弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

台湾の税法を弁護士が解説

台湾の税法を弁護士が解説

中華民国(台湾)において新たなビジネス展開や投資活動を検討している日本企業の経営者や法務担当者にとって、現地の税制体系を網羅的かつ正確に理解することは、初期の事業計画の策定から運用フェーズにおけるコンプライアンス維持に至るまで、極めて重要な経営課題となります。台湾の税制は、行政院財政部が所掌する中央政府の「国税」と、各地方自治体が所掌する「地方税」という二層構造を基本として構成されています。企業活動の中核をなす営利事業所得税(日本の法人税に相当)は原則として20%という国際的にも競争力のある単一税率が適用されており、さらに小規模事業者に対する免税措置や、青色申告制度を通じた最長10年間の欠損金繰越控除など、投資を強力に後押しする柔軟な枠組みが整備されています。

一方で、日本の消費税に相当する加値型及非加値型営業税(営業税)は標準税率が5%と非常に低水準に抑えられている反面、政府が厳格に管理する「統一発票」制度によるインボイス管理が義務付けられており、日々の経理実務においては日本以上に厳密な証憑管理が要求されます。個人の所得税にあたる総合所得税については、居住者と非居住者で明確に区分され、最高税率40%の累進課税が適用されるほか、2018年の大幅な法改正により基礎控除が引き上げられ、低所得者層の実質的な免税枠が拡大されました。さらに、居住者に対しては特定の海外所得に対する基本所得税(AMT)による全世界所得課税の仕組みも導入されています。近年では、税源浸食と利益移転(BEPS)への国際的な対応として、2023年から外国受控企業(CFC)税制が施行されるなど、租税回避防止に向けた規制強化が急ピッチで進んでいます。

台湾の税制は基本構造において日本の税法と類似する点が多いものの、実効税率の低さや統一発票制度という独自のコンプライアンス管理手法、厳格な暦年基準に基づく居住者判定ルール、さらには税務申告における公認会計士の法定役割など、実務面で独自の高度な制度設計がなされている点に最大の特徴があります。これらの違いを正確に把握し、現地の最新の法令や司法判断に基づいた適切な税務ガバナンスを構築することが、台湾市場におけるビジネス成功の絶対条件です。

本記事では、移転価格税制に関する税務当局の厳格な執行や、2017年に発効した日台民間租税取り決めによる二重課税排除の仕組みも含め、本記事では日本法との異同を強く意識しながら、台湾税法の実務上の留意点を判例を交えて詳細に解説します。

台湾税制体系の基礎と法令上の枠組み

台湾の税制は、行政機関である財政部が所管する厳格な成文法に基づいて運用されています。全体像を把握する上でまず理解すべきは、税収の帰属先に基づく「国税」と「地方税」の明確な分類です。国税は中央政府が徴収し、国家予算の主要な財源となる税目です。これには、所得税法に基づく営利事業所得税(法人税に相当)総合所得税(個人所得税に相当)をはじめ、加値型及非加値型営業税法に基づく営業税(消費税に相当)相続税および贈与税、さらには証券取引税などが含まれます。一方で地方税は、地方政府が徴収し地方財政を支える税目であり、土地の保有に対する地価税、土地の売却による値上がり益に対する土地増値税、建物の保有に対する房屋税、不動産所有権の移転に伴う契税などが規定されています。

日本における国税と地方税の区分と概念的には類似していますが、日本の法人税実務において企業に課せられる法人住民税や法人事業税といった、地方自治体が独自の税率を上乗せするような複雑な地方独自の所得課税の仕組みは、台湾の税制体系には存在しません。台湾において企業の事業所得に対して課されるのは、原則として国税である営利事業所得税のみです。そのため、企業の拠点が存在する自治体によって実効税率が変動するといった不確実性が排除されており、外資系企業にとって税金費用の予測可能性が極めて高く、透明性の高い税務環境が提供されているということが言えるでしょう。

台湾営利事業所得税の構造と実務上の留意点

台湾営利事業所得税の構造と実務上の留意点

課税範囲と税率の基本構造

台湾において事業を営む法人は、所得税法第3条の規定に基づき営利事業所得税の納税義務を負います。課税範囲の決定においては、本店の所在地が重要な基準となります。台湾国内に本店を有する法人は内国法人として扱われ、台湾国内の源泉所得だけでなく、台湾国外で得た所得も含めた全世界所得に対して課税されます。ただし、二重課税を排除する観点から、国外で既に納付した法人税等の税額については、外国税務当局が発行し台湾の在外公館等が認証した納税証明書を提出することを条件に、一定の限度額の範囲内で台湾における税額から控除する外国税額控除の適用を受けることが可能です。これに対して、台湾国内に本店を有しない外国法人(例えば日本企業の台湾支店など)は、台湾国内を源泉とする所得のみが課税対象となります。

営利事業所得税の標準税率は原則として20%の単一税率が適用されます。ただし、創業間もない企業や小規模な事業者を保護および育成する政策的見地から、課税所得額が12万台湾元以下の企業については全額が免税とされています。さらに、課税所得が12万台湾元をわずかに超えた場合に税負担が急激に増加する現象(クリフエッジ)を防ぐため、算出される税額が「12万台湾元を超過した所得部分の半額」を上回らないようにする限界的な負担調整措置が所得税法に精緻に組み込まれています。

日本の法人税制においては、法人の資本金規模に応じた軽減税率の適用要件が複雑であり、国税たる法人税に地方税たる地方法人税、法人住民税、法人事業税を合算した法定実効税率が約30%前後に達します。これと比較すると、台湾の原則20%というフラットな税率は、実務上の税額計算が簡明であるという利点にとどまらず、アジア太平洋地域における国際的なタックスコンペティションにおいても優位性を保ち、積極的な海外直接投資を呼び込む強力なインセンティブとして機能しています。

一方で、台湾独自の制度として留意すべきなのが、当該事業年度の未分配利益(内部留保)に対して課される5%の追加的課税です。この制度は、企業が利益を過度に内部に留保することを抑制し、株主への配当を促進することで経済の活性化を図る目的で設けられています。日本の法人税法にも特定の同族会社に対する留保金課税制度が存在しますが、台湾の未分配利益に対する5%の追加課税は、上場企業や非上場企業といった企業の属性、あるいは同族会社であるか否かを問わず、原則としてすべての営利事業者に等しく適用される点に重大な違いがあります。したがって、日本企業が台湾子会社から配当を実施するか、あるいは再投資のために利益を留保するかを決定する際には、この5%の追加的な税負担を組み込んだ高度な資本政策とタックスプランニングが要求されます。

青色申告制度と欠損金の繰越控除

企業の事業活動において不可避的に発生する税務上の欠損金(赤字)の取り扱いについて、台湾の所得税法第39条は、原則として過年度の欠損金を当年度の課税所得から控除することを認めていません。しかしながら、同条の但し書きにおいて投資促進の観点から重要な例外が規定されています。会社組織である営利事業者が完全な会計帳簿を備え付け、所得税法第77条に規定される「青色申告(Blue Return)」の承認を所轄の税務当局から受けている場合、または公認会計士(CPA)による税務監査証明を添付して法定の期限内に確定申告を行った場合に限り、過去10年間に発生した税務上の欠損金を当年度の課税所得から繰越控除することが認められています。欠損金の繰戻還付(Carryback)制度については原則として存在せず、将来に向けた繰越控除のみが許容されています。

比較項目日本の法人税法における欠損金繰越控除台湾の所得税法における欠損金繰越控除
繰越可能期間最大10年間(事業年度により要件の変動あり)最大10年間
控除限度額の制限大企業は当期所得の50%まで等の厳格な制限あり当期所得額を上限として全額控除可能(規模制限なし)
適用の前提要件青色申告書の連続した提出青色申告の承認、または公認会計士による税務監査証明の添付
繰戻還付の有無中小企業等に限定して1年間の繰戻還付制度あり繰戻還付制度は原則として認められていない

台湾の制度設計において日本と大きく異なるのは、外資系の大企業であっても所得に対する控除割合に50%といった人為的な上限が設けられていない点です。これにより、初期投資が巨額となる製造業やインフラ事業において、投資回収期の税負担を効果的に軽減することが可能となります。また、税務当局から直接青色申告の承認を得るための内部統制基準のハードルが高い場合であっても、独立した外部の公認会計士による厳格な税務監査を受け、その監査証明を申告書に添付することで青色申告と同等の恩恵を受けられる代替的な枠組みが確立されています。実務上、多くの外資系法人や日本企業の現地法人は、税務リスクの低減と欠損金繰越控除の確実な適用を担保するために、この公認会計士監査の枠組みを積極的に活用しています。

欠損金繰越控除に関する重要な司法判断

この欠損金繰越控除の算定メカニズムに関連して、台湾の最高司法機関である司法院憲法法庭において極めて重要な憲法判断が下された事例が存在します。2022年4月29日に宣告された「111年憲判字第5号判決(当事者:Dragon Steel Corporation)」がそれにあたります。

本件は、納税者である法人が所得税法第39条に基づいて過去の欠損金を当年度の所得から繰越控除する申告を行った際、税務当局(財政部高雄国税局)が、法人が当年度に受領した「免税対象となる投資収益(配当等)」の金額を欠損金の控除可能額から差し引いて計算し、結果として法人の税負担が増加したことの妥当性が争われた事案です。税務当局の処分の根拠となったのは、財政部が1977年に発出した通達(Tai-Tsai-Shui-31580)でした。納税者側は、この通達による制限は所得税法に明文の規定がないにもかかわらず国民の財産権を侵害しており、租税法律主義に反すると主張して訴えを提起しました。

司法院憲法法庭は、財政部の通達が実質的な経済的負担能力に応じた公平な課税を実現しようとするものであり、憲法第19条に規定される租税法律主義および第7条に規定される平等原則の根本的な精神には違反していないとして、税務当局の処分自体は合憲であるとの判断を示しました。しかしその一方で、欠損金の繰越控除という国民の財産権および企業の投資意思決定に重大な影響を及ぼす制度の核心部分については、法的な疑義を避けるために、単なる行政当局の通達ではなく、国会が制定する法律または法律の明確な授権に基づく法規命令において明文化することが望ましいとの付言を行いました。この判決に関する公式な情報は、台湾司法院憲法法庭の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:台湾司法院憲法法庭の公式ウェブサイト

この判例から、台湾の税務当局が法の文言だけでなく実質課税の原則や税負担の公平性を重視して厳格な解釈を試みる傾向があること、そして司法機関がその行政解釈の合理性を認めつつも、行政に対してより透明性の高い法整備を強く促しているという現状が言えるでしょう。日本企業が台湾において高度なタックスプランニングを実行する際には、文言上の解釈に固執するのではなく、税務当局の実質的な執行方針や直近の司法動向を慎重に見極める必要があります。

台湾営業税(日本の消費税に相当する税制)の法的枠組み

価値付加税と非価値付加税の区分および税率体系

台湾において商品やサービスの販売、または海外からの貨物の輸入を行う事業者は、加値型及非加値型営業税法(以下、営業税法)に基づく営業税の納税義務を負います。営業税法の第1条および第1-1条の規定によれば、台湾国内の税制は一般事業者向けの「価値付加税(Value-added Business Tax)」と、特定業種向けの「非価値付加税(Non-value-added Business Tax)」という二つの異なる計算体系を内包しています。

一般の製造業、卸売業、小売業、サービス業などの事業者が行う取引に対しては価値付加税の枠組みが適用され、標準税率は5%と規定されています。日本の消費税が段階的な引き上げを経て現在標準税率10%(軽減税率8%)となっている状況と比較すると、台湾の5%という税率は、物価の安定や消費者の負担軽減を重視した極めて低い水準に維持されています。

一方で、銀行業、保険業、信託投資業、証券業といった金融セクターにおける中核的業務から生じる収入に対しては、非価値付加税と呼ばれる仕組みが適用されます。これは、付加価値の算出が技術的に困難な金融取引の特性に配慮したものであり、総収入金額に対して直接課税を行う方式です。金融機関の中核業務に対する税率も一般税率と同じく5%とされていますが、計算構造上、仕入税額控除が認められないケースが多く、実質的な税負担のメカニズムが価値付加税とは大きく異なります。

ゼロ税率と免税の法的な違いと適用要件

日本の消費税法における「輸出免税」と「非課税取引」の概念と同様に、台湾の営業税法でも「ゼロ税率(零税率)」と「免税(免税)」が厳密に区別されています。この二つの概念は、売上に対して税金が課されないという表面的な結果は同じですが、仕入れに際して支払った税額の取り扱いにおいて天と地ほどの違いが存在します。

営業税法第7条に規定されるゼロ税率は、主に輸出向けの貨物、国際運輸業務、保税区内の事業者に対する業務用の販売などに適用されます。ゼロ税率が適用される取引については、販売に係る出力税額(売上税額)がゼロとして計算されるだけでなく、事業者がその商品やサービスを提供するために支出した入力税額(仕入税額)について、全額を税務当局から還付として受け取ることが法的権利として認められています。これにより、輸出事業者は税負担を完全に排除され、国際市場における価格競争力を維持することが可能となります。

これに対して、営業税法第8条に規定される免税取引には、土地の売却、医療機関による医療サービスの提供、教育機関による教育サービスの提供などが含まれます。免税取引においては販売時に入力税額(売上税額)を上乗せすることは禁止されていますが、事業者がそのサービスを提供するために支出した仕入れに係る入力税額を控除または還付請求することは一切認められません。したがって、免税取引のみを行う事業者は、仕入税額を自社の実質的なコストとして全額負担しなければなりません。日本企業が台湾において不動産開発事業や教育・医療関連のビジネスを展開する際には、この仕入税額控除の不可分性が事業の利益率に与えるマイナスの影響を事前に精査し、事業計画に織り込むことが不可欠です。

統一発票制度による厳格なインボイス管理

日本の消費税実務では、2023年より適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入され、請求書の保存要件が新たな転換点を迎えましたが、台湾では数十年前から政府が法的に厳格に管理する「統一発票(Uniform Invoice)」制度が社会の隅々まで根付いています。台湾国内で営業税の課税対象となる取引を行う事業者は、原則として税務当局が付番し管理する統一発票を発行し、これを売上の記帳および税務申告の唯一の公式な証憑としなければなりません。

統一発票には、政府が毎月抽選を行う宝くじの機能が付与されています。消費者が小売店や飲食店で買い物をした際、必ず統一発票(領収書)を要求するように仕向けることで、事業者の売上隠しや不当な脱税を消費者の目を通じて相互監視させるという、行動経済学の観点からも極めて合理的かつ巧妙なコンプライアンス維持の仕組みとして機能しています。近年では環境保護と業務効率化の観点から電子化が強力に推進されており、クラウド上で管理される電子発票(e-Invoice)の普及が進んでいます。この制度の存在により、台湾における営業税の申告実務は、日本と比べてより機械的かつごまかしのきかない厳密なデータ管理体制が企業に要求されるということが言えるでしょう。

営業税における仕入税額控除に関する判例

営業税の実務運用において、税務当局の厳格な姿勢を示す重要な司法判断として、司法院大法官釈字第660号解釈(2009年5月22日)があります。本件は、納税者が営業税の申告において売上金額を意図的あるいは過失により過少申告した事案です。税務当局による税務調査が開始され、売上漏れが発覚した後に、納税者は慌てて「申告漏れとなっていた期間に係る正当な仕入税額(入力税額)の証明書」を提出し、追徴される売上税額からこの仕入税額を控除して税額の不足分を計算すべきだと主張しました。この納税者の主張に対し、財政部は通達(Tai Tsai Shui No.)に基づき、調査発覚後に提出された仕入税額証明を用いた控除を一切認めず、売上税額の全額を脱税額として認定し、重加算税等のペナルティを課しました。

司法院はこの行政処分について、税務当局の運用は営業税法が定める申告義務の趣旨に合致しており、憲法第19条の租税法律主義には違反しないとの合憲判断を下しました。この解釈の根底には、適法な申告期間内に証憑を整備して申告を行わなかった納税者に対して、事後的な証拠提出による税額軽減を認めることは、誠実な納税者との公平性を著しく損なうという強い法思想が存在します。この解釈に関する公式な情報は、台湾司法院の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:台湾司法院の公式ウェブサイト

この事例から、台湾の営業税実務においては、単に税率が5%と低いという事実に安心するのではなく、法定期間内の正確な統一発票の計上と申告手続きが絶対的な要件とされていることが明確に理解できます。ひとたび申告漏れが発覚すれば、事後的な救済措置は極めて限定的であるため、日々の経理プロセスにおける厳重な内部統制の構築が急務となります。

台湾における総合所得税の課税体系と居住者判定メカニズム

台湾における総合所得税の課税体系と居住者判定メカニズム

税率体系と基礎控除の改定による実質的免税措置

台湾において個人が稼得した各種の所得に対しては、所得税法に基づき国税である総合所得税が課されます。総合所得税の計算プロセスは、個人の1年間(暦年)の総所得金額から各種の免税所得、法定の基礎控除、配偶者や扶養家族に関する人的控除、さらには特定の支出に関する特別控除などを差し引いた「課税標準額(Net Consolidated Income)」を算出し、これに対して累進税率を適用するという手順を踏みます。税率体系は、所得金額の多寡に応じて5%、12%、20%、30%、最高で40%に至る5段階の累進税率が設定されています。

台湾の総合所得税制において特筆すべき転換点となったのが、2018年に実施された大規模な税制改正です。この改正により、すべての納税者に適用される基礎控除額や、給与所得者に適用される給与所得特別控除額などが劇的に引き上げられました。この法改正の結果、単身の給与所得者の場合、年間の所得額が概ね40万8,000台湾元以下であれば、基礎控除と特別控除の合計額が所得額を完全に上回ることになり、実質的に所得税の納付義務が免除される仕組みが完成しました。この措置により、低所得層から中間所得層に至る幅広い納税者の税負担が軽減されており、国際的な基準に照らしても極めてシンプルかつ合理的な富の再分配機能が果たされています。

居住者と非居住者の厳格な判定基準(183日ルール)

日本企業が台湾に現地法人や支店を設立し、日本から駐在員を派遣する際、個人の税務コンプライアンスにおいて最も警戒し、かつ綿密な事前のプランニングを要するのが、所得税法第7条に基づく「居住者(Resident)」と「非居住者(Non-resident)」の判定基準です。台湾税法上、中華民国境内に法的な住所(戸籍等)を有し、かつ経常的に居住している個人は無条件で居住者として扱われます。さらに、台湾国内に住所を有しない外国人(日本の親会社から派遣された駐在員など)であっても、同一の課税年度内(必ず1月1日から12月31日までの暦年で計算されます)に台湾国内に合計183日以上物理的に滞在した場合は居住者とみなされ、原則として翌年の5月に総合所得税の確定申告を行う法的な義務が生じます。

一方、同一暦年内における滞在日数が183日未満の場合は、いかなる理由があろうとも非居住者として分類されます。非居住者の場合、台湾国内の企業から支払われる給与所得などに対しては、確定申告を行う権利がなく、支払時に原則として18%という高い単一税率で源泉徴収が行われることで課税関係が強制的に完結します(ただし、滞在日数が90日以内の場合と、91日以上183日未満の場合とで、台湾国外の雇用主から支払われる給与に関する申告要件が細かく分かれます)。

滞在日数(同一暦年内)税法上の法的区分適用される課税方式および実務上の税率
90日以下非居住者源泉徴収のみ(給与所得18%、その他20%等)。台湾外の雇用主から支払われた報酬は台湾では免税。
91日〜183日未満非居住者給与所得に対する源泉徴収(18%)。台湾外の雇用主から支払われた台湾での役務提供対価も申告および納税義務あり。
183日以上居住者基礎控除等を適用した後の課税標準に対する累進課税(5%〜40%)。翌年5月の確定申告義務あり。

日本の所得税法における居住者判定が、客観的な事実関係に基づき「生活の本拠」がどこにあるかを総合的に判断し、1年以上の居住見込みがある場合は入国直後から居住者として扱うという推定規定を用いているのに対し、台湾の税務実務は「同一暦年内における入出国記録に基づく物理的な滞在日数」を極めて厳密かつ機械的にカウントする傾向にあります。

このルールの違いが実務上どのような影響をもたらすかについて具体例を挙げます。日本の親会社が10月1日付で従業員を台湾の現地法人へ赴任させたとします。日本の感覚であれば数年の赴任予定であるため即座に居住者として扱いたいところですが、台湾税法上、その年の12月31日までの最大滞在日数は約92日となり、確実に183日未満となります。したがって、赴任初年度の10月から12月までの給与に対しては一律に非居住者として扱われ、基礎控除などの恩恵を一切受けることなく18%の源泉徴収税率が適用され、手取り額が大きく減少することになります。そして翌年の1月1日以降、滞在日数がリセットされてカウントが再開され、その年の滞在日数が183日を超えた時点で初めて居住者としての地位を獲得し、累進税率の適用と確定申告の権利を得ることになります。

このような暦年を絶対的な基準とした機械的な判定ルールは、駐在員の給与額の設計や手取り保証計算(グロスアップ計算)、税額負担のシミュレーションにおいて日本の実務と大きな乖離を生む原因となるため、人事部や法務部による事前の綿密なスキーム構築が不可欠です。

代替的最小限税(AMT)による全世界所得課税の導入

台湾の総合所得税は、長らく台湾国内を源泉とする所得に対してのみ課税するという国内源泉所得課税の原則を貫いてきました。しかし、富裕層による海外での資産運用を通じた租税回避に対抗するため、所得基本税額条例(Income Basic Tax Act)が制定され、代替的最小限税(Alternative Minimum Tax:AMT)というメカニズムを通じた事実上の全世界所得課税が導入されました。

この制度の適用対象となるのは台湾の居住者です。居住者が台湾国外の源泉から得た所得(海外の株式配当、預金利子、不動産の譲渡益など)の合計額が年間100万台湾元以上となる場合、これを通常の国内所得と合算して「基本所得額」を計算しなければなりません。計算の結果、基本所得額が法定の基礎控除額(2024年度の規定では750万台湾元)を超える場合、その超過部分に対して一律20%の基本所得税額が算出されます。納税者は、通常の総合所得税の規定に従って計算した税額と、この基本所得税額とを比較し、いずれか高い方の税額を国庫に納付する法的な義務を負います。

この規定により、例えば台湾に赴任して183日以上滞在し居住者となった日本人駐在員が、日本国内の証券口座で多額の株式売却益を得た場合や、日本国内の不動産から多額の賃貸収入を得ている場合、それらの所得が台湾の税務当局への申告対象となるリスクが生じます。個人のグローバルな資産残高や運用益を含めた総合的な税務申告対応を迫られることになるため、赴任前の資産整理や、申告漏れによるペナルティリスクに対する深い理解が求められます。

台湾の外国受控企業(CFC)税制と国際的租税回避への対応

CFC税制の導入背景と適用要件

経済のグローバル化が進展する中、多国籍企業や一部の富裕層が税率の極めて低い国や地域(いわゆるタックスヘイブン)にペーパーカンパニーを設立し、そこに利益を不当に滞留させることで自国での課税を逃れるという租税回避行為が国際的な問題となってきました。台湾政府もこの税源浸食と利益移転(BEPS)に関する国際的な取り組みに歩調を合わせるため、所得税法第43条の3に基づく外国受控企業(Controlled Foreign Company:CFC)税制を新たに制定し、長年の準備期間を経て2023年1月1日より企業および個人を対象に本格的な施行を開始しました。

このCFC税制は、台湾の居住者(内国法人または個人)が直接的あるいは間接的に株式の50%以上を保有する、あるいは役員の過半数を派遣するなどして実質的な支配権を有している外国企業が、「低税率国または地域」に所在する場合に適用されます。台湾税務当局が定義する「低税率国または地域」とは、現地の法定実効税率が台湾の営利事業所得税率(20%)の70%に相当する水準、すなわち14%以下である国や地域、あるいは国外源泉所得に対して一切課税を行わないオフショア地域(香港やケイマン諸島、BVIなど)を指します。

適用対象となる外国法人が存在すると認定された場合、その外国法人が稼得した当期の利益は、実際に配当等の形で台湾の親会社や個人株主に分配されていなかったとしても、持ち分比率に応じて台湾の居住者の当期の課税所得に合算して申告する義務が生じます。

実体基準による適用除外とコンプライアンス上の課題

ただし、現地での正当なビジネス活動を阻害しないよう、一定の適用除外要件が設けられています。その外国法人が設立された国において実体のある事業活動を行っていること(現地に固定された事業所が存在し、かつ事業活動を現実に遂行する従業員を雇用していること)に加えて、受動的所得(利子、配当、特許権使用料、不動産賃貸料など)の合計額が総収入の10%未満である場合には、例外的に合算課税が免除される規定があります。

日本のタックスヘイブン対策税制においても事業基準や実体基準による適用除外措置が設けられていますが、台湾のCFC税制における免除要件のハードル、特に受動的所得が10%未満という要件は極めて厳しく設定されています。法規への対応を怠り、CFC規則に基づく所得の合算申告を行わずに脱税行為とみなされた場合、税捐稽徴法(Tax Collection Act)第41条の規定に基づき、個人の場合は1,000万台湾元から最高1億台湾元の罰金および1年以上7年以下の有期徒刑(懲役刑)、法人の責任者の場合は500万台湾元以下の罰金および5年以下の有期徒刑という非常に重い刑事罰が科される可能性があります。したがって、台湾を統括拠点として東南アジアやオフショア地域へ事業を展開する日本企業は、既存の事業ストラクチャーの抜本的な見直しと、税務コンプライアンスの強化が喫緊の課題となっています。

台湾の移転価格税制と関連当事者間取引に関する司法判断

台湾の移転価格税制と関連当事者間取引に関する司法判断

移転価格税制の厳格化と事後的な価格調整の可否

台湾税務当局は近年、多国籍企業グループ間の不適切な価格設定を通じた利益移転を防ぐため、移転価格税制(Transfer Pricing:TP)の執行プロセスを年々強化しています。関連当事者間で行われる取引価格が、独立した第三者間で成立するであろう独立企業間価格(Arm’s Length Price)の原則から逸脱しており、台湾における課税所得を不当に減少させていると当局が判断した場合、厳格な所得の更正処分が行われます。特に実務上争いになりやすいのが、事業年度末においてグループ全体の利益目標を達成するために行われる事後的な「ワンタイム移転価格調整(One-time TP adjustment)」の有効性です。

この移転価格の事後調整の否認に関する著名な判例として、台湾最高行政法院における「109年度判字第661号判決(2020年12月23日)」が挙げられます。本件の事実関係として、納税者である法人は2015年末において自社の見積もりを再評価し、関連当事者である子会社に対して行った取引について「ワンタイムの販売値引き(売上値引)」を実施し、これを税務申告において売上のマイナスとして控除しました。しかし税務当局は、この売上値引が移転価格税制上の正当な事後調整の要件を満たしていないとして否認し、法人に対して売上漏れとして追徴課税の処分を行いました。納税者はこの処分を不服として、事後的な販売値引きは移転価格の調整として適法に認められるべきであると主張し、最高行政法院まで争いました。

最高行政法院は、事後的な移転価格調整が税務上適法と認められるための厳格な4つの基準を示しました。第一に、当事者間において事前に取引条件および価格決定要因に関する明確な二国間合意が存在すること。第二に、調整された金額が財務会計上の売掛金や買掛金として適切に反映されていること。第三に、対象となる取引の相手方企業においても、同時期に対応する修正処理が行われていること。第四に、この調整に関連するすべての税金が適法に納付されていることです。本件においては、事前の明確な合意が存在しなかったことなどを理由に、納税者の主張を全面的に退け、税務当局の処分を適法とする判決を下しました。この判決に関する解説は、WTS Globalの公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:WTS Globalの公式ウェブサイト

この判例から、グループ企業間における事後的な価格調整や利益の付け替えを税務上有効に成立させるためには、経営陣の場当たり的な決定では許されず、事前の契約書による明確なルール化と、経理処理のグループ間での同時性が極めて厳しく審査されるということが言えるでしょう。

日台民間租税取り決めによる二重課税の排除

取り決めの法的な位置づけと源泉徴収税率の軽減

台湾は複雑な国際的、地政学的な地位にあるため、日本を含む多くの国々と正式な国交に基づく国家間の租税条約を締結することが法的に困難な状況にあります。しかしながら、日台間の極めて活発な貿易および投資の交流を法的に支え、二重課税の確実な回避と脱税の防止を図ることは両国の経済界から強く求められていました。この課題を克服するため、公益財団法人日本台湾交流協会(日本側)と台湾日本関係協会(台湾側・旧亜東関係協会)という民間実務機関の枠組みを通じて、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め(日台民間租税取り決め)」が締結され、各々の国内法制による担保を経て2017年から実質的な適用が開始されました。

この取り決めは、事実上の租税条約として機能する画期的な枠組みであり、事業所得に対する恒久的施設(PE)の原則の明確化や、投資所得に対する源泉地国での限度税率の大幅な引き下げを詳細に規定しています。具体的なメリットとして、台湾子会社から日本の親会社へ支払われる配当に係る源泉徴収税率は、日本の親会社が台湾子会社の資本の25%以上を直接保有するなどの一定の要件を満たす場合には、原則の20%から10%にまで軽減されます(それ以外の場合は15%が適用されます)。また、日本の親会社が保有する特許権やノウハウを台湾子会社に提供し、その対価として受け取る使用料(ロイヤルティ)に対する源泉税率も、原則の20%から10%へと上限が引き下げられました。

この取り決めが発効したことにより、日本企業が台湾子会社から利益を日本へ還流させる際の税負担が軽減され、投資利回りの改善が図られるとともに、税務調査における予測可能性が高まり、投資環境の法的な健全性が強力に担保されるようになりました。この優遇税率の適用を受けるためには、日台双方の税務当局に対する所定の申請手続きと居住者証明書の提出が必要不可欠となります。

まとめ

本記事では、台湾における国税および地方税の体系から始まり、20%という競争力のある営利事業所得税率、厳格なインボイス管理を強いる5%の営業税、暦年による183日ルールに縛られた個人の総合所得税、そしてCFC税制や移転価格税制といった最先端の国際課税の動向に至るまで、日本企業が直面する主要な税務課題を網羅的かつ詳細に解説しました。台湾の税制は基本構造において日本の税法と類似する親和性を持つ一方で、法定実効税率の低さというメリットの裏側に、統一発票制度や厳格な滞在日数のカウント、さらには公認会計士による法定監査の要否など、コンプライアンス面で独自の高いハードルが設定されています。

また、最高行政法院や憲法法庭の判例が示す通り、税務当局による法令の解釈は実質課税の原則に基づいて極めて厳格に行われており、表面的な理解に基づく安易なタックスプランニングは、事後的な追徴課税や重加算税、最悪の場合は刑事罰といった甚大な事業リスクを招く結果となります。したがって、台湾において持続的かつ安全に事業を展開するためには、日台民間租税取り決めを最大限に活用した適切な投資スキームの構築や、駐在員の給与設計、グループ間の取引価格の事前の文書化など、法務と税務を統合的かつシームレスに俯瞰できる高度な専門的知見が不可欠です。

台湾における複雑な税務リスクの評価および法務課題の解決に関して、モノリス法律事務所が皆様のビジネスの安全な展開と強固なコンプライアンス体制の構築をしっかりとサポートいたします。現地の法令や最新の司法動向に適合した事業戦略の策定を検討される際は、ぜひ当事務所へご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る