生成AIと著作権の関係で押さえておくべき考え方とは?
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの発展により、AIが創造的なコンテンツを生成することができるようになりました。生成AIは劇的に生産性を高めることが期待されている反面、AIの学習段階や利用段階における著作権の取扱いについて注意が必要な面もあります。
特に生成AIをビジネスで利用する事業者は、生成AIと著作権の関係やリスクを知っておく必要があります。
本記事では、生成AIによるコンテンツ生成のプロセスや、著作権法と生成AIとの関係を解説し、著作権保護や著作権侵害のリスクを把握するためのポイントを探ります。
この記事の目次
生成AIとは?
生成AIとは、その名の通り、文章、画像、音楽などのコンテンツを生成できるAIを指します。生成AIは膨大なデータを使って学習し、さまざまなコンテンツを作り出すことができます。
生成AIのひとつであるChatGPTは、質問に答える形で自然な文章を生成して回答することができ、アクティブユーザー数が2ヶ月で1億人に達するなど注目を集めています。今後、生成AIの技術はますます発展していき、ビジネスで生成AIを使う機会が増えることが予想されます。
押さえておくべき著作権法の考え方
著作権法とは、著作物等に関する著作者等の権利の保護を図るための法律です。
他人の著作物を著作権者に無断で利用した場合、著作権侵害にあたり、民法上の差し止め請求や損害賠償請求をされる可能性があるだけでなく、刑事罰を受ける可能性もあります。
著作権法の対象物
著作権法第2条1項1号により、著作権法の対象物(=著作物)は、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
と定義されています。
同法第10条第1項により、著作物の例として
- 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
- 音楽の著作物
- 舞踊又は無言劇の著作物
- 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
- 建築の著作物
- 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
- 映画の著作物
- 写真の著作物
- プログラムの著作物
が挙げられています。
著作者・著作権者
著作者とは、著作物を創作した者を指し、著作権者とは著作権を持つ者を指します。
著作権には、著作者人格権と著作権(財産権)の2種類があります。
著作者人格権には、公表権、氏名表示権、同一性保持権の3種類があり、著作者だけが持つ権利のため、譲渡や相続をすることはできません。
一方、著作権は複製権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権・公の伝達権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権、二次的著作物の利用権に分類されますが、その一部や全部を譲渡することができます。
著作権の制限
他人の著作物を無断で利用することは著作権の侵害にあたりますが、私的使用のための複製、引用・転載等の場合には著作権が制限されているため、著作物を著作権者の許諾なく利用することができます。
私的使用のための複製とは、自分や自分の周りの少数の人の間など限られた範囲内で使用するために著作物を複製することです。たとえば、音楽CDをコピーして家族に聞かせる行為などは著作権者の許諾なく行ったとしても著作権の侵害にはあたりません。
同様に、引用元を明記する等一定の条件を満たした上で、著作権者の許諾なく著作物を引用・転載した場合も著作権の侵害には該当しません。
生成AIと著作権の関係性
生成AIはインターネット上等に存在する大量のデータ(著作物を含む)を学習し、それらを元にコンテンツを生成して出力するため、生成AIを使う際には著作権との関係やリスクを把握しておく必要があります。
生成AIと著作権の関係性を考える際、生成AIの開発段階と生成AIの利用段階との二つの段階ごとに分けて考えなくてはなりません。
AI開発・学習段階における著作権の考え方
生成AIは、大量のデータを収集した学習データセットを作成し、その学習データをAIに学習させることにより開発されます。
このAI開発・学習段階においては、著作権法第30条の4に基づき、原則として著作権者の許諾なく著作物を利用してよいものとされています。ただし、必要と認められる限度を超える場合や著作権者の利益を不当に害することとなる場合は除外されています。
著作権者の利益を不当に害することとなる場合とは、情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合などを指します。
関連記事:ネット上の画像のクローリングは著作権法違反?機械学習の法的問題を解説
生成AIの利用段階における著作権の考え方
実際に生成AIを利用して生成した画像等についての著作権侵害に関する判断は、通常の著作物と同じです。
生成した画像等を個人で鑑賞する行為は私的使用のための複製にあたるため、著作権侵害に該当しませんが、画像を販売する等した場合には著作権侵害に該当する可能性があります。
生成AIの利用段階においては、通常の著作物と同様に生成された画像等の類似性や依拠性をもとに著作権侵害であるかどうかが判断されることになります。
類似性とは、生成画像等が既存の著作物と創作的表現が同一又は類似であることを指します。また、依拠性とは既存の著作物をもとに創作したかどうかが問われます。著作権を侵害していると判断
生成画像等の利用が著作権侵害に該当する場合、著作権者から損害賠償請求・差し止め請求を受ける可能性があります。さらに、刑事罰として10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金を科される可能性があり、法人の場合は、3億円以下の罰金を科される場合もあります。
関連記事:画像による著作権侵害「損害賠償の相場」と2つの判例を解説
生成AIを利用したコンテンツが著作権侵害となり得るケースとは
生成AIを利用したコンテンツが著作権侵害となるには、既存の著作物との間に依拠性と類似性が認められなければいけません。この判断基準にはまだ明確な見解やガイドラインなどは示されておらず、今後の動向を注視する必要があります。
執筆時点で議論されている判断基準には
- コンテンツを生成した者が当該著作物を知っているか
- 当該著作物が学習用のデータに含まれているか
- プロンプト(生成AIに指示を出す命令文)として当該著作物や、それと関連の強い文言を使っているか
等が提案されています。最終的には、裁判所によって個別の事案ごとに判断されることになります。
生成AIと著作権に関する今後の動向
現状、日本の著作権法ではAIの開発のための学習データに著作物を使用する際、原則として著作権者の許諾は不要とされています。
著作権者の権利を不当に害する場合は著作権者の許諾が必要ですが、この「著作権者の権利を不当に害する場合」が現段階ではかなり限定的なため、先進国の中では日本のAI学習に関する著作権規制がもっとも緩いとも言われており、今後規制が強まっていく可能性も考えられます。
今後、生成AIと著作権に関する議論の深まりや、AI技術の進歩に伴い、さらなる法整備や司法判断の蓄積が待たれるところです。
まとめ:生成AIと著作権については弁護士に相談を
生成AIと著作権の関係性を考える際には、生成AIの開発段階と生成AIの利用段階との二つの段階ごとに分けて考える必要になります。生成AIと著作権の関係は複雑でさまざまな論点を含んでおり、現状まだ議論が十分尽くされているとは言い難い点もあり、今後の動向を注視する必要があります。
著作権を侵害した場合、民法上の差し止め請求や損害賠償請求を受けたり、刑事罰を科されたりする可能性もあり、企業のイメージダウンにもつながりますので、生成AIと著作権については、早めにIT関連法に詳しい弁護士へ相談するのがおすすめです。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務