【令和6年4月施行】医療法改正で医師の働き方にも変化が?改正の歴史も紹介
技術の発達や時代の変化はもちろん、医療の品質向上と患者の安全確保を図るために医療法は都度改正されてきました。
本記事では、令和6年(2024年)4月1日より施行された新興感染症対応を含む、令和3年(2021年)の医療法改正の内容を軸に、これまでの改正の歴史についても解説します。
この記事の目次
令和6年4月施行の医療法改正とは
そもそも医療法は、昭和23(1948年)に荒廃した医療施設を整備することを目的に制定されました。
これまでに第1次から第8次まで、医療法はたびたび大きく改正されており、第9次改正の主なポイントは以下の3つです。
- 医師の働き方改革の推進(医師の長時間勤務の制限)
- 医師養成課程の見直し
- 地域の実情に応じた医療提供体制の確保
これまでの医療法改正の年表はページ末尾に掲載しています。
令和3年(2021年)の改正では主に7つの改正内容がありました。それぞれ解説します。
医師の働き方改革に関する改正
医療ニーズの変化や医療の高度化、少子化に伴う担い手の減少が進む中で、医師個人に対する負担がさらに増加することが予想されるため、改正されることになりました。令和6年(2024年)4月1日から段階的に施行されます。
- 時間外労働の上限規制
- 時間外割増賃金率の改定
- 追加的な健康措置
病院常勤勤務医の約4割が年960時間超、約1割が年1,860時間超の時間外・休日労働を行っている現状からも、抜本的な改革といえます。医師の健康を確保し、より能動的な対応の実現が目的です。
時間外労働の上限規制
医師の時間外労働規制は、医師の健康管理と適切な医療提供の両立を目指し、3つの基準(A・B・C水準)が設定されました。
基本となるA水準は、すべての医師を対象とし、年間960時間・月100時間を上限としています。連続勤務は28時間まで(宿日直許可がない場合)とし、勤務間に9時間のインターバルを確保することが努力義務とされています。
救急医療等の地域医療確保に不可欠な医療機関で働く医師には、B水準(地域医療確保暫定特例水準)が適用されます。具体的には、三次救急病院や年間救急車受入1,000台以上の二次救急病院などが対象です。
この場合、年間1,860時間・月100時間までの時間外労働が認められますが、勤務間インターバルの確保などは義務とされています。ただし、この特例は令和17年(2035年)3月31日までの暫定措置であり、最終的にはA水準への移行が求められています。
研修医や専攻医など、集中的な技能向上が必要な医師にはC水準が適用されます。上限時間はB水準と同様です。しかし、初期研修医については、より厳格な連続勤務時間の制限(15時間または24時間)が設けられています。
当直については、労働密度が低いため、労働基準監督署長の許可を得ている場合は規制の適用外となります。ただし、実際に診療を行った時間は労働時間としてカウントされます。宿日直許可は診療科や職種、時間帯ごとに取得可能で、軽度または短時間の業務に限り認められます。
時間外割増賃金率の改定
令和5年(2023年)から、医療業界を含む中小企業においても、時間外労働の割増賃金率が引き上げられることになりました。具体的には、1カ月の法定時間外労働が60時間を超える場合、50%以上の割増賃金率での支払いが義務付けられています。
深夜労働(22時から翌朝5時まで)については、さらに高い割増率が適用されます。1カ月60時間を超える法定時間外労働を深夜時間帯に行った場合、適用されるのは深夜割増賃金率25%以上に時間外法定割増賃金率50%以上を加えた、合計75%以上の割増賃金率です。
法定休日労働については、使用者は労働者に対して、1週間で1日または4週間で4回の休日(法定休日)を与える必要があります。この法定休日に労働させた場合は35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
なお、法定休日(例:日曜日)の労働時間は1カ月60時間の法定時間外労働の算定には含まれませんが、それ以外の休日(例:土曜日)の労働時間は含まれます。
また、事業者には割増賃金の支払いに代えて、有給の代替休暇を付与する選択肢も認められています。ただし、この制度の導入には労使協定の締結が必要です。
また、代替休暇の時間数の算定方法、単位、付与可能期間、取得日の決定方法、割増賃金の支払日などを定めることも求められます。
しかし、実務上の課題として、病院経営の負担軽減のために時間外労働の記録を残さないよう指示されるケースや、人手不足による時間外労働の黙認などの問題が存在しています。
追加的な健康措置
令和6年(2024年)4月より、月間100時間を超えて勤務する医師に対する追加的な健康保護措置が法律で義務付けられました。この措置はA・B・C水準のすべての医師に適用され、主に以下の4つの要素から構成されています。
第一に、連続勤務時間の制限があります。労働基準法上の宿日直許可を受けている場合を除き、連続勤務時間を28時間以内に制限することが必要です。
第二に、勤務間インターバルの確保が定められています。通常の日勤後は、次の勤務までに9時間のインターバルを設けなければなりません。
当直明けについては、宿日直許可の有無により異なる基準が設けられています。許可がない場合は連続勤務時間を28時間に制限した上で18時間のインターバル確保が必要です。一方、宿日直許可がある場合は、通常の日勤後と同様に9時間のインターバル確保が求められます。
第三に、代償休息の確保があります。労働時間に対して同等の休息時間を確保しなければなりません。
第四に、面接指導と就業上の措置があります。当月の時間外・休日労働が100時間に達する前に面接指導を実施しなければなりません。医療機関の管理者は面接指導を行った医師からの報告や意見を考慮して、必要に応じて就業上の措置実施が求められています。
これらの追加的健康措置は、A水準の医療機関では努力義務とされていますが、B水準およびC水準の医療機関では法的な義務として定められています。今回の改正では、医師の健康管理と適切な休息確保のための取り組みが強化されているためです。
その他の改正
医師の働き方改革では、時間外労働の上限規制や健康確保措置の導入に加え、医療現場全体の効率化と医療の質の向上を図るための重要な施策が実施されています。
具体的には、医療従事者の業務範囲拡大と医師養成課程の見直しなど、重要な取り組みが進められており、医師の負担軽減と医療の質の向上の両立を目指す施策です。以下、それぞれの施策について詳しく解説します。
医療従事者の業務範囲拡大
医師の負担を軽減するため、医療従事者の業務範囲が拡大されました。診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法が改正され、令和3年(2021年)10月1日より施行されています。
これは、タスクシフト/シェア(従来は医師が担っていた業務を他職種に移管、または共同すること)を推進することで、医師の負担を軽減することが目的です。また、医療従事者が、より専門性を活かせるよう、連携体制が整えられました。
医師養成課程の見直し
この改正では、医師養成課程の見直しも行われました。
- 医師国家試験の受験資格における共用試験合格の要件化
- 医学生が臨床実習において行う医業の法的位置付けの明確化
共用試験合格の要件化は令和7年(2025年)4月1日から、法的位置付けの明確化は令和5年(2023年)4月1日よりそれぞれ施行されます。
また、歯科医師についても、同様のルールが適用されます。
医師・医療従事者の働き方改革実現に向けた対応
働き方改革の実現に向けて、医療機関は、主に4つの観点から対応を進める必要があります。
第一に、医師の労働時間の正確な把握です。これには労働基準監督署長の宿日直許可の確認と、タイムカードやICカードなどによる客観的な勤怠管理システムの導入が不可欠です。
第二に、いわゆる「36協定」で定める時間外労働数について、実態を自己点検し、必要に応じて見直しを行います。その際は医療従事者との協議を通じて、適切な上限の設定が重要です。
第三に、タスクシフティング・タスクシェアリングの推進です。
- 特定行為看護師の育成による医師業務の移管
- 医師事務作業補助者(クラーク)によるカルテ入力支援
- 他職種との適切な業務分担による医師の負担軽減
これらの取り組みにより、医師が本来の医療業務に集中できる環境を整備し、医療サービスの質の向上を目指しています。このような業務の再配分は、チーム医療の推進にもつながります。
第四に、ICTの導入による業務効率化です。患者モニターシステムや電子カルテ管理システム、Web問診などのデジタル化により、医療現場の業務効率向上を図ることが重要です。
一方で、この改革に伴う課題も指摘されています。日本医師会からは以下の3つの主な懸念が示されています。
- 地方病院からの医師引き上げによる地域医療への影響
- 大学病院の医師の収入減少によるモチベーション低下と人材流出
- 産科医療の縮小による出産体制への影響
特に開業医については、自身は労働者ではないため規制対象外となりますが、勤務医を雇用している場合は法令遵守が必要です。その結果、開業医自身の労働時間が増加する可能性も指摘されています。
これらの課題に対応するため、医療機関は他職種とのタスクシフト・タスクシェアの活用が欠かせません。また、医療ITの導入を通じて、効率的な医療機関経営と医療提供体制の構築を進める必要があります。
新興感染症等への対応
今回の改正では、新興感染症への対応についても定められました。新興感染症とは既に知られている感染症ではあるものの、再び流行し患者数が増加した感染症のことを指します。
このような新興感染症等の感染拡大時には、一般の医療体制にも大きな影響がある点や、事前の対策、行政間でスムーズなやり取りが必要だとされたため改定されました。
「基本方針(大臣告示)」 や「医療計画作成指針(局長通知)」などの見直しを行った上で、各都道府県で計画策定作業を実施する予定です。時期は、令和6年(2024年)4月1日より施行されました。
医療機関への支援
今回の改正では、医療機関への支援についても定められ、令和2年(2020年)度に創設した「病床機能再編支援事業」を、地域医療介護総合確保基金に位置付けることとなりました。
変更時の費用は国が全額を負担することと、再編を行う医療機関へは税制優遇措置を講じることが定められました。この改正は、地域医療構想の実現に向けて積極的に取り組む医療機関に対し、病床機能や医療機関の再編を行う際のサポートをすることを目的としたものです。令和3年4月1日より施行されています。
外来医療の機能明確化と地域連携
今回の改正では、外来医療についても改正されました。従来の外来医療は、一部の医療機関に患者が集中し、患者の待ち時間の拡大や、勤務医師の負担が生じています。そこで、医療機関に対し、医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める外来機能報告制度の創設等が定められました。
かかりつけ医機能の強化とともに、外来機能の明確化・連携を進め、待ち時間の短縮や医師の負担軽減につなげることが目的です。令和4年(2022年)4月1日より施行されています。
移行計画認定制度の延長について
平成18年(2006年)の医療法改正により、持分あり医療法人(医療法人設立時に出資が行われている医療法人)の新規設立が規制され、既存法人についても、持分「なし」医療法人への移行を促進してきました。この移行計画認定制度の期限が、令和5年(2023年)9月30日まで延長されます。
参考:これまでの医療法改正の歴史
これまでの医療法改正の歴史は以下のとおりです。
回 | 時期 | 内容 |
第1次 | 1986(S61)年施行 | 地域医療計画制度の導入 病院病床数の総量規制 医療資源の効率的活用 医療機関の機能分担と連携促進 医療圏内の必要病床数制限 |
第2次 | 1993(H5)年4月施行 | 特定機能病院と療養型病床群制度の創設 看護・介護の明確化 医療の類型化、在宅医療の推進 広告規制の緩和 |
第3次 | 1998(H10)年4月施行 | 地域医療支援病院制度の創設 診療所における療養型病床群の設置 在宅における介護サービス 医療機関相互の機能分担 インフォームド・コンセントの法制化 |
第4次 | 2001(H13)年3月施行 | 一般病床と療養病床の区別 医療計画の見直し 適正な入院医療の確保 広告規制の緩和 医師・歯科医師の臨床研修必修化 |
第5次 | 2007(H19)年4月施行 | 患者へ医療情報提供の推進 医療機能の分化・地域医療の連携構築 医師不足問題対応 医療安全の確保 医療法人制度改革 社会医療法人制度の創設 48時間超の入院規制の廃止 |
第6次 | 2014(H26)年10月施行 | 病床の機能分化・連携の推進 地域医療構想の策定 地域医療構想調整会議の設置 地域医療介護総合確保基金の創設 在宅医療の推進 特定機能病院の承認の更新制の導入 職員確保対策(看護師の届出制度) 医療機関における勤務環境の改善(医療勤務環境改善支援センターの設置) 医療事故に係る調査の整備 臨床研究の推進 医療法人制度の見直し |
第7次 | 2015(H27)年9月公布 | 地域医療連携推進法人制度の創設 医療法人制度の見直し 医療法人経営の透明性確保 医療法人ガバナンスの強化 医療法人の分割等に関する事項 社会医療法人の認定事項 |
第8次 | 2017(H29)年6月成立 | 高度医療の安全管理体制確保 特定機能病院へ権限の明確化義務 特定機能病院へ監査委員会の設置 持分なし医療法人への移行計画認定制度延長 医療機関開設者に対する監督規定整備 妊産婦の異常対応等に関する説明義務 看護師等に対する行政処分調査規定創設 遺伝子関連検査等の品質・精度確保 医療機関のウェブサイト等における虚偽・誇大等の表示規制の創設 |
まとめ:医療法改正対応は弁護士に相談を
令和3年(2021年)の医療法改正は、特に医師の働き方改革といった新たな視点が加わり、医療現場に大きな変革をもたらす施策となりました。この改正は、医師の健康管理と適切な医療提供の両立、タスクシフト・シェアの推進、新興感染症への対応など、多岐にわたる重要な内容を含んでいます。
特に令和6年(2024年)4月から施行された医師の働き方改革では、時間外労働の上限規制や健康確保措置の導入など、具体的な運用面での対応が求められます。これらの改正に適切に対応するためには、法的要件の理解だけでなく、各医療機関の実情に即した具体的な施策の検討が必要です。
医療法改正への対応に不安や疑問がある場合は、医療法務に精通した弁護士への相談が望ましいです。専門家のアドバイスを得れば、法令遵守と効率的な医療提供体制の構築の両立を図れます。今後も変化する医療環境に適切に対応し、より良い医療サービスの提供を実現していくことが重要です。
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