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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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台湾の会社法が定めるコーポレートガバナンス

台湾の会社法が定めるコーポレートガバナンス

台湾への事業進出は、地理的な近接性や文化的類似性から、多くの日本企業にとって魅力的な選択肢です。しかし、事業を成功に導くためには、現地の企業統治(コーポレートガバナンス)に関する深い理解が不可欠となります。

本稿では、台湾の企業統治を支える法的枠組みを、その根幹である会社法や証券取引法、そして関連する最新の規則に基づき詳細に解説します。特に、日本の法律や商慣行との重要な相違点に焦点を当て、近年進むグローバルな透明性向上に向けた法改正の動向を分析します。

本記事が、台湾でのビジネス展開を検討する日本の経営者や法務担当者の方々にとって、実務上の指針となることを目指します。

なお、台湾の包括的な法制度の概要は下記記事にてまとめています。

台湾の企業統治の基本

台湾の企業統治制度は、日本の法制度と同様に、複数の法律や規則が階層的に組み合わさった多層的な構造を持っています。その中核をなすのが、すべての会社に共通して適用される会社法(Company Act)と、上場企業に対してより厳格な規制を課す証券取引法(Securities and Exchange Act, SEA)です。これに加えて、金融監督管理委員会(FSC)の関連規制や、台湾証券取引所(TWSE)および台北エクスチェンジ(TPEx)の規則(上場企業の企業統治ベストプラクティス原則など)が、詳細な運用基準を定めています。

この二重構造は、会社の設立や運営、取締役の義務といった基本的な事柄を会社法が定め、投資家保護と市場の信頼性確保という目的のために、公開企業に対して特別な開示義務や内部統制の仕組みを証券取引法が厳格に規定するという考え方に基づいています。この構図は、日本の会社法と金融商品取引法(金商法)の関係と酷似しており、日本の経営者や法務担当者にとって、台湾の法制度は比較的理解しやすい基盤であると言えます。

この制度的な類似性は、単なる偶然ではありません。歴史を紐解くと、台湾の会社法は1929年に制定されて以来、ドイツや日本の商法、スイスの企業法から強い影響を受けてきました。しかし、第二次世界大戦後、特に1946年の会社法改正以降は、米国の法原則が徐々に取り入れられていきました。同様に、台湾の証券取引法は、米国の1933年証券法および1934年証券取引法をモデルとしています。この共通の進化の道筋が、日本と台湾の企業法制の類似性を生み出しているのです。

台湾の非公開会社のガバナンス

非公開会社に関しては、台湾の会社法は日本と比べて役員構成に大きな柔軟性を認めています。特に、2018年の会社法改正により、取締役会を設置することなく、取締役を1名または2名とすることも可能となりました。この場合、取締役1名が会長(代表者)を兼任し、取締役会に関する規定はその会社には適用されません。これは、特に単独の法人株主が台湾に子会社を設立する場合に、日本の「取締役会非設置会社」よりもさらに簡素化された、維持管理コストの低い形態であると言えます。また、1つの法人株主で構成される非公開会社は、監査役を設置する必要もありません。

非公開会社は、財務諸表の公開義務を負いませんが、会社の透明性を確保するための基本的な情報開示は求められています。会社名、所在地、事業内容、会社状況、取締役リスト、資本金額などの基本的な企業情報は、商業登記ウェブサイトを通じて一般に公開されています。また、2018年の会社法改正により、マネーロンダリング対策を強化する目的で、非公開会社も、取締役、監査役、マネージャー、および10%を超える株式を保有する株主の持分状況に関する年次報告書を政府機関に提出する義務が課されました。重要な変更があった場合は15日以内の報告が必要です。

台湾の公開会社のガバナンス

台湾の公開発行会社、とりわけ台湾証券取引所(TWSE)上場会社および台北取引所(TPEx)店頭登録会社には、一般の非公開会社よりも厳格なガバナンス要件が課されます。重要な要件の一つが独立取締役の設置であり、証券取引法上、主管機関が設置を求める会社については、最低2名、かつ取締役総数の5分の1以上の独立取締役が必要です。さらに、TWSE上場会社については、取締役会は最低5名、独立取締役は最低3名、かつ取締役総数の5分の1以上とされています。また、TWSE上場会社では、2024年から独立取締役の半数以上、2027年からはすべての独立取締役について、連続3期を超えて就任しないことが求められます。

また、上場・店頭登録会社では、監査委員会(Audit Committee)報酬委員会(Remuneration Committee)の設置も重要です。監査委員会はすべての独立取締役で構成され、最低3名が必要であり、そのうち少なくとも1名は会計または財務の専門的知識を有する者でなければなりません。報酬委員会は最低3名で構成され、取締役、監察人および経営陣の報酬方針等を審議します。TWSE上場会社については、報酬委員会の過半数を独立取締役が占めることも求められています。

さらに、2023年6月30日までに、すべてのTWSE/TPEx上場会社に対し、最高コーポレート・ガバナンス責任者(Chief Corporate Governance Officer)の任命が求められました。この責任者は、取締役会・株主総会の運営、議事録作成、取締役への情報提供、研修支援、独立取締役の資格確認など、会社のガバナンス関連事務を統括する役割を担います。これらの制度は、台湾が資本市場の透明性と投資家保護を高めようとしていることを示すものです。実際、ACGA(Asian Corporate Governance Association、アジア・コーポレート・ガバナンス協会)のCG Watch 2023(太平洋地域の各市場におけるコーポレート・ガバナンス水準を比較するレポート)では、台湾はアジア太平洋地域の12市場中、シンガポールと並ぶ3位に位置付けられています。

台湾における近年の法改正

台湾における近年の法改正

台湾の企業統治は、近年、グローバルな潮流に沿って急速に変化を遂げており、日本企業が特に注目すべき法改正が相次いでいます。

その一つが、大株主持分開示ルールです。2024年5月、台湾の証券取引法は改正され、公開会社の株式を5%を超えて取得した株主は、金融監督管理委員会(FSC)への報告と公表が義務付けられました。これは、従来の10%という基準から引き下げられたもので、企業の支配権変動に関する透明性を大幅に高めるものです。この点は、日本の金融商品取引法における「大量保有報告制度」とほぼ同じ水準に引き上げられたと言えます。さらに、総発行株式の1%に相当する保有株式が増減し、その結果保有比率が1%以上変動した場合も、FSCへの報告が必要となります。この追加的な報告義務は、日本の制度と同様、保有状況の継続的な監視を目的としています。

もう一つの大きな潮流が、サステナビリティ(ESG)報告の義務化です。台湾では、2025年から、すべてのTWSE上場会社およびTPEx上櫃会社が、資本規模を問わずサステナビリティレポートを作成し、原則として毎年8月31日までに開示することが求められています。報告書はGRI基準に基づいて作成され、SASB基準は業種別指標の開示に際して参照可能な基準と位置付けられています。また、気候関連情報や温室効果ガス排出量の開示・検証は、資本規模等に応じて段階的に適用されます。FSCは明確なロードマップに基づき、CGOの任命義務化など、企業統治と情報開示の強化を一体的に進めています。

台湾の会社法と日本法の異同

台湾の会社法と日本の会社法は多くの共通点を持ちますが、個別の規定やその運用には重要な違いが存在します。

取締役の善管注意義務と忠実義務

台湾の会社法は、会社責任者に対して「忠実義務(Duty of Loyalty)」と「善良な管理者の注意義務(Duty of Care)」を課しています(会社法第23条)。股份有限公司においては取締役が会社責任者に含まれるため、取締役もこれらの義務を負います。これは日本法における取締役の忠実義務(会社法第355条)および善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)と機能的に共通しますが、台湾法では第三者に対する連帯責任や、義務違反により得た利益の会社帰属も明文化されており、責任の範囲や効果には差異があります。

注目すべきは、台湾の裁判所がこれらの義務を非常に厳格に解釈し、適用している点です。2001年の会社法改正によって「忠実義務」が明文化される以前から、裁判所は民法第535条の「善管注意義務」を根拠として、取締役の責任を追及していました。

近年の最高法院(日本の最高裁判所に相当)の判決は、この傾向をさらに明確にしています。例えば、最高法院112年度台上字第2800号民事判決(2024年3月8日)は、会社法第206条第2項(取締役の自己利害関係の説明義務)が導入される前の事案において、取締役が利益相反関係に関する重要内容を説明しなかったことが問題となった事例です。高等法院は、同規定は遡及適用されないとして説明義務を否定しましたが、最高法院は、同規定は会社法第23条第1項の忠実義務を具体化したものであり、条文が未整備であった時期でも、忠実義務に基づく説明義務が問題となり得ると判示しました。もっとも、同判決は、当該未説明と会社の損害との因果関係を否定し、損害賠償請求自体は認めていません。この判決は、台湾法上、忠実義務が利益相反場面における取締役の行動を律する重要な規範である一方、責任追及には損害や因果関係の立証が必要であることを示しています。

株主間の議決権行使契約

台湾の会社法は、非公開会社において、株主間の議決権行使契約(Voting Agreement)の有効性を認めています。この点は、日本の会社法が議決権行使契約の有効性について明確な規定を持たず、学説や判例も有効性について様々な見解があるのと比較して、台湾の法制度がより明確な方向性を示していると言えます。

過去、台湾の裁判所は議決権拘束契約の有効性に対して否定的な見解を示すことが多かったものの、近年は異なる傾向が見られます。特に、閉鎖型股份有限公司に関する規定が導入されたことにより、株主間の合意は、その有効性が認められる土壌が整いました。裁判所は、株主全員が締結した議決権行使契約について、会社全体の所有者たる株主が会社の処分方法を自由に決定できるという考え方に基づき、その有効性を認める判断を下しています。このような判例の積み重ねにより、ジョイントベンチャーを組成する際の契約の有効性に対する予測可能性が高まり、投資家にとって安心して事業計画を立てられる環境が整備されつつあります。

まとめ

本稿で解説したように、台湾の企業統治は、非公開会社には柔軟性を、公開会社には国際基準に準拠した厳格な義務を課すという、二つの異なる側面を持っています。近年の法改正(CGOの義務化、5%ルールへの引き下げ、ESG報告義務化)は、企業の透明性と市場の信頼性を高めるという台湾政府の明確な意思を示しており、今後も同様の傾向が続くと考えられます。したがって、日本企業は、日本の制度との表面的な類似点に安堵することなく、特にガバナンス体制や情報開示に関する厳格な違いを深く理解し、適切な体制を構築することが、事業成功の鍵となります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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