ベトナムの労働法を弁護士が解説

ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)における労働環境は経済の急速な成長と国際市場への統合に伴いダイナミックな変化を遂げています。その中核となるのが2021年1月に施行された改正労働法(2019年11月20日成立の2019年労働法)です。この法律は国際労働機関(ILO)の基準に準拠しつつ労働者保護をさらに強化する方針を踏襲しており外資系企業を含むすべての使用者に対して極めて厳格な労務管理を要求しています。
ベトナムでは労働契約が有期(更新は原則1回まで)と無期の2種類に厳格化されており試用期間は役職に応じて最大180日まで設定可能です。また2026年より労働契約の電子化が法的に義務付けられるプラットフォームへの移行が始まっており最低賃金も同年から新基準が適用されています。就業規則は10名以上の事業所で労働局への登録が必須であり未登録の状態では合法的な懲戒処分を行うことができません。さらに、解雇手続きは労働組合の関与を必須とするなど極めて厳格であり不当解雇と判定された場合の企業側の賠償リスクは莫大です。最新の裁判例からも実質的な退職強要や手続きの瑕疵が厳しく罰せられる傾向が読み取れます。
本記事では、この労働法に基づく労働契約の体系、労働時間、賃金、就業規則の整備、そして実務上最も大きなリスクとなる懲戒解雇の手続きについて最新の政令や判例を交えながら網羅的に解説します。日本法との比較を随所に盛り込むことで、現地の法務リスクを正確に把握し適切なコンプライアンス体制を構築するための指針を提供します。
この記事の目次
ベトナム労働法の基本理念と日本法との構造的差異
ベトナムの労働法の最大の特徴は徹底した労働者保護の姿勢と手続き要件の絶対的な厳格さにあります。日本の労働基準法や労働契約法も労働者保護を目的としていますが日本法が労使間の合意(36協定など)や判例法理(解雇権濫用法理など)による一定の柔軟性を許容しているのに対し、ベトナム法は成文法上の手続きをわずかでも逸脱すれば直ちに違法と見なされる傾向が極めて強い法体系となっています。2021年1月1日に施行された改正労働法は、それまでの法体系を刷新し企業側により高度なコンプライアンスを求めています。
日本企業の経営者や法務部員にとって、日本国内の感覚で労務管理を行うことは現地法人における深刻な法的紛争の引き金となります。特に就業規則の登録義務や懲戒手続きの要件は、日本における「指導」や「配置転換」の延長線上で処理できるものではなく完全な証拠主義と法定手続きの遵守が求められます。労働法第1条および第2条において同法はベトナム国内で働くすべての労働者および使用者に適用され、外国人労働者も明確に保護の対象となることが規定されています。これらの基本構造を理解することがベトナムにおける労務トラブルを未然に防ぐための第一歩となります。
ベトナムにおける労働契約の種類と期間に関する厳格な規制

日本の労働法制において有期雇用契約は反復更新が広く認められており、通算5年を超えた場合に労働者の申込みによって無期労働契約に転換されるルール(無期転換ルール)が存在します。しかしベトナムの2019年労働法第20条では、労働契約の種類は無期労働契約と有期労働契約の2種類のみに厳格に制限されています。旧法時代に存在した12ヶ月未満の季節労働契約などの短期特例は、法の脱法行為を防ぐ目的から完全に廃止されました。
| 契約の種類 | 期間の定め | 更新の制限 |
| 無期労働契約 | 期間の定めなし | 制限なし |
| 有期労働契約 | 36ヶ月以下 | 原則として1回のみ更新可能 |
有期労働契約は最大36ヶ月の期間で締結でき更新は1回しか認められません。2回目の更新を行う場合または更新後に契約期間が満了した後も労働者が働き続ける場合、その契約は法律の規定により自動的に無期労働契約へと移行します。日本のように細切れの短期契約を何度も繰り返して雇用を調整するという手法はベトナムでは明確な違法行為となります。この厳格な回数制限から企業は採用後比較的早期にその従業員を長期的に雇用し続けるか否かの決断を迫られるということが言えるでしょう。
ベトナムにおける試用期間の法的性質と役職別の期間制限
日本の実務では、試用期間は就業規則の規定に基づき3ヶ月から6ヶ月程度で設定され必要に応じて延長されることが一般的です。日本の判例法理において試用期間は「解約権留保付労働契約」と解釈されており、すでに労働契約が成立していると見なされます。しかしベトナムにおける試用期間(労働法第24条および第25条)は、本採用の労働契約とは異なる独立した「試用契約」として締結することが可能であり、職務の専門性に応じて法定の上限日数が厳格に定められています。同一の職務について試用期間を設けることができるのは1回のみであり、いかなる理由があっても試用期間の延長は法律違反と見なされます。
| 職務の性質・役職 | 試用期間の上限 |
| 企業管理者(社長、役員等) | 180日 |
| 短期大学レベル以上の専門知識・技術を要する職務 | 60日 |
| 中級レベルの専門知識、技術労働、業務スタッフ | 30日 |
| その他の業務 | 6日 |
企業管理職に対して最長180日の試用期間が新設されたことは、外資系企業が現地法人の幹部を慎重に見極める上で極めて有利な要件となっています。ただし、1ヶ月未満の労働契約を締結する場合には試用期間を設けることは法律で禁止されています。試用期間中の給与は労使間の合意によって決定されますが、その職務の正規の給与の85%を下回ってはならないという厳格な下限規制が存在します。試用期間の結果が満足のいくものであれば使用者は直ちに正式な労働契約を締結しなければならず、不合格であれば事前の通知期間を設けることなく試用契約を終了させることができます。
ベトナムにおける労働契約の電子化と国家プラットフォーム

ベトナムにおける最も重要な最新動向の一つが、労働契約の完全デジタル化です。2025年12月24日に公布された政令第337/2025/ND-CP号により、電子労働契約の締結と管理に関する詳細な法的枠組みが制定されました。この政令は、2026年1月1日に施行され移行期間を経た後の2026年7月1日からは内務省が管理する「国家電子労働契約プラットフォーム」の正式稼働に伴い完全な義務適用が開始されます。
すべての電子労働契約は適法なデジタル署名とタイムスタンプを用いて締結されなければならず、国家プラットフォームに登録されて固有の識別コード(ID)が付与されます。この制度から、ベトナム政府が労働市場の透明性確保と税務および社会保険徴収の厳格化を国家主導で強力に推進しているということが言えるでしょう。企業は要件を満たすeコントラクトサービスプロバイダーの選定や従業員のデジタル身分証明書の収集、そして社内システムのセキュリティ強化(ISO27001基準など)を速やかに完了させる必要があります。
この電子労働契約の政令に関する詳細な解説と企業の対応要件は、以下の専門的な情報源で確認することができます。
ベトナムの労働時間、休日、および厳格な残業規制
日本の法定労働時間が原則として1日8時間かつ1週40時間であるのに対し、ベトナムの労働法第105条では法定労働時間は1日8時間、1週間48時間以内と定められています。一見するとベトナムの方が使用者側に有利に見えますが、時間外労働(残業)に関する規制は日本よりも遥かに厳格です。
労働法第107条に基づく残業時間の上限は原則として1ヶ月あたり40時間、1年あたり200時間以内とされています。繊維や電子部品製造など特定の例外的な業種や緊急時に限って年間300時間までの残業が認められますが、これを超えることはいかなる労使合意があっても違法となります。日本では特別条項付きの36協定を結ぶことで年間720時間などの残業が可能となるケースがありますが、ベトナムにそのような柔軟な例外措置は存在しません。労働時間の管理を怠り法定上限を超過させた場合、労働局による厳しい罰則の対象となります。
割増賃金の率も日本の基準(通常25%以上)より高く設定されています。労働法に基づく割増賃金率は通常の労働日における残業は150%、週休日(通常は日曜日)における残業は200%、祝日や有給休暇中の労働は300%の支払いが義務付けられています。また、深夜労働(通常は午後10時から午前6時)に対しては別途30%の加算が行われ、深夜に時間外労働を行った場合はさらに複雑な加算計算が求められます。年次有給休暇については、通常の労働条件で勤務する従業員に対して年間12日付与され、その後5年勤務するごとに1日ずつ増加する仕組みとなっています。
ベトナムの賃金制度と2026年施行の地域別最低賃金の大幅引き上げ

ベトナムの最低賃金は国内を経済発展度合いに応じて4つの地域に分け、それぞれの地域ごとに設定されています。インフレの進行と生活水準の向上を反映し、政府は頻繁に最低賃金を引き上げています。2024年の政令第74/2024/ND-CP号に続き、2025年11月10日には新たな政令第293/2025/ND-CP号が公布され2026年1月1日から施行されました。この新政令により最低賃金は前年比で約7.2%の大幅な引き上げとなりました。
| 地域 | 対象となる主なエリア | 月額最低賃金(2026年) | 時給最低賃金(2026年) |
| 第1地域 | ハノイ市、ホーチミン市の都市部など | 5,310,000 VND | 25,500 VND |
| 第2地域 | ハノイ市、ホーチミン市の郊外、ダナン市など | 4,730,000 VND | 22,700 VND |
| 第3地域 | 地方の主要都市部 | 4,140,000 VND | 20,000 VND |
| 第4地域 | 上記以外の農村部・山間部 | 3,700,000 VND | 17,800 VND |
この最低賃金制度は単に給与の最低限度を定めるだけでなく、社会保険の負担額にも甚大な影響を与えます。ベトナムにおける失業保険の算出基礎となる給与の上限は、この地域別最低賃金の20倍に設定されています。したがって、最低賃金の引き上げは法定福利費の増加を通じて企業の人件費全体に直接的なコストアップをもたらすということが言えるでしょう。法定の最低賃金を下回る給与を支払った使用者に対しては政令第12/2022/ND-CP号に基づき、対象となる労働者の人数に応じて最大7,500万VNDの罰金が科されます。最低賃金改定に関する公式な通知内容は以下の情報源で確認することができます。
参考:最低賃金に関する解説記事
ベトナムの就業規則(内部労働規則)作成と労働局への登録義務
日本の労働基準法においても常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る義務があります。しかし、日本の場合届出を怠っても罰則はあるものの規則の内容自体が合理的であれば労働契約の内容として効力を有する場合があります。これに対しベトナム労働法第118条から第121条に基づく内部労働規則(就業規則)の扱いは全く異なります。
10名以上の労働者を雇用するすべての企業(外国人労働者やパートタイムを含む)は、文書による就業規則を作成し事業所を管轄する労働傷病兵社会問題局(DOLISA)に登録しなければなりません。就業規則はDOLISAによる内容の適法性審査を経て、登録書類の受領日から15日後に初めて法的な効力を生じます。この登録手続きを怠った場合、または就業規則に法定の記載要件が欠如している場合、企業は口頭での叱責を超えるいかなる懲戒処分(減給、降格、解雇など)も合法的に行うことができなくなります。
ベトナムの労働裁判所は、DOLISAに登録されていない就業規則に基づく懲戒解雇を例外なく無効と判断しておりこれが外資系企業にとって最も陥りやすい罠となっています。就業規則には労働時間、職場秩序、労働安全衛生、セクシャルハラスメントの防止、会社資産の保護に関する条項のほか、違反行為に対する具体的な懲戒処分の種類と対象行為を網羅的に記載する必要があります。また、就業規則の作成および改定に際しては、社内の労働組合(従業員代表組織)との事前の協議が法律で義務付けられており、一方的な不利益変更は厳格に制限されています。
ベトナムにおける外国人労働者の就労規制と労働許可証

ベトナムで就労する外国人(日本人駐在員を含む)は、原則として労働許可証(ワークパーミット)を取得しなければなりません。2019年労働法第151条によれば、外国人がベトナムで合法的に働くためには、一定の資格要件を満たした上で事前に労働許可証を取得することが必須とされています。ただし、ベトナム人配偶者を持つ外国人や特定の投資家などは免除対象となりますが、その場合でも労働局から労働許可証免除証明書を取得する手続きは必要です。
労働許可証の有効期間は、最長2年で1回のみ延長が可能です。労働法には、外国人労働者と締結する労働契約の期間は労働許可証の有効期間を超えてはならないと明確に規定されています。無許可での就労あるいは労働許可証の期限が切れた状態での就労は労働契約の全体が無効と宣告され、外国人労働者の国外退去処分や企業に対する高額な罰金といった致命的なリスクを伴います。労働許可証の取得手続きは政令第152/2020/ND-CP号などによって詳細な要件が定められており実務上は数ヶ月の期間を要するため計画的な人員配置が不可欠です。
外国人労働者の雇用契約に関する実務上のリスクについては、ホーチミン市人民裁判所による2021年5月11日の控訴審判決(判決番号:No. 449/2021/LD-PT)が重要な教訓を与えています。この事件では、有期労働契約の期間が満了した際、会社側は契約の更新を行わず労働関係を終了させました。しかし該当する外国人労働者の労働許可証の有効期限はまだ残っていました。労働者は、労働許可証が有効である以上、会社は労働契約を維持する義務があるとして提訴しました。
労働傷病兵社会問題局(DOLISA)も労働契約は許可証の期間と一致していなければならないとの見解を示し、第一審裁判所は原告の主張を全面的に認めました。控訴審では当事者間の和解が成立したため法的な最終判断は避けられましたが、労働許可証の有効期限内に労働契約だけを終了させることの法的リスクの高さが浮き彫りになりました。この判決と外国人雇用の法的リスクに関する詳細は、以下の情報源で確認することができます。
ベトナムにおける定年退職年齢の段階的引き上げ
旧労働法の下では定年退職年齢は男性が60歳、女性が55歳と定められていました。しかし急速な少子高齢化と労働力不足を見据え、2021年施行の新労働法第169条により定年退職年齢の段階的な引き上げが開始されています。具体的には、男性は毎年3ヶ月ずつ引き上げられ2028年までに62歳に到達し、女性は毎年4ヶ月ずつ引き上げられ2035年までに60歳に到達するスケジュールとなっています。日本が経験してきた高齢者雇用の確保という政策課題と同様に、ベトナムにおいても社会保険制度の維持と熟練労働者の活用に向けた法整備が進められているということが言えるでしょう。
ベトナムにおける懲戒解雇の厳格な手続きと不当解雇のリスク
ベトナムにおいて従業員を解雇することは極めて困難なプロセスを伴います。日本法では業務命令違反や能力不足を理由とする解雇は、就業規則に根拠がありかつ客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当であると認められれば有効となります(解雇権濫用法理)。しかしベトナム労働法第125条は、企業が一方的に労働関係を断ち切る「懲戒解雇」を適用できる事由を以下のような極めて重大な違反行為に限定しています。
- 職場における窃盗、横領、賭博、意図的な傷害行為、薬物の使用
- 使用者の技術上・営業上の秘密の漏洩、知的財産権の侵害、会社の資産や利益に重大な損害を与える行為、または職場におけるセクシャルハラスメント
- 過去に昇給延期や降格の懲戒処分を受けその効力が消滅する前に違反行為を繰り返した場合
- 正当な理由なく月に5日または年に20日以上の無断欠勤を行った場合
能力不足のみを理由とした懲戒解雇は法律上認められていません。さらにこれらの重大な違反行為が実際に存在したとしても、労働法第122条に基づく厳格な手続きを踏まなければ解雇は即座に違法と見なされます。具体的には、以下の手続きをすべて完全に履践することが必須となります。
- 違反行為の明確な証拠の収集と検証
- 懲戒委員会の開催の少なくとも5日前に従業員本人、社内の労働組合(従業員代表組織)、および法定代理人(該当する場合)に対して内容、時間、場所を記した書面による事前の開催通知を行うこと
- 懲戒委員会において労働組合の代表者および従業員本人が出席し十分な弁明の機会を与えること(従業員は弁護士の同席を求めることも可能)
- 委員会の審議内容を記録した議事録を作成し出席者全員の署名を得ること
これらのプロセスのいずれか一つでも欠如していれば、たとえ従業員が明らかな横領などの犯罪行為を行っていたとしても手続きの瑕疵を理由に解雇は無効となります。また妊娠中の女性、産休中の女性、生後12ヶ月未満の子供を養育している従業員、病気休暇中や労災療養中の従業員に対していかなる懲戒処分を行うことも法律で固く禁止されています。
不当解雇における企業側の深刻な法的リスク
法定の要件や手続きを満たさずに労働契約を一方的に解除した場合労働法第39条および第41条に基づき「違法な一方的契約解除(不当解雇)」として扱われます。この場合、企業は以下の莫大な法的および経済的責任を負うことになります。
- 従業員の原職への復帰義務
- 違法に解雇されていた全期間にわたる賃金、社会保険料、医療保険料、失業保険料の全額支払い
- 従業員に対する最低2ヶ月分の給与に相当する精神的苦痛への損害賠償
もし従業員が原職への復帰を望まない場合、企業は上記の支払いに加えて法律に基づく退職金(勤続年数に応じた手当)を支払う必要があります。さらに、政令第12/2022/ND-CP号に基づく行政罰として企業に対して最大7,500万VNDの罰金が科される可能性もあります。不当解雇に関する法的根拠と企業側の賠償責任の詳細については、以下の専門機関の情報源で確認することができます。
ベトナムの労働紛争に関する最新判例の分析

ベトナムの司法実務において、不当解雇や手続き違反に関する裁判所の判断は極めて厳格です。労働者保護の観点から企業側のコンプライアンス違反を厳しく咎め、巨額の賠償を命じる判決が相次いでいます。以下に近年の重要な裁判例を解説します。
CGV Cinemas Vietnam事件(退職強要と違法な配置転換)
この事件は、ベトナム最大手の映画館チェーンであるCGV Cinemas Vietnamにおいて、営業およびマーケティング責任者であった英国人幹部(Benedict Daniel Sullivan氏)が不当に降格され実質的に解雇されたとして会社を提訴したものです。原告は月額4,000ドルの給与とコミッションを得る労働契約を結んでいましたが、会社側は高額なコミッションの支払いを免れる意図から原告を突然ロビーの監督係に配置転換しました。精神的および肉体的な圧力を受けた原告は管理職からの「辞任届」を提出しましたが、会社はこれを雇用関係全体からの「退職の意思表示」として扱い翌日に原告を解雇しました。
第一審では会社側が勝訴しましたが、ホーチミン市高等人民裁判所(2024年7月)はこれを破棄して差し戻し、その後の再審においてホーチミン市人民裁判所は2026年3月26日原告の訴えを全面的に認める判決を下しました。裁判所は、会社が原告の辞任届を労働契約の終了の根拠としたことは「不注意かつ違法」であると断じ、原告の真意を確認する手続きを怠ったと厳しく指摘しました。また配置転換自体がワークパーミットの記載内容と合致しない違法な業務命令であったと認定されました。結果として、未払いのコミッションや不当解雇に対する損害賠償など合計38億VND(約14万4,000米ドル)という巨額の支払いが会社に命じられました。
この判決から、外資系企業が外国人幹部に対して行う強引な配置転換や自己都合退職を偽装した解雇手続きは、裁判所によって容易に覆され甚大な経済的損失を生むということが言えるでしょう。
企業法に基づく解任と労働法に基づく解雇の混同リスク
Pacific Petroleum Export And Import Trading Joint Stock Company(Pacific Gas)の事案においては、企業法および会社の定款に基づく「総取締役(General Director)の解任」という会社法上の手続きがそのまま労働法上の「労働契約の解除」を正当化するものではないとの司法判断が示されました。役員としての委任関係の終了と労働者としての雇用関係の終了は法的に全く別次元の問題であり、労働契約を合法的に終了させるためにはあくまで労働法が規定する厳格な手続き(事前通知、正当な理由の客観的立証、就業規則への完全な準拠など)を満たさなければならないと認定されました。
この事例は、日本企業が現地法人の代表者や役員を交代させる際に会社法上の手続きだけで満足してしまい、背後にある労働法上の義務を見落とすという典型的なリスクに対して強い警鐘を鳴らすものです。これらの裁判例の詳細な事実関係と法的な分析は以下の情報源で確認することができます。
まとめ
ベトナムにおける労務管理は、日本の法体系と比較して成文法上の手続き要件が極めて厳格であり企業側に一切の妥協を許さない仕組みとなっています。労働契約が有期と無期の2種類に限定され試用期間や労働時間の上限が厳しく管理されている点に加え、2026年から完全義務化される労働契約の電子化(国家プラットフォームへの登録)や、毎年改定される新しい最低賃金制度など法令のアップデートに継続的に対応し続ける必要があります。とりわけ10名以上の事業所における就業規則の労働局への登録義務や懲戒処分時の労働組合の関与といった手続きは、一つでも欠落すれば数年越しの労働裁判と莫大な賠償金に直結するリスクを孕んでいます。
最新の裁判例が示す通り、実質的な退職強要や手続きの脱法行為は司法によって厳格に是正されています。モノリス法律事務所では、こうしたベトナム現地の最新法令に基づく就業規則の適法な整備から複雑な労務トラブルの予防および有事の対応に至るまで、日本企業の皆様の安全なビジネス展開をサポートいたします。現地の法務リスクを適切に管理し、持続可能な企業成長を実現するための強固な基盤作りを進めていくことがベトナムビジネスの成功において不可欠です。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: ベトナム社会主義共和国海外事業

































