに加え、支店単体での税務申告も必要となるので、現地法人と比べてさまざまな手続きがあるのもデメリットといえるでしょう。
メリットとしては、本社(日本法人)と同一であるため現地法人と比べ資金移動が容易であり、損益の合算や相殺が可能であることから、一つの法人として全体の判断がしやすいことなどが挙げられます。
支店として進出してから状況を見て現地法人へ移行するパターンもありえますが、この場合は登記や契約関係を移管するのに相応の手間と費用がかかるでしょう。
現地法人の前段階として駐在員事務所を設置する
駐在員事務所とは、日本法人が市場調査や宣伝活動のために現地に設置する拠点を指します。
設置の際には、法人登記などの法的手続きは不要です。メリットとして、現地法人や支店を設立することと比較すると小さいコストで設置できる点があります。
一方で、駐在員事務所では現地法人や支店とは異なり、営業や販売といった経済活動を行うことはできません。銀行口座の開設についても同様です。
シンガポールに駐在員事務所を設立するには、本社が下記の条件を満たしていなければなりません。
- 本社設立から3年以上であること
- 本社売上が25万米ドル以上であること
- 派遣する駐在員が5人未満であること
駐在員事務所はあくまでも事前の調査のための機関であり、進出先の適否について判断するために置くものですが、場合によっては現地法人を設立する際の前段階としては有用な手段ともいえるでしょう。
パートナーシップ連携
シンガポールへの進出方法として、パートナーシップ連携という方法もあります。
パートナーシップとは、2名以上(20名未満※例外あり)の個人または法人によって登録された業態を指し、パートナーシップには次の3つの種類があります。
- 「パートナーシップ(Partnership)」
- 「有限パートナーシップ(Limited Partnership:LP)」
- 「有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership: LLP)」
パートナーシップ | 有限パートナーシップ(LP) | 有限責任パートナーシップ(LLP) | |
所有者 | 2名以上のパートナー ※20名未満 | 2名以上のパートナー ※上限人数なし | 2名以上のパートナー ※上限人数なし |
法人格 | なし(オーナーは無限責任を負う) | なし(無限責任パートナーは無限責任を負う) | 独立した法人格を有する(オーナーは有限責任を負う) |
設立条件 | 最低2名の18歳以上のシンガポール国民、又は永住者。 オーナーが該当しない場合は現地人マネージャーが必要。 | 最低1名ずつの無限責任パートナーと有限責任パートナーが必要。 18歳以上の個人、又は法人(別LLPでも可)。 無限責任パートナーにシンガポール国民がいない場合は現地人マネージャーが必要。 | 最低2名の18歳以上の個人、又は法人(別LLPでも可)。 その中で最低1名はシンガポール居住者であること。 |
税務・課税 | それぞれのパートナーによる課税 | それぞれのパートナーによる課税 | それぞれのパートナーによる課税 |
パートナーシップ(Partnership)は個人で構成される組織形態であるため、独立した法人格を待たず、個人事業主と同じように各パートナーが無限責任を負うことになります。税制についても個人事業主と同様で、各々の個人所得税として課税されます。
有限パートナーシップ(Limited Partnership: LP)もパートナーシップと同様に法人格を認められてはいませんが、メンバーの中に少なくとも1名の有限責任パートナーが必要である点がパートナーシップとは大きく異なる点です。また有限責任パートナーシップ(LLP)は、個人に限らず法人や他のLLPでもメンバーになることが可能です。税制についても同様に各々に適用されますが、個人パートナーの所得には個人所得税として課税、法人パートナーには法人所得税として課税されます。
有限責任パートナーシップ(LLP)の特徴としては、パートナーシップ自体に独立した法人格が認められる点です。そのためLLPは法人として財産を所有することもでき、業務上の損失や債務などの責任もLLPの組織として負うこととなりますので、各パートナーへの責任の発生はなく、LPに比べ、より会社に近い存在といえます。
日本企業がパートナーシップ連携でシンガポールに進出するのは、利点は少ないですが、特にLLPに関しては現地法人に比べて設立手続きが簡単である点、コストが安い点などの理由で、会計事務所や法律事務所がこの形態を使用するケースがあります。
シンガポールにおける法人設立の手順
シンガポールで法人を設立するための手順について詳しく解説していきます。書類の作成方法から登録申請、銀行口座の開設、その費用まで順を追って説明いたしますので参考にしてください。
法人設立のための事前準備
シンガポールで会社を設立するためには、下記を決める必要があります。
株主 | 1名以上(国籍、居住地問わず) |
取締役 | 1名以上(1名は18歳以上のシンガポール居住者であること) |
会社秘書役 | 1名(居住者であること) |
会社名
独立法人の場合は自由に決めることができますが、支店の場合は本社と同じ称号を使用しなければなりません。
会社の事業内容
シンガポール法人の主な事業内容について定める必要があります。登記謄本に記載する事業内容を決定したら、産業種別コード(SSIC)を選択します。
産業種別コード(SSIC)は事業内容に最も近いものを選びましょう。迷った場合は専門家に相談するのが間違いありませんが、SSICは手続きをすれば後日変更することも可能です。一部の業種については設立後、別の許可を申請しなければならないのでご注意ください。
別途ライセンスが必要な事業例としては、金融・保険業、教育業、医療・介護業、食料品製造業、宿泊業・観光業 などがあります。
登記上の住所
シンガポール法人の所在地については、事前に確保しておく必要があります。シンガポールに住所がない場合は、年間登記住所貸与サービスなどを利用しましょう。
資本金
日本で起業する場合と同様に、資本金についても設定が必要です。最低1シンガポールドル以上となっています。
株主(発起人)
株主については、国籍、居住地を問いません。また、個人法人の制限もありません。
取締役
取締役については注意が必要です。少なくとも1名は18歳以上のシンガポール在住者である必要があります。
会社秘書
シンガポールで法人を設立する際の特徴として、会社秘書役の設置があります。これは日本では馴染みの薄い制度なので忘れがちですが、議事録や法定書類を作成するために重要な役職です。
決算日
決算日についても決定しておく必要があります。
法人設立のための書類の作成
大まかな会社の概要を決めた後は、実際の書類作成に入ります。会社登記のためには、下記の書類が必要です。
定款
会社の原則である定款を作成しましょう。定款には主に以下の内容を記載します。
- 資本金額
- 株主
- 取締役
- 会社秘書役
- 本店所在地
- 業務内容
取締役宣言誓書(Form45)
取締役に就任するための要件を満たしていることを宣言する書類で、各取締役が署名をしてください。要件には年齢や犯罪歴がないことなどを記載します。
その他の必要書類
各書類は英訳されている必要があります。
個人が株主の場合
- 株主のパスポート(コピー可)
- 住所を証明する書類
法人が株主の場合
- 親会社の履歴事項全部証明書
- 親会社の株主構成を確認できる書類
- 親会社の個人株主(25%以上所有する個人)のパスポート(コピー可)
- 親会社の定款
- 住所を証明する書類
法人設立の登録申請・承認
上記の書類が完成したら、シンガポール会計企業規制庁(ACRA)に会社名予約申請を行ってください。
参考:ACRA (Accounting & Corporate Regulatory Authority)
登録時には手数料15シンガポールドルを支払います。予約は60日間有効となっており、超過する場合には10シンガポールドルを支払い予約の延長も可能です。
会社名の登録後、同じくシンガポール会計企業規制庁(ACRA)に会社登記申請をします。こちらも許可がされると、登記に手数料300シンガポールドルを支払います。
すべての手続きが完了すると、登記簿謄本(Biz File)が発行されますので、これで会社の登記は完了です。
会社登記の次は銀行口座の開設に移りますが、法人銀行口座開設時には決算月や法人銀行口座を決定した内容が記載された議事録の提出が必要になる場合もあるため、取締役会を開き対応しておきましょう。
また、最初の年次株主総会についても設立日から18ヶ月以内に開催する必要もあるのでしっかりと計画を立てておいてください。
法人名義の銀行口座の開設
法人の設立後には銀行口座を開設しましょう。シンガポールでの法人銀行口座開設には、一般的には以下の書類が必要です。
- 銀行口座開設のための申込書
- 会社登記情報(コピー可)
- 定款(コピー可)
- 取締役の身分証明書(原本とコピー)
- 取締役の住所証明(原本とコピー)
- 銀行口座開設の承認を取った取締役会議事録
ただし、銀行によっては必要な書類や提出資料が異なる場合がありますので、事前に開設予定の銀行に確認しておくことをおすすめします。
口座開設が無事終わった後は、資本金を入金してください。
現地スタッフのための就労ビザの取得
法人設立や法人銀行口座の開設など一通りの準備が終わったら、次は現地で働く日本人社員の就労ビザの取得です。
シンガポールでの就労ビザには主に「EPパス」と「Sパス」という2種類のパスがあります。
EPパス(エンプロイメントパス)は取得が難しい反面制限がなく、Sパス(正式名称もSパス)は取得が容易な代わりに1社で採用できる人数に制限があるという違いがあり、適用する人材にも違いがあるため使い分けが必要です。
EPパス
正式名称はEmployment Pass(エンプロイメントパス)。主に専門職や管理職、経営者人材がシンガポールで働く場合に取得する就労ビザです。
申請条件
- 5,000ドル以上の月額固定給(金融業界では5,500ドル以上)
- 十分な学歴を持っていること(大卒以上)
- 専門性が高いポジションや幹部クラスであること
など。
パスの有効期限は初取得時は最長2年、更新の場合は最長3年となります。
参考:Government of Singapore|Employment Pass
Sパス
正式名称はSパスです。主に管理者ではない中技能熟練労働者に対しての就労ビザとなります。
申請条件
- 3,150ドル以上の月額固定給(金融業界の場合は、3,650ドル以上)※2024年現在
- ただし、年齢や学歴によって最低月額固定給は異なる場合がある
- 大学もしくは短期大学を卒業、専門学校の場合は1年以上のフルタイムの学校を卒業していること
※2025年9月1日以降の新規申請の場合には3,300ドル以上の月額固定給(金融業界の場合 は、3,800 ドル以上)へと変更予定です。
など
参考:Govement of Singapore|S Pass
法人設立にかかる費用
執筆時点(2024年3月)では、一般的にシンガポールで法人を設立する際に必要な主な費用は以下の通りとなっています(会社の種類や業種によりこれ以外にも費用がかかる場合があります)。
会社設立時
会社名の登録申請 | 15シンガポールドル |
設立申請費用 | 300シンガポールドル |
最低資本金 | 1シンガポールドル (ただし、会社設立後に就労ビザを取得する場合は、一般的に10万シンガポールドル以上が望ましい) |
参考:ACRA (Accounting & Corporate Regulatory Authority)|Setting Up a Local Company
ビザ取得費用
申請手数料 | 有効化手数料 | |
Employment Pass(EP) | 105シンガポールドル | 255シンガポールドル |
S Pass | 60シンガポールドル | 100シンガポールドル |
その他にもオフィスを借りる場合は賃料が発生したり、設立やビザ取得の手続きなどに際して専門家やコンサルタントに依頼する場合には、別途その報酬が発生しますので、想定しておきましょう。
シンガポールに法人を設立するメリット
シンガポールで法人を設立する主なメリットについて解説します。
シンガポールと日本の税率の違い
冒頭でも説明した通り、シンガポールの魅力は低い税率にあります。日本の法人法人税率が37%であるのに対し、シンガポールの法人税率は半分の17%です。
シンガポールでは国策として、自国を発展させるために様々な企業への減税処置や優遇税制度も積極的に行っているため、実質税率は10%を下回るともいわれています。他の先進国と比べても確実に低い税率設定となっており、多くの多国籍企業がシンガポールに進出している理由であるといえるでしょう。
インフラが整っている
シンガポールのインフラはアジアのみならず、世界でも最高水準との呼び声が高いです。水道などの生活インフラを始め、公共交通の発達から渋滞もほとんど起こらず、インターネット環境も充実しており、ビジネスにはうってつけの場となっています。
また、政府自体が国家をアジアのハブと考えており、各国からの入り口であるチャンギ国際空港からシンガポールビジネスの中心地であるラッフルズ・プレイスまでも約20kmの距離です。シンガポールを中心として、他のアジア諸国やインド、オセアニアなどにビジネスを広げていくことも視野に入るでしょう。
外国企業の招聘に友好的
世界中を見渡しても、シンガポールほど海外からの企業進出に対して優しい国はなかなか存在しません。多くの諸外国では自国企業優先の政策が整っており、100%海外資本企業の進出を許容しない場合も多々見受けられます。
それではなぜ、シンガポールは外国企業の進出をこれだけ許容しているのでしょう。
それはシンガポールのマーケットの狭さにあります。シンガポールは小さな資源を持たない国であり、外部からの資金の流入が絶対的に必要な国家だからです。世界中の国々の中でシンガポールが豊かに存続していくためには、海外から有力な企業が入ってくる必要があるのです。
さらに、シンガポールでは多様な文化が共存しており、英語を公用語として採用している点でも、国際的なビジネスの場として多国籍企業には適した環境となっています。
シンガポールと外国企業、お互いが共存共生できる環境であることが、シンガポール最大の特徴であり強みとなっているのです。
まとめ:シンガポールでの法人設立は専門家に相談を
シンガポールは海外からも進出しやすく、多国籍企業にとっては押さえておくべき国だということがわかりました。事前のプランやコストを考慮した上で、どのようなビジネスを展開していくかがシンガポールビジネス成功の鍵となるでしょう。
本記事ではシンガポール法人設立のための情報を詳しく網羅してきましたが、それでもケース・バイ・ケースであり、思わぬ落とし穴が存在するかもしれません。
どのような状況にも臨機応変に対応するには、シンガポールへの理解を深めるとともに、同時に知見を持った専門家への相談をお勧めします。
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