eスポーツ大会における賞金の限度額とは
「eスポーツ」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称のことです。昨今、このようなeスポーツは競技大会として世界各地で行われており、優勝者をはじめとする成績優秀者に対して賞金が与えられています。
しかし、eスポーツ大会における賞金は、景品表示法によりその金額が10万円以下に制限される可能性があります。スポンサーなどを付けて大々的に大会を開催し、プロゲーマー等に参加して貰おうと考えた場合、その優勝賞金を10万円しか出せない、というのは、非常に大きな制限です。こうした法規制の下で適法に大規模なeスポーツの大会を開催するには、どのようにすれば良いのでしょうか。
この記事の目次
景品表示法とは
景品表示法とは、正式には「不当景品類及び不当表示防止法」のことです。景品表示法は、一般的には、商品やサービスについて実際とは異なる表示をすることや、高額な景品を提供して顧客を呼び込むことなどを規制する法律なのですが、この「景品」にはeスポーツなどの大会の賞品も含むケースがあることから、eスポーツとも関係がある法律と言えるのです。本記事とは直接関係はありませんが、例えば、いわゆる「ステマ」も景品表示法上で違法となるケースがあります。
景品表示法の目的は、その第1条に定められています。
「不当景品類及び不当表示防止法」(目的)
第一条 この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。
このように、景品表示法は、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限することなどにより、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守ることを目的としています。
景品表示法とeスポーツ大会における賞金との関係とは
eスポーツ大会における賞金が、景品表示法にいう「懸賞」により提供される「景品類」に該当する場合には、その金額が10万円以下に制限される可能性があります。ここで問題となるのは、以下の2点です。
- eスポーツ大会における賞金が、景品表示法にいう「景品類」に該当するか。
- 「景品類」に該当するとしても、「懸賞」により提供される景品類に該当するか。例えば、家電量販店が来店者全員に何らかのグッズを提供する場合、当該グッズは来店を促すものであることから「景品類」に該当しますが、「懸賞」により提供される景品類には該当しません(ただし、総付景品としての規制に服します。)。逆に、テレビやウェブサイト等で企画内容を広く告知し、郵便はがきやウェブサイト等で申し込むことができ、抽選で金品等が提供される場合、当該金品等は抽選を経ることから「懸賞」により提供されてはいますが、商品・サービスの購入や来店を条件としていないため、「景品類」には該当しません。
eスポーツ大会における賞金が、景品表示法にいう「景品類」に該当するか
景品表示法2条3項は、「景品類」を以下のように定義しています。
「不当景品類及び不当表示防止法」(定義)
第二条
1~2 (略)
3 この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であって、内閣総理大臣が指定するものをいう。
よって、eスポーツ大会における賞金が景品表示法にいう「景品類」に該当するというためには、
- 賞金の授与が「顧客を誘引するための手段として」なされること
- 賞金の授与が「事業者」によってなされること
- 賞金の授与が「自己の供給する商品又は役務の取引に付随して」なされること
- 賞金が「物品、金銭、その他の経済上の利益であって、内閣総理大臣が指定するもの」であること
の4つの要件を満たす必要があります。
これらのうち、2については、eスポーツ大会の主催者ないし賞金提供者は事業者であることがほとんどでしょうし、4については、内閣総理大臣が指定するものの中に金銭が含まれていますので、いずれも要件を満たします。
したがって、賞金の授与が1.「顧客を誘引するための手段として」、3.「自己の供給する商品又は役務の取引に付随して」なされているといえれば、eスポーツ大会における賞金は景品表示法にいう「景品類」に該当することになります。
「顧客を誘引するための手段として」(顧客誘引性)とは
顧客誘引性の有無については、提供者の主観的意図やその企画の名目とは関係なく、客観的に顧客誘引のための手段になっているかどうかによって判断されます。また、顧客誘引性については、賞金提供者の属性や大会の性質によってその有無が変わる可能性があります。
賞金の提供者がeスポーツ大会で用いられるゲームの製作販売会社である場合
eスポーツ大会で用いられるゲームが販売されているものであれば、当該大会の参加者は、成績優秀者として賞金を獲得するため、当該ゲームを購入して繰り返し練習する必要があります。よって、賞金の提供者がeスポーツ大会で用いられるゲームの製作販売会社である場合、賞金の提供は、自己の販売するゲームを購入させる動機付けのためになされている、すなわち「顧客を誘引するための手段として」なされていると判断される可能性があります。
賞金の提供者がeスポーツ大会で用いられるゲームの製作販売会社でない場合
たとえばイベント運営会社など、大会で使用するゲームの製作販売にかかわらない事業者が賞金を提供する場合、ゲームを購入する大会参加者は当該事業者の顧客ではないと考えられることから、賞金の提供は、「顧客を誘引するための手段として」なされているとはいえず、したがって、当該賞金は景品表示法にいう「景品類」に該当しないと考えることができます。
大会の性質による顧客誘引性の判断の違い
eスポーツ大会の性質として、一般ユーザーが競技者となることを中心とする大会と、有名選手等が競技者となり一般ユーザーは観戦することを中心とする大会を想定することができます。これらのうち、一般ユーザーが観戦する大会の場合においては、賞金の提供者がeスポーツ大会で用いられるゲームの製作販売会社であったとしても、同社が誘引の対象としている顧客は大会を観戦する一般ユーザーであり、成績優秀者に与えられる賞金は、高度なプレイを見せる有名選手の参加を促すために提供されているといえることから、「顧客を誘引するための手段として」賞金が提供されているとはいえず、したがって、当該賞金は景品表示法にいう「景品類」に該当しないと考えることができます。
「自己の供給する商品又は役務の取引に付随して」(取引付随性)とは
取引付随性の有無については、当該取引や提供の形態等をみて個別具体的に判断される必要がありますが、基本的には以下のように考えられます。すなわち、景品表示法1条が、「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類……による顧客の誘引を防止する」ことを同法の目的として規定していることからすれば、「取引に付随」するとは、「取引を条件とする」よりも広く、「取引に関連する」と同様の意味に解されます。したがって、取引を条件としなくても、経済上の利益の提供が、顧客の購入の意思決定に直接結びつく可能性のある形で行われるものについては、取引付随性があるといえます。
例えば、新聞紙上で出題したクイズの解答者に対して経済上の利益を提供するが、商品を購入しなければ解答やそのヒントがわからないものである場合などは、商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合であるといえ、このような場合は、経済上の利益の提供が、顧客の購入の意思決定に直接結びつく可能性のある形で行われているといえることから、取引付随性が認められます。
消費者庁照会事案に対する回答とそれを踏まえた検討
有料のアクションゲームを一般消費者に供給する事業者が、当該アクションゲームを利用した誰でも参加可能な競技大会を開催し、その大会における成績優秀者に当該事業者が賞金を提供する場合に、その賞金が「景品類」に該当するかを法令適用事前確認手続により消費者庁に照会した事案(消表対第1306号)があります。上記照会に対する回答において、消費者庁は、「景品類等の指定の告示の運用基準について」(昭和52年4月1日事務局長通達第7号)によれば、「商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合」には取引付随性が認められることを前提として、照会者によれば、本アクションゲームにおける技術向上のためには、原則的に繰り返しのゲームプレイが必要であるため、有料ユーザー以外の者が成績優秀者として賞金を獲得する可能性は低いと考えられるとのことであるから、競技大会は、有料ユーザーが賞金という経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になるものであり、当該大会において成績優秀者に提供される賞金は、「取引に付随する」提供にあたるものと考えられると回答しています。
他方、次のような見解もあります。すなわち、一般的にゲーム技術向上のためにはゲームを繰り返しプレイすることが必要ではあるものの、ゲームを購入することは、技術向上のためのスタートにすぎず、ゲームを購入すること自体によっては、大会で賞金を獲得することが「可能又は容易になる」とはいえません。
また、上記運用基準が「商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合」の例示として定める「商品を購入しなければ解答やそのヒントがわからない場合」とは、商品を購入することでクイズの正解を導くことができる場合など、商品又は役務の購入が経済上の利益の獲得を直接的に容易にしている場合に限られると考えることもできます。
このような見解を前提とすれば、eスポーツ大会における賞金の授与は「自己の供給する商品又は役務の取引に付随して」なされているとはいえず、当該賞金は景品表示法にいう「景品類」には該当しないと考えることもできます。このように、eスポーツ大会における賞金の提供に係る取引付随性の有無については両論があり得ます。 取引付随性の有無は、個別の事情を総合的に検討した上で判断することが必要であり、ケースバイケースの繊細な問題ですので、専門家に相談されることをおすすめします。
「景品類」に該当するとしても、「懸賞」により提供される景品類に該当するか
懸賞制限告示によれば、「懸賞」とは、くじその他偶然性を利用する方法や、特定の行為の優劣又は正誤によって、景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることであるとされています。また、告示では、特定の行為の優劣又は正誤によって景品類の提供の相手方等を定める方法の一つとして、ボーリング、魚釣り、○○コンテストその他の競技、演技又は遊技等の優劣によって定める方法が示されており、このことからすれば、eスポーツ大会における賞金は「懸賞」により提供されていると判断される可能性があります。
他方、告示には、「ただし、セールスコンテスト、陳列コンテスト等相手方事業者の取引高その他取引の状況に関する優劣によって定める方法は含まれない」と例外が定められていること、当該例外が定められたのは、取引実績ないし販売促進効果を目的として行われる賞金の提供を「懸賞」として景品規制の対象とすることが懸賞制限告示の趣旨に照らして適当でないためであると解されることなどを理由に、eスポーツ大会における賞金は、懸賞制限告示における「懸賞」には該当しないという見解もあります。このように、「懸賞」に該当するか否かについても、両論があり得ます。「懸賞」該当性も、ケースバイケースの問題ですので、専門家に相談されることをおすすめします。
eスポーツ大会における賞金が、景品表示法にいう「懸賞」により提供される「景品類」に該当する場合の効果
eスポーツ大会における賞金が、景品表示法にいう「懸賞」により提供される「景品類」に該当する場合、懸賞制限告示2項により、景品類の最高額は、懸賞に係る取引の価額の20倍の金額(この金額が10万円を超える場合にあっては、10万円)を超えることができません。
まとめ
このように、eスポーツの大会における賞金について、10万円という制限がかかってしまうか否かは、
- 賞金の提供者がeスポーツ大会で用いられるゲームの製作販売会社であるか否か(景品表示法上の顧客誘引性の議論)
- 一般ユーザーが観戦する大会であるか否か(同上)
- 賞金の授与者を決める方法が、セールスコンテスト、陳列コンテスト等相手方事業者の取引高その他取引の状況に関する優劣によって定める方法といえるか否か(景品表示法上の懸賞の議論)
といった点によって変わってくる、高度な法律問題です。したがって、eスポーツ大会における賞金の額をどうするかで悩んだ時は、自分だけで判断することなく、専門家に相談すべきです。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務