インターネット広告代理店の契約書におけるチェックポイントとは
電通が2019年2月に公表した調査結果によれば、日本の2018 年の総広告費のうち、インターネット広告費は、全体の26.9%となる1兆7,589億円を占めていたとのことです。広告主からするとインターネット広告は少額で始められることに加え、ターゲットを絞った効率的な広告運用が可能であることから、利用している広告主は年々増えています。
そこで、インターネット広告代理店が広告主と締結する契約書のポイントについて解説します。
この記事の目次
インターネット広告代理店についての解説
インターネット広告とは
インターネット広告とは、その名のとおりインターネット上に掲載される広告です。リスティング広告(検索連動型広告)のように検索エンジンの検索結果一覧に優先的に表示される広告が代表的なものですが、この他にもWEBサイト上の広告枠に表示されるディスプレイ広告もあります。リスティング広告については、下記記事にて詳細に解説しています。
インターネット広告は、テレビ広告や雑誌広告などの従来型の広告と異なり少額の予算で始めることができます。また、より重要なこととしてインターネット広告では検索エンジンなどが収集しているインターネット閲覧者の属性や検索履歴などを利用してより広告効果の高いユーザーに対してのみ広告を表示させることができます。このような細かいターゲティングが可能であることはインターネット広告特有のメリットといえるでしょう。
なお、健康食品の広告に関する規制については、下記記事にて詳細に解説しています。
インターネット広告代理店の役割
広告主がインターネット広告を出稿する場合、リスティング広告であれば検索エンジン側に広告掲載を依頼することになります。また、WEBサイト上の広告枠に出向するディスプレイ広告の場合には、広告枠をWEBサイトから買い取っている一次代理店のメディアレップに対して出稿を依頼することになります。
このとき、広告主と検索エンジンやメディアレップの間に介在して両者の調整をはかるのがインターネット広告代理店です。具体的には、広告代理店は広告主から広告の内容やターゲット、広告により目標とする成果などをヒアリングし、広告主の意向に沿うように条件を設定して検索エンジンやメディアレップに対して出稿を行います。
検索エンジンやメディアレップは基本的には、この条件指定に基づいて機械的に出稿を行いますので、条件を指定する広告代理店がインターネット広告の出稿に関する専門知識を持っていることが広告主にとって何より重要なことです。
なお、企業がインターネット広告など運用する場合、自社で行うことも選択肢となります。これを、「インハウス」などと呼ぶことがあります。ただし、自社で運用する場合には専門性や人員規模などの点で広告代理店に劣ることが多いことに加え、多くの企業ではインターネット広告の運用担当者の数が多くないため、担当者が退職したような場合に運用が頓挫するリスクも高いといえます。
裏を返せば、インターネット広告に関する専門性のある十分な人員を確保できる点に広告代理店が介在する意味があるといえます。
インターネット広告代理店の契約における重要ポイント
インターネット広告代理店が広告主から広告運用の依頼を受ける際には契約書を作成します。この契約書においてポイントとなる条項を解説します。以下で挙げる条項案においては、「甲」が広告主、「乙」が代理店です。なお、業務委託契約一般については、下記記事にて詳細に解説しています。
業務内容に関する条項
第〇条(業務内容)
甲は乙に対し、以下の各号の業務のうち別紙で定めるものを委託し、乙はこれを受託する。
(1)広告出稿にかかる初期作業(キーワードの選定等)
(2)広告出稿代行、運用業務(キーワードの追加や削除、見直し等)
(3)予算や出稿先変更等の相談等
(4)その他広告出稿および運用に必要な事項
広告代理店が広告主と締結する契約においてもっとも重要なのが、広告代理店が受託する業務内容を定める条項です。もっとも、業務内容の細目に関しては契約書本体で定めるのではなく契約書に添付する別紙に記載する扱いが一般的といえます。
広告費の支払いに関する条項
第〇条(広告費)
1.甲は乙に対し、翌月末日までに、前項に基づき報告を受け確定した当月分の運用額を乙が別途指定した銀行口座へ支払う。
2.乙は、前項に定める運用額が〇円以上となるように運用する。
広告主が広告代理店に運用を委託する広告費に関する条項です。
運用する広告費については、広告代理店が立て替えて広告媒体に支払ったうえで、後から広告主が代理店に立て替え分を支払う方法と、先に広告主が広告代理店に広告費を支払う方法の2つがあります。前者の広告代理店が立て替え払いをする方法が比較的よくみられますので、上の条項案の第1項はこの場合を想定したものとなっています。
ただし、小規模の広告代理店などで広告費の立て替え払いをする資金的余裕がないようなケースでは広告主に先に支払いをお願いする必要があります。この点は、広告主と広告代理店の交渉次第ですので契約締結前に十分に確認しておきましょう。
また、後で説明するように運用額の一定割合を広告代理店が受け取る報酬とする場合には、運用額があまりに低額だと赤字となるリスクがあります。したがって、広告代理店としては広告予算の最低額の設定も検討する必要があります。上の条項案は第2項において、運用額の最低額を定めています。
代理店への報酬支払いに関する条項
第〇条(報酬)
甲は乙に対し、翌月〇日までに、業務遂行の対価として当月中の運用額の20%に相当する額(税別)を支払う。
広告代理店が広告主から受け取る報酬に関する条項は重要です。
報酬の定め方には、条項案のように運用する広告費に対する一定割合とする方法のほか、運用額に関わらず定額とする方法もあります。また、目標コンバージョン単価にコンバージョン数を掛け合わせたものを報酬とするような成功報酬制もあり得るところです。
広告主への報告に関する条項
第〇条(報告)
乙は甲に対し、翌月〇日までに、当月分の業務の履行状況について書面または電子メールにより報告する。
広告代理店は広告主に対し、リスティング広告等の運用によってどのような成果が出たかを定期的に報告する義務が定められることが通常です。
報告の方法や頻度については、広告主と広告代理店が合意している限り自由に定めることができます。ただし、広告代理店としては報酬の少ない広告主に対する報告は月1回程度にとどめ、報告方法も訪問ではなく電話やメールによるとすることも多いでしょう。
反対に、多額の報酬を得る場合には広告主とのトラブル回避のためにも報告頻度を増やし、対面で説明するような形式をとることも考えられます。なお、上の条項案には入れていませんが、広告主が広告代理店に対して「いつでも業務の履行状況について報告を求めることができる」とった定期報告以外の報告に関する条項を入れることもあります。ただ、広告代理店の報酬額が少ない場合には対応できる範囲に限りがあるため、定期報告以外の報告を行うべきかは慎重に判断する必要があります。
アカウント情報の開示に関する条項
第〇条(アカウント)
1.乙が自己の保有するアカウントを使用して業務を遂行する場合、別途甲乙間の合意がない限り、当該アカウントの所有権は乙に帰属するものとする。ただし、乙は甲の請求があった場合は当該アカウントに関する一切の情報を開示すべき義務を負う。
2.乙が甲の保有するアカウントを使用して業務を遂行する場合、当該アカウントの所有権は甲に帰属する。ただし、本契約の有効期間中、甲は乙に対し、当該アカウントの利用を許諾する。
3.前項の場合、本契約終了時に、乙は甲に対し、当該アカウントに関する一切の情報を返還しなければならない。
リスティング広告を運用する際には広告用アカウントを作成する必要があります。
広告用アカウントに関しては広告代理店側の用意したアカウントを利用する場合(第1項)と、広告主が作成したアカウントを使う場合(第2項)とがあります。広告代理店が作成したアカウントを利用する場合でも、アカウント情報は広告主にすべて開示することが通常です。当該アカウントで運用するための広告費を出しているのは広告主であるため、これはやむを得ないことといえるでしょう。
条項案の第1項は、このような考えに基づいた規定です。これに対し、広告主がそれまでインハウス(自社)運用をしていた場合などでは、もともと広告主が使っていたアカウントを広告代理店が引き継いで使用することがあります。この場合、広告代理店は広告主からアカウントを使用する権利の許諾を受ける必要があります(第2項)。また、契約終了後には広告主にアカウント情報を引き渡す必要があります(第3項)。
まとめ
インターネット広告代理店はこれからも市場規模の急激な拡大が期待される業種です。大手広告代理店だけでなく専門知識を持つフリーランスが参入することも可能であるため今後新規参入者もさらに増えることでしょう。
ただし、テレビや雑誌などへ広告を掲載する従来型の広告と比較して、インターネット広告は自動で最適なターゲットを選定して広告を閲覧させる性質上、どのような媒体にどの程度掲載されているか広告主側で実際に見て確認することができません。そこで、広告主とのトラブルを避けるためには広告代理店としてどのような内容の業務を提供するのか、また報酬の算定方法について疑義を残さないように定めておくことが重要となります。
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