令和3年(2021年)医療法改正で何が変わった?改正の歴史と背景も解説
技術の発達や時代の変化はもちろん、医療の品質向上と患者の安全確保を図るために医療法は都度改正されてきました。
本記事では、令和6年(2024年)4月1日より施行された新興感染症対応を含む、令和3年(2021年)の医療法改正の内容を軸に、これまでの改正の歴史についても解説します。
この記事の目次
医療法改正の歴史
そもそも医療法は、昭和23(1948年)に荒廃した医療施設を整備することを目的に制定されました。今までに、第一次から第八次まで、医療法はたびたび大きく改正されています。下記に大きな改定時期と内容を簡単に紹介します。
回 | 時期 | 内容 |
第1次 | 1986(S61)年施行 | 地域医療計画制度の導入 病院病床数の総量規制 医療資源の効率的活用 医療機関の機能分担と連携促進 医療圏内の必要病床数制限 |
第2次 | 1993(H5)年4月施行 | 特定機能病院と療養型病床群制度の創設 看護・介護の明確化 医療の類型化、在宅医療の推進 広告規制の緩和 |
第3次 | 1998(H10)年4月施行 | 地域医療支援病院制度の創設 診療所における療養型病床群の設置 在宅における介護サービス 医療機関相互の機能分担 インフォームド・コンセントの法制化 |
第4次 | 2001(H13)年3月施行 | 一般病床と療養病床の区別 医療計画の見直し 適正な入院医療の確保 広告規制の緩和 医師・歯科医師の臨床研修必修化 |
第5次 | 2007(H19)年4月施行 | 患者へ医療情報提供の推進 医療機能の分化・地域医療の連携構築 医師不足問題対応 医療安全の確保 医療法人制度改革 社会医療法人制度の創設 48時間超の入院規制の廃止 |
第6次 | 2014(H26)年10月施行 | 病床の機能分化・連携の推進 地域医療構想の策定 地域医療構想調整会議の設置 地域医療介護総合確保基金の創設 在宅医療の推進 特定機能病院の承認の更新制の導入 職員確保対策(看護師の届出制度) 医療機関における勤務環境の改善(医療勤務環境改善支援センターの設置) 医療事故に係る調査の整備 臨床研究の推進 医療法人制度の見直し |
第7次 | 2015(H27)年9月公布 | 地域医療連携推進法人制度の創設 医療法人制度の見直し 医療法人経営の透明性確保 医療法人ガバナンスの強化 医療法人の分割等に関する事項 社会医療法人の認定事項 |
第8次 | 2017(H29)年6月成立 | 高度医療の安全管理体制確保 特定機能病院へ権限の明確化義務 特定機能病院へ監査委員会の設置 持分なし医療法人への移行計画認定制度延長 医療機関開設者に対する監督規定整備 妊産婦の異常対応等に関する説明義務 看護師等に対する行政処分調査規定創設 遺伝子関連検査等の品質・精度確保 医療機関のウェブサイト等における虚偽・誇大等の表示規制の創設 |
令和3年(2021年)の改正では主に7つの改正内容がありました。それぞれ解説します。
医師・医療従事者に関する改正
令和3年(2021年)の医療法では医師の働き方や業務範囲などについても改正がありました。
医師の働き方改革
1つめは、医師の働き方改革です。
医療ニーズの変化や医療の高度化、少子化に伴う担い手の減少が進む中で、医師個人に対する負担がさらに増加することが予想されるため、新しく改正される運びとなりました。令和6年(2024年)4月1日から段階的に施行されます。
- 長時間労働の医師の労働時間短縮及び健康確保のための措置の整備等
- 時間外労働の上限規制と健康確保措置の適用
病院常勤勤務医の約4割が年960時間超、約1割が年1,860時間超の時間外・休日労働を行っている現状からも、抜本的な改革といえるでしょう。医師の健康を確保し、より能動的に対応を実現することが目的です。
医療従事者の業務範囲拡大
2つめは、業務範囲の拡大です。診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法が対象で、令和3年(2021年)10月1日より施行されています。
タスクシフト/シェア(従来は決められた職種が担っていた業務を他職種に移管、または共同すること)を推進し、医師の負担を軽減することが目的です。また、医療関係の職種が、より専門性を活かせるよう、連携体制が整えられました。
医師養成課程の見直し
3つめは、医師養成課程の見直しです。
- 医師国家試験の受験資格における共用試験合格の要件化
- 医学生が臨床実習において行う医業の法的位置付けの明確化
共用試験合格の要件化は令和7年(2025年)4月1日から、法的位置付けの明確化は令和5年(2023年)4月1日よりそれぞれ施行されます。
また、歯科医師についても、同様のルールが適用されます。
新興感染症等への対応
4つめは、新興感染症への対応です。新興感染症とは既に知られている感染症ではあるものの、再び流行し患者数が増加した感染症のことを指します。このような新興感染症等の感染拡大時には、一般の医療体制にも大きな影響がある点や、事前の対策、行政間でスムーズなやり取りが必要だとされたため改定されました。
「基本方針(大臣告示)」 や「医療計画作成指針(局長通知)」などの見直しを行った上で、各都道府県で計画策定作業を実施する予定です。時期は、令和6年(2024年)4月1日より施行されました。
医療機関への支援
5つめは、医療機関への支援です。令和2年(2020年)度に創設した「病床機能再編支援事業」を、地域医療介護総合確保基金に位置付けます。
変更時の費用は国が全額を負担することと、再編を行う医療機関へは税制優遇措置を講じる予定です。地域医療構想の実現に向けて積極的に取り組む医療機関に対し、病床機能や医療機関の再編を行う際のサポートを行うものです。令和3年4月1日より施行されています。
外来医療の機能明確化と地域連携
6つめは、外来医療についての変更点です。現在の外来医療は、一部の医療機関に患者が集中し、患者の待ち時間の拡大や、勤務医師の負担が生じています。
そこで、医療機関に対し、医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める外来機能報告制度の創設等を行います。かかりつけ医機能の強化とともに、外来機能の明確化・連携を進め、待ち時間の短縮や医師の負担軽減につなげることが目的です。令和4年(2022年)4月1日より施行されています。
移行計画認定制度の延長について
平成18年(2006年)の医療法改正により、持分あり医療法人(医療法人設立時に出資が行われている医療法人)の新規設立が規制され、既存法人についても、持分「なし」医療法人への移行を促進してきました。この移行計画認定制度の期限が、令和5年(2023年)9月30日まで延長されます。
まとめ:医療法改正対応は弁護士に相談を
令和3年(2021年)の医療法改定の7つを軸に解説しました。特に今回の改定では、医師の働き方改革が新たに組み込まれた点が、以前までの改定内容にはない大きな変更点といえるでしょう。厚生労働省が推し進める働き方改革や、ウェルビーイングや健康経営など、労働者の肉体的、精神的、社会的な価値観を重要視するようになりました。医療法の歴史を理解することはもちろん、現行の医療法を再確認して内容理解を進めましょう。
医療法改定に伴う対応について不明点がある場合は、専門家にご相談ください。
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