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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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マルタ共和国におけるオンラインゲーム関連ビジネスの法規制

マルタ共和国は、欧州連合(EU)加盟国としての安定性、そして特にオンラインゲーム(iGaming)に対する先進的な規制枠組みにより、国際的なビジネスハブとしての地位を確立しています。マルタでは、2004年にEU加盟国として初めてオンラインゲームに特化した規制が導入され、2018年にはゲーミング法(Gaming Act 2018)を施行することで、マルタゲーミング庁(Malta Gaming Authority, MGA)を単一の規制機関とする規制システムが構築されました。

本記事では、日本の経営者がマルタ共和国でオンラインゲーム関連のビジネスを営む場合に注意すべき法規制について、その概要を解説します。

マルタにおける会社設立の概要

まず前提として、マルタでオンラインゲーム関連ビジネスを行う際、マルタ国内に法人を設立する必要があります。マルタの会社法は、主に1995年会社法(Companies Act, Chapter 386 of the Laws of Malta)によって規定されており、有限責任会社(Limited Liability Company)が、、特にそのうちの私的有限責任会社(Private Limited Company, Ltd.)が一般的だと言えます。この会社形態は、社名に「Limited」または「Ltd」の接尾辞が付され、最低登録資本金は1,164.69ユーロで、設立時に少なくとも20%が払い込まれている必要があります(Companies Act, 1995, Article 72(3))。また、少なくとも1名の取締役と1名の会社秘書役の任命が義務付けられており(Companies Act, 1995, Article 137(2))おり、マルタ国内に登記上の事務所(Registered Office Address)を持つ必要があります(Companies Act, 1995)。

マルタでの会社設立は、マルタ事業登録局(Malta Business Registry, MBR)への書類提出を通じて行われ、会社名の予約、定款(Memorandum and Articles of Association)の作成、最低資本金の預託、および必要書類の提出といったプロセスとなります。会社登録は通常2〜5営業日で完了しますが、法人銀行口座の開設には時間を要する場合があります。

また、2018年1月1日以降、マルタで登録された全ての会社は、EU指令2015/849に従い、実質的支配者登録簿(Register of Beneficial Ownership)を維持することが義務付けられています(Companies Act (Register of Beneficial Owners) Regulations, Subsidiary Legislation 386.19)。

オンラインゲームライセンス(MGAライセンス)の取得

オンラインゲームライセンス(MGAライセンス)の取得

マルタは、オンラインゲーム産業の規制において世界をリードする司法管轄区の一つであり、マルタゲーミング庁(Malta Gaming Authority, MGA)がその中心的な役割を担っています。

マルタゲーミング庁(MGA)の役割と権限

MGAは、2018年8月に施行されたゲーミング法(Gaming Act 2018)に基づき、マルタにおける全てのゲーミング活動の単一規制機関として機能しています。その主要な目的は、プレイヤーに対する公正かつ透明なゲーミングの確保、犯罪、汚職、マネーロンダリングの防止、未成年者および脆弱なプレイヤーの保護です。MGAは、マネーロンダリング防止法(Prevention of Money Laundering Act, PMLA)に基づき、金融情報分析ユニット(Financial Intelligence Analysis Unit, FIAU)の「エージェント」として、監督機能を持つ機関として機能しています。MGAは、ライセンス保有者がPMLA、マネーロンダリングおよびテロ資金供与防止規則(Prevention of Money Laundering and Funding of Terrorism Regulations, PMLFTR)、および関連する実施手順やガイダンスを遵守しているかを監視し、不遵守があった場合にはFIAUに報告する責任を負います。

ライセンスの種類とゲーム分類

MGAは、主に2種類のライセンスを提供しています。

  • Critical Gaming Supply license (B2B): 他の事業者に対しゲーミングサービスやソフトウェア製品を提供する企業向けのライセンスです。
  • Gaming Service license (B2C): プレイヤーに直接ゲーミングサービスを提供する事業者向けのライセンスです。

そして、これらのライセンスは、以下の4つの異なるゲームタイプをカバーしています(Gaming Act 2018)。

  • Type 1: ハウスと対戦する運任せのゲームで、乱数発生器(RNG)によって結果が決定されるもの(例:オンラインカジノゲーム、宝くじ) 。
  • Type 2: ハウスと対戦する運任せのゲームで、ゲーム自体とは別のイベントや競技の結果によって結果が決定されるもの(例:固定オッズ賭博、スポーツベッティング) 。
  • Type 3: ハウスと対戦しない運任せのゲームで、事業者はゲーミングリスクに晒されず、ステークや賞金に基づいて手数料やその他の料金を徴収することで収益を上げるもの(例:オンラインポーカー、ビンゴ) 。
  • Type 4: 規制されたスキルゲーム(例:ファンタジースポーツベッティング) 。

ゲームが複数のタイプに該当する場合、MGAがそのゲームの性質を最も正確に反映すると判断するタイプに分類されます。

そして、これらのライセンスカテゴリーとゲームタイプによって最低払込済み資本金が異なっており、以下の通りです。

  • Gaming Service license (B2C)でType 1又は2の場合、100,000€
  • Gaming Service license (B2C)でType 3又は4の場合、40,000€
  • Critical Gaming Supply license (B2B)の場合、全Typeについて、40,000€

上記を前提に、複数のタイプを持つ企業は、合計で最大240,000ユーロの資本金要件を満たす必要があります。

MGAのライセンス体系は「アンブレラ」コンセプトに基づいており、事業者が単一のライセンスの下で複数のゲーミング活動を柔軟に追加・削除できるという運用上のメリットを提供します。

ライセンス申請プロセスと審査基準

MGAライセンスの取得は、以下の4段階のプロセスを経て行われます。

  • Fit and Proper Checks(適格性審査): 申請者、全ての株主、最終的な実質的支配者(UBO)、および主要ポジションに関わる個人について徹底的な身元調査を行います。マネーロンダリング報告担当者(MLRO)は、MGAによって承認された主要AML機能として、FIAUに登録されている必要があります。
  • Business and Technical Ability Review(事業計画および技術的能力審査): 公正性、透明性、規制遵守を確保するため、申請者の事業計画、提供されるゲーム、技術的設定、サービス規約などを評価します。
  • System Review(システム監査): MGA承認監査人によるシステム監査を受け、ライブ環境が提案された申請内容と一致しているかを確認します。
  • Compliance Audit(コンプライアンス監査): ライセンス発行後、事業者はMGAの要請により、最初の1年以内に、またMGAのコンプライアンス計画によって決定されるその他の監査として、独立した第三者による一連のコンプライアンス監査を受ける義務があります。

ライセンス費用とゲーミング税

MGAライセンスの取得には、以下の費用と税金が必要となります。

  • 申請手数料: 全てのライセンスタイプで一律5,000ユーロの返金不可の手数料が課されます。
  • 年間ライセンス料: Gaming Licence Fees Regulations (L.N. 409 of 2017)に基づく費用で、Type 1, 2, 3は各25,000ユーロ、Type 4は10,000ユーロです 。B2Bライセンスの場合、年間収益に応じて25,000ユーロから35,000ユーロの範囲で変動します。
  • コンプライアンス貢献金(Compliance Contribution): Gaming Licence Fees Regulations (S.L. 583.03)に基づき、B2Cライセンス保有者に対し、ゲーミング収益に基づいて段階的に計算されます。B2Bライセンス保有者は、原則としてコンプライアンス貢献金を支払う必要がありません 。
  • ゲーミング税(Gaming Tax): Gaming Tax Regulationsに基づき、マルタ国内のプレイヤーから発生したゲーミング収益に対し、5%のゲーミング税が課されます。

MGAライセンス保有企業の運用に関する法規制

継続的な報告義務とコンプライアンス

MGAライセンス保有者は、ライセンスの有効性を維持するために、厳格な継続的報告義務を負います。

  • 月次報告: B2Bコンプライアンス報告書、ゲーミング税報告書、プレイヤー資金報告書、代替的紛争解決(ADR)報告書を毎月提出する必要があります。
  • 年次財務報告書(AFR)および中間財務報告書(IFR): 2025年以降、MGAライセンス保有者は、年次財務報告書(AFR)を会計年度終了後2ヶ月以内に、中間財務報告書(IFR)を報告期間終了後2ヶ月以内に提出する必要があります 。これらの報告書は、監査済み財務諸表の提出義務に代わるものではなく、監査済み財務諸表は会計年度終了後6ヶ月以内に提出が必要です。
  • 情報セキュリティインシデント報告: プレイヤーの機密性に悪影響を及ぼす情報セキュリティ侵害、またはプレイヤーが12時間以上アカウントにアクセスできないようにするセキュリティ侵害は、72時間以内に報告する必要があります。
  • 疑わしい賭博行為報告: スポーツベッティングを提供するマルタライセンス保有者は、疑わしい賭博行為をMGAに直ちに報告する義務があります(Gaming Authorisations and Compliance Directive (Directive 3 of 2018), Article 43)。

MGAが要求する報告義務の頻度と詳細度は非常に高く、MGAがライセンス保有者の運営をリアルタイムに近い形で監視し、高い透明性と規制遵守を維持しようとしていることを示していると言えるでしょう。

責任あるゲーミングとプレイヤー保護

責任あるゲーミングとプレイヤー保護

MGAは、「責任あるゲーミングとプレイヤーの権利保護」を最優先事項としています。プレイヤー保護指令(Directive 2 of 2018)に基づき、プレイヤーが安全で持続可能な方法でギャンブルを行えるよう、以下のツールとポリシーが義務付けられています。

  • 自己排除ツール(Self-Exclusion): プレイヤーがゲーミングウェブサイトへのアクセスをブロックできる効果的で容易に利用可能な自己排除メカニズムを提供しなければなりません 。
  • ゲーミング制限とリアリティチェック: 入金制限、賭け金制限、損失制限、時間制限などの責任あるゲーミングツールを提供する必要があります。
  • 責任あるゲーミングポリシー: 事業者は、製品と関連リスクを考慮した、効果的かつ定期的に更新される責任あるゲーミングポリシーと手順を持つ必要があります。
  • 未成年者保護: 事業者は、未成年者がゲーミングサービスを利用するのを防ぐための効果的なポリシーを導入する必要があります。
  • 苦情および紛争解決: ライセンス保有者は、苦情や紛争を公正に管理するための明確に文書化された手続きを持つ必要があり、内部紛争解決プロセスを使い果たした後、プレイヤーに対し、EUまたはEEA域内に設立された登録済みの代替的紛争解決(ADR)機関に紛争を付託する機会を提供しなければなりません。

まとめ

マルタ共和国は、オンラインゲーム関連ビジネスにとって、EU単一市場へのアクセス、そして競争力のある税制により、世界有数の魅力的なハブであり続けています。本記事では詳細を割愛しましたが、フルインピュテーションシステムと参加免除制度が設けられた法人税制度、オンラインゲーミングに関してVATの免除を定めるマルタのVAT法は、オンラインゲーミング事業を検討している日本人経営者にとっても、非常に魅力的な制度であると言えるでしょう。

その一方で、ゲーミング法(Gaming Act 2018)に基づく、マルタゲーミング庁(MGA)が提供する厳格なライセンス制度は、プレイヤー保護と市場の健全性を確保し、マルタライセンスの国際的な信頼性を高めているものではありますが、本記事に記載の通り、様々な規制を設定するものです。これらを理解した専門家による支援が必要となると言えるでしょう。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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