止まらぬネット炎上~対策のポイントと事例を紹介~
「ネット炎上」とは、「ネット上で特定の対象に対して誹謗中傷が殺到して収集がつかなくなった状態」もしくは、「特定の話題に関する議論の結果多くのブログや掲示板などでバッシングが行われる状態」とされています。
炎上発生件数は、SNSが普及し始めた2011年を境に急激に増加しており、現在も毎月100件ほどの個人・企業が炎上の対象となっています。ここでは、ネット炎上の概要と事例について解説します。
この記事の目次
炎上の媒体
ネット炎上が発生したメディアを見ると、2008 年以降 Twitter の割合が急速に伸び続け、2011 年に約半数に達してからは横ばいとなっています。
Twitterは140字という字数制限のため、しばしば断定を含む強い言葉の応酬になってしまい、トラブルが生じやすいのが特徴です。
また、従来は「炎上しづらいメディア」とされてきた Instagram への投稿が炎上するケースも増加していますが、要因のひとつとして、Instagram の「ストーリー」機能があると指摘されています。
Instagram自体はTwitterとは異なり、閉鎖的なコミュニケーションが中心で、拡散力は高くありません。ただ、24 時間で消えるということで安易に不適切な投稿をしたものが、Twitterなどに転載され、拡散し炎上へと至るケースが頻発しています。
炎上の構造
多種多様な炎上がネットを騒がせていますが、経緯や拡散のタイプが異なるように見えても、実際には、あらゆる炎上は発生から拡大まではほぼ同じような流れをたどります。
炎上の5つのプロセス
炎上は、以下の5つのプロセスをたどります。
ステップ1:炎上のきっかけとなる事件が発生する
ステップ2:Twitter・Instagram・Facebook・掲示板などに投稿される
ステップ3:投稿された内容がTwitterなどで拡散される
ステップ4:話題化と拡散の経緯が、「まとめサイト」や「ネットニュース」に掲載される
ステップ5:マスメディアに取り上げられ、一般の人が認知する
最初はSNS上で批判的に取り上げられ、それが拡散されていきます。この段階ではSNS上のシェアだけであり、範囲は限定的です。
しかし、事件がネットメディアで取り上げられ“延焼”し、マスメディアで取り上げられると、大きな炎上となってしまうというわけです。
「まとめサイト」や発信型ウェブメディアには月間1億PVを超えるものもあり、このようなサイトの運営者は、「情報がリーチする人数」に比例した広告収入を得ています。そのためPV 数を稼ぐために過激なタイトルをつけたり、偏った見方で対象を叩く記事を書いたりすることが多く、炎上を待ち構えています。彼らが取り上げることにより、炎上となります。
炎上とマスメディア
さらに、炎上を巨大化・深刻化させるのはテレビや新聞等のマスメディアの報道です。
ネットメディアの台頭により、若者を中心としたテレビや新聞離れが進みつつあるとはいえ、マスメディアはいまだ社会に対して多大な影響力を持っており、情報源として信頼されています。
さらに、最近のマスメディアは低コストで安易な情報収集手段としてこうしたまとめサイトや発信型ウェブメディアをチェックしており、炎上ネタを積極的に取り上げるようになっています。一般の人が炎上を知る経路として最も多かったのはテレビのバラエティ番組(58.8%)で、Twitterは23.2%にとどまっていたという調査結果もあります。
つまり、炎上とはネット上の現象にもかかわらず、実際にはマスメディアが最も広く拡散させているという見方もできます。
さらに、マスメディアで報道されて一般に認知されたものがまたネットメディア上で拡散されるといった「メディア空間」における相互作用により、炎上に拍車がかかるのも最近の特徴です。
炎上に参加する人々
こうした炎上には、どのような、そしてどれくらいの人数が関わっているのでしょうか。
炎上の参加者数
当サイトの別記事でも書きましたが、炎上参加者はネット利用者の数パーセント以下のごく少数にすぎないという点において、結果は共通しています。
総務省の「情報流通業政局情報通信政策課情報通信経済室」による「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究成果報告書」(2019年3月)で引用されている2016年の調査研究によれば、炎上参加者はインターネット利用者数の 0.5%以下であると推定されており、個別事件単位の人数で見れば数千人程度だそうです。
さらにこのうちの大半は一人でつぶやくだけであり、直接に当事者を攻撃してアカウント閉鎖などに追い込む炎上参加者は数人~数十人程度にとどまるとのことです。
炎上参加者とネット世論
ごく少数の炎上参加者のなかでもさらにわずかの人の声が「ネット世論」を形成していることを示す調査結果もあります。
同じ2016年の別の調査では、現役の炎上参加者のうち66%が炎上に加担したのは年間3件以内に留まる一方で、年間11件以上、平均してほぼ毎月炎上に加担している人が10%いるとのことです。また、炎上1件当たりに最も多く書き込んだ回数を見ると、69%が3回以下であるのに対し、51回以上の人が3%いることがわかりました。
つまり、1件あたりの書き込み回数3回以下の軽い炎上参加者全員の書き込み件数を合計しても、1件当たり51回以上の特異な炎上参加者の書き込み件数に及ばないことになります。もともと0.5%である少数の炎上参加者のさらにごくわずかな人が騒いでいるだけだということがわかります。
炎上を作る人数
炎上はひとりで作り出すことはなかなか大変なのですが、3人いれば簡単に作れてしまいます。中小企業の場合、犯人は特定少数と考えて差し支えありません。まとめサイトなどで生み出される炎上は、不特定多数が群がっているように見えますが、発信者情報開示請求を行って発信者を突き止めると、投稿元は3人くらいしかいなかったなどということはよくあることです。
例えば、サイエンスライターの片瀬久美子さんが、森友・加計問題に関する公文書開示についての政府の説明責任につきTwitterで言及したところ、「若い頃淫売やって学位取得」「子供に淫売術を教授して実施を強要」などと、長期間にわたって、執拗に誹謗中傷された事案があります。
これらの投稿により名誉毀損を問われた60代の男性被告は、数百のアカウント、いわゆる「捨て垢」を作成し、それを使って、次から次へと誹謗中傷やデマ流布を繰り返していました。こういう場合も、少なくないと考えられます。
匿名状況
発言が匿名となる状況では、責任感が低下し、他の参加者への配慮がなくなり、言いたい放題になってしまいます。その結果、議論が平等化する反面、他者より目立とうとする動機付けが働き、過激な意見が優勢になり、他者を攻撃し、罵倒することが多くなります。こうした状況下では、「もっと冷静に考えるべきだ」などの中庸で冷静な意見や、仲裁を試みようとする発言は、場の雰囲気にそぐわない発言として無視されるか嘲笑されるだけとなってしまいます。
匿名と世論
極端で過激な意見の応酬が繰り広げられるネット上の言論は、社会全体と乖離している可能性があります。ネット上で批判や誹謗中傷を書き込む人はネット利用者のごく少数に過ぎなくても、発信したい思いが強ければ強いほど、何回も書き込んで存在感を増すことになります。結果として、過激な意見が蔓延すればするほど、中庸の意見を持つ人は萎縮し、発言を控えるようになります。
匿名と投稿者数
もう一つ忘れてはならないのは、匿名下では発信者の実数はわからず、少数の意見が多数の意見とみなされてしまう可能性があることです。
炎上が起こると、標的とされた個人や企業は社会全体から攻撃されているように思ってしまいがちです。SNSは誹謗中傷であふれ、世界全体が敵になったように思えるかもしれません。しかし、実際に誹謗中傷しているのは少数の人間であり、しかも、多数の捨て垢を作って誹謗中傷を繰り返す、ほんの一握りの人々である可能性もあり、極端な場合にはたった一人である可能性すらあるのです。
市民の新型コロナウイルスに対する不安が最も高かったように思える2020年4月7日、「#東京脱出」というハッシュタグが拡散されていると朝日新聞が報じました。東京都で感染者が急増しているので、緊急事態宣言が出された東京を離れて地方に脱出しようとする人がこのようなハッシュタグを広く拡散しているという記事でしたが、朝日新聞公式Twitterがこの記事を配信するまでには、28件しか投稿・拡散されていなかったことが後でわかりました。しかし、記事配信の翌日には、1日で1万5000件以上の投稿・拡散があったのです。
まとめ
炎上は、心理的被害のみならず、企業の株価や収益の減少といった金銭的被害、また個人の生活や就職、結婚や進学にも影響が出るような、深刻な被害をもたらす可能性があります。
しかし、炎上を起こしている人々は、少数で、そこで形成される意見も社会全体からは乖離した人々である可能性が高いといえます。もちろん、だからといって軽視することはできず、むしろ少数の人々であるからこそ、速やかに、冷静に、断固とした対応をとる必要があります。
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