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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ベトナムにおける会社設立の実務と法規制を解説

ベトナムにおける会社設立の実務と法規制を解説

東南アジアにおいて著しい経済成長を続けるベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)は、豊富で優秀な労働力や巨大な内需市場を背景に、日本の経営者や法務担当者にとって極めて魅力的な投資先として位置づけられています。しかしながら、同国における会社設立の手続きは、日本の会社法に基づく設立プロセスとは根本的な法的枠組みが異なり、社会主義国家特有の複雑さと厳格な管理体制を有しています。日本において株式会社や合同会社を設立する場合、原則として資本金は1円から設定可能であり、発起人の個人口座への出資金払込と法務局への登記申請をもって、最短数週間程度で法人格を取得することが可能です。また、外国人や外国法人が日本で会社を設立する場合であっても、外為法(外国為替及び外国貿易法)上の安全保障にかかわる一部の指定業種を除いては、事後報告による市場参入が広く認められています。これに対し、ベトナムにおける外資系企業の設立は、国家の経済計画に基づく厳格な事前審査主義が採られており、事業の物理的な拠点確保から資本金の妥当性まで、多角的な検証を受けることになります。

ベトナムでの会社設立において最も特徴的な点は、外資系企業に対する「投資登録証明書(IRC)」と「企業登録証明書(ERC)」という二段階の許認可取得義務です。外資100パーセントでの設立自体は多くの業種で可能ですが、日本の商業登記に相当するERCを取得する大前提として、予定している事業が国家の外資規制や経済発展の方向に適合しているかを審査するIRCの取得が不可欠となります。また、日本の法制度と決定的に異なる点として、法人を設立する前の段階で、事業活動を行うための実体のあるオフィスや工場の賃貸借契約を締結しておかなければならないという物理的要件が存在します。全体の期間としては、事前の事業計画策定や契約交渉から始まり、IRCおよびERCの取得、その後の各種事後手続きを含めて、概ね3ヶ月から5ヶ月程度という長期間を見込む必要があります。

さらに、資本金については法令上の最低基準額こそ存在しないものの、当局の審査実務上は事業計画と照らし合わせた財務的な実現可能性が極めて厳しく問われます。サービス業やIT分野であれば300万円程度から認可されるケースがある一方で、製造業においてはレンタル工場を活用する小規模な進出であっても3000万円以上の資本金が要求されるのが目安となっています。加えて、規制業種への投資に対する中央政府レベルの認可要件、法定代表者に対する厳格な国内居住要件、ERC取得後90日以内という短期間での資本金払込義務、そして会社設立後に毎年課される事業登録税(ライセンス税)の納付義務など、現地法令に精通した対応が不可欠です。

本稿では、こうした日本の会社法制との重大な相違点を比較検討しながら、現地の最新法令およびベトナム最高人民法院の最新判例に基づく法務リスクの分析までを詳述し、同国でのビジネス展開を検討する皆様に実践的かつ専門的な法的知見を提供いたします。

ベトナムにおける外資参入規制と会社法の基本構造

ベトナムにおける外資系企業の市場参入および会社設立の手続きは、主に「2020年投資法(法律第61/2020/QH14号)」と「2020年企業法(法律第59/2020/QH14号)」という二つの重要な法律によって規律されています。日本の法制度においては、会社法が企業の設立や組織運営を包括的に規律し、外国為替及び外国貿易法が対内直接投資の規制を担っていますが、手続の窓口は法務局と日本銀行に分かれており、実務上は会社設立登記を先行させることが一般的です。一方、ベトナムにおいては、投資法に基づく国家による外資投資の事前承認プロセスが、企業法に基づく法人設立プロセスに完全に先行するという構造を持っています。

ベトナム政府は、外国資本の市場参入条件を明確化し、国家の安全保障や国内産業の保護を図るため、政令第31/2021/ND-CP号において「ネガティブリスト」方式を採用しています。このリストに記載されていない業種については、原則として内資企業(ベトナム国内の投資家)と同様の条件で外資100パーセントの企業を設立することが認められます。ネガティブリストは大きく二つのカテゴリーに分類されており、一つは外資の参入が完全に禁止されている25の業種です。ここには、特定の報道機関の運営、司法行政サービス、漁業、特定の観光サービスなどが含まれます。もう一つは、一定の条件を満たした場合にのみ外資の参入が許可される59の条件付き業種です。不動産業、物流サービス、電子商取引、教育事業などがこれに該当し、外資の出資比率上限の制限、合弁形態の強制、あるいは追加的な事業ライセンス(サブライセンス)の取得といった厳格な要件が課されます。進出を検討する事業がどのカテゴリーに属するかを初期段階で正確に見極めることが、事業計画を策定する上で極めて重要です。

この政令に基づく外資参入規制のネガティブリストの詳細は、ベトナム政府の公式投資情報ポータル等で確認される方針の根拠となっており、当該政令の英訳テキストはベトナム法務省の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:ベトナム法務省公式ウェブサイト

ベトナム投資登録証明書(IRC)の取得手続と実務上の厳格な要件

ベトナム投資登録証明書(IRC)の取得手続と実務上の厳格な要件

事前の事業計画が固まった後に最初に行う法的手続きが、投資登録証明書(IRC:Investment Registration Certificate)の申請と取得です。2020年投資法第37条に基づき、外国人投資家がベトナムで新たな投資プロジェクトを実施し、企業を設立する場合には、例外なくこのIRCの取得が義務付けられています。申請先は、投資案件が工業団地や輸出加工区の内側にあるか外側にあるかによって異なり、特区内の場合は当該地域の管理委員会が、特区外の場合は各省・直轄市の計画投資局(DPI)が管轄となります。大規模なインフラ開発や環境への影響が大きいプロジェクトの場合は、さらに上位機関である首相や国会の事前承認が必要となるケースもあります。

IRCの取得申請においては、日本での会社設立とは大きく異なる厳格な要件が課されます。日本においては、発起人の自宅や安価なバーチャルオフィスを本店所在地として登記することが容易に認められますが、ベトナムではプロジェクトの実施場所を証明するため、法的拘束力のあるオフィスの賃貸借契約書(または覚書)および当該物件の所有権証明書等の提出が申請時に必須となります。法人が成立していない段階で契約を締結しなければならないため、実務上は親会社や投資家個人の名義で仮契約を結び、現地法人設立後に新会社名義で契約を巻き直すという手順を踏むことになります。

審査項目実務上の審査基準と留意点
資本金の妥当性法定の最低資本金要件はないが、提出する事業計画書(収支予測)に基づき、事業が軌道に乗るまでの運転資金として合理的な金額であるかが厳格に審査される。
財務能力の証明投資家の銀行残高証明書等により、申請する投資資金以上の資金力を確実に有していることを客観的に証明する必要がある。
事業内容の適法性予定している事業がネガティブリストの禁止業種に該当しないか、または条件付き業種の市場参入条件を完全に満たしているかの確認が行われる。
所在地要件賃貸借契約書に基づき、当該物件が予定する事業活動(製造、IT開発、オフィス業務等)に法的に適した用途として国に登録されているかの確認が行われる。

法令上、IRCは有効な申請書類が受理されてから15日以内に発行されると定められています。しかし、実際には当局による事業計画の実現可能性に関する詳細な質問や、補足書類の提出要求が頻繁に行われるため、承認までに1ヶ月から2ヶ月以上を要することも珍しくありません。とりわけ資本金については、当局は外国投資家が資金不足に陥って事業を放置するリスクを警戒しているため、審査が慎重に行われます。ITやコンサルティングなどのサービス業であれば数百万円程度から認可される事例もありますが、製造業など設備投資や在庫確保を伴う事業においては、レンタル工場を活用する小規模な事業であっても数千万円以上の資本金を用意することが実務上の目安となります。

ベトナム企業登録証明書(ERC)の取得と法定代表者制度の特異性

無事にIRCを取得した後、次に行うのが企業登録証明書(ERC:Enterprise Registration Certificate)の取得です。ERCは2020年企業法に基づく手続きであり、日本の法務局における「商業登記」に相当するプロセスです。ERCには、企業名、本店所在地、定款資本金、出資者の情報、および後述する法定代表者の氏名などが記載されます。ERCの申請は、管轄の計画投資局(DPI)に設置されている企業登録室に対して行い、会社名の登録や定款の提出を経て、有効な書類が受理されてから概ね3営業日から5営業日以内に発行されます。このERCの発行をもって、ベトナムにおける法人は正式に成立し、独立した法人格を取得して契約主体となることが可能になります。

このERCに関連して、日本企業が進出時に直面する最も重要なガバナンス上の課題が「法定代表者(Legal Representative)」の制度です。2020年企業法第12条により、ベトナムの企業は定款で定めることにより複数の法定代表者を選任することが可能となっています。これは日本の複数代表取締役制度と類似していますが、ベトナム特有の極めて厳格な要件として、法定代表者のうち少なくとも1名は常にベトナム国内に居住していなければならないという居住要件が存在します。日本においては、法務省民事局長の通達変更により、代表取締役全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立登記が受理されるようになりましたが、ベトナムでは依然として厳格な物理的要件が維持されています。

さらに、国内に居住する唯一の法定代表者が30日以上ベトナムを離れる場合には、必ずベトナム国内に居住する他の個人に対して、法定代表者としての権利義務を果たすよう書面で委任しなければならないと企業法で明記されています。万が一、唯一の法定代表者が死亡したり、拘束されたりして職務を遂行できなくなった場合には、出資者が速やかに新たな法定代表者を選任しなければなりません。このように、ベトナムにおいては名義貸しのような形骸化した経営体制を排除し、現地に常駐して法的責任を負う権限者の確保が法的に不可欠となっています。

ベトナムで会社設立後の必須手続とコンプライアンス

ベトナムで会社設立後の必須手続とコンプライアンス

ERCが発行され法人が成立したからといって、直ちに事業活動をフルスケールで開始できるわけではありません。法人の成立後には、税務、銀行、労務などに関する複数の事後手続きを法定の期限内に速やかに完了させる必要があります。これらの手続きを怠ると、事業運営に支障をきたすだけでなく、過怠金などの行政処罰の対象となるリスクがあります。

日本の実務と対比して特徴的な仕組みが、社印(会社実印)の取扱いです。かつてのベトナム企業法では、作成した社印の印影を公安当局や企業登録機関に届け出て、国家の企業登録ポータルで一般公開する義務がありました。しかし、2020年企業法の改正(第43条)により、企業は自らの裁量で社印の形式、内容、および数量を決定することができるようになり、当局への印影登録義務も正式に廃止されました。これにより企業の自律性は高まりましたが、現在でも銀行口座の開設や各種契約書の締結、税務申告等の実務においては、権限者の署名に加えて社印の押印が必須の商慣行として深く根付いています。したがって、社印の偽造や不正使用を防ぐための厳重な社内管理規程を策定することが、コーポレートガバナンス上極めて重要です。

また、法人の資金管理の要となる銀行口座については、外国投資家特有の制度が存在します。出資金の海外からの送金を受け入れるための専用口座である「資本金口座(Direct Investment Capital Account)」と、日常の経費精算、給与支払い、国内取引に用いる「経常口座(Current Account)」の二種類を明確に分けて開設する必要があります。外国投資家は、ERC取得日から90日以内に、ERCに記載された定款資本金の全額をこの資本金口座に対して海外から送金する法的義務を負っています。この90日という期日は非常に厳格であり、期日内の払い込みが行われない場合、高額な行政罰金が科されるほか、将来的な本国への利益送金や、増資・減資の手続きにおいて当局から深刻なペナルティを受けることになります。

さらに、税務当局に対する手続きも不可欠です。ベトナムでは法人税(CIT)や付加価値税(VAT)の申告登録電子請求書(e-invoice)システムの導入に加えて、事業登録税(ライセンス税)という制度が存在します。これは企業の定款資本金の規模に応じて毎年定額で課される税金です。

資本金の規模または拠点区分事業登録税(年額)
定款資本金が100億ベトナムドンを超える場合3,000,000 ドン
定款資本金が100億ベトナムドン以下の場合2,000,000 ドン
支店、駐在員事務所、事業所などの従属単位1,000,000 ドン

政府政令第22/2020/ND-CP号に基づく規定により、新たに設立された企業は、設立初年度(1月1日から12月31日まで)の事業登録税が免除されるという恩恵を受けられます。しかし、設立の翌年以降は毎年1月30日までに所定の税額を自主的に納付する義務があり、この納付を怠ると遅延利息や罰則の対象となるため、財務担当者は納付期限の管理を徹底する必要があります。

出資および会社設立をめぐるベトナム最高人民法院の最新判例

ベトナムにおける会社設立の手続きや増資の手続きにおいて、国家機関による登録がいかに絶対的な法的効力を持つかを裏付ける極めて重要な判例が近年示されています。日本企業が現地法人と合弁事業を行う際や、既存のベトナム法人に追加出資を行う際の法務リスクを理解する上で、この最高裁判決は決定的な意義を持ちます。

具体的には、ベトナムの最高司法機関であるベトナム最高人民法院の裁判官会議によって2025年12月24日に採択された「最高人民法院判例第78/2025/AL号」です。本件は、原告である個人投資家Tran Manh H氏と、被告である有限会社(Company D)との間で争われた出資関係および社員としての地位確認をめぐる事案です。事案の概要として、被告企業は2001年に2名の出資者により設立された企業でした。原告は2001年から2003年にかけて、被告企業の工場拡張などの事業資金として27億ベトナムドン以上(当時の定款資本金の3分の1に相当する巨額の資金)を拠出し、その後の12年間にわたり被告企業から配当に相当する利益分配を継続的に受け取っていました。さらに、当事者間では利益分配に関する口頭の合意や、出資の事実を確認する社内会議の議事録も存在していました。しかしながら、被告企業はERC上の定款資本金を増資する手続きや、原告を正式な出資社員として企業登録機関に登記する手続きを一切行っていませんでした。

その後、関係が悪化したため、原告は自らが有限会社の正式な社員(出資者)であることを確認し、名義変更の手続きを行うよう求めて提訴しました。第一審および控訴審は、長年にわたる資金提供と利益分配の実態を重く見て原告の主張を一部認めましたが、最高人民法院は監督審においてこれを完全に覆しました。最高人民法院は判決において、当事者間で事業資金としての拠出と利益分配の合意があったとしても、法律で義務付けられている「定款資本金の増資に関する明示的な合意」および「企業登録機関におけるERCの変更登記手続き」が行われていない以上、拠出された資金は単なる「事業運営のための資金提供(投資や融資の一種)」に過ぎず、企業法に基づく「定款資本金への出資」とは法的に認められないと判示しました。

この判例に関する公式な解説は、ベトナム最高人民法院が発行する司法雑誌の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:ベトナム最高人民法院司法雑誌ウェブサイト

この最高人民法院の厳格な判決から、ベトナムにおいては事実上の出資行為や利益分配の実態が長期間存在していたとしても、当局への厳格な登記手続き(ERCの変更)を伴わない資金提供は、会社法上の出資者としての権利を一切保護されないということが言えるでしょう。日本の会社法実務においては、当事者間の契約書や銀行への払込証明をもって株主としての地位が実質的に認められ、登記の欠缺が直ちに権利の喪失に結びつかない救済措置が働く余地がありますが、ベトナムの法制度では国家機関による登録(ERCの記載内容)が絶対的な効力を持っています。したがって、ベトナムでの法人設立時やその後の資本参加においては、口頭の合意や私製証書による契約のみに依存することは極めて危険であり、必ず計画投資局(DPI)を通じたIRCおよびERCへの反映を法的手続きとして完了させることが、投資資本を保全するための絶対条件となります。

まとめ

本稿では、ベトナムにおける会社設立の全体像について、法規制の根底にある枠組みから具体的な実務要件、さらには最新の判例に基づく法的リスクまでを詳細に解説しました。記事全体の要点を総括しますと、ベトナムでのビジネス展開においては、国家の経済方針に基づく事前審査である「投資登録証明書(IRC)」と、法人格を付与する「企業登録証明書(ERC)」という二段階の許認可プロセスを確実に突破する必要があります。

また、法定代表者の国内居住要件や、資本金の90日以内の払込義務、設立前の物理的なオフィス契約の必須化など、日本の会社法制の感覚では予測し難い特有の実務的ハードルが多数存在します。さらに、最高人民法院の判例が示す通り、ベトナムにおいては実態よりも当局への登録手続きが絶対視されるため、手続の瑕疵や遅滞は投資家にとって致命的な権利喪失に直結します。これらの複雑なリスクを未然に防ぎ、3ヶ月から5ヶ月にわたる設立プロセスを遅滞なく完了させるためには、事業計画の策定段階から現地法令に完全に準拠した緻密な法務戦略を構築することが不可欠です。

モノリス法律事務所では、こうしたベトナムにおける会社設立の高度で複雑な法的手続きや、日本法との違いを踏まえた現地のコンプライアンス対応について、皆様の円滑なビジネス展開を法務面からサポートいたします。事前の外資規制の適法性調査から、各種契約書の作成、設立後の法的義務の履行に至るまで、ベトナム市場への新規参入を検討される企業の皆様に寄り添った最適な解決策を提供してまいります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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