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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)での「ブラック企業」投稿は名誉毀損か

風評被害対策

ちゃんねる(旧2ちゃんねる)での「ブラック企業」投稿は名誉毀損か

当事務所で、企業に対する「中もブラック」という5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)への投稿について、違法であるという判決を得ました。

企業に対する「ブラック企業」という誹謗中傷が違法であるか否か、削除やIP開示・住所氏名開示などの投稿者特定が可能であるか否かは、従来から議論のあったテーマです。例えば、

この会社はサービス残業が平均で月100時間を超えているなど、ブラック企業だ。

というように、明確かつ具体的な事実を書いていれば、その「具体的」な事実、上記の例の場合「サービス残業が平均で月100時間を超えている」という点に虚偽があれば、その投稿は違法です。ここまでは、おそらくあまり議論の余地がない問題だと思われます。

しかし例えば、単に「この会社はブラック」というように、ある程度抽象的な記載を行うような投稿については、

  • それは個人の感想に近いので違法ではない
  • 具体的に残業時間などを書かない場合は名誉毀損ではなく侮辱罪の問題で、ある程度は社会通念上許される

といった見解もありました。

しかし、「中もブラック」という記載であっても、それは(少なくとも一定のケースでは)名誉毀損になる、という判決です。以下、詳細を解説します。

名誉毀損が成立するための条件とは

まず、名誉毀損は、簡単に言うと、以下の条件が全て満たされる場合に成立します。

  1. 具体的な事実を記載(摘示)していること
  2. それが原告側(個人や会社)に不利益をもたらすこと(社会的評価が低下すること)
  3. それが虚偽であること(かつそれを真実と信じるべき相当な理由もないこと)

名誉毀損の成立要件に関しては下記記事で詳細に解説しています。

会社への「ブラック企業」投稿は名誉毀損か

「ブラック企業」と言う投稿が名誉毀損となる場合とは?

会社に対する「ブラック」という投稿の場合、一番問題なのは、1です。既に解説したように、

  • 「ブラック」は具体的ではないから、せいぜい侮辱罪の問題(だが多少の悪口が常に違法とならないように、ある程度の批判は社会的に許される)
  • 「ブラック」は個人の感想の問題であり、違法となるケースはほぼない

といった見解もありました。これらに関しては、別記事で詳細に解説しています。

5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)に関する本件事件の概要

本件は、ある会社が、その会社に関する5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)スレッド上で、「中もブラック」と書き込まれた、という案件です。

5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)における誹謗中傷案件は、概ね、下記のような手順で進行します。

  1. まず、裁判外交渉や仮処分で、削除とIPアドレス開示を求める
  2. IPアドレスが開示された場合、裁判で、投稿者の住所氏名の開示を求める

今回の判決は、2段階のものです。

こうしたフローについては、別記事で詳細に解説しています。

「判決」は、いわゆる正式な裁判におけるものであり、厳格な法的判断を踏まえて行われるものです。

「中もブラック」は名誉毀損に該当する

本件において、裁判所は、下記のような判断を行いました。

本件スレッドを見ると、本件投稿記事1に至るまでの投稿には(中略)などと原告の社内の環境について述べる部分と(中略)が混在していることが明らかである。
そうすると、一般読者の普通の注意と読み方を基準として上記の投稿の後にされた本件投稿記事1を読むと、本件投稿記事1記載の「中」とは原告の社内を(中略)指すと読むのが自然であり、本件投稿記事1は原告社内の労働環境が劣悪ないわゆるブラック企業(中略)である旨の事実を摘示したものと認められる。
(中略)
この点、被告(中略)は、「ブラック」とは多義的であるとし、社会的評価を低下させるものではないと主張する。しかし、上記のとおり、本件投稿記事1が原告社内の労働環境について言及している投稿の後に記載されている点からすれば、いわゆるブラック企業を指しているとみるのが相当であるため、同被告の主張は採用できない。

東京地裁令和元年7月18日判決

本件スレッドは、会社である原告に関するスレッドであり、問題の「中もブラック」という投稿は、レス番号62でした。そしてそこに至るまでの投稿の中には

  • 上司が素晴らしいといった投稿に対して、それがあり得ないと述べるレス番号5
  • 入社しない方が良いなどと述べるレス番号11

が存在しました。言い換えれば、

  • 例えば「サービス残業が平均で月100時間を超えている」といったレベルで「具体的」な投稿は存在しない
  • 必ずしも直前のレスという訳でもなく、同一スレッド内の別の投稿の話

です。

しかし裁判所は、そうだとしても、

  1. 原告に関するスレッドであった
  2. テーマとして労働環境に関して述べるレスも混在するスレッドであった
  3. であれば、「中もブラック」という記載は、原告がブラック企業であるという意味に読むのが普通
  4. そしてそれは(原告の労働環境が劣悪ではないという証拠があり、真実でないのであれば)名誉毀損に該当する

という判断を行った訳です。

2ちゃんねる(2ch.sc)やコピーサイト等でも同様と思われる

この判決は、結局のところ、

  1. 掲示板スレッド内で、労働環境に関するレスもあった上で
  2. その上で「ブラック」と言えば、それはブラック企業の意味であり
  3. そしてそれは(上記のとおり)名誉毀損に該当する

という旨を判断するものです。

5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)のみならず、2ちゃんねる(2ch.sc)や、そのコピーサイト・まとめサイト、爆サイやjpnumber、telnaviなど、特定企業を話題にしたスレッド(ページ)が作成されるその他の掲示板サイトでも、同様の判断となる可能性が高いものといえます。

まとめ

会社に対して「ブラック」と言えば、それはその会社がブラック企業であるというように読み取れるのが自然であり、投稿者も、そのように読まれることを当然に理解した上で記載を行っているものと思われます。そして会社にとって、「ブラック」と言われることは、求人面などに悪影響のある、耐えがたいものです。

この意味で、同判決は、ある意味「当然」のものではあるのですが、企業に対する「ブラック」という誹謗中傷が、上記のような条件の下でも違法であるとの判断が行われたものと言えます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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