マンションコミュニティの口コミ投稿者を特定する方法
マンションコミュニティは、「マンション購入検討者を応援する口コミ掲示版サイト」としてミクル株式会社が運営している掲示板で、主に新築分譲マンションについて、購入者や購入検討者が住み心地や販売状況、周辺情報などを交換する、この種のものとしては日本最大級の規模の掲示板です。
マンションコミュニティでは多くの場合、個別のマンションごとにスレッドが立ち、さらに、スレッド中に購入検討者向けの「検討スレ」、契約者向けの「住民スレ」が設置されています。さらに、個別のマンションごとのスレッド内に当該マンションの物件概要なども掲載されているため、マンション購入検討者にとっては非常に役立つものとなっています。
しかし、匿名掲示板ということもあり、根も葉もない誹謗中傷が書き込まれることも多く、そうした記事は、マンションの売れ行きや販売業者の業績に大きな影響を与える可能性があります。
この記事の目次
誹謗中傷記事と投稿者特定
有益な記事ばかりでなく、販売会社を「デート商法による不正営業を行っている」「ブラック企業であり、詐欺業者だ」と、誹謗中傷するような記事が投稿されることが少なくありません。
こうした悪質な書き込みや誹謗中傷は、運営に申請して削除してもらうという対応が考えられますが、うまくいかない場合には、裁判所に記事削除の仮処分を申請することが可能です。しかし、これらにより記事が削除されたとしても、悪質な書き込みや誹謗中傷が繰り返されるのであれば、根本的な解決とはなりません。
こうした場合には、投稿者を特定して法的な手段をとり、責任を追及する必要があります。
投稿者特定の手順1:IPアドレス開示請求
投稿者を特定するためにはまず、マンションコミュニティに対して発信者の情報開示請求を行う必要があり、これはマンションコミュニティの運営であるミクル株式会社に、「情報開示請求書」を郵送することで始まります。情報開示請求書には、悪質な書き込みや誹謗中傷が書きこまれたサイトのURL(アドレス)、請求者の氏名と住所、開示を求める理由等を記載する必要があります。
IPアドレスとタイムスタンプ
マンションコミュニティは、完全匿名で投稿できるので、運営は、ある記事の投稿者について、その氏名や住所を知りません。しかし、運営は投稿者の「IPアドレスとタイムスタンプ」は知っています。
「IPアドレス」とは、インターネット上における、いわば住所情報です。インターネットに接続しているあらゆるマシン、自宅のPCやスマートフォン等は、固有のIPアドレスという住所情報を持っています。インターネットの仕組み上、相手(投稿者)のIPアドレスがわからなければ、通信を行うことはできないからです。
あるサイトに接続したり、投稿が行われたりした場合、その投稿者のIPアドレスとアクセスした時間である「タイムスタンプ」が記録され、サイト管理者は通常、そのIPアドレスとタイムスタンプを記録しています。だから、「この投稿を行った者のIPアドレスとタイムスタンプを開示してくれ」と、求めるとよいのです。
仮処分手続による投稿者のIPアドレスとタイムスタンプ開示請求
発信者情報開示請求が行われると、サイト管理者は、請求者の主張が法律上の要件を満たしているかどうかを判断して、開示・非開示を決定します。任意で開示請求に応じる場合もありますが、ほとんどの場合、「裁判所による公的判断が下されない限り開示請求には応じられない」と言ってくるので、マンションコミュニティを相手とした発信者情報開示の仮処分を申し立てることとなります。マンションコミュニティに限らず、サイト管理者からすれば書き込みをした人物は大事な顧客ですし、個人情報保護の観点からも、任意の情報開示請求に応じるケースはほとんどないのが実情です。
そこで、裁判所手続を用いなければ実現できないことになるのですが、この裁判所手続は、裁判ではなく仮処分という、迅速な手続となります。裁判は時間がかかるのですが、仮処分の場合には、1-2ヶ月程度で実施可能です。
裁判所の仮処分によって情報開示が認められたら、マンションコミュニティは速やかにIPアドレスとタイムスタンプを開示してくれます。
発信者情報開示の条件
ネット上で権利が侵害された場合、プロバイダ責任法という法律に基づいて、プロバイダに対して発信者情報開示を請求できるのですが、それには2つの条件があります。
プロバイダ責任制限法第4条には「権利が侵害された」ことが明らかであり、「正当な理由がある」ときに、発信者情報の開示を求めることができるとあります。
「権利が侵害された」ことが明らかとは
投稿が悪質で執拗なものであったとしても、違法なものでなければ、「権利が侵害された」と主張することはできず、発信者情報の開示を請求することはできません。例えば、「どんな人がこのような投稿をしたのか知りたい」というような好奇心やあいまいな理由では、情報開示を請求することはできません。
悪質な書き込みや誹謗中傷の場合、限度を超えたものについては、名誉毀損や名誉感情侵害(侮辱罪)を問うことができる可能性が高いと言えます。こうした行為は違法であり、民事上も不法行為となります。民法第709条には「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とあります。
これらを根拠に、また、マンションコミュニティの場合被害を訴えるのは企業である場合が多いので、信用毀損罪や業務妨害罪にあたるとして、発信者情報開示を請求する場合もありますが、投稿が権利を侵害しているか否かの見極めは難しいので、経験豊かな弁護士の判断を仰ぐことが必要な場合が多くなります。
「正当な理由がある」とは
発信者情報開示請求には、情報を取得する正当な理由が必要です。何のために請求しているのか不明であるなら、開示してもらえません。
マンションコミュニティの投稿者に対してであれば、
- 発信者に対する削除要請のため
- 民事上の損害賠償請求権の行使のため
- 刑事告発などの法的手段をとるにあたり本人を特定するため
といったような場合に、「正当な理由がある」と認められます。
投稿者特定の手順2:ログの削除禁止
手順1で投稿者のIPアドレスとタイムスタンプが開示されたら、投稿者が用いている経由プロバイダを特定することができます。
そこで、次に、経由プロバイダを相手に「この時間にこのIPアドレスで接続していた人間の住所と氏名を開示せよ」という、ログ情報の開示を請求することになりますが、ここで、時間的限界という問題が生じます。
というのは、経由プロバイダが保有しているログ情報の量は膨大なものであり、携帯キャリアであれば数千万人、固定回線のプロバイダでも数百万人分の、ログが記録されています。そこで、プロバイダは、ログを一定期間で削除することにしており、携帯キャリアは3ヶ月程度、固定回線のプロバイダは1年程度で削除してしまいます。そのため、投稿から訴訟提起までの間に時間がかかってしまうと、ログが消えてしまう可能性が生じるのです。
経由プロバイダに対して発信者の氏名等の開示を求めるときには、住所・氏名という重大な個人情報を求めることになるので、原則として通常の民事訴訟による必要があります。ところが、通常の民事訴訟の手続きが終了するまでには数か月程度かかることが多いため、その間にプロバイダが保存しているログを消去しないように、つまり証拠がなくなってしまわないように、ログを消去することを禁止する仮処分手続きが必要となります。
ただ、経由プロバイダは「裁判所を通じて住所・氏名の開示を求めるので、しばらくログを保存しておいてほしい」という通知を出せば保存しておいてくれる場合がほとんどなので、この部分は通知だけで足りるケースも多くなっています。
投稿者特定の手順3:発信者情報開示請求の訴訟
アクセスログの保存が保証されたら、経由プロバイダを相手方とする発信者情報開示請求訴訟を提起し、発信者に関する「住所・氏名・メールアドレス」等の情報の開示を求めます。
経由プロバイダは原則として発信者の同意がない限り、発信者情報の開示には応じません。プロバイダが要件の判断を誤って発信者情報の開示を行った場合、発信者に対して損害賠償責任を負う可能性があるだけでなく、場合によっては刑事上の責任を問われる可能性もあるので、経由プロバイダは慎重にならざるを得ないのです。
そこで、本訴訟となるのですが、訴訟の主な争点は、対象投稿の記載が、原告(開示請求者)の権利を侵害するものであることが明白か否かです。
投稿者特定の手順4:損害賠償請求
請求が認められれば、裁判所は経由プロバイダに対し、記事投稿の際に利用された契約者の氏名、住所、メールアドレス等の開示を命じてくれます。
経由プロバイダは、速やかに、発信者情報を開示してくれますが、発信者が特定されたら、以下のような選択肢が生じます。
- 今後誹謗中傷を行わないと誓約させる
- 損害賠償を請求する
- かかった経費を請求する
- 刑事告訴をする
上のどれかを選択することができますし、もちろん、複数を選択することも可能です。
なお、経費としては、削除については着手金が20万円程度、成果報酬金が15万円程度、IPアドレス開示については着手金が20-30万円程度、成果報酬金が15-20万円程度、削除&IPアドレス開示の場合には着手金が30万円程度、成果報酬金が30万円程度で、住所氏名開示については着手金が30万円程度、成果報酬金が20万円程度、が「相場」とされています。
まとめ
ネット上で誹謗中傷を受けた場合、拡散して被害が大きくならないうちに対応することが必要ですが、誹謗中傷対策の経験が豊富な弁護士に依頼すると、スピーディーな対応が可能となります。
カテゴリー: 風評被害対策