会社の悪口は名誉毀損になるのか?被害の事例や対応方法について解説
会社の悪口が名誉毀損に該当するかどうかは、多くの企業が直面する悩ましい問題です。ソーシャルメディアの普及により、個人が簡単に意見を発信できる時代となり、会社の評判を傷つける可能性のある投稿も増加しています。しかし、すべての批判的な意見が法的に問題となるわけではありません。
この記事では、会社の悪口が名誉毀損に該当するケースを、被害の事例からわかりやすく解説します。加えて、気になる名誉毀損以外の罪や投稿者への対処法も紹介。本記事を読むことで、会社の取るべき適切な対応方法が理解できます。
この記事の目次
会社の悪口は名誉毀損に該当するのか
名誉毀損は、個人だけでなく法人が被害者となる場合にも成立します。
刑法第230条(名誉毀損)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
参考:e-Gov法令検索|刑法第230条(名誉毀損)
刑法第230条では、名誉毀損罪の被害者を「人」と規定していますが、この「人」には法人も含まれると解されています(大審院大正15年3月24日判決)。法人などの団体も社会で活動している以上、社会的な評価を受ける存在であるためです。
ゆえに、インターネット掲示板やSNSなどで会社の悪口を書く行為は、名誉毀損罪に該当する可能性があります。ただし、法人の不祥事についての情報が公共性・公益性を有する場合には、違法性が否定される場合もあります。
【名誉毀損とは】
名誉毀損とは、公の場で具体的な事実を摘示(注1)しながら他人の社会的評価を低下させる行為を指し、真実かどうかは関係ありません。例えば、「Xさんが会社の資金を不正流用した」「Yさんが過去に刑務所に服役していた」「Zさんは不倫している」などの発言や投稿が該当します。
注1:かいつまんで示すこと
【名誉毀損の成立要件】
名誉毀損で訴えるためには、次の3つの要件すべてを満たす必要があります。
公然性 | 不特定多数が認識できる状態を指し、インターネットやSNS、報道媒体での発言などが該当する。少人数への発言であっても、不特定多数へ伝わる可能性があれば認められる場合もある。 |
事実摘示性 | 具体的な事実が示されていることを指し、内容の真偽は問わない。事実摘示がない場合には、侮辱罪に問われる可能性がある。 |
名誉毀損性 | 社会的評価を低下させる内容を指し、誹謗中傷や悪評の流布が該当する。 |
会社の悪口が名誉毀損と認められた事例
企業や同僚の評判を損なう行為は、新しい深刻な社内不正の一形態として認識されています。特に、インターネット上で会社や個人を中傷する投稿は、重大な損失を招くため、注意が必要です。
インターネット上での名誉毀損に関する注目すべき判例を紹介します(最判平成22年3月15日決定)。事件の発端は、あるラーメンチェーン運営会社を中傷する投稿をした男性への名誉毀損罪の適用でした。
東京地裁の一審判決
従来の解釈では、「真実ではない名誉毀損的な表現」が「確実な資料や根拠によりその情報が真実であると誤信した」場合に限り、名誉毀損罪を免れるとされていました。
ところが、東京地裁の一審判決では、個人のネット投稿に関してより緩やかな基準を示しました(東京地判平成20年2月29日)。具体的には、「真実でないことを知りながら投稿した場合」や「個人で可能な範囲の調査を怠った場合」を除き名誉毀損罪は成立しないとの判断基準を示し、話題を呼びました。
ネット上での反論は容易であり、ネットの情報は一般に信頼性が低いと考えられているため、基準を緩やかにすべきであるとの理由です。
東京高裁の二審判決
東京高裁は、東京地裁の一審判決を覆し、インターネット上の表現による名誉毀損罪の成立基準が、従来とは変わらないと示しました。公共の利害に関する事実について公益目的であったとしても、投稿内容については真実であることの証明がなく、投稿した男性がそれを真実と信じたことについて相当の理由も認められないとして、有罪としました(東京高判平成21年1月30日)。
インターネット上の書き込みであったとしても、確実な資料や根拠がないまま他者を中傷する行為には名誉毀損罪が成立するとして、罰金30万円を科しました。
最高裁の決定
結果的に、最高裁はこの上告を棄却し、原判決が確定しました。
1 インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の表現手段を利用した場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない。
引用:裁判所|最高裁判所判例集「裁判要旨」より
また、インターネット情報は不特定多数の人が瞬時に閲覧可能であり、名誉毀損の被害が深刻になり得ることや、一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく、反論したとしても名誉が回復するとは限らないとも指摘しました。
会社の悪口が名誉毀損にならない場合もある
名誉毀損の要件を満たしている場合でも、会社の悪口が違法性阻却事由(注2)に該当すれば、名誉毀損にならない場合もあります。
注2:通常であれば違法である行為が違法にならないような特別の事情を指す。
違法性阻却事由には、「事実の公共性」「目的の公益性」「真実性の証明」の3つすべてを満たしていなければなりません。
事実の公共性 | 公共の利害に関する事実であることを指し、公務員や政治家、社会的影響力のある人物に関する情報が該当する。 |
目的の公益性 | 事実摘示の目的が公益をはかるものであることを指し、主たる目的が金銭や個人的な恨みである場合には該当しない。 |
真実性の証明 | 摘示された事実が主要部分において真実であることを証明する必要がある。ただし真実であったとしても、公共性や公益性がない場合は違法性阻却事由にはならない。例えば、個人の前科情報については、公共性や公益性が認められにくいため、名誉毀損に該当する可能性がある。 |
この3つすべてを満たしている場合には、名誉毀損にはなりません。
違法性阻却事由が認められる具体的な事例としては、企業の不正行為に対する告発や政治家に対する批判などがあります。ただし、政治家への個人的な攻撃や事実無根の誹謗中傷の場合には違法性阻却事由とは認められません。
従業員が会社の悪口をネットに投稿した場合に解雇は可能なのか
企業が従業員に対してとり得る最も厳しい処分は解雇です。この重大な決定には、それに見合う十分な根拠が必要です。
解雇の正当性を判断する基準として「解雇権濫用法理」が存在し、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。これらの条件を満たさない場合、不当解雇として扱われます。
特に、従業員のSNS投稿などを理由に解雇を検討する際は、投稿の具体的な内容や生じた影響を慎重に勘案しなければなりません。単なる感情的な判断ではなく、客観的な視点から状況を分析してください。
関連記事:SNSでバイトテロを起こされた場合の対策は?解雇や損害賠償請求は可能か
会社の悪口で名誉毀損以外に問われる罪
会社の悪口の投稿によって、名誉毀損以外にも「信用毀損罪」や「偽計(ぎけい)業務妨害罪」に問われる可能性があります。
刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
参考:e-Gov法令検索|「刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)」
信用毀損罪
信用毀損罪とは、虚偽の情報を意図的に広めて他者の信用を損なう罪です。この「信用」には、経済的信用だけでなく、商品やサービスの品質に対する評価も含まれます。信用毀損罪が成立するには、虚偽である場合と故意性が必要です。真実の情報や善意の誤解による発言や投稿は該当しませんが、場合によっては名誉毀損など別の罪に問われる可能性もあります。
例えば、健康食品のサプリメントについて虚偽の低評価を投稿した女性が信用毀損罪に問われたケースでは、投稿した女性は不起訴となりましたが、虚偽の低評価を依頼した会社役員は罰金20万円となりました。また、コンビニエンスストアで購入したジュースに異物を混入し警察官に虚偽の申告をした事件では、商品の品質に対する社会的信用も信用毀損罪の対象とされました。
偽計業務妨害罪
偽計業務妨害罪とは、偽計を用いて人の業務を妨害する罪です。偽計業務妨害罪が成立するには、「偽計」「業務」「妨害」の3つの要件が必要です。偽計とは、人をだましたり勘違いを利用したりする行為で、直接的なだましや機械や商品への不正工作も含まれます。業務は継続的な事業や事務を指し、営利目的のビジネスだけでなくボランティアやサークル活動も対象です。妨害は、実際の業務運営の阻害だけでなく、妨害のおそれがある状態の発生も含みます。
例えば、レストランに架空の宅配依頼をし、無駄な配達を強いる行為やラーメン店に悪意ある無言電話を繰り返しかける嫌がらせ、販売中の食品に針を混入させる行為などが偽計業務妨害罪に該当します。また、飲食店のアルバイトスタッフが衛生管理を無視した行為を動画共有サイトで公開する行為も同様です。
信用毀損罪・偽計業務妨害罪ともに親告罪(被害者の告訴が必要となる犯罪)ではありませんが、警察による刑事事件としての立件の可能性は低く、実際には被害者による告訴が望まれます。
会社の悪口をネットに書き込まれた場合の対応方法
会社の悪口をネットに書き込まれた場合には、迅速で効果的な対応が不可欠です。ここでは、デマ被害に遭った場合の具体的な対応方法を、次の4つのステップに分けて解説します。
以下で、それぞれについて詳しく解説します。
悪口に該当する投稿の削除を依頼する
ソーシャルメディアや掲示板上で名誉毀損的な内容が拡散された場合、最優先すべきは該当投稿の削除と拡散の防止です。この目的を達成するための主な方法は以下のとおりです。
- プラットフォーム運営者への直接的なアプローチ
- 専用の報告システムの活用(例:「通報機能」や「問い合わせフォーム」)
会社として自ら削除の要請も可能ですが、弁護士に依頼して削除仮処分の申立てを行うことで、より迅速かつ確実な結果を得られます。
ただし、情報がすでに広範囲に拡散してしまった場合の完全な削除は、現実的ではありません。このような状況下においては、公式声明やプレスリリースなどを戦略的に活用し、誤った情報に対する反論や正確な情報の発信が望まれます。投稿の削除について詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
関連記事:Twitterのネガティブなツイートを削除する方法とは?
投稿者の特定をする
オンライン上の誹謗中傷に対処するには、発信者の特定が必要です。発信者の特定は通常、2段階の開示請求を通じて行われます。まず、サイト運営者に対してIPアドレスの開示を求め、次にインターネットサービスプロバイダーに契約者情報の提供を要請します。
発信者情報開示請求を行う際は、対象となる投稿が法的に名誉毀損に該当するかどうかを慎重に確認する必要があります。単なる意見表明や具体性に欠ける内容、真実である記述は、名誉毀損とみなされない可能性が高いためです。
また、投稿から長時間経過している場合、プロバイダの記録が消去され発信者の特定が困難になることもあります。これらの要素を踏まえ、開示請求の実行可能性と有効性を判断しましょう。
令和4年(2022年)10月の法改正により、発信者情報の開示プロセスが簡略化されました。新たな「発信者情報開示命令」制度により、手続きの迅速化と負担軽減が図られています。ただし、状況によっては従来の方法が適している場合もあるため、弁護士のアドバイスを得ながら最適なアプローチの選択が賢明です。
発信者情報開示請求について詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
関連記事:発信者情報開示請求とは?改正に伴う新たな手続きの創設とその流れを弁護士が解説
弁護士へ相談をする
インターネット上の名誉毀損は、被害者に深刻な影響を与える可能性がある一方で、その対応には専門的な知識と迅速な行動が求められます。多くの被害者は、どのように対処すべきか戸惑うことがあります。この問題に効果的に対応するためには、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士は、サイト運営者やプロバイダとの交渉から証拠保全の裁判所手続き、さらには警察や検察との連携まで包括的な支援を提供できます。特に、時間との闘いであるインターネット上の名誉毀損案件では、弁護士の迅速かつ的確な判断が被害者の権利を守る鍵です。
効果的な証拠収集や適切な告訴状の作成、法的手続きの迅速な進行など複雑な対応を弁護士は経験と知識を活かして実行します。
警察へ被害届・告訴状を提出する
相手に対して刑事処分を望む場合、警察への告訴が有効な手段です。告訴状の提出により、警察は原則として受理の義務を負います。これは被害届とは異なり、捜査開始の確実性が高まります。
告訴状が受理されると警察による捜査が行われ、その後検察庁へ送検されます。ただし、立件は検察の判断に委ねられるため、必ずしも起訴にいたるわけではありません。
また名誉毀損は親告罪であり、被害者本人のみが告訴可能です。告訴には犯人を知ったときから3年という期間の制限があるため、この期間を過ぎると法的措置がとれなくなる可能性もあるため注意が必要です。
まとめ:会社の悪口も名誉毀損に該当する可能性がある
企業の担当者として、会社に対する悪口や中傷がインターネット上に書き込まれた場合、迅速かつ適切な対応が求められます。会社への悪口は、企業の評判や信用を著しく損なうリスクがある他、名誉毀損に該当する可能性もあります。
特に事実に基づかない中傷や、会社の社会的評価を不当に扱う内容は、法的措置の対象です。過去の判例でも、企業に対する誹謗中傷が名誉毀損として認められた事例が存在します。
ただし、真実の表明や公益性のある批評は例外となる場合もあるため、状況を慎重に見極めなければなりません。対応としては、まず問題の投稿の削除依頼を行い、投稿者の特定を進めます。
同時に、弁護士への相談を強くおすすめします。弁護士は法的な観点から状況を分析し、最適な対応策の提案が可能です。必要に応じて、警察への被害届や告訴状の提出も検討してもらえます。
また、自社の社員による悪口の投稿に対しては、就業規則に基づき適切な処分を検討する必要があります。ただし、解雇などの懲戒処分を行う場合は、法律を厳守するために弁護士の助言が必須です。
名誉毀損以外にも、業務妨害や信用毀損などの罪に該当する可能性もあるため、総合的なアドバイスを受けることが賢明です。企業の評判を守り、適切に対応するためにも、専門家である弁護士への相談をおすすめします。
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