Twitterの投稿者を特定する方法と弁護士費用の相場
Twitterでは、ユーザーが140字以内のツイートと呼ばれるメッセージや画像、動画を投稿することができます。しかし、中にはプライバシー侵害や名誉毀損等の誹謗中傷に当たる内容など、好ましくないツイートが投稿されている場合もあります。
このような投稿をした者に対して損害賠償を請求する場合、投稿者を特定する必要がありますが、Twitterユーザーの多くは匿名アカウントからツイートを投稿しています。そこでまずは、損害賠償請求の前提として、投稿者に関する情報の開示請求をしなければなりません。
その際、Twitterでは、IPアドレスから投稿者を特定することができる場合があります。
本記事では、どのような場合にIPアドレスから投稿者を特定することができるのか、また、その手順について、弁護士に依頼した場合の費用相場も踏まえて解説します。
この記事の目次
Twitterにおける誹謗中傷の例
Twitterは、その投稿の気軽さと拡散性の高さ故に、常に誹謗中傷と隣り合わせと言っても過言ではありません。
例えば、テレビ番組での発言をきっかけにSNSで誹謗中傷を受けるようになってしまった方が自殺に追い込まれた有名な事例があります。この事例では、遺族の告訴により、Twitter上で誹謗中傷の投稿を行った複数人が侮辱罪で書類送検されたと同時に、民事上の不法行為に当たるとして多額の損害賠償も命じられました。
このように、Twitterにおける誹謗中傷は、時として、社会生活上の重大な不利益につながる恐れがあります。したがって、このような事態を避けるためには、迅速に法的対処をすることが重要です。
そして、投稿者を特定するためには、その投稿が違法といえる必要があります。違法性の有無を判断するには、権利侵害が明白にあるかどうかという点が重要で、内容が悪質であるほど権利侵害が大きいといえます。
どのような投稿が違法になるのかについては、弊所サイトの下記の記事で詳しく解説しています。
Twitterの投稿者を特定する手順①:IPアドレス開示請求
冒頭で説明したとおり、誹謗中傷に当たる投稿を行った人物に対して損害賠償請求などの裁判を起こそうとする場合、その前提として、その人物の氏名や住所などの個人情報を知っておく必要があります。しかし、Twitter上の誹謗中傷は匿名で行われるケースがほとんどであるため、書き込んだ人物(発信者)の特定は困難です。
しかし、インターネット上で何かしらの投稿を行う場合、そこには必ずログと呼ばれる通信記録が存在し、コンテンツプロバイダ(Twitter社などのサービス提供会社)は、このログを一定期間保存しています。IPアドレスは、まさにこのログの1つということになります。
そこでまずは、プロバイダに対して、発信者情報としてIPアドレスの開示請求をすることになります。
IPアドレスとは
IPアドレスとは、インターネットに接続している端末が固有に持っている端末識別情報で、どの端末から発信されたものなのかが、この請求によってわかることになります。
Twitterは、アカウントを作成し、ログインすることで投稿ができますが、アカウント作成にはGメールやYahoo!メールなどのフリーメールがあれば誰でも登録できてしまいます。そのため、Twitterの運営が持っている投稿者を特定するための情報としては、IPアドレスしかありません(この問題点については後述します)。
Twitterにおける投稿者の特定のためにIPアドレスの開示請求を行うのは、このためです。
仮処分手続による投稿者のIPアドレス開示請求
Twitterは、原則的に各国の法律に従うという立場にあり、裁判所手続を用いなければ実現できません。そのため、IPアドレスの開示請求は、基本的に裁判所手続を通して行います。もっとも、その手続は、裁判ではなく仮処分になります。
仮処分とは、申立てに基づいて裁判所が決定する暫定的な処置のことを指し、裁判より迅速で、1-2ヶ月程度で実施可能です。
そして、IPアドレスの開示と投稿削除を弁護士に依頼する場合、弁護士費用の相場は、
着手金が30万円程度、成果報酬金が30万円程度
風評被害の弁護士費用と賠償フローとは?
です。もっとも、削除したいツイートの数や投稿者が何人いるかなど具体的な内容や量によって、費用は変わってきます。
また、インターネット上の情報ではあまり触れられていませんが、Twitterは、米国法人が運営するサービスであるため、日本国内で、日本人と思われるTwitterユーザーに関してIPアドレスの開示を求める場合であっても、「海外法人相手の裁判所手続」ということになってしまい、書面や一部証拠等の英訳、米国法人の登記取得が必要です。
そのため、実費として20万円程度が別途必要となってしまうケースが多いと思われます。
投稿が違法であることを主張・立証する必要性
コンテンツプロバイダに対してIPアドレスの開示請求をする場合、プロバイダ責任制限法が定める要件を満たす必要があります。
プロバイダ責任制限法とは、「プロバイダ等の損害賠償責任の制限(第3条)及び発信者情報の開示請求(第4条)について定めた法律」(総務省より:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai_04.html#proseki1)であり、同法第4条第1項では、以下のいずれかに該当する場合に限り、プロバイダに対して発信者情報開示請求をすることができると定められています。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
プロバイダ責任制限法第4条第1項
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
要は投稿が違法であることを主張・立証しなければならないわけですが、そのためには、
- その投稿が違法であるという法的な主張(権利侵害が明白に存在すること、特別に違法性が否定されるような事柄がないこと)
- それらを基礎付ける証拠
が必要になります。違法性を主張するためには、具体的な投稿との関係からどのような法的主張をしていくのか、どのような証拠を用いて根拠づけるか、という判断には高度かつ専門的な知識が必要です。そのため、ご自身で判断されるのではなく、専門的な知識を有する弁護士と相談することをおすすめします。
この手続に成功すると、Twitterから、遡って60日分のログイン時IPアドレスが開示されます(2022年2月現在の情報であり、今後変わる可能性があります)。
Twitterの投稿者を特定する手順②:ログの削除禁止
手順①でIPアドレスが開示されると、違法な投稿をしたログイン端末にネット環境を提供する経由プロバイダ(docomo光、J:COMなどのインターネット接続事業者)が判明します。経由プロバイダは、当該端末の契約者の住所・氏名などの情報を知っているので、経由プロバイダに当該端末の契約者情報を問い合わせることで、投稿者を特定することが可能となります。
しかし、プロバイダは長い期間ログを保存していません。特に携帯回線などはログの保存期間が短く、3か月程度で消されてしまいます。そこで、ログが消されないように、裁判所に対して、プロバイダに対するログの削除禁止命令を出してもらうよう申し立てる必要があります。
実際は、裁判手続によらずとも、プロバイダに通知を出せば対応してくれることもあります。もっとも、その場合であっても、当該投稿の違法性を主張・立証することは必要です。
なお、この通知に要する弁護士費用の相場は10万円程度とされていますが、個別事例によって金額は異なりますので、依頼を検討している弁護士に問い合わせてみてください。
Twitterの投稿者を特定する手順③:住所氏名開示請求
手順➁で経由プロバイダがログを保全してくれた場合、次に、経由プロバイダに対して当該投稿に使用されたログイン端末の契約者の住所・氏名の開示請求をしていきます。住所・氏名は重要な個人情報なので、正式な裁判手続によることになり、事案によってはかなり時間(提訴から6か月程度)がかかる可能性もあります。
裁判所は、当該投稿が違法であると判断した場合、経由プロバイダに対して、当該投稿に使用されたログイン端末の契約者の住所・氏名を開示するよう命令を出すことになります。
もっとも、投稿者にも表現の自由が憲法上保障されているので、当該投稿が違法であるかを慎重に判断されます。そのため、当該投稿がどのような内容であるかはもちろんのこと、どのような経緯で投稿されたのか、また、それよって対象者にどれだけが不利益を被っているのか等、事案によって様々な事情を考慮する必要があるので、ぜひ、経験豊富な弁護士にご相談ください。
この手続の弁護士費用の相場は、
着手金が30万円程度、成果報酬金が20万円程度
風評被害の弁護士費用と賠償フローとは?
と言われています。
Twitterで投稿者の特定後は、損害賠償請求が可能に
手順③でログイン端末の契約者の住所・氏名が開示されたら、投稿者に対して損害賠償を請求することが可能となります。
ここでは、投稿者に対して、手順➀~③でかかった弁護士費用や慰謝料などを損害として、その賠償を請求することができます。
IPアドレスから特定が難しい場合、Twitterに任意の削除申請をする方法も
IPアドレスから投稿者を特定できない場合や、Twitterの投稿を削除だけでもしたい、ということもあるでしょう。
ツイート削除を申請するには、裁判所を介した手続以外にも、Twitter社に直接削除申請を求めるという方法があります。Twitterでは、利用規約に反するツイートを削除対象としているので、削除したいツイートがTwitterの禁止事項に該当すれば、違法とまではいえない投稿も削除を申請することが可能です。
なお、これはあくまでもTwitterの運営側が自主的に削除する基準なので、必ず削除されるというものではありません。
もっとも、違法性がない投稿でも削除に成功するケースは存在するので、損害賠償請求等は検討しておらず、単に削除してほしいというだけであれば、上記の投稿者特定など裁判上の手続を用いる前に、こちらをトライしてみるのがよいでしょう。詳しくは下記記事で解説しています。
TwitterでIPアドレスから投稿者を特定するときの問題点
ここまではIPアドレスの開示から住所氏名の特定について一般的な手順に関する説明をしました。しかし、Twitterに関して同様の手順を踏む場合には少し特殊な事情が2つ存在します。
1つは、Twitter社がそもそもシステム的に「投稿時のIPアドレス」ではなく、「ログイン時のIPアドレス」しか保有していないことです。通常のWebサイトや掲示板とは異なり、Twitterを含むSNSのアカウント(Facebook、Instagramなど)は複数のログイン端末から同時にログインすることができてしまうからです。
もう1つは、知財系の裁判所は「ログイン時のIPアドレス」を元に住所氏名開示を求められるかという点について、「法律上、それは認められない」という態度を示す傾向があるということです。同時ログインの場合、投稿をした人物が誰なのか分からないためです。したがって、TwitterでIPアドレスの開示ができるかどうかについてが、裁判所によって判断が分かれています。
また、住所氏名開示請求が認められた場合、開示される情報はあくまでも契約者の住所・氏名になります。投稿した人が子供の場合など、必ずしも開示された契約者本人が投稿者であるとは言い切れないので注意が必要です。
まとめ:TwitterのIPアドレスから投稿者を特定するなら弁護士に相談を
Twitterで投稿者を特定するには、複数の裁判手続を行わなければならない点に加えて、時間との勝負でもあり、専門的判断を含む難解な手続といえます。
さらに、上述のようにログの保存の仕方が他サイトとは異なるため、ケースによっては特定が難しい場合もあります。しかし、投稿者を特定できれば、相手方に対し損害賠償請求が可能となります。
とはいえ、どのように法的主張を組み立て、どの証拠を用いて、どのような主張をするかは個別の事案によって異なりますし、裁判所には一つの請求について何度も訴えを提起することはできません。したがって、その判断はとても重要であり、慎重に行う必要があります。
具体的にお困りのことがあれば、誹謗中傷対策やインターネット関連に強い弁護士にご相談ください。
当事務所による対策のご案内
モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報を看過すると深刻な被害をもたらします。当事務所では風評被害や炎上対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。
カテゴリー: 風評被害対策