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【令和6年施行】介護保険法の改正とは?背景と介護事業者がとるべき対応を解説

【令和6年施行】介護保険法の改正とは?背景と介護事業者がとるべき対応を解説

介護保険法は、日本において要介護者に対する適切な保健医療サービス・福祉サービスを提供するために制定された法律です。介護保険法は定期的に見直し・改正されているため、介護事業所はその都度、法律に合わせた対応を取らなければなりません。介護保険法は令和6年の4月と6月に二段階で改正が行われますが、どのような内容かわからない・どのような対応をすべきかがわからないという方もいるでしょう。

本記事では、介護保険法の改正の背景やポイント、事例を解説します。介護事業所の運営をしている方は、ぜひ参考にしてください。

介護保険法とは

介護保険法とは、介護を要する方に対して適切に保健医療サービスや福祉サービスを提供するために制定された法律です。介護保険法は平成12年に施行され、社会から求められるニーズに対応するために3年に1度改正されています。

介護保険法が制定された背景には、以下のような理由が挙げられます。

  • 日本の高齢化による、要介護高齢者の増加・介護期間の長期化
  • 核家族化の進行による家族の介護問題
  • 従来の老人福祉・老人医療制度での対応の限界

厚生労働省の「介護分野の最近の動向について」によると、介護保険の要介護(要支援)認定者は、平成12年4月が218万人だったのに対し、平成24年3月には690万人となり、3.2倍に増加しました。

総務省の「人口動態・家族のあり方等社会構造の変化について」によると、核家族世帯数の比率は、平成2年の77.6%から令和2年には86.7%に増えています。かつては、子どもや家族が行うものとされていた親の介護ですが、核家族の増加により、対応できないケースが多くなっているのです。

これらの理由により、従来の老人福祉法や老人医療保険法のみによるサポートでは対応しきれなくなったため、介護保険法が制定されることになりました。

介護保険法の令和6年(2024年)施行改正の背景

お年寄りの夫婦

介護をめぐる問題の一つに、2025年問題が挙げられます。2025年問題とは、団塊の世代が後期高齢者に達し「超高齢化社会」を迎えることにより、雇用や医療、福祉などさまざまな分野に影響をもたらす問題です。

さらに、2042年には、高齢人口がピークになるとの予測が出ており、現在の介護保険制度では機能しなくなることは明確です。こういった理由から、3年ごとに制度の見直しと改正が続けられています。

令和6年度は、人口構造や社会経済状況の変化を踏まえ、以下の4つを基本的な視点として改正を実施しています。

地域包括ケアシステムの深化・推進自立支援・重度化防止に向けた対応良質なサービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり制度の安定性・持続可能性の確保

引用:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告の概要

過去の法改正の詳細は、以下の通りです。

施行年改正内容
平成18年(2006年)介護予防重視型システムへの転換地域密着型サービスの創設など
平成21年(2009年)介護サービス事業者の法令遵守などの業務管理体制の整備事業所の休止・廃止の事前届出制の実施など
平成24年(2012年)地域包括ケアシステムの推進24時間対応の定期巡回・随時対応サービスや複合型サービスの創設
平成27年(2015年)地域医療介護総合確保基金の創設地域支援事業の充実など
平成30年(2018年)自立支援化・重度化防止化の仕組みの制度化介護医療院の創設
令和3年(2021年9市町村の包括的な支援体制の構築支援医療・介護データ基盤の制度の推進

参考:厚生労働省「介護保険制度の概要

厚生労働省では、今後、国民の誰もがより長く、元気に活躍できるよう、多様な就労・社会参加の環境整備や健康寿命の延伸、医療福祉サービスの改革による生産性の向上などの取り組みを進めるとしています。

介護保険法の令和6年(2024年)改正の6つのポイント

POINT

令和6年に改正される介護保険法のポイントは、以下の6つです。

  • 介護事業者の財務諸表の公表が義務化
  • 介護情報の電子管理とシステムの整備
  • 訪問看護と小規模多機能型居宅介護の複合型サービスの容認
  • 居宅介護支援事業所の業務拡大
  • 科学的介護情報システム(LIFE)の導入推進
  • 介護事業所の生産性向上

ここでは、それぞれの詳細を解説します。

介護事業者の財務諸表の公表が義務化

令和6年の法改正において、介護事業者に対して財務諸表の公表が義務化されます。介護事業者は、会計年度ごとに収益や費用などの財務状況を都道府県知事に報告しなければなりません。(第115条44の2第1・2項)

財務状況の見える化により、介護サービスの利用者に現状や実態を理解しやすくする・情報の分析・調査に基づいた支援策の検討ができるようにすることなどが改正の目的です。以前までも、社会福祉法人や障がい福祉事業者に対して財務諸表の公表は義務化されていましたが、提出率の低さが問題になっていました。令和6年の改正では介護サービス事業者にも義務化の対象が広がっただけでなく、罰則も規定されることとなりました。

財務諸表を提出しない・または虚偽の報告をした場合は、期間を定めて報告または是正を命じることができます。(第115条44の2第6項)また、命令に従わない場合、指定の取り消し・業務の取り消しができるとしています。(第115条44の2第2項第8項)

介護情報の電子管理とシステムの整備

自治体や利用者、医療機関などが介護情報を電子的に閲覧できる情報基盤を整備する施策を実施することも法改正の1つです。介護保険法には、以下のように記載されています。

厚生労働大臣は、介護サービス事業者経営情報を収集し、整理し、及び当該整理した情報の分析の結果を国民にインターネットその他の高度情報通信ネットワークの利用を通じて迅速に提供することができるよう必要な施策を実施するものとする。(第115条44の2第3項)

引用:e-Gov法令検索「介護保険法

介護情報がインターネットを介して自由に閲覧できれば、利用者は介護情報を確認しやすくなり、自分に合った介護サービスが受けられるようになります。また、介護情報の電子化により書類のやり取りが減る・データで情報共有ができるため、業務の効率化が可能です。

これにより、利用者へのケアにかける時間を増やしたり必要なサービスを構築したりする時間に当てられるため、さらなる介護の充実が期待できます。

訪問看護と小規模多機能型居宅介護の複合型サービスの容認

令和6年の法改正では、訪問看護と小規模多機能型居宅介護を組み合わせた看護小規模多機能型居宅介護のサービス拠点における「通い・泊まり」で提供されるサービスに、看護サービス療養上の世話または必要な診療の補助が含まれる旨が明確化されました。(基準第8条第23項)

なお、令和6年の法改正で予定されていた訪問介護と通所介護を組み合わせた複合型サービス(介護サービスを2つ以上組み合わせて提供されるサービス)の新設については、見送られることとなりました。

居宅介護支援事業所の業務拡大

これまで地域包括支援センターの委託を受けて行っていた介護予防支援(介護予防サービスの計画作成など)を、居宅介護支援事業所でも実施できるようになりました。(第115条22第1項)これにより、市町村から指定を受けた居宅介護支援事業所は、利用者と直接契約してサービスを提供できるようになります。

地域包括支援センターの業務負担を軽減することが目的であり、総合相談支援業務についても、一部を居宅介護支援事業所に委託できるようになります。(第115条47第4項)

科学的介護情報システム(LIFE)の導入推進

今回の法改正では、科学的介護情報システム(LIFE)の導入を推進しています。科学的介護とは、科学的裏付け(エビデンス)に基づく介護のことです。LIFEの活用により、介護サービス利用者の状態や介護施設で行っているケアの計画・内容などをインターネットで厚生労働省と共有できるようになります。LIFEを活用することで、LIFEに収集された情報が厚生労働省で分析・フィードバックされるため、科学的な根拠に基づいた介護が可能です。また、加算報酬に加算されるため、介護事業所にとってもメリットがあります。

今回の法改正で見直された内容には、以下の3点が挙げられます。

  • LIFEの提出頻度を6ヵ月に1回から3ヵ月に1回に変更
  • 入力負担軽減に向け、入力項目の定義の明確化・他の加算と共通する項目の選択肢の統一化
  • 複数の加算を算定する場合に、一定の条件下でデータ提出のタイミングを統一できるようにする(データ提出期限に猶予期間が与えられる)

LIFEを導入する場合は、定期的にデータを提出しなければならない・入力する負担が増える点には注意しましょう。

参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について

介護事業所の生産性向上

介護保険法第5条第2項では、介護事業所の生産性向上の支援を都道府県の責務としています。都道府県に対し、介護サービスを提供する事業所または施設における業務の効率化、介護サービスの質の向上に資する取り組みが推進されるよう努めなければならないとしました。(第5条第3項及び第118条第3項)

また、市区町村に対し、都道府県と連携して行う生産性向上のための支援や施策について、介護保険事業計画に盛り込む必要性があるとしています。(第117条3第5項)

近年、介護需要が増大しているのにも関わらず、介護人口が少ない点が課題となっています。介護ロボットやテクノロジー導入などにより生産性を向上させ、少ない人数でも業務が行えるようになることが法改正の狙いです。

今回の法改正により、生産性向上の取り組みに対し、都道府県・市区町村のバックアップが期待できるでしょう。

令和6年改正の介護保険法への期待と課題

令和6年改正の介護保険法への期待と課題

令和6年の法改正では、見送られた事項もあります。ここでは、見送られた2つの事項と今後の課題を解説します。

期待:令和6年(2024年)の改定で見送られたポイント

今回、要介護1・2の高齢者に対する訪問介護・通所介護を「総合事業」へ移行することが見送られました。要介護とは、要介護状態等区分といい、介護がどのくらい必要かを表す基準のことです。要介護は1~5まであり、基準に応じた限度額内で介護サービスを受けられます。総合事業とは、介護予防・日常生活支援総合事業のことです。

要介護1・2の訪問介護・通所介護が総合事業になると、各自治体が報酬を独自に定められるようになるため、費用の負担軽減が期待されていました。しかし、同時に市区町村によりサービスの質が変わる・事業所の撤退などの懸念があることから、今回の法改正では見送りとなりました。

また、ケアプランの有料化も見送られています。ケアプランとは、利用者やその家族の状況や希望を踏まえ、提供されるサービスの目標や内容をまとめた計画書のことです。ケアプランの作成は、在宅サービスが10割保険負担であるのに対し、施設サービスでは利用者が負担しています。この公平さを保つ狙いから有料化を提言していましたが、利用者やその家族からの要求が増える・業務負担が増えるなどの問題から令和9年の改正に持ち越されました。

課題:業務拡大による事業所の負担増加

令和6年の法改正の課題は、事業所の負担が増加する点です。財務諸表の提出の義務化、LIFEシステムの導入、電子管理やシステムの整備などにより、今までになかった書類の作成や入力作業などが増えてしまうからです。

新たな業務をスムーズに行えるようになるまでには時間を要するのはもちろん、電子管理やシステムの整備に必要なツールを導入するための費用もかかるでしょう。

介護保険法の改正を上手に活用している事例

介護保険法の改正を上手に活用している事例

介護保険法の改正を活用している事例として、以下の2つを解説します。

  • ボランティアポイント制度
  • 地域包括ケアシステム

詳細をみてみましょう。

ボランティアポイント制度

ボランティアポイント制度とは、介護支援ボランティア活動の実績に応じてポイントを付与する制度のことです。貯まったポイントに応じ、金券や現金などと交換できます。

ボランティアポイント制度は、介護保険制度を活用したものとして平成19年に開始されました。平成26年の介護保険法改正により一般介護予防事業が創設された結果、ポイント付与を行う自治体が増加しました。

町田市では、「いきいきポイント制度」という取り組みが行われています。65歳以上の市民の方が、介護保険施設などでボランティアを行った場合、ポイントが付与されます。集めたポイントは次年度に図書カードやQUOカードなどに交換することが可能です。

参考:町田市「いきいきポイント制度で活動しませんか?

地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムとは、要介護の人たちも自分らしい暮らしが続けられるよう、住まい・医療・介護などが一体的に提供されるシステムです。

新潟県長岡市では、長岡駅を中心とするエリアに13ヶ所のサポートセンターを設置し、住まいや医療、介護などのサービスを一体的に提供する体制を整えています。また、町内の祭りの際に、小規模多機能型居宅介護事業所を休憩場所として提供することで、地域と交流し、協力しあえる体制づくりを目指しています。

参考:新潟県長岡市「地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例~新潟県長岡市の取組~

まとめ:介護保険法の改正について正しい理解を

令和6年の介護保険法では、財務諸表の公表義務化、電子管理とシステムの整備など、介護事業所にとってさまざまな対応が求められる法改正が行われています。これらは、介護サービスの質を高める・介護ニーズに応えるためにも重要な取り組みです。

令和6年の介護保険法の改正に伴い、対応に頭を悩ませる事業所もあるでしょう。そのような場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。

当事務所による対策のご案内

介護事業は、介護保険法や老人福祉法、会社法など、様々な法律の規律が張り巡らされた業界です。モノリス法律事務所は、一般社団法人 全国介護事業者連盟や、全国各都道府県の介護事業者の顧問弁護士を務めており、介護事業に関連する法律に関しても豊富なノウハウを有しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:IT・ベンチャーの企業法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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