弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

「事業譲渡」と「会社分割」の知っておきたいメリットとデメリット

企業同士のM&Aや事業承継の場面では、どのような手法で事業を承継させるかストラクチャーを検討する必要があります。法的なストラクチャーには複数ありますが、事業を承継する上では「事業譲渡」や「会社分割」を選択することがよくあります

これ以外のストラクチャーについては、下記記事にて詳細に解説しています。

事業譲渡と会社分割のいずれも、法律で定められた仕組みであり、必要な手続も別に定められています。そこで、以下では事業譲渡と会社分割の違いとそれぞれのメリット・デメリットなどについて解説します。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社の事業のうち一部または全部を承継先の第三者に譲渡することをいいます。

事業譲渡は、会社合併のように会社の有する資産や債務を一括で承継させるものではなく、売り手の会社の有する資産や債務、取引上の地位などを、個別の契約で一つずつ承継させるものです。このため、事業譲渡は個々の売買契約等が束になったものということができます。

また、事業譲渡による場合には、資産の一部を承継させずに売り手の会社に残すなど柔軟な対応が可能となります。

実際の事業譲渡における手続に関しては、下記記事でも詳細に解説しています。

会社分割とは

会社分割とは、株式会社又は合同会社の事業について、その権利義務の全部又は一部を買い手の会社に包括的に承継することをいいます。

包括的に承継するという点が会社分割の特徴であり、会社分割の場合には事業や資産ごとに個別に買い手と売り手とで売買契約等を締結する必要はありません

会社分割には、次の2種類があります。

  • 新設分割
  • 吸収分割

新設分割とは、買い手の会社を新規に設立する場合をいいます。他方、吸収分割とは、買い手の会社が既存の会社である場合です。

事業譲渡と会社分割の違い

事業譲渡と会社分割はいずれもM&Aなどによる事業承継の場面で活用されるストラクチャーであり、一方の事業者から承継先の事業者に事業や資産が移転する効果を持つという点では同じです。もっとも、両者には次のような違いがあります。

会社法上の組織再編行為か

事業譲渡は、個別の取引であり会社法上の「組織再編行為」ではありません。これに対し、会社分割は会社法上の「組織再編行為」にあたります。

会社法上の組織再編にあたる場合には、1つの契約により承継元の会社が有する事業や資産が一括で承継されます。これを包括承継と呼びます。

これに対し、事業譲渡のように組織再編行為にあたらない場合には、個別の契約によって一つ一つ事業などを譲渡する必要があります。

債権者保護手続の要否

会社分割のように会社法上の組織再編行為である場合には、個々の債権者の同意を得ずに包括的に財産等が承継されることになります。このため、組織再編を行う旨を債権者に対して事前に通知し、債権者からの異議申立てを受け付ける手続が法定されています。

これに対し、事業譲渡の場合には、債権者からの異議申立ての手続が不要である代わりに、個々の譲渡契約の際に債権者から個別に同意を得る必要があります。

雇用関係の引継ぎ

事業譲渡の場合に個別の譲渡契約が必要であることは、雇用契約においても例外ではありません。雇用契約を買い手に引き継ぎたい場合には、買い手の事業者が労働者と個別に雇用契約を締結する必要があります。

これに対し、会社分割の場合には売り手の会社の資産等が包括的に承継されるという性質上、雇用契約についても新たに締結し直すことなく、買い手に雇用契約が承継されます。

事業譲渡と会社分割のメリット・デメリット

以上みてきたように事業譲渡と会社分割には手続上の違いがあります。実際にM&Aを検討する場面で、いずれを採用すべきか判断するためには、それぞれのメリットとデメリットを理解しておく必要があります。

事業譲渡のメリット・デメリット

まず、事業譲渡についてメリットとデメリットにわけて説明します。

事業譲渡のメリット

事業譲渡のメリットは、承継する事業を選択できるという点にあります。このため、後継者不足の中小企業において、少しずつ会社規模を縮小するために事業譲渡により事業の一部を他社に承継することができます。

このとき、会社にとって運営上の負担の少ない事業のみを残すというような細かい調整が可能となるのが事業譲渡のメリットといえます。

中小企業の事業承継の場面以外でも、資金が必要などの理由で、将来性はあるが自社では活かしきれない事業を、資金力がありシナジー効果が見込める企業に事業譲渡するといったことも可能です。

事業譲渡のデメリット

事業譲渡を利用する際には、課税と負債の処理について十分な注意が必要です。これは、事業譲渡が資産や負債、契約上の地位などを個別に承継するために課税や負債が複雑になりがちなためです。

課税処理に関して、譲渡の対象となる資産から負債を差し引いた金額がプラスになる場合には、売り手にとっては法人税の課税対象となることがあります。このほか、通常の売買契約などと同様に消費税が課税されます。

また、事業譲渡では事業に関する資産のみを譲渡し、負債については売り手の会社に残すことも可能です。ただし、基本的に債権者から個別に同意を得る必要があります。特に負債が金融機関の融資である場合には、債務引受となりますので金融機関からの同意がなければ承継することはできないのが原則です。

このように、事業譲渡では承継する資産や負債を柔軟に選択できるメリットの反面として、承継するための手続が煩雑になりやすいというデメリットがあります。

会社分割のメリット・デメリット

次に、会社分割について、メリットとデメリットを説明します。

会社分割のメリット

会社分割は、前述のとおり売り手の会社が有していた債権債務が承継先に包括的に承継されます。このため、個々の契約ごとに債権者の同意を得るなどの煩雑な手続が不要となります。承継される権利義務の中には従業員との雇用契約も含まれますので、個々の従業員と改めて雇用契約を結び直すことも必要ありません。

また、会社分割の場合には、譲渡の対価を買い手の会社の株式とすることができます。これにより、買い手は、現金を用意することなく事業を承継することが可能になります。

会社分割のデメリット

会社分割により譲渡益を得た場合には、当該利益に対して法人税が課税されます。もっとも、一定の条件(適格要件)を満たしている場合には、譲渡益に課税されないなどの特例もあります。

このため、会社分割を行う際には可能な限り適格要件を満たすように承継をすることとなりますが、この検証や確認などの手続に手間がかかることが会社分割のデメリットといえます。

まとめ

M&Aなどによる事業の承継を検討している会社経営者やM&Aの担当者は、それぞれのストラクチャーの基本的な内容や違いは理解しておく必要があります。

もっとも、実際に必要となる手続は非常に複雑です。また、大規模な事業譲渡や会社分割ではリスク回避のために法務や会計・税務のデューデリジェンスが不可欠です。

このため、実際に事業譲渡や会社分割を実行に移す場合には、早い段階で弁護士などに相談することをおすすめします。また、税務や会計面に関しては公認会計士や税理士の関与も求めることが通常です。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る