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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

日本企業や経営者によるモンゴル国における会社設立の方法

モンゴルは、中央アジアに位置する広大な国であり、近年、外国投資家にとって魅力的なビジネス環境を提供しています。そして、モンゴルと日本の経済関係は、日蒙経済連携協定(JMEPA)によって一層強化されています。

JMEPAは2015年2月に署名され、2016年6月に発効しました。これは日本にとって15番目の経済連携協定であり、モンゴルにとっては初のEPAとなります。JMEPAは、物品・サービス貿易の自由化と円滑化、人の移動、投資、知的財産、競争、二国間協力など、多岐にわたる規定を含むものです。特に投資分野において、JMEPAは内国民待遇と最恵国待遇の約束を通じて、投資の自由化と保護の強化のための枠組みを提供しています。また、モンゴル政府は、外国投資を誘致し、経済発展を促進するために、多様な投資インセンティブと保護措置を提供しています。

本記事では、こうした環境にあるモンゴル国において、日本企業や経営者が会社設立を行う際に問題となる法規律や、設立の手順について解説します。

モンゴル国における会社設立の形態選択

モンゴルで事業を設立する際、外国人投資家はいくつかの法的形態から選択できます。事業の性質、規模、目的によって最適な形態が異なります。

外国投資有限責任会社(Limited Liability Company: LLC)

外国投資有限責任会社(LLC)は、モンゴルで外国人投資家が事業を行う上で最も一般的な形態とされています。LLCは、総資本がUS$100,000以上(またはMNT相当額)で、その25%以上を1人以上の外国人投資家が所有する事業体として定義されます。

LLCの設立には1人から50人の社員(メンバー)が必要であり、社員の国籍や居住地に関する要件は設けられていません。外国の社員が25%以上の株式を保有する場合、その会社は外国投資LLCとみなされます。社員はLLCの債務に対して直接的な責任を負わず、その責任は出資額を限度とする有限責任となります。最低資本金はUS100,000と定められています。取締役は1名以上必要であり、モンゴル居住者である必要はありません。

LLCが外国人投資家にとって最も現実的かつ柔軟な選択肢となるのは、後述する株式会社(JSC)と比較して、取締役の人数要件が緩やかであるためです。JSCが最低9名の取締役を要求するのに対し、LLCは1名で足りるため、特に小規模な日本人経営者にとってはガバナンス体制の負担が軽減されます。また、LLCの最低資本金は設立時にモンゴルの銀行の仮口座に預託する必要がありますが、その後は「ブロックされず、事業活動に利用できる」とされています。これは、単なる設立要件に留まらず、初期運転資金の一部として計画できるという点で、資金計画に大きな柔軟性をもたらします。

株式会社(Joint Stock Company: JSC)

株式会社(JSC)は、主に資本調達を目的として株式を発行する形態です。JSCは、「公開」(株式が自由に取引可能)または「非公開」(限られた範囲で取引)に分類されます。設立には最低2名の株主が必要であり、非居住者でも株主となることが可能です。外国人株主が25%以上の株式を保有する場合、各外国人株主はUS100,000を出資する必要があるため、JSCの最低資本金はUS200,000となります。JSCは取締役会を設置する必要があり、その構成員は最低9名とされています。JSCは、株式を公開し、大規模な資金調達を目指す企業に適しています。

駐在員事務所(Representative Office)

駐在員事務所は、独立した法人格を持たず、親会社の部門として機能します。モンゴル国内で収益を上げる事業活動は許可されておらず、市場調査、連絡、情報収集といった非営利活動に限定されます。親会社からの委任状により権限を与えられた個人が管理し、通常1〜2年の国家登録証明書が発行され、延長も可能です。事業形態選択において、駐在員事務所は収益活動ができないため、本格的な事業展開ではなく、市場調査や連絡拠点としての利用に限定されることになります。

恒久的施設(Permanent Establishment: PE)

外国事業体が法人設立を伴わずにモンゴルで契約に基づき事業活動を行う場合、税務上の「恒久的施設」(PE)として登録義務が生じる場合があります。PEには、管理拠点、支店、訓練施設、倉庫、鉱山、工場、建設現場(12ヶ月以内に90日超)、技術・コンサルティング・管理サービス(12ヶ月以内に183日超)などが含まれます。PEの登録は、法務登記所(LERO)ではなく、管轄税務当局で行われます。

主要な事業形態の比較

以上を踏まえて、モンゴルにおける主要な事業形態の比較を以下の表に示します。

項目LLCJSC駐在員事務所恒久的施設(PE)
法人格の有無
最低株主/社員数1人〜50人2人以上N/AN/A
最低取締役数1人9人N/AN/A
最低資本金要件(外国人投資家の場合)US$100,000(外国人社員1人あたり)US200,000(外国人株主1人あたりUS100,000)N/AN/A
事業活動の可否(収益活動)不可可(税務上の存在)
責任の範囲有限責任有限責任親会社が責任親会社が責任

モンゴル国における会社設立の具体的な手続きと要件

会社名の確認と登録

会社設立の最初のステップは、国家登録機関(General Authority for State Registration: GASR / Legal Entities Registration Office: LERO)で、他社と重複しない固有の会社名をキリル文字で取得することです。会社名は、既存の法人名と類似してはならず、不適切、わいせつ、差別的な言葉や、「Mongolia」「Bank」「Ulan Bator」などの特定の言葉を含んではならないとされています。名前の確認は通常24時間以内に完了します。名前の確認後、30日以内に会社を設立しない場合、確認書は失効するため注意が必要です。オンラインでの申請も可能であり、モンゴル政府がビジネス環境の改善とデジタル化を推進していることがうかがえます。

仮口座の開設と資本金の預託

会社登録に先立ち、モンゴルの商業銀行に仮口座を開設し、外国投資会社の場合は最低US$100,000(またはMNT相当額)の資本金を預託することが義務付けられています。この預託金は、会社設立後に引き出し可能であり、事業活動に利用できるため、単なる設立要件に留まらず、初期運転資金の一部として計画できるという柔軟性があります。銀行口座開設には、会社設立証明書、定款、創設者の決議書、株主および執行役員の身分証明書やパスポートなどが必要となります。

必要書類の準備と提出

会社設立には多岐にわたる書類の準備が必要です。主なものとしては、申請書(UB-03)、会社名確認書、設立に関する正式な決定書(モンゴル語訳付き)、定款(モンゴル語2部、公式翻訳1部)、株主間契約(2人以上の投資家の場合、モンゴル語と選択した外国語で各2部、公証済み)、創設者が法人である場合の会社設立/登録証明書、定款、会社概要のコピー、US100,000の初期投資の銀行送金受領書、オフィス賃貸契約書と不動産所有権証明書、執行役員のパスポートと「F」登録情報、設立手数料(750,000MNT、約US221)の領収書、究極的受益者(UBO)登録のためのUB-12フォーム、委任状(該当する場合)などが挙げられます。UBO登録には、33%以上の株式を保有する関連会社の国家登録証明書、定款、UBOのパスポートコピーが必要となります。外国で作成された書類はアポスティーユ認証が必要であり、ハーグ条約非加盟国の場合、モンゴル外交使節団による認証が必要となる点も重要です。

国家登録機関(GASR/LERO)での登録

必要書類がすべて提出されると、LEROは5営業日以内に会社を登録します。オンライン申請の場合、登録通知受領後5営業日以内に原本を提出する必要があるため、完全にペーパーレス化されているわけではない点に注意が必要です。

会社印の取得

国家登録証明書を提示することで、会社印を取得できます。

税務当局(MTA)および社会保険機関への登録

会社登録後14日以内に、管轄税務署に納税者登録を行う必要があります。また、社会保障コードの申請も必要です。モンゴルで登録されたすべての会社はUBOを登録する必要があり、これは「33%以上の支配的持分を持つ個人」を特定します。さらに、税務上のUBOは「鉱業・石油ライセンスまたは土地利用権を持つ法人において30%以上の株式を持つ者」と定義されており、税務当局への登録が義務付けられています。これは、単なる会社登録の要件に留まらず、税務コンプライアンスに関連するものであり、特に資源分野への投資家にとっては重要なデューデリジェンス事項となります。

会社設立の主要な必要書類と費用・期間

モンゴルにおける会社設立の主要なステップ、必要書類、費用(実費)、および期間の概要を以下の表に示します。

手続きステップ主要な必要書類費用(実費)(MNT/USD)所要期間担当機関
会社名確認・予約創設者のID/パスポート、委任状MNT 500 (約US$0.14)1営業日GASR/LERO
仮口座開設会社設立証明書、定款、決議書、ID/パスポート特になし1営業日商業銀行
書類準備申請書(UB-03)、会社名確認書、設立決定書、定款、株主間契約、銀行送金受領書、賃貸契約書、UBOフォーム(UB-12)など特になし3〜4週間自身/専門家
GASR/LERO登録上記準備書類一式MNT 750,000 (約US$217.20)5営業日GASR/LERO
会社印取得国家登録証明書MNT 10,000 (約US$2.9)1営業日会社印製造業者
税務当局登録申請書、国家登録証明書コピー、定款、銀行取引明細書、賃貸契約書など特になし14日以内MTA
社会保険機関登録申請書、国家登録証明書コピー、定款など特になし14日以内社会保険総局

注:上記の費用はあくまで目安であり、個別的な事情で変動し得るものです。

モンゴル国における投資インセンティブと保護措置

税制上の優遇措置

投資法に基づき、外国人投資家には様々な税制上の優遇措置が提供されています。これには、免税、税額控除、加速償却、繰越欠損金、従業員研修費の課税所得からの控除などが含まれます。

特定のプロジェクト、例えば建設資材、石油、農産物加工、輸出製品、ナノ・バイオ・イノベーション技術、発電所、鉄道などの工場建設のための輸入機械・技術設備は、建設期間中に輸入関税とVATが免除またはゼロ税率となる場合があります。また、企業の社会的責任(CSR)活動への投資は、法人所得税の税額控除の対象となり、特定の農産物や肉製品の生産に対しては50%の税額控除が利用可能です。

非税制上の優遇措置

税制上の優遇措置に加えて、非税制上のインセンティブも提供されています。これには、契約に基づき最大60年間の土地リース・利用が可能で、1回に限り最大40年間延長できるという長期的な土地利用権が含まれます。さらに、モンゴルに投資を行った外国人投資家とその家族には、複数ビザおよび居住許可が提供され、入国・滞在手続きが円滑化されます。

自由貿易地域(Free Trade Zones: FTZ)は、非税制上のインセンティブです。ツァガーンノール、アルタンブラグ、ザミンウード、新チンギスハーン国際空港下のフシグバレー経済自由貿易地域などが指定されており、これらの地域は関税・税金に関して関税領域外とみなされ、特別な規制が適用されます。FTZへの輸入商品には関税・VATが免除され、FTZ内の事業活動には、法人所得税の割引や免除、土地利用料の免除や割引が適用される場合があります。

安定化証明書(Stabilization Certificate)の取得とその条件

安定化証明書は、投資法により、特定の投資額を満たすプロジェクトに対して発行される重要な保護措置です。この証明書を取得することで、法人所得税、関税、VAT、鉱物ロイヤルティ税の税率が一定期間安定化されます。すなわち、会社設立後の法令改正による税務コストの肥大化などを防ぐことができる、という保護措置です。期間は投資額、産業、地理的位置によって5年から18年まで異なります。

特定の条件(輸入代替品や輸出志向製品の生産、大規模投資、3年以上の長期開発プロジェクトなど)を満たす場合、期間が1.5倍延長される可能性があります。さらに、証明書の有効期間中に、一般法規でより有利な税率が提供された場合、投資家はそちらを適用できる、というケアも行われています。

モンゴルが提供するこれらのインセンティブ制度は、単に外国投資を誘致するだけでなく、特定の産業(加工業、ハイテク、インフラ、農業)や地域(自由貿易地域)への投資を誘導しようとする意図のあらわれでしょう。

一方で、自由貿易地域(FTZ)は非常に魅力的な優遇措置を提供していますが、「自由貿易地域のインフラは未整備であり、必要なフォローアップ規制や手続きがまだ整っていない」という課題も指摘されています。これは、FTZが大きな潜在力を持つ一方で、現時点では実務上の困難が伴う可能性があることを示唆します。

まとめ

モンゴルは、外国人投資を積極的に誘致する政策を推進しており、日本人にとっても魅力的な投資環境を提供しています。迅速な会社登録プロセス、外国投資家と国内投資家の間の差別撤廃、そして税安定化証明書のようなインセンティブは、モンゴル市場への参入を検討する上でポジティブな要素となるでしょう。

しかし一方で、モンゴルの法制度は発展途上であり、解釈の余地や他法との不整合が存在するため、法的不確実性がリスクとなる可能性があります。また、腐敗リスク、外国人労働者割当、土地所有権の制限といった課題も存在します。これらの課題を軽減し、円滑な事業運営を実現するためには、モンゴルの法律、税務、労働慣行に精通した専門家の助言と支援が重要です。

モノリス法律事務所の取扱分野:国際法務・モンゴル国

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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