DX支援事業の契約書作成のチェックポイントとは
昨今、注目を集めているワードが「DX」です。DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital transformation)を意味します。わかりやすく言えば、「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」を意味します。
中でもビッグデータやAIやIoTはDXの技術として代表的なもので、DXを推進することで、大きな飛躍を遂げようとする企業も生まれてきています。
そこで、本記事では、DX支援事業を行おうと考えている企業やDX支援を受けようと考えている企業を対象に、DX支援事業の契約書作成において、どのような点に留意すべきかを解説します。
この記事の目次
DX支援事業とは
DX支援事業とは、デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation)支援事業のことであり、日々開発されている新しいデジタル技術を活用し、我々の日々の生活や暮らしをより良い方向に発展させることを支援する事業のことをいいます。
経済産業省が公開している「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0」では、DXについて、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義されています。
DX推進のメリット
DX推進のメリットとしては、まず、業務の効率化の実現が考えられます。
DX推進により、従来の作業時間が削減されることが期待できます。また、デジタル化により、ヒューマンエラーを防止することができ、ヒューマンエラーに対応する時間も削減することができます。
さらに、DX推進により生じたヒューマンリソースを、DXでは対応できない作業に割くことができるようになります。
このような業務の効率化の実現により、労働者の労働時間が削減されることにもつながり、労働環境の向上にもつながることが期待されます。
次に、社会の情勢や変化に合わせた柔軟な対応が可能になることが期待されます。
DXが進んでいない場合、担当者等が、社会の情勢や変化に合わせた対応を行っていくことが要求されますが、可処分時間や情報量との関係で、柔軟な対応ができず、対応が遅れてしまうケースもみられます。
DXが進んでいる場合、デジタル技術の急速な発展により、いち早く社会の情勢や変化に合わせた柔軟な対応をすることが可能になります。
他のメリットとしては、新商品の開発、新規事業や新規ビジネスを行うことが可能となることが考えられます。
DXの推進により、今まで短時間で行うことが難しかった作業を、短時間で行うことが可能となっています。
これにより、今まで実現することができなかったことが実現できるようになり、新商品の開発、新規事業や新規ビジネスを行うことが可能となるケースがあります。
今後ますますデジタル化が進み、将来的に、今よりもさらにDX支援事業に重要性が高まると考えられます。
DX推進のデメリット
DX推進のデメリットとしては、コストが掛かるという点があげられます。
DXを推進しようとすると、新たな機械やコンピュータを導入する必要があるため、必然的にコストが掛かってしまいます。
また、DX推進は、すぐにできるものではなく、社内フローの構築等の時間が必要であり、結果に結びつくまでに、時間が掛かってしまう可能性があるという点もデメリットと言えるでしょう。
さらに、従来DXを進めていなかった企業が、DXを推進するとなると、DXへの移行をうまく行うことができない可能性もあります。
DXには、上記のようなデメリットも考えられますが、デメリットに比べ、メリットが大きいため、デメリットを考慮しても、DXを推進していく価値はあります。
DX支援事業の契約書作成におけるチェックポイント
DXをビジネスに取り組むためには、DX支援事業を行っている企業からサポートを受けることが効率的です。
ただ、DX支援事業の契約書は、典型的な契約書とは言いづらい契約書ですので、以下では、DX支援事業の契約書作成において、どのような点に留意すべきかを説明します。
契約期間に関する条項
前述のように、DXを推進するためには、時間が掛かります。
そのため、契約期間が短すぎると、中途半端な状態で、DX支援が終了してしまう可能性があります。
他方、契約期間が長すぎると、長い契約期間を前提にDX推進の計画が策定されることとなりますので、本来掛かる時間よりも、長く時間が掛かってしまう可能性があります。
したがって、契約期間については、個別的な事情や状況に合わせて、適切な期間を設定する必要があります。
具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。
第●条(契約期間)
本契約の契約期間は、本契約締結日から1年間とする。なお、期間満了日の1か月前までにいずれの当事者からも本契約を終了する旨の意思表示がない場合には、本契約は更に1年間更新されるものとし、以後も同様とする。
報酬に関する条項
報酬に関する条項は、金銭に関わる条項であるため、トラブルになる可能性が高い条項です。
そのため、トラブルを防止するために、報酬の算定方法、支払時期及び支払方法等を明確に定めておくことが重要となります。
具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。
第●条(報酬)
1.甲は、乙に対し、本件業務の対価として、月額●万円(税別)を支払うものとする。
2.前項の報酬は、前月末日までに、乙が別途指定する銀行口座に振り込む方法によって支払う。なお、振込手数料は、甲の負担とする。
ソフトウェアなどの権利の帰属に関する条項
DX支援事業は、その性質上、著作権等の知的財産権が関わることになります。
知的財産権の帰属について明確に規定しておかなければ、DX支援を受ける側とすれば、知的財産権との関係で、思った形での運用ができなくなってしまう可能性があります。
そのため、ソフトウェアなどの権利の帰属に関する条項を規定しておくことが重要となります。
具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。
第●条(権利の帰属)
本件業務遂行の過程で生じた発明その他の知的財産又はノウハウ等(以下あわせて「発明等」という。)に係る特許権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権を受ける権利を含み、当該権利が著作権である場合には著作権法第27条及び第28条の権利を含む。以下同じ。)は、乙に帰属する。
損害賠償義務に関する条項
DX支援の過程で、何らかの問題が生じるケースもあります。
特に、コンピュータを用いる場合には、思いもよらないバグや不具合が生じる可能性があります。
そのため、損害賠償義務に関する条項を規定しておくことも重要となります。
具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。
第●条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約の履行に関し、相手方の責に帰すべき事由により被った通常かつ直接の損害に限り、相手方に対して損害賠償を請求することができる。但し、甲及び乙は負うこととなる損害賠償義務は、本契約に定める委託料の合計金額を限度とする。
契約の解除に関する条項
DX支援事業については、継続的な契約関係になるため、契約当事者相互の信頼関係が重要となります。
そのため、継続的な契約関係の維持ができないと判断できるような場合には、契約の解除を認める必要があります。
具体的には、以下のような条項を規定することが考えられます。
第●条(解除)
1.甲又は乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
(1) 重大な過失又は背信行為があった場合
(2) 支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合
(3) 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
(4) 公租公課の滞納処分を受けた場合
(5) その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2.甲又は乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、その債務不履行の程度を問わず、本契約の全部又は一部を解除することができる。
3.本条に基づく権利の行使は、損害賠償の請求を妨げるものではない。
まとめ
以上、DX支援事業を行おうと考えている企業やDX支援を受けようと考えている企業を対象に、DX支援事業の契約書作成において、どのような点に留意すべきかを解説しました。
DX支援事業については、デジタル化に伴い登場した新しい事業ですので、それほど実務上の蓄積が多くない事業です。
そのため、DX支援事業を行うとしている企業や、DX支援を受けようと考えている企業のご担当者様は、専門的な知識を有する弁護士に相談をすることをオススメします。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務