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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

eスポーツ大会と景品表示法の関係とは? 大会主催者の注意点

いわゆるeスポーツ、つまり、ビデオゲームを使った対戦において、企業等が大会を主催する場合に、「景品表示法」という法律が問題になるケースがあります。結論を先に述べると、プロアマどちらを対象とする大会でも、競技対象となるゲームタイトルをリリースしたメーカー、つまり例えばストリートファイター5の場合のカプコン社、スマッシュブラザーズの場合の任天堂社のポジションの企業が主催する大会では、一定の条件が満たされる場合、賞金を10万円以下に設定しないと、景品表示法違反となってしまうのです。

景品表示法とはどのような法律なのか、そして、10万円超の賞金を出す大会は、どのような場合に適法で、どのような場合に違法なのか、解説します。

※3.1内の2016年消費者庁通知に関する記載に誤記があり、修正致しました。ご指摘頂いた方、ありがとうございます。(2020年12月24日)

そもそも「景品表示法」とは?

景品表示法の概要とは

景品表示法とは、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」という、略して「景表法」とも呼ばれる法律です。この法律は、単純に言うと、賞品の販促のために、

  • 不当に高額な景品を用意したり
  • 誇大広告などを行ったり

することを禁止する法律です。

不当に高額な景品の禁止とは

そして、ゲーム大会主催との関係で問題になるのは、前者、つまり「不当に高額な景品を用意」することの禁止、という側面の方です。なお、後者に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

「不当に高額な景品」という禁止条項が典型的に想定するのは、例えば、お菓子などの購入者を対象として行われる懸賞です。極端な例を挙げれば、100円のお菓子について、「パッケージの中に入っている応募券を使って懸賞に参加すると、1等になったら100万円!」といったキャンペーンを行うと、こうした過大な景品・賞金による競争がエスカレートし、メーカーは商品自体による競争に力を入れなくなり、消費者の不利益に繋がるおそれがあります。景表法は、このように「懸賞」を用いたキャンペーンなどに対して規制を行っており、結論として、賞金・懸賞を含めた景品類の最高金額を

  • 商品の取引価額が5000円未満の場合は、最大で価額の20倍
  • 商品の取引価額が5000円以上の場合は、最大で10万円

と設定しているのです。

「景品類」と「仕事の報酬」の区別とは

ただし、この「景品類」と似て非なるものとして観念されているのが「仕事の報酬」です。この点は後述する通り、eスポーツ大会の賞金でも問題となるので、先に解説します。

どういうことかというと、例えば、お菓子のメーカーが、一部購入者に対して、例えばその味や食べやすさなどに関する詳細なレポートを求め、商品開発の役に立てようとすることは、上記のような「過大賞金による競争のエスカレート」を生むものではなく、純粋な企業努力です。その際に「お菓子の定価が10円なのだから、レポーティングの報酬は200円以下」と決められてしまうと、なかなか詳細・有意なレポートを集めることができなくなってしまいます。

景品表示法は、その運用基準において、上記のような「仕事の報酬」を観念し、「そういうものは景品類ではないので、上記のような最高金額規制には服さない」ということを定めています。

eスポーツ大会の主催と景品表示法

「やりこみ」をしないと優勝できない?

そして、eスポーツ大会(ビデオゲーム大会)との関係で、なぜ景品表示法が問題になるかというと、eスポーツ大会の賞金とは、当該大会の対象であるビデオゲームタイトルを購入した事に基づく「景品類」と位置付けられるのではないか、という疑念があるからです。

つまり、例えば、カプコン社のストリートファイター5や任天堂社のスマッシュブラザーズ、家庭用ゲームに限らず、スマホゲームなども含めて、一般論として、eスポーツ大会で賞金をゲットする、つまり大会を勝ち進むことを考えると、以下のような前提があるからです。

  1. たしかに、抽象的に言えば、そのタイトルを遊んだことがない人が、ふらっとその大会に参加し、優勝したりして賞金を稼ぐこともあり得なくはない
  2. しかし、「eスポーツ」と、スポーツ競技の一種と扱われることからも明らかなように、特に現代のゲームは、そのゲームを購入し、「やりこみ」を行っていなければ、実際問題として勝てない
  3. さらにいえば、家庭用ゲームにおけるいわゆるDLC(ダウンロードコンテンツ、追加キャラなどの追加課金要素)、スマホゲームにおけるいわゆるガチャなど、「やりこみ」のためにはゲーム本体以外の課金要素も必要になるケースが多い

eスポーツ大会の賞金は「景品類」?

そして、このような前提の上で考えると、eスポーツ大会における賞金とは、その対象となるゲームタイトルを購入したことに付随して、当該ゲームタイトルをリリースしたメーカーが優勝者等(一部購入者)に対して提供する、一種の「景品」なのではないか、とも考えられるからです。

実際、景品表示法上の「景品類」というのは、下記の条文の通り、かなり広く捉えれているのです。

景品表示法 第2条第2項第3号
この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

eスポーツ大会の賞金は「景品類」に該当する?

2016年の消費者庁による見解とは

そして実際、消費者庁は、2016年時点では、株式会社国際カジノ研究所に対する法令適用事前確認手続回答通知書において、以下のように、賞金は景品表示法上の「景品類」に該当する、という見解を示していました。

ネットワークを介して異なる筐体間で対戦することができる機能を有するアクションゲームを利用した賞金性大会(以下「本件企画」という。)は、(中略)「顧客を誘引するための手段として」、一般消費者に対して供給することを具体的に予定している当該アクションゲームに関する大会を主催し、当該大会における成績優秀者に対して「経済上の利益」である賞金を提供するものである。
(中略)
本アクションゲームにおける技術向上のためには、原則的に繰り返しゲームプレイが必要であるため、有料ユーザー以外の者が成績優秀者として賞金を獲得する可能性は低いと考えられる。
(中略)
これを踏まえれば、本件企画は、有料ユーザーが賞金をいう経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる企画であり、本件企画において成績優秀者に提供される賞金は、「取引に付随」する提供に当たるものと考えられる。

https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_160909_0005.pdf

「法令適用事前確認手続回答通知書」とは、民間企業等が行政機関に前もって、これから行おうとする事業活動に関する適法性の確認を求める手続において、行政側が出す回答です。

ゲームメーカーによる高額賞金提供は違法?

この手続における行政の回答は、必ずしも「法律解釈に関するファイナルアンサー」ではないのですが、実際問題として、行政が上記のような回答を出すと、それを無視して大会開催を行った場合、摘発を受ける危険があります。その意味でこの回答は、実際的な意味での拘束性を有していました。

ただ、この回答の見解は、実際問題として、「困った」ものではあります。何故かというと、

  • ゲームメーカーがeスポーツ大会を主催する場合→その賞金は景品表示法上の「景品類」に該当するので、賞金の上限は10万円
  • その他の企業等がeスポーツ大会を主催する場合→「景品類」はそもそも自社製品に関するものであり、この場合の賞金は「景品類」には該当し得ないので、規制無し

となってしまい、「自社タイトルに関するeスポーツ大会の主催(のみ)が低額賞金」という結論になってしまうからです。これは、自社タイトルをeスポーツ大会によって盛り上げ、プロなどを誕生させたいゲームメーカーからすると、頭が痛い結論でしょう。

消費者庁が見解を改め原則適法に

2019年の消費者庁による見解とは

しかし、2019年、消費者庁は、jesu(japan esports union)によってなされた同手続において、従前の見解を改める(と読める)回答を行いました。

まず、この回答は、eスポーツ大会を、プロアマによって区別する前提に立っています。つまり、

  1. 賞金の提供先を、プロライセンスを付与した選手に限定するeスポーツ大会
  2. 賞金の提供先についてはプロアマを問わないが、一定の方法で参加者を限定した上で、成績に応じて賞金を提供するeスポーツ大会

という区別です。少し分かりにくいですが

  1. プロアマどちらも参加するが、プロのみが賞金を得られるeスポーツ大会
  2. プロアマどちらも参加し、どちらでも賞金を得られるeスポーツ大会(参加者にプロアマとは無関係の限定を行うことはOK)

という2分類です。

eスポーツ大会の賞金は「仕事の報酬」

そしてこの上で、同回答は、まずプロに関しては、そのプロフェッショナリズム、競技性や興行性、スポーツマンシップなどが類型的に保証されているという点を述べ、プロアマどちらも参加する大会に関しても、高い技術を用いた実技や実現といったパフォーマンスを行い、「多数の観客や視聴者に対してそれを見せることが仕事の内容として期待されて」いる、という点を強調しました。

そしてこの上で、下記のように述べ、どちらのパターンの大会も、結論として、「景品表示法における景品類の制限の趣旨の潜脱と認められるような事実関係が別途存在しない限りにおいては」10万円超の賞金も適法である、と結論づけたのです。

本ケースにおいて賞金を受け取る可能性のある選手は、仕事の内容として、高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを店、大会等の競技性及び興行性を向上されることが求められている。
(中略)
参加者への賞金の提供は(中略)景品表示法における景品類の制限の趣旨の潜脱と認められるような事実関係が別途存在しない限りにおいては(中略)「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、(中略)景品表示法第4条の適用対象とならないものと考えられる。

https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190903_0002.pdf

「制限の趣旨の潜脱」として違法となるケースとは?

jesuによる消費者庁回答の解釈

ただ、上記の通り、消費者庁は、「景品表示法における景品類の制限の趣旨の潜脱と認められるような事実関係が別途存在しない限りにおいては」という留保を付けています。これがどういったケースを指すのか、まだ明確には不明ですが、2016年と2019年に二度の照会を行ったjesu(japan esports union)は、下記のように、「専らゲームの販促活動のために賞金を提供する場合」は違法になり得るのではないか、という見解を示しています。

もっとも、配信・観戦のいずれも行われないなど、興行的性質がおよそ認められないイベント・大会において、参加者の実力・ゲームプレイの魅力に相応しない高額な賞金を提供して、専らゲームの販促活動のために賞金を提供するような場合には、個別判断によるものの、当該賞金提供が「仕事の報酬等」の提供であると認められない可能性がある点に留意する必要がある。

eスポーツに関する法的課題への取組み状況のご報告

上記見解は、分析的に言えば、

  • 配信・観戦のいずれも行われないなど、興行的性質がおよそ認められないこと
  • 参加者の実力・ゲームプレイの魅力に相応しない高額な賞金を提供すること

の2条件に着目し、そうした場合には、「専らゲームの販促活動のために賞金を提供」していると判断され得るのではないか、という見解を示しているものと言えるでしょう。

景品表示法の趣旨との関係

上記見解は、そもそも景品表示法が、

  1. 過大な賞金による競争のエスカレート
  2. メーカーが商品(ゲーム内容)自体による競争に力を入れなくなること
  3. 消費者の不利益

という負の連鎖を発生させないためのものであることを踏まえたものであると考えられ、結局、端的に言ってしまえば、

そのゲームを購入して「やりこみ」を行えば不相応に高額な賞金をゲットできるかもしれない、という点で、内容の無いゲームが生まれてしまうこと

との関係で(のみ)、景品表示法はeスポーツ大会の賞金額に規制を行い得る(が、それはあくまで例外的なケースである)、という趣旨であると言えるでしょう。

まとめ

このように、eスポーツ大会の賞金額は、「その大会がプロアマどちらを対象としたものであれ、原則的には無制限である、ただし上記のような例外ケースは除く」、というのが、現在の通説となっています。なお、競技対象となるゲームタイトルをリリースしたメーカー以外の企業が主催するeスポーツ大会については、そもそもその場合、当該主催者はゲーム自体やDLC・ガチャ等による利益を受けておらず、「取引付随性」自体がないため、景表法の景品類規制との関係での問題はあり得ません。

ただ、それでも注意すべき点が、大きく3個あります。

  • 上記の通り、一定のケースでは例外的に違法になり得るので、そうしたケースに該当しないか、判断が必要です。
  • また、これらの見解は、全て消費者庁によるものですが、そもそも、ある行為が適法かどうかの「ファイアルアンサー」を行うのは、行政ではなく司法(最終的には最高裁判所)です。「法令適用事前確認手続」は、あくまで、最終判断者ではない行政が「行政としての見解」を述べるだけのものであり、司法の判断を拘束しません。そして、司法が同じ判断を行うかは未知数です。
  • 本記事では詳細を割愛しますが、eスポーツ大会の賞金については、賭博罪などの問題もあり得ます。

eスポーツ大会の賞金額の設定は、プロアマどちらを対象にする大会であれ、高度な法律問題です。特に、新しい特徴を有するゲームタイトル、新しい特徴を有するeスポーツ大会などを主催する場合には、こうした問題に詳しい法律事務所に事前に相談を行うことがベストだと言えるでしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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