画像による著作権侵害「損害賠償の相場」と2つの判例を解説
今や当たり前のようにSNSやネットメディアで「画像」や「動画」を目にします。ですが、毎日のように目にする「画像」や「動画」の中には著作権の問題をクリアしていないものもあります。
では、実際に著作権侵害を受けた場合、どのように対処すればいいのでしょうか。また、その際に相手に請求できる損害賠償の相場は、どの程度なのでしょうか。
この記事の目次
ネット上での著作権侵害
ネット上における著作権侵害に該当する⾏為とはどういったものが考えられるでしょうか。まず、ネット上で著作権侵害されやすい場面から考えてみます。
画像の無断転載
イラストや写真、動画といった画像には著作権が認められます。InstagramなどのSNSに投稿した写真は無断転載されることが多いのですが、たとえ自撮り写真であっても著作権を認められる可能性が高いので、転載されたら、著作権侵害を訴えることができます。
画像転載に関し、2020年6月、Instagramは「画像の埋め込み機能を使っても著作権侵害になる」という公式見解を発表しています。Instagramにアップした画像の著作権はInstagram側にはなく、あくまでもその画像の作成者にあるということです。
歌詞や楽曲の無断転載
プロの場合はJASRACのような管理団体に管理を依頼していることがほとんどでしょうが、インディーズなど個⼈でアーティスト活動をしている人は、無断で自分が作成した楽曲や歌詞がネット上にアップされていた場合は著作権侵害にあたるので、注意が必要です。ダンス動画の場合には、振り付けにも著作権が発生する場合があります。
著作権侵害に対する請求と罰則
著作権を侵害された人は、相手方に対し、以下の民事上の請求をすることができます。
- 侵害行為の差止請求(著作権法第112条1項)
- 損害賠償請求(民法709条)
- 名誉回復措置(著作権法115条)
また、著作権侵害は親告罪なので(一部を除く)、被害者である著作権者が告訴すれば、以下の刑事責任を追及することもできます。
- 著作権侵害については、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金またはその併科(著作権法第119条1項)
- 著作者人格権侵害については、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金またはその併科(著作権法第119条2項1号)
なお、法人などが著作権等(著作者人格権を除く)を侵害した場合は、3億円以下の罰金となります。
侵害行為の差止請求
著作権が侵害されている場合、まず必要な対応は、侵害行為の差止(予防、停止)です。
なお、著作権の侵害行為に対する差止請求により、「侵害行為の停止」「侵害の予防」だけでなく、「侵害行為を組成した物品」「侵害行為により作成された物品」「侵害行為に使われた機械等の廃棄」を請求することもできます。
差止めの請求にあたっては、侵害者の故意や過失は必要ありません。故意や過失がなくても、著作権が侵害されている状態であれば、これを排除する必要があるからです。
ただし、請求をすることでただちに差止めが認められるわけではなく、裁判所は差止めをするための要件が揃っているかを審理してから、結論を出します。したがって、既に著作権を侵害されていて著しい損害が生じているときなどには、差止請求では手遅れになる可能性があります。このような場合には、差止請求に先立って仮処分を申し立て、侵害行為の停止を求めることが必要です。
損害賠償請求
まず、著作権侵害や著作者人格権侵害に対しては、人格権を侵害された(精神的な苦痛を受けた)として慰謝料を請求することが可能ですが、これだけではなく、著作権を侵害されたことを原因として著作権者が被った「損害」に対する賠償を請求することもできます。
ここでいう「損害」には、以下の2種類があります。
- 積極的損害(著作権侵害がなかったら、支出する必要がなかった費用)
- 消極的損害(著作権の侵害がなかったら、得られるはずであった利益)
積極的損害とは、弁護士費用や侵害者の特定のために要した調査費用になりますが、この立証は比較的簡単です。しかし、消極的損害とは「著作権侵害により著作物の売上が減退したような場合」にあたりますが、これを立証するのは、一般に非常に困難です。
そこで、著作権法は、著作権者を守るために、損害額の立証について、以下のような推定の規定を設けています(著作権法第114条)。
- 譲渡数量からの推定
- 利益推定
- ライセンス料等からの推定
損害額立証の推定
1.の「譲渡数量からの推定」については、著作権を侵害した人が、著作権者に無断でコピーなどして作った作品を販売して利益を得ている場合があります。そうした場合、著作権法では、その作品を売った数量に、侵害がなければ著作権者が得ることができた利益単価を乗じて、損害の額にできるとしています。
たとえば、著作権を侵害した人が、それにより作った作品を1000個売ったとします。この場合に、その侵害がなければ著作権者が売ることができた著作物の利益の額が1個あたり200円だとすると、著作権者は20万円を損害額とすることができます。
2.の「利益推定」については、著作権を侵害した人が利益をあげた場合に、その利益の総額を損害の額として推定する規定です。1の例でいうと、著作権を侵害した人が20万円の利益をあげているなら、20万円が損害額であると推定されることになります。
3.の「ライセンス料等からの推定」については、ライセンス料とは、著作権で守られている著作物の使用料であり、著作権者は、ライセンス料に相当する額を損害額とすることができます。この規定は、損害額の最低額を決めるためのものとされています。
なお、これらの規定に基づく損害額を算定する資料はない場合も多いので、損害額を請求する前提として、相手に情報開示を請求する場合があります。先方が情報を開示してくれないときには、訴訟を提起すれば裁判所が情報開示を命じてくれます(著作権法第114条の3の1項)。
名誉回復措置
著作権法第115条では、著作者は著作者人格権を侵害した者に対して「損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、…名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる」とされています。
これは著作権ではなく著作者人格権を侵害された場合に適用がある規定ですが、この規定に基づいて訂正記事や謝罪広告などを掲載するよう、求めることができます。
裁判と損害賠償
著作権を侵害された場合には、損害賠償を請求することができますが、実際の裁判においては、どれくらいの額が認められているのでしょうか。2つの判例を紹介します。
猫写真コラージュ看板事件
自己の写真集5冊から延べ156匹の猫写真を無断で切り取った上で目をくり抜き、看板を作成し、設置した婦人服ブランドに対し、写真家が著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害されたとして、損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた事例があります。この事件では損害額66万円、慰謝料200万円が認められました。
写真家は世界55か国、約200地域を回り、猫の写真集等を約60冊も手掛けており、その他、雑誌への寄稿、講演会、写真展も行い、フリーの猫写真家として活躍していたのですが、看板設置2カ月後にたまたま伊勢丹新宿店に立ち寄り、自分の猫の写真が嗜虐的扱いを受け、著作権を侵害されたことを発見しました。この写真使用に写真家の許可はなく、看板に写真家のクレジットもありませんでした。
裁判所は、
156匹の写真のうちコピー使用分の66枚につき、被告は原告の複製権を侵害し、本件看板を作成した行為につき原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものである
と認めました。
複製権を侵害したことによる原告の損害額の計算においては、
1枚5万円とする原告の主張に対して、多数の猫の顔写真を用いたコラージュ看板を作成するための素材として使用したものであって、個々の原告写真を一個の作品として使用したものではない
として、1枚当たり1回につき1万円と認めるのが相当であるとし、66万円(1万円×66枚)を認めるにとどめました。
また、人格権侵害に伴う慰謝料について、裁判所は
同一性を侵害された原告写真が多数に及ぶ上、その改変行為は猫の目の部分をくり抜くという嗜虐的とも解し得るものであり、原告が被った精神的損害は甚大なものである
として、慰謝料を200万円とし、弁護士費用26万円を合わせて、合計292万円の支払いを被告に命じました(東京地方裁判所2014年5月27日判決)。
なお、著作者人格権侵害に基づく謝罪広告については
本件看板の表面の相当部分は、被告婦人服ブランドの商品で覆われており、視認することが困難であったということができるとして、本件看板の設置により原告の名誉又は声望が毀損されたと認めるには足りない
として、認められませんでした。
事案の悪質性のため、比較的高額の慰謝料が認められました。
イラスト使用Tシャツ事件
自分がデザインしたイラストを複製又は翻案してTシャツを作って複製権又は翻案権を侵害し、運営するホームページにアップロードして公衆送信権を侵害し、原告の氏名を表示することなくTシャツを製造等して原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したとして、広告の差し止めや損害賠償等を求めて、イラストレーターが、Tシャツ製造会社を訴えた事例があります。
裁判所は、
原告の猫が丸まって眠っている様子を上方から描いたイラストを美術著作物と認め、被告がTシャツに用いたイラストの多くは原告イラストを有形的に再製したものであって複製権又は翻案権に当たり、イラストを被告が運営するホームページにアップロードしたことは、公衆送信権侵害に当たり、原告イラストについての原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したもの
として、原告による複製、翻案及び公衆送信の差止請求を認めました。また、
被告が上記商品を所持していることが推認されるので、その廃棄請求を認めるのが相当であり、被告はそれらのイラストに関する画像データを記録した記録媒体を所持していることも推認されるから、その削除請求も認めるのも相当である
として、廃棄請求も認めました。その上で、
使用料を計算し、被告商品においては、イラストのみを単独で付したようなものはなく、被告において作成した他のデザインや他の紋様と組み合わせる形で全体的なデザインの一部としてイラストが使用されており、複製又は翻案した被告商品における使用割合(大きさや数)を考慮するのが相当である
として、被告が販売店に販売した商品に係る分を算定し、122万3570円の使用料を認めました。
さらに、慰謝料としては、被告はイラストを商業的に利用しているのであって、原告イラストを揶揄したりすることを目的に翻案等しているのではないことを考慮して、著作者人格権侵害による慰謝料を30万円、弁護士費用15万円、合計45万円の損害賠償とし、合計167万3570円の支払いを被告会社に命じました(大阪地方裁判所2019年4月18日判決)。
認められた消極的損害の額は原告からすれば不満足な額だったかもしれませんが、廃棄請求が広く認められたため、被告には厳しい判決となりました。
まとめ
著作権侵害は、⼀部の例外を除き親告罪となっているため、著作権侵害をされた被害者が訴えない限りは加害者を罰することができません。特にネット上ではコピーや転載が簡単にできてしまうので、個⼈が自分の著作物を完璧に保護しておくことは⾮常に困難なのが、実情です。
著作者⾃⾝が注意をし、対策を立てておくことが重要ですが、もし著作権を侵害されてしまった場合は、適正な損害賠償を得るためにも、被害を拡⼤させないためにも、なるべく早く経験豊かな弁護士に相談することをおすすめします。
カテゴリー: 風評被害対策