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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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モンゴルの医療および医薬品法を弁護士が解説

モンゴルの医療および医薬品法を弁護士が解説

モンゴル国(以下、モンゴル)における医療および医薬品市場は、近年の急速な経済成長や人口動態の変化、そして国民の健康意識の向上に伴い、極めて大きな発展と変革の時期を迎えています。地理的な近接性や良好な二国間関係を背景に、モンゴルは高品質な医療製品や高度な医療技術を有する日本企業にとって、大変魅力的な新規進出先の一つとして強い注目を集めています。

特に実務上極めて重要であり、企業活動に直接的な影響を及ぼすのが、2024年6月5日にモンゴル議会で可決され、同年10月1日より施行された改正医薬品および医療機器法(Law on Medicines and Medical Devices)です。この新しい法律は、これまでの規制の枠組みを抜本的に見直し、医薬品および医療機器の価格規制、広告規制、販売プロモーション活動に関する規定をかつてないほど大幅に強化しました。日本の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)や医療広告ガイドラインと類似の目的を持ちつつも、モンゴル独自の極めて詳細かつ厳しい制約が数多く設けられている点を深く理解することが、現地でのビジネス成功と法的リスク回避の要となります。

リスク回避の要点として、以下の三つの事柄が挙げられます。第一の要点は、モンゴル政府が新たに導入した極めて強力な価格統制のメカニズムです。改正された法律により、モンゴルの保健大臣と財務大臣は共同命令を発出し、必須医薬品および医療機器の最大価格上昇率を公的に設定する義務を負うことになりました。卸売および小売価格の両方において最大上昇率が厳格に規制され、正当な理由のない価格引き上げは明確に禁止されています。さらに、供給業者は製品の基本価格や卸売価格、小売価格を統一された電子情報システムに遅滞なく登録し、一般の消費者に対して価格を完全に透明化することが義務付けられました。

第二の要点は、広告規制の厳格化と独自の許可制度の導入です。医薬品などの広告を一般に展開する前には、該当製品がモンゴル国内で正式に登録されている必要があり、その上で所管当局から正規の広告許可を取得しなければなりません。この許可の有効期間は1年間と極めて短く設定されており、すべての広告には視覚障害者向けの音声説明や聴覚障害者向けの手話または文字による説明を必ず含めなければならないという、日本にはない独自の義務が課されています。

第三の要点は、広告手段の徹底した制限と医療従事者へのプロモーション活動の広範な禁止です。未登録製品のプロモーションや不適切な表現が禁止されることはもちろんですが、モンゴルでは現代の主要なマーケティング手法であるソーシャルメディアを通じた広告活動が全面的に禁止されています。また、医療専門家をマルチレベルマーケティング事業に関与させることや、処方を誘導するための贈り物、金銭的インセンティブの提供、国内外の研修への参加支援なども法律で明確に禁じられています。

これらの一連の規制強化の根底には、国民の医療への公平なアクセスをいかなる状況下でも確保し、医薬品や医療機器の不当な価格高騰を抑制することで、国民の医療費負担を軽減し公衆衛生を保護するというモンゴル政府の強い意思が存在しています。このような厳格な法整備の姿勢から、モンゴル政府は市場の自由な競争原理や企業の利益追求権よりも、一般国民の健康と安全の保障を何よりも最優先に考えているということが言えるでしょう。日本企業がモンゴル市場への進出を成功させるためには、日本の常識にとらわれることなく、これらの現地の法律要件を正確かつ深く理解し、厳格なコンプライアンス体制を遵守した事業計画を構築することが不可欠です。

本記事では、モンゴルでの本格的なビジネス展開や現地法人の設立、さらには現地企業との代理店契約などを真剣に検討されている日本人の経営者や企業の法務担当者の皆様に向けて、モンゴルの医療および医薬品に関する法的規制の全体像とその最新動向について詳細に解説いたします。

モンゴルにおける医薬品および医療機器規制の歴史的背景と改正法

規制枠組みの変遷と改正法制定の背景

モンゴルにおいて、医薬品および医療機器の製造、輸入、輸出、保管、販売、流通、使用、およびそれらの品質管理に関する関係を包括的に規律する基本的な法律が、医薬品および医療機器法です。モンゴルにおける医薬品の法規制は、1998年に初めて独自の医薬品法が承認されたことに遡ります。その後、医療技術の進歩や市場環境の変化に伴い2006年に改正が行われ、名称も医薬品および医療機器法へと変更されました。さらに2010年にも大規模な改正が実施され、長らくこの2010年法がモンゴルにおける医療分野の根幹をなす法規制として機能してきました。しかしながら、モンゴルの医薬品市場はその需要の大部分を輸入に依存しており、およそ80パーセントもの医薬品が外国から供給されているという構造的な特徴を持っています。そのため、国際市場の価格変動や為替の動向、供給網の寸断といった外部要因による影響を極めて受けやすい状況にありました。

とりわけ、新型コロナウイルスの世界的流行という未曾有の危機的状況下において、モンゴル国内では深刻な医薬品および医療機器の品不足が発生し、一部の供給業者や小売業者がこの危機に乗じて不当な価格の引き上げを行うという事態が生じました。この経験は、従来の法規制が有する限界を露呈させるとともに、国民の生命に直結する医療物資の安定供給と価格の安定化を図るためには、国家によるより強力かつ直接的な市場への介入が必要であるという認識をモンゴル政府および社会全体に広く浸透させる契機となりました。これを受けて、モンゴル議会は2024年6月5日に、規制の範囲を大幅に拡大し、要件を極めて厳格化した改正医薬品および医療機器法を可決し、同年10月1日より施行するに至りました。この新法は、従来の法律が抱えていた制度的な隙間を埋め、近代的な医療技術と適切な流通実務の導入を促進するとともに、国際水準を満たす品質管理体制を構築することを目的としています。

改正法による用語定義の拡大とライセンス制度の再編

2024年に施行された改正医薬品および医療機器法では、規制の対象と範囲をより明確にし、法的な不確実性を排除するために、法律上の用語定義が大幅に拡充されました。2010年の旧法において定義されていた用語の数は25個でしたが、新法ではこれが40個へと増加しています。具体的には、旧法から存在する基本的な概念に加えて、「医薬品の取引名称(Trade names of medicines)」「医薬品の国際名称(International names of medicines)」「薬学的作用物質(Pharmaceutical agents)」「ファーマコビジランス(Pharmacovigilance)」「基本価格(Base price)」「医療用消耗品(Medical supplies)」「ハーブ医薬品(Herbal drugs)」「先発医薬品(Original medicines)」といった極めて重要かつ実務的な用語が新たに定義され、これらに基づく詳細な規制要件が明文化されました。特にファーマコビジランス(医薬品の安全性監視)という概念が法律上明確に定義されたことは、製造業者や輸入業者に対して、製品の市場投入後における副作用の収集や報告といった安全管理責任をより厳格に問う姿勢の表れであるということが言えるでしょう。

さらに、日本企業がモンゴルで事業を開始する際に直接的に関わることとなる事業ライセンス(特別許可)の制度についても、実務の効率化と管理の厳格化を両立させるための再編が行われました。2010年法の下では、医薬品や医療機器に関する事業を行うためには、「製造」「輸入」「輸出」「販売」「供給」という5種類のライセンスが個別に存在し、事業形態に応じて複数のライセンスを複雑に取得・管理する必要がありました。しかし、新法ではこのライセンス体系が合理化され、3種類のライセンスへと統合されました。

具体的には、国内での製造活動と海外への輸出活動を包括する「製造・輸出ライセンス」、海外からの製品の輸入と国内市場への供給活動を包括する「輸入・供給ライセンス」、そして最終消費者や医療機関に対する「販売ライセンス」へと整理されています。この変更により、日本からモンゴルへ製品を輸出し、現地の代理店を通じて市場に供給しようとする場合には、現地のパートナー企業が適切な「輸入・供給ライセンス」を保持していることを確認することが、取引開始にあたっての最初の重要なコンプライアンス・チェック項目となります。

日本の法律(薬機法)との基本的な理念の比較

モンゴルの医薬品および医療機器法を理解する上で、日本の医薬品医療機器等法(薬機法)との理念的な違いを把握しておくことは非常に有益です。以下の表は、モンゴルの改正医薬品および医療機器法と日本の薬機法および関連法規における、法の目的と主要な規制のアプローチに関する基本的な異同を整理したものです。

比較項目モンゴル 改正医薬品および医療機器法(LMMD)等日本 医薬品医療機器等法(薬機法)および関連法規
立法の主たる目的製品の品質および安全性の確保に加え、価格の統制と国民の医療アクセスの保障を法目的として強く志向。医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保ならびに保健衛生の向上。
価格決定のメカニズム保健大臣と財務大臣が法律に基づき共同命令を発出し、市場の最大価格上昇率を直接的に設定。公的医療保険における薬価基準を通じた公定価格の算定。自由診療薬や一般用医薬品は市場の自由競争。
マーケティングの制約ソーシャルメディアを用いた広告の全面的な法的禁止や、障害者向け配慮の法的な義務化。虚偽・誇大広告の禁止が主眼であり、媒体を問わずソーシャルメディアを含む多様な手段での広告が可能。
医療従事者との関係法律そのものによって、インセンティブの提供や国内外の研修参加支援を直接的に禁止し罰則の対象とする。業界団体が定める自主規制(プロモーションコードや公正競争規約)による規律が主体。

日本における薬機法は、主として製品そのものの品質、有効性、そして安全性を科学的かつ客観的な基準で担保し、不良な医薬品等が流通することを防ぐことに主眼を置いています。これに対してモンゴルの新しい法律は、製品の安全性や品質を確保するための審査登録制度を設けている点では日本法と共通していますが、それに加えて、製品が実際に患者の手に届く際の「価格」や、市場における「プロモーション手法」という、企業の経済的・商業的活動の領域にまで国家が直接的かつ強力に介入する仕組みを法律に組み込んでいる点に最大の特徴があります。

日本企業は、製品の承認さえ得られれば自由なマーケティング戦略を展開できるという日本国内の感覚を捨て、価格設定から広告媒体の選定に至るまで、国家の強い監視下にあるという前提でビジネスモデルを構築する必要があります。

モンゴルにおける医薬品および医療機器の価格規制と価格透明性

モンゴルにおける医薬品および医療機器の価格規制と価格透明性

国家による最大価格上昇率の設定義務

モンゴルの改正医薬品および医療機器法における最も象徴的であり、かつ進出企業にとって最大の経営課題となる変更点が、徹底した価格規制の導入です。新しい法律の下では、医薬品および医療機器の価格の不当な上昇を制限し、市場における価格形成の透明性を確保するための極めて厳格なルールが定められています。具体的には、モンゴルの保健大臣と財務大臣は、共同命令を発出することにより、国民の生命と健康に不可欠な必須医薬品および医療機器に関する「最大価格上昇率」を公的に設定する法的な義務を負っています。

この最大価格上昇率の規制は、単にメーカーから一次卸業者への出荷段階のみに適用されるものではありません。法律は、卸売価格と小売価格の双方の段階において最大上昇率を適用することを明記しており、流通のいかなるプロセスに位置する供給業者や販売業者であっても、正当な理由なくこの政府が定めた上昇率を超えて価格を引き上げることは固く禁じられています。企業が原材料費の高騰や物流コストの上昇、あるいは為替レートの大幅な変動などを理由に製品の価格を改定しようとする場合、それが政府の定める最大価格上昇率の範囲内に収まっているかを厳密に確認しなければならず、これを超過する場合には政府機関に対する十分かつ客観的な正当性の立証が必要となる極めてハードルの高い実務を強いられます。

この価格規制に関するモンゴル政府の基本方針と具体的な要件の詳細については、PwCモンゴルが発行した法務および税務に関する公式アラートの資料で確認することができます。

参考:PwCモンゴル公式ウェブサイト

日本の薬価基準制度との決定的な違いと実務への影響

モンゴルの強力な価格規制は、日本の価格制度と一見似ているように思われるかもしれませんが、その法的性質と市場への適用範囲において根本的な違いがあります。日本では、公的医療保険制度の下で保険適用される医療用医薬品について、国が薬価基準として償還価格(公定価格)を定めています。しかし、これはあくまで保険財政から医療機関や薬局に対して支払われる金額の基準を定めたものであり、製薬企業や医薬品卸売業者が市場で行う自由な取引価格そのものを法律で直接的に制限し、刑事的あるいは行政的な罰則をもって価格上昇を禁止するものではありません。さらに、日本において自由診療で用いられる医薬品や、薬局で消費者が直接購入する一般用医薬品(OTC医薬品)の価格については、原則として市場の需要と供給のバランスに応じた自由競争に委ねられています。

これに対してモンゴルでは、公的保険の枠組みを超えて、法律そのものが市場における医薬品等の卸売価格および小売価格の変動幅を直接的に規制しています。モンゴルへの進出を検討する日本企業は、自社の製品がどれほど革新的で需要が高いものであっても、日本国内のように市場の需給バランスやブランド価値に応じた柔軟なプレミアム価格の設定を行うことが極めて困難であるという事実を、事業計画の初期段階から十分に考慮しなければなりません。特に、輸入に依存するモンゴル市場においては、為替差損が発生した際にそれを迅速に販売価格に転嫁することが法律上制限されるリスクがあるため、財務面での強固なリスクヘッジ策をあらかじめ講じておくことが求められます。

統一された電子情報システムによる価格の透明化義務

最大価格上昇率の直接的な制限に加えて、価格の透明性を担保するための実務的な要件も大幅に強化されました。すべての医薬品および医療機器の供給業者は、自社が取り扱う製品の最小測定単位、基本価格、卸売価格、そして小売価格の正確なデータを、モンゴル政府が管理・運営する統一された電子情報システムに遅滞なくアップロードすることが義務付けられました。これにより、政府当局は国内に流通するすべての医薬品の価格構造をリアルタイムで監視・把握することが可能となります。

さらに、一般消費者に対して直接製品を販売する薬局などの小売業者は、自らが設定している小売価格を公衆に対して常に透明かつアクセス可能な状態にしておく法的責任を負います。消費者は、薬局店頭やオンラインの照会システムを通じて、購入しようとする医薬品の価格が適正な範囲内にあるかを容易に確認できるようになります。このような徹底した価格統制と透明化の要求は、市場メカニズムの自己調整機能に委ねるのではなく、国家権力による監視の目を光らせることで、サプライチェーン全体における中間マージンの不当な搾取を防ごうとする意図から生じています。

日本企業が現地の販売代理店と契約を結ぶ際には、この電子情報システムへの価格登録業務を誰がどのように責任をもって行うのか、また、登録された価格情報が自社のグローバルな価格戦略と矛盾しないかといった点について、契約書上での詳細な取り決めが不可欠となります。

モンゴルの医薬品および医療機器の広告規制と実務上の厳格な要件

広告許可(Permit)制度の導入と有効期間の制限

医薬品および医療機器の広告とマーケティングプロモーションに関する規制も、今回の2024年法改正でかつてないほど詳細に規定され、大幅に強化された領域です。2010年の旧法下では、医薬品等の広告に関する規制は比較的緩やかであり、一般的なガイドラインに準拠していればプロモーション活動を展開することが可能でした。しかし新法では、医薬品の広告に関する一般原則が拡大され、広告を展開するための絶対的な前提条件として厳格な許可制度が導入されました。

まず大前提として、モンゴル国内において医薬品や生物活性添加物(健康補助食品)の広告を広く一般大衆に向けて普及させるためには、その製品自体がモンゴルの国家登録簿に正式に承認・登録されている必要があります。未承認の製品に関する情報を、いわゆる「疾患啓発」などの名目で巧妙に広告することも禁止されています。その上で、広告を実施しようとする事業者は、事前に広告のコンテンツや使用する媒体に関する詳細な計画を規制当局に提出し、審査を経て正規の「広告許可(permit)」を取得しなければなりません。

さらに実務上大きな負担となるのが、この広告許可の有効期間の短さです。モンゴルにおいて取得した広告許可は、発行日からわずか1年間のみ有効とされています。同一の広告キャンペーンを継続して実施したい場合であっても、許可の有効期限が切れる1ヶ月前までに、当局に対して正式な延長申請の手続きを行わなければなりません。このことは、日本国内のように一度制作したテレビコマーシャルやウェブサイトの広告素材を、数年間にわたって特別な手続きなく継続使用するという運用がモンゴルでは不可能であることを意味します。

日本企業は、現地でのマーケティングカレンダーを策定する際、この1年ごとの厳格な更新手続きとそれに伴う当局の審査期間をスケジュールに組み込み、期限切れによる違法な広告配信を防止するための社内管理体制を構築する必要があります。

障害者の情報アクセス権を保障する独自の配慮義務

モンゴルの新しい法律に特徴的であり、日本の企業が特に注意を払うべき独自の要件として、障害者の情報アクセス権を法的に保障するための規定が設けられています。許可を受けた製造業者や供給業者が広告を配信する際には、その広告物の中に、視覚障害者のために音声による詳しい説明を加え、聴覚障害者のために手話または書面による文字の説明を必ず含めなければならないという明確な義務が規定されています。

日本の薬機法や医療広告ガイドラインにおいては、医薬品の適正使用に向けた副作用情報や使用上の注意を提供するための義務は存在しますが、広告物そのものに対して手話や音声説明を含めることを法的に一律に義務付ける規定はありません。したがって、日本企業が自社のブランドイメージを重視して制作したスタイリッシュな映像広告や、限られた秒数で製品の魅力を伝えるテレビコマーシャルをそのままモンゴル向けにローカライズしようとすると、この障害者への配慮義務を満たすことができず、当局から広告許可を却下される事態に直面します。

日本企業がモンゴル国内向けに視覚的な広告物を制作する際には、初期のクリエイティブ制作のプロセスから、現地の法律が求める手話映像の挿入や詳細な音声ディスクリプションの追加といった仕様をあらかじめ計画に組み込むことが不可欠となります。

モンゴルの広告におけるソーシャルメディアの全面禁止

モンゴルの広告におけるソーシャルメディアの全面禁止

虚偽・誇大広告の禁止と未登録品のプロモーション制限

事前の許可要件に加えて、改正医薬品および医療機器法ならびに関連する法令(Law on Infringements等)では、広告活動における数多くの詳細な禁止事項が列挙されており、これらに違反した場合には重い罰金や事業停止といった制裁が科されます。まず、所定の許可を得ることなく一般向けに医薬品の広告を行うことは当然に禁止されています。さらに、一般消費者に対して強い影響力を持つ医療専門家(医師、歯科医師、薬剤師など)が、自ら特定の医薬品を推奨・広告することも厳しく禁止されています。これは、専門家の権威を利用して消費者の合理的な判断を狂わせることを防ぐための措置です。また、麻薬および向精神薬に関する広告は、いかなる形態であっても全面的に禁止されています。

不適切、非現実的、非倫理的、または消費者を欺くような隠蔽された方法での広告も禁止されています。具体的には、製品の有効性を不当に誇張したり、「副作用が全くない」「絶対に安全である」といった非現実的な保証を与えたりする表現は違法と見なされます。さらに、日本においていわゆる「いわゆる健康食品」の薬機法違反として頻繁に問題となる事案と同様に、モンゴルにおいても、単なる健康補助食品やサプリメントに対して、特定の疾患を診断、治療、治癒、または予防する効果があるかのように広告を行い、一般の消費者を誤解させる行為は明確に禁止対象となっています。これらの虚偽・誇大広告の禁止という基本原則自体は、日本の薬機法の規制と軌を一にしており、日本企業にとっても比較的理解しやすい部分です。

デジタルマーケティングの常識を覆すソーシャルメディア広告の禁止

モンゴルの規制における最も重要な違いであり、日本企業が多大な注意を払うべき点は、広告を展開できるメディア(媒体)の厳格な制限です。モンゴルの規制下では、医薬品や健康補助食品の広告は、事前の許可を受けた上で、テレビ、ラジオ、看板、専門誌といった伝統的なマスメディアや指定された手段のみに許可されています。そして、現代の企業マーケティングにおいて最も主要なツールとなっている「ソーシャルメディア」を通じた広告活動が全面的に禁止されているのです。

具体的には、Facebook、Twitter(現X)、Instagram、TikTokといった世界的なソーシャルネットワークサービス上での広告宣伝活動は一切認められていません。さらには、企業の公式ウェブサイト以外の手段によるインターネット上のオンラインプロモーションやバナー広告なども厳しく制限されています。日本国内のマーケティング感覚で、知名度のあるインフルエンサーを起用してSNSで製品のPR投稿を行わせたり、ターゲット層を絞り込んだSNSのスポンサード広告を出稿したりすることは、モンゴルにおいては重大な法令違反に直結します。

ここから、モンゴルの規制当局は、拡散性が極めて高く、情報の正確性や適法性の事前の担保が困難なソーシャルメディアを通じた不適切な医療情報の蔓延と、その結果として生じる公衆衛生上の甚大な被害リスクを極めて重く見ているということが言えるでしょう。日本企業は、モンゴル市場における自社製品の認知度向上のための戦略を立案する際、デジタルマーケティングに過度に依存するのではなく、現地の法規制が許容する伝統的なマスメディアや、医療従事者を通じた適正な情報提供のルートを活用した、地に足の着いたアプローチを再構築する必要があります。

モンゴル医療従事者へのプロモーション活動に関する禁止事項

利益供与の禁止と国家による直接的な制裁

一般消費者向けの広告規制にとどまらず、製薬企業や医療機器メーカーから医療従事者に対するプロモーション活動の制限も、今回の法改正によって極めて厳格に明文化されました。医薬品の販売を不当に促進する目的で、医療専門家をマルチレベルマーケティング(ネットワークビジネス)の事業構造に直接関与させることは禁止されています。さらに実務上最も大きな影響を与えるのが、医療機関での自社製品の採用や処方量の増加を促すための利益供与の禁止です。法律では、企業側が医療専門家に対して贈り物を提供したり、寄付を行ったり、金銭的あるいは物品によるインセンティブを付与したりすることが固く禁じられています。

また、製品の知識を深めるという名目であっても、処方を誘導する目的で「教育クレジット」を提供することも違法となります。さらに、これまでの新興国市場における商慣行としてしばしば見受けられた、医療専門家を国内外の医学会や研修会へ招待し、その旅行費用や参加費用を企業側が支援・負担する行為についても、モンゴルの法律によって明確に禁止されるに至りました。医療専門家の側も、このような企業からの支援を受け取ること自体が法律で禁止されています。

日本では、製薬企業と医療機関との間の不適切な金銭的関係を防ぐためのルールとして、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会が定める「医療用医薬品プロモーションコード」や、各種の「公正競争規約」といった業界団体による自主規制が中心的な役割を果たしています。日本の製薬企業はこれらの自主規制ルールに基づいて、学会共催セミナーの費用負担や、医師への講演料の支払いなどを厳密に管理しています。しかし、モンゴルにおいては、このような業界内の自主的なガイドラインというレベルではなく、国家の法律という最も強力な強制力を持つ枠組みの中で、医療従事者に対するインセンティブの提供が直接的に禁止され、法的な処罰の対象となっている点に決定的な違いがあります。

日本企業は、モンゴル国内の医師や薬剤師に対して自社製品の学術的な説明会を開催したり、臨床研究のための協力関係を構築したりする際に、現地法人や提携する代理店の活動が、当局から違法な利益供与や処方誘導のためのインセンティブ提供と見なされないよう、日本国内と同等かそれ以上に厳格な社内コンプライアンス体制を敷く必要があります。特に、代理店にマーケティング活動を委託する場合、代理店が現地での営業成績を上げるために、企業が感知しないところで医師への接待や贈り物を行ってしまうリスク(コンプライアンス違反の連帯責任リスク)を防止するための、徹底した監査権限を契約に盛り込むことが求められます。

適正価格に関する競争法上のリスクとモンゴル最高裁判所の判例

適正価格に関する競争法上のリスクとモンゴル最高裁判所の判例

公正競争消費者保護庁(AFCCP)の権限と監視体制

医薬品および医療機器法の価格規制に関連して、モンゴルにおける適正な価格設定と、競争法(独占禁止法)違反の実務的なリスクを理解する上で、非常に参考となる重要な判例が存在します。モンゴルにおいて市場の公正な競争を維持し、消費者の利益を保護することを目的として設立された政府機関が「公正競争消費者保護庁(Authority for Fair Competition and Consumer Protection, AFCCP)」です。AFCCPは、市場における反競争的行為、カルテル、不当な価格操作、そして誤解を招く広告に対して、強力な調査権限と重い罰金を伴う制裁権限を有しています。特にCOVID-19のパンデミック時には、便乗値上げを行った医薬品サプライヤーや大手スーパーマーケットに対して即座に多額の罰金を科すなど、積極的な法執行を行ってきた実績があります。

垂直的カルテルに関する最高裁判所の重大な判断

モンゴルにおける競争法違反、とりわけ価格協定の違法性に関して、モンゴルの最高裁判所で争われ、確定した極めて重要な事件があります。この事件は、医薬品分野に限定されたものではありませんが、製造業者が自社製品の小売価格をいかに管理すべきかという点で、医療・医薬品ビジネスにも直接的な影響を与える判例です。

事案の概要は、ある製造業者である「M LLC」が、自社の製品を最終消費者に販売する複数の小売店やスーパーマーケットとの間で契約を締結し、市場における「統一された小売価格」を設定したというものです。これに目を付けたAFCCPは、M LLCの行為が小売業者間の公正な価格競争を制限する違法な価格固定契約(価格カルテル)であると認定し、法律で規定された上限である「前年度の販売収益の最大6パーセント」という基準に基づき、約12億968万トゥグルグ(MNT,209,682,136)という極めて多額の罰金処分を科しました。

M LLCはこの莫大な罰金処分を不服とし、処分の取り消しを求めて行政紛争第一審裁判所に提訴しました。第一審の段階では、M LLCの主張が認められ、AFCCPの処分は取り消されるべきとの判決が下されました。しかし、AFCCPがこれを不服として控訴した結果、その後の行政紛争控訴裁判所においては第一審の判断が覆されました。そして最終的にモンゴルの最高裁判所は、M LLCが小売業者との間で価格を固定する取り決めを行ったことは「垂直的カルテル(Vertical Cartel)」を形成するものであり、モンゴルの競争法に明確に違反していると認定し、AFCCPの罰金処分を支持する最終判決を下しました。この最高裁判所の判断の背景には、2020年2月19日に同裁判所が発出した「水平カルテルが成立する状況」に関する解釈決議が存在しており、司法が反競争的な価格操作に対して極めて厳しい姿勢をとっていることが浮き彫りになりました。

この競争法における垂直的カルテルに関する最高裁判所の判断と詳細な法的な解説は、PwCモンゴルのリーガルインサイトにおいて確認することができます。

参考:PwCモンゴルのリーガルインサイト

判例が医薬品・医療機器ビジネスに与えるインプリケーション

この最高裁判所における垂直的カルテルの違法性認定の判例は、モンゴルに進出する日本の医薬品および医療機器企業にとっても極めて重大な意味を持ちます。日本企業が現地で医薬品の供給業者や輸入業者となる場合、自社の革新的な医薬品のブランド価値を維持するため、あるいは十分な利益率を確保するために、取引先である現地の薬局や病院に対して「この価格以下では販売してはならない」という下限価格を拘束したり、「定価販売」を契約で強制したりする行為(再販売価格維持行為)は、モンゴルでは垂直的カルテルとして競争法違反の重いペナルティの対象となるリスクが非常に高いということが言えるでしょう。

前述の通り、改正医薬品および医療機器法の規定によって、政府が保健大臣および財務大臣の共同命令という形で「最大価格上昇率(価格の上限)」を設定しています。これに加えて、企業側が私的な契約によって小売価格を固定し、市場の下方への価格競争を不当に制限することは、二重の意味でモンゴルの法秩序と政策目標(医療費の負担軽減)に反することになります。したがって日本企業は、現地代理店との販売店契約書(ディストリビューション契約)を起草する際、再販売価格を強制するような条項を絶対に含めないよう、現地の競争法に精通した弁護士による緻密なリーガルチェックを受けることが不可欠です。

まとめ

モンゴルの医療および医薬品市場における法的規制の全体像と、日本企業が進出する際の重要課題に関する解説は以上の通りです。本記事全体の要点を総括しますと、モンゴルでは2024年10月に施行された改正医薬品および医療機器法により、日本企業が国内で経験してきた事業環境とは大きく異なる、国家主導の厳格な統制が敷かれていることが理解できます。第一に、保健大臣と財務大臣の共同命令による最大価格上昇率の公的設定や、電子情報システムを通じた価格の完全透明化義務など、企業の自由な価格設定権を制限する強力な価格規制が存在します。

第二に、医薬品の広告を実施するためには事前の製品登録と有効期間がわずか1年の厳格な広告許可の取得が必須であり、さらにはすべての広告物に対して視覚障害者および聴覚障害者向けの配慮(音声説明や手話等)を含めることが法的に義務付けられています。第三に、世界的なトレンドに逆行する形でソーシャルメディアを用いた広告活動が全面的に禁止されるとともに、医療従事者に対する贈答品や金銭的インセンティブの提供、ならびに研修参加の支援などのプロモーション活動が、自主規制ではなく国家の法律によって直接的に禁じられています。さらに、モンゴル最高裁判所の判例が明確に示しているように、製造業者が小売価格を不当に拘束する行為は、垂直的カルテルとして競争法違反の莫大な制裁を招くリスクを有しています。

これらの厳格な規制はすべて、モンゴル政府が国民の公衆衛生を守り、公平な医療アクセスを保障するための強い政策的決意の表れです。現地でのビジネス展開においては、法規の表面的な字義の理解にとどまらず、その背景にある立法の意図や運用実態を深く把握した上で、日本国内以上の厳重な法令遵守体制を敷くことが求められます。

モノリス法律事務所は、日本国内の最先端の法律問題にとどまらず、海外進出に伴う複雑な国際法務問題についても豊富な知見と経験を有しており、モンゴルにおける最新の法律動向や実務慣行の変化を継続的かつ詳細に注視しております。日本企業の皆様がモンゴルの厳しい規制環境の中で安全かつ円滑にビジネスを展開できるよう、現地の法規に完全に適合したビジネスモデルの構築支援から、各種広告宣伝活動の緻密なリーガルチェック、ならびに現地代理店を管理するためのコンプライアンス体制の整備に至るまで、多岐にわたる経営課題に対して法的な観点から的確にサポートいたします。海外での医療および医薬品ビジネスに関する法的な不安や疑問、契約書の審査などのご要望がございましたら、ぜひ当法律事務所までご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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