M&Aの失敗事例から学ぶ企業買収成功の秘訣とは?
事業拡大などを目的としてM&Aを検討したことのある会社は多いのではないでしょうか。もっとも、実際にはM&Aで成功するケースはそれほど多くはありません。このように決して高いと言えないM&Aの成功ですが、どうして多くの企業は失敗をしてしまったのか、ありがちな失敗事例を元に、M&A成功の秘訣を解説します。
この記事の目次
M&Aの失敗とは何か
M&Aの失敗事例についてみていく前に、そもそもM&Aの失敗とはどのような状態を意味するかを知っておく必要があります。
M&Aの目的
企業の多くがM&Aを検討するのは、企業経営上の大きな効果が見込めるからにほかなりません。M&Aの目的として挙げられるのは以下のとおりです。
他の事業への新規参入
IT企業など技術革新の目まぐるしい業界で新たな事業に参入しようとする場合、自社で一から人材育成や市場調査、マーケティングなどを行っていると事業化する前に時間がかかります。そうすると、せっかくの投資機会を逃してしまうことにもなりかねません。
そこで、企業が新規参入したい事業がある場合に、既にその事業に参入している他社をM&Aにより自社に取り込むことで、事業展開を加速させることができるようになります。
本業とのシナジー効果
M&Aの目的として伝統的に指摘されてきたのは、M&Aによる本業とのシナジー効果です。シナジー効果とは、相乗効果のことです。M&Aで他の会社と一体となることにより、単純に2社の売上や利益を合算した以上の成果が発生することが期待できます。
例えば、ソフトウェア開発を行っている会社が、ソフトウェア販売のプラットフォームを持つ会社を買収することによって顧客層の増大につなげることが、典型的なシナジー効果を狙うM&Aの例です。
M&Aの失敗とは
M&Aの失敗とは要するに、上で説明したM&Aの目的を達成できないことをいいます。具体的には、以下のような場合にはM&Aは失敗したと評価されることになります。
想定した買収の効果が得られない
M&Aをする際には、必ず買収の目的が存在します。例えば、上で例に挙げた事例では、販売力を持つ会社とのM&Aによるシナジー効果が買収の目的となります。ところが、実際にM&Aをしたものの、期待した効果が得られないことはしばしばあります。
例えば、販売力のある企業と考えてM&Aをしたが、実際には売上のほとんどを担っていたような基幹社員が既に退職しているということもあり得ます。
買収後に想定外の損失が発生
よくあるM&Aの失敗理由が、買収後に想定外の損失を計上する結果となるものです。M&Aでは、ストラクチャーにもよりますが、買収する会社の債務も承継することが通常です。このため、M&Aに関する契約を締結する前に必ず財務や法務のデューデリジェンスを行い、対象企業の債務を洗い出します。なお、M&Aに利用されるストラクチャ―の詳細は、下記記事で詳細に解説しています。
ところが、このデューデリジェンスを専門家に依頼しなかったようなケースでは重大な債務を発見できないことがあります。このような隠れた債務の存在が買収後に発覚し、大きな損失として顕在化することがあります。
これに加え、M&Aの対価を算定する際には、買収対象となる企業の「のれん」が加算されています。のれんとは、買収対象となる企業のブランド価値や人脈などをいい、事業の収益力を左右するものであるため買収価格を算定する際に考慮されるのが通常です。
ところが、のれんは目に見えない価値であるため正確な評価が難しいという特徴があります。買収後に、のれんは長期間にわたり償却されることになりますが、当初想定していた買収の効果が得られないなどの理由により評価額が買収価格を下回るような場合には、減損処理により損失を計上することになります。
最悪の場合には経営破綻も
M&Aに失敗した場合には、上場企業であれば株価が下落したり経営陣が買収の責任を追及されることがあります。財務状況の悪化の程度によっては、最悪のケースではありますがM&Aをきっかけに経営破綻に追い込まれることも覚悟しておく必要があります。
M&Aの失敗事例
実際にM&Aを行ったが失敗したと評価されている公表事例をみていきましょう。ここでは、IT企業における事例を説明します。
DeNAによるM&A
記憶に新しいところですが、IT企業だとDeNAによるM&Aの失敗事例が有名です。DeNAはゲームアプリなどの開発を手掛ける大手企業であり、2014年にキュレーションサイトの運営会社を約50億円で買収しました。
ところが、このキュレーションサイトは科学的根拠のない医療情報や著作権を侵害する記事が多く掲載されていることが大きな問題となり、サイトの閉鎖に追い込まれました。
このM&Aは、キュレーションサイトからの収益を見込んだものでしたが、収益の柱となるべきサイト自体が閉鎖されたことから、買収の目的を達成することは不可能となりました。結果として、DeNAは38億円もの減損処理を余儀なくされました。
マイクロソフトによるM&A
アメリカのマイクロソフト社もまた、過去にM&Aの失敗を経験しています。マイクロソフト社は2014年、スマートフォン事業への参入を目的として、フィンランドのノキア社の通信デバイス事業を72億ドルで買収しました。
ノキア社は、スマートフォン以前の時代には世界的なシェアを誇っていましたが、買収当時はAppleなどに押されて業績が低迷していました。
一方のマイクロソフト社もまた、スマートフォン事業に関してはAppleやGoogleに大きく引き離されていました。このため、早期にスマートフォン事業に参入するべく通信デバイスに強みを持つノキア社の買収に踏み切ったのです。
ところが、M&A後もマイクロソフト社が想定したほど業績には貢献せず、最終的に買収価格を上回る76億ドルの減損処理をせざるを得ない状況となりました。また、このM&Aの失敗によりマイクロソフト社はスマートフォン事業への参入を断念したといわれています。
失敗事例から学ぶM&A成功の秘訣
企業同士のM&Aは、経営者にとって魅力的な面があることは間違いありません。そこで、M&Aを上手く活用するために、M&Aの失敗事例を分析してリスクを回避することで成功に近づけることが重要です。
外部専門家を活用したデューデリジェンス
DeNAの事例では、買収対象となった企業の運営するサイトに違法行為があったことが失敗の主な原因でした。WEBコンテンツに関しては、コンテンツの著作権侵害や医療情報を扱うアフィリエイトサイトなどの妥当性がもともと一部で問題視されていました。
WEBサイトの取得のように買収先の事業が違法性の問題を生じやすい事業である場合には、弁護士や公認会計士、税理士など外部の専門家を活用してコンテンツの違法性や妥当性についてデューデリジェンス等により十分に精査する必要があったといえます
リスクを織り込んだ買収価格の設定
DeNAの事例では、そもそもWEBサイトの性質上、著作権侵害やその他の理由によるサイト閉鎖は想定するべきであり、その分を買収価格の算定の際に織り込むべきであったということもできるでしょう。
その上でリスクがある買収を行う場合には、問題が発生した場合に買収対象の企業や代表者が損害を負担する契約内容とするか、問題が発生することを想定した上で買収価格を押さえる交渉をする必要があるといえます。
新規参入事業の競合調査
マイクロソフト社のM&A事例は、そもそもスマートフォン事業において競合するApple社などの競争相手が強すぎたということが失敗の原因として指摘されています。
そもそも、買収対象となったノキア社は業績の低迷にあえいでいた企業ですので、マイクロソフト社とのシナジーをもってしても太刀打ちできないほど競争環境としては厳しいものがあったとみることができるでしょう。
この点は経営判断として非常に難しいところですが、少なくともM&Aにより新規参入する事業に関しては競合調査が必須であり、あまりに競合が強い場合には新規参入自体を見送ることも一つの経営判断ということになります。
適切なPMI(統合作業)の実施
マイクロソフト社によるノキア社の買収に関しては、両者の企業文化をうまく統合させることができなかったことも失敗の原因として指摘されています。M&Aの場面で意外と問題となるのが、この企業の統合作業です。専門用語でPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)とも呼ばれます。
PMIとは、従業員や企業文化を融合させることと、経理処理の方法やその他の業務に関するシステムや業務フローの統合です。
M&Aの直後は、買収する企業側も買収対象となる企業側も大きな混乱を生じます。このような混乱を最小限にとどめ、早期に両者が融合するようにM&Aの実施前からPMIの実施計画を十分に練っておくことが重要です。
まとめ
M&Aによる失敗を回避するためには、まずM&Aの実施前に弁護士等の専門家を活用したデューデリジェンスが必須です。
また、M&Aの仲介会社による紹介案件の場合には仲介会社の言いなりにならず、必ず自社の用意した専門家によっても独自にリスクや買収価格の妥当性を独自に精査することが大切です。なお、仲介会社などと締結するアドバイザリー契約については、下記記事で詳細に解説しています。
M&Aは成功した場合には、企業の業績を短期間で大幅に上昇させることができます。このため、多くの企業がM&Aによる買収対象となる優良企業を探している状況が長らく続いています。このため、リスクをできるだけ回避することでM&Aによる最大の効果を引き出すことが重要となります。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務