薬機法に違反すると逮捕される?薬機法違反の罰則を解説
薬機法には、医薬品や医療機器等に関するさまざまな規制が定められていますが、それらに違反した場合には逮捕されるおそれがあるほか、罰金や課徴金が課されるおそれもあり、事業が大きな損害を受ける可能性があります。
例えば、医薬品ではない商品の広告における薬機法違反により、広告主だけではなく、広告代理店や広告制作会社の関係者が逮捕された事例も存在します。医薬品ではないサプリメントや健康食品であっても、その広告表現においては薬機法の規制の対象となる場合があります。
この記事では、どのような行為が薬機法に違反するのか、罰則としては何が定められているのかや、薬機法違反を回避する方法について解説します。
この記事の目次
薬機法とは
薬機法は、医薬品や医療機器などの品質・有効性・安全性を確保し、保健衛生上の向上を図るために施行された法律で、正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。平成25年の改正前は「薬事法」という名称だったため、こちらの方がなじみがある人もいるかもしれません。
医薬品や医療機器などは、人の健康に資するなどメリットが大きい一方で、人体に影響を与える以上、有効性や安全性に問題があるまま使用されると、健康を害し、生命などに重大な危害を及ぼすおそれがあります。
そこで、薬機法では、虚偽・誇大広告の禁止や無許可での医薬品等の製造・販売禁止といった厳罰な規制を設けることで、人体への影響を防ぎ、国民の健康や安全を守ることを目的としているのです。
どのような場合に逮捕されるのか
「薬機法に違反すると逮捕される」という表現は、正確ではありません。そもそも、「逮捕」というのは、薬機法に定められた罰則ではなく、刑事訴訟法に定められた身体拘束処分であり、薬機法違反に限らず、罪を犯した場合に受けるおそれがあるものです。
「逮捕」には、現行犯逮捕、通常逮捕、緊急逮捕の3種類があります。薬機法に違反して逮捕される場面では、通常逮捕または緊急逮捕によると考えられます。
通常逮捕(刑事訴訟法第199条第1項)や、緊急逮捕(刑事訴訟法第210条1項)では、逮捕状の発付が求められており、逮捕状が発付されるためには、逮捕の理由及び逮捕の必要性が認められなければなりません(刑事訴訟法第199条第2項、刑事訴訟規則第143条の3)。
したがって、「薬機法に違反し、逮捕の理由や必要性がある場合には、逮捕される」というのが正確な表現になります。
逮捕の理由
逮捕の理由とは、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法第199条第2項)をいいます。特定の犯罪を犯したことについて、単に可能性がある程度では足りませんが、確信を得るに至らなくとも、相当の嫌疑があれば、逮捕の理由が認められるとされています。
薬機法に違反する行為をした場合には、罪を犯したことが明らかである以上、逮捕の理由は当然に認められます。
逮捕の必要性
逮捕の理由が認められる場合、その者が犯罪を犯した相当の理由がある以上、すぐに逮捕を認めてもいいように思われます。しかし、逮捕というのは、その者の身体を拘束する点で、人権を不当に侵害するおそれが高い処分であることから、逮捕の必要性まで要求されているのです。
刑事訴訟規則第143条の3では、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ、「罪証」を隠滅するおそれがない場合を、逮捕の必要性がない場合として例示しています。
「罪証」とは、簡単にいえば、犯罪にかかわる証拠を意味します。例えば、薬機法の広告規制違反であれば、使用していた広告のデータや、掲載されていたホームページなど、無許可での医薬品等の製造・販売であれば、製造していた医薬品等そのものや、販売した際の領収書などが罪証にあたります。
逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれは例示であり、他にも逮捕の必要性がないと判断される要素はありますが、重要なのは、これらを判断するのは、逮捕状を発付する裁判官であるということです。いくら自分では逃亡するつもりや罪証を隠滅するつもりが全くないとしても、犯罪の重大性や残存する証拠などの客観的な事情を考慮して、逮捕の必要性があると判断されてしまえば、逮捕状が発付され、逮捕されることになってしまいます。
薬機法違反の行為と罰則の例
それでは、どのような行為が薬機法違反にあたるのでしょうか。薬機法に違反する行為の例と、それらに対する罰則をご紹介します。
薬機法における贈収賄
基準適合性認証の業務に従事する登録認証機関の役員や職員の贈収賄については、最長7年間の懲役という重い罰則が定められています(薬機法第83条の6以下)。
医薬品等の製造販売にかかる認証という重要な役割を果たす者については、贈収賄によって危険な医薬品等が流通するおそれがあり、重大な危害を引き起こしかねないことから、このように厳格な処罰が予定されています。
無許可製造・販売
医薬品等の製造販売業や製造業を行うためには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(薬機法第12条、第13条)。これに反して、厚生労働大臣の許可なく医薬品等の製造販売業を行うと、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はその両方が科せられ(薬機法第84条第2号)、製造業を行うと1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、又はその両方が科せられます(薬機法第86条第1項第2号)。
指定薬物規定の違反
指定薬物とは、精神毒性を有する蓋然性が高く、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物として厚生労働大臣により指定された物をいいます(薬機法第2条第15項)。いわゆる危険ドラッグや脱法ドラッグは、正規の用途に供されている限りは有用であるため、一律に禁止することは不可能です。そこで、指定薬物として指定することで、正規の用途以外の用途に供するための製造、輸入、販売、所持などを禁止しています(薬機法第76条の4以下)。
これらの禁止規定に対する罰則は、製造等を業として行った場合には5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科せられ(薬機法第83条の9)、業としての行為ではない場合には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科せられます(薬機法第84条第28号)。
薬機法における虚偽表示や誇大表示
医薬品等は、個人の健康という重要な利益にかかわるものである以上、その広告の内容に虚偽や誇張があった場合には、保健衛生上、重大な危害を及ぼすおそれがあります。そこで、薬機法では、虚偽表示や誇大表示による広告が禁止されています(薬機法第66条第1項)。
これに反した場合、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方が科せられます(薬機法第85条第4号)。
また、令和元年の薬機法改正により、課徴金制度が導入されたことから、上記の罰則に加え、課徴金の納付が命じられるおそれがあります(薬機法第75条の5の2)。
課徴金制度については、下記記事もご参照ください。
関連記事:薬機法の課徴金制度とは?対象となる行為や減免されるケースを解説
薬機法違反となった事例
新型コロナウイルス抗原検査キットが無許可販売となった事例
令和2年頃から感染が拡大している新型コロナウイルスに関連する事例で、令和3年9月、厚生労働省の承認を受けていない新型コロナウイルス抗原検査キットを感染の判定用と広告して販売した者らが逮捕されました。
この事案では、医薬品等にあたる抗原検査キットを許可なく販売したという無許可販売に加え、厚生労働大臣の承認を受けていない医薬品等の広告の禁止(薬機法第68条)に反したことが問題となりました。
逮捕された2人には、令和4年2月に罰金の略式命令が下されています。
サプリメント広告が未承認の医薬品等の広告禁止に抵触した事例
令和2年7月、医薬品として承認されていないサプリメントについて、「肝臓疾患の予防に効果がある」等と広告に表示し、販売した疑いで販売会社及びその従業員、取引先の広告代理店及びその従業員、広告制作会社及びその従業員が逮捕されました。
この事案は、事例1と同様に未承認の医薬品等の広告禁止に反したことと、未承認の医薬品等の販売禁止(薬機法第55条)に反したことが問題となりました。
また、広告主だけでなく、広告代理店や広告制作会社まで逮捕されたという点で、薬機法第68条の「何人も・・・・・・広告をしてはならない」との文言を厳格に適用したという特徴があります。
この事案については、令和3年3月に未承認の医薬品等の広告禁止に対する罰金の略式命令が下されており、未承認の医薬品等の販売禁止については、不起訴処分となっています。
これらの事例で問題となった広告規制については、別記事もご参照ください。
関連記事:薬機法の広告規制とは?適法な表現で広告を作成するポイントを解説
薬機法違反での逮捕を防ぐためには
薬機法に違反してしまった場合、その後に逮捕される可能性は否定できません。逮捕を防ぐためには、そもそも薬機法に違反しないようにするしかないといえます。
では、薬機法に違反しないためにはどのようにすればいいでしょうか。
許可や承認の内容、ガイドラインを確認する
まずは、自社が医薬品等の製造販売業や製造業を行っている場合、適切な許可を得ているかどうかを確認する必要があります。そして、そのうえで、自社の医薬品等の製品自体が適切な承認を得ているかどうかを確認しましょう。
また、医薬品等の販売に際して、広告を出している場合には、広告規制に違反していないかどうかを確認しなければなりません。広告規制の内容や基準については、厚生労働省がガイドラインなどをまとめているので、その内容を把握しておくべきでしょう。
マニュアルを作成する
ガイドラインの内容を把握したあとは、それらに抵触しないように社内マニュアルを作成することで、会社全体でどのような行為が薬機法に違反するのか、薬機法に違反しないためにはどのようにすればいいかを周知することができます。
薬機法違反の事例でも紹介したように、広告主だけでなく、広告代理店や広告制作会社までも逮捕されるおそれがある以上、取引先の会社についても、マニュアルを周知したり、取引先自身で対策がとられているかを確認したりすることで、より薬機法に違反するリスクを低くすることにつながります。
弁護士へ相談する
もっとも、これらの対策をとったとしても、個別の行為が薬機法に違反するかどうかを自分たちだけで判断するのはなかなか難しいと思います。また、薬機法は大きな改正も多く、改正法の内容を正確に理解することも必要となってきます。
そのような場合には、豊富な経験を有する弁護士に相談し、薬機法に違反する行為かどうかの判断を仰いでください。
まとめ:薬機法トラブルは弁護士へご相談を
この記事で紹介した以外にも薬機法では数多くの規制が設けられており、どのような行為が薬機法に違反しているかどうかを判断するにあたっては、薬機法の正確な理解が必要となります。個人あるいは会社のみで法律の内容や運用を正確に把握することは困難な場合もありますので、薬機法に関してトラブルが起こった場合はもちろん、トラブルを未然に防ぐためにも、まずは経験豊富な弁護士にご相談ください。
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