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風評被害対策

ネットで企業が誹謗中傷を受けた時の対応は?信用毀損罪とは

風評被害対策

ネットで企業が誹謗中傷を受けた時の対応は?信用毀損罪とは

企業がネット上で誹謗中傷被害を受けたとき、成立する可能性がある犯罪は、主に以下の4つです。

  • 信用毀損罪
  • 偽計業務妨害罪
  • 威力業務妨害罪
  • 名誉毀損罪

これらに、1987年(昭和62年)に付け加えられた電子計算機損壊等業務妨害罪を加え、ネット犯罪について見ていきます。

企業が誹謗中傷を受けた時の対応方法

まず、企業は誹謗中傷の原因となった投稿や記事を削除する必要性が生じます。そのためにはサイトの管理者に連絡して記事を削除してもらうか、TwitterやFacebookなどでは直接投稿者に連絡して削除してもらうという方法もあります。また、企業は犯人を特定して誹謗中傷によって落ちた売上額の損害賠償請求や犯人を逮捕するための刑事告訴をすることができます。そして、再発を防ぐために犯人に二度と企業の信用を落とすような書き込みをしないことを約束することが非常に有効的な対応方法です。しかし、サイトの管理者に連絡しても削除してもらえない場合は裁判所で仮処分手続きを行えば裁判所から管理者に記事の削除命令をすることが出来ます

尚、誹謗中傷を受けた際の仮処分については下記記事にて詳細に説明しています。

企業が誹謗中傷被害を受けた時に成立する犯罪

信用毀損罪

信用毀損罪は経済的・財産的な信用を保護する法律であり、「信用」とは、対象者の財務状況や支払い能力に関する信用をはじめとして、広く対象者の経済的側面における社会的評価を意味します。

信用毀損罪と偽計業務妨害罪は、刑法第233条で規定されています。

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

刑法第233条

この刑法第233条の「虚偽の風説を流布し」「人の信用を毀損」した者が、信用毀損罪に該当します。

「虚偽の風説」とは

「風説」とは噂のことなので、嘘の噂や情報を流したら、「虚偽の風説」となり誹謗中傷となります。信用毀損罪の場合には、内容が「虚偽」であることが必要となるので、内容が真実であれば、信用毀損罪に問われることはありません。

「 流布」とは

「流布」というのは、不特定多数の人に公然と広めることです。インターネットに投稿すると、不特定多数の人が目にするので、「流布」に該当してしまいます。ネット上の表現は、原則的に「公然と」であるとされています。また、名誉毀損の場合と同じで、仮に一人に対して伝えただけであっても、その一人が不特定多数の人に「伝搬」させる可能性があれば、不特定多数への摘示と同一視でき誹謗中傷へと繋がる可能性はあります。

「人」とは

信用毀損罪で保護の対象になっているのは「人」の信用ですが、この場合、「人」とは、自然人だけではなく、企業などの法人、さらに法人格のない団体も含みます。だから、ネット上で人や企業、団体の信用を失わせるような発信をすると、信用毀損罪に該当してしまいます。

「信用を毀損」とは

信用毀損罪の信用は、先に書いた通り一般的意味の信用とは異なり、「経済的な信用」に限定されます。この信用は、「人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼に限定されるべきものではなく、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含む」(最高裁平成15年3月11日判決)と、広く考えられています。

また、「毀損」するとは、経済的側面における社会的評価を低下させる行為を言いますが、現実に評価が低下したことまでは求められません。その恐れがある状態を生じさせれば、信用毀損罪が適用されます。

偽計業務妨害罪

ネットでの誹謗中傷が様々な犯罪となり得ます。

刑法第233条の「偽計を用いて」「その業務を妨害した者」が、偽計業務妨害罪に該当します。成立範囲が非常に広い犯罪です。

「偽計」とは

「偽計」とは、他人をだましたり、思い違いや不注意に乗じることです。熊本地震の直後に「ライオンが逃げた」とTwitterにデマを投稿した会社員が、「熊本市動植物園の業務を妨害した」として、偽計業務妨害の疑いで逮捕されました。これが典型ですが、「偽計」は幅広く解釈されており、実際には「威力以外の不正な手段」とされています。

「業務」とは

「業務」とは、職業やその他の社会生活上の、人が社会生活上占める一定の地位に基づき継続して行う事務または事業を指し、業務上過失致死罪の業務のような限定はありません。社会生活上の活動を指すので、個人的な活動や趣味や家事は含まれません。

「妨害」とは

信用毀損罪の毀損と同様、現実に妨害されていることまでは求められません。妨害されるに足る行為が行われた場合、偽計業務妨害罪が適用されます。

偽計業務妨害罪は、成立するケースの外延が比較的分かりにくい犯罪ではあります。例えば、いわゆる「なりすまし」も、一部は偽計業務妨害罪に該当し得ると言われています。

威力業務妨害罪

威力業務妨害罪は、信用毀損罪と偽計業務妨害罪を規定した刑法第233条の次の、刑法第234条で規定されています。

威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

刑法第234条

つまり、「威力を用いて」「業務を」「妨害」という、3つの構成要件から成る犯罪ですが、これについては、最高裁の昭和28年1月30日の判例があります。

刑法二三四条業務妨害罪にいう業務の「妨害」とは現に業務妨害の結果の発生を必要とせず、業務を妨害するに足る行為あるをもつて足るものであり、又「業務」とは具体的個々の現実に執行している業務のみに止まらず、広く被害者の当該業務における地位に鑑みその任として遂行すべき業務をも指称するものと解するを相当とするのである。(略)同条の「威力」とは犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解するを相当とするものであり、且つ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであつて、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきものである。

最判昭和28年1月30日

「威力」とは

「威力」とは、「犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力」を言い、暴行や脅迫等よりも軽いものも含まれます。例えば、スーパー店内にゴキブリ数十匹をまき散らしたり、卒業式で国歌斉唱に反対して不起立を呼びかけた行為などが「威力」に当たるとされています。

「業務」とは

「業務」とは、「具体的個々の現実に執行している業務」だけでなく、「広く被害者の当該業務における地位に鑑みその任として遂行すべき業務」をも指しています。

「妨害」とは

「妨害」とは、偽計業務妨害罪の説明でも述べたとおり、「業務妨害の結果の発生を必要とせず、業務を妨害するに足る行為」があれば十分であるとされています。 

インターネットが普及したため、ネット上の書き込みによる業務妨害で立件される事例が増加しました。威力に当たるか、偽計に当たるかの判断が難しくなっているのですが、前者は直接的、有形的な方法で人の業務を妨害する行為で、後者は間接的、無形的な方法で人の業務を妨害する行為とされています。しかし、実際の境界線は不鮮明です。

掲示板に「〇〇駅に爆弾を仕掛けた」等の犯罪予告を匿名で書き込み、本来必要のない警備・警戒をさせたということで警察に対する威力業務妨害罪で逮捕された例がありますが、「6月16日3時にアメリカ村で無差別殺人を起こします」と書き込み、警察に警戒活動を行わせて正常業務の遂行を妨害したとして、偽計業務妨害罪の成立を認めた例があります。(大阪高裁判決平成21年10月22日)

この問題に関しては、下記記事でも詳細に解説しています。

名誉毀損罪

名誉毀損罪は、事実を摘示することにより、他人の社会的評価を低下させる犯罪です

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

刑法第230条1項

名誉毀損罪と信用毀損罪や業務妨害罪との大きな違いは、名誉毀損罪の場合「内容が真実でも犯罪が成立する」ことです。たとえば、「〇〇病院の院長は不倫している」と書き込んだ場合、それが真実であっても、誹謗中傷による名誉毀損になる可能性があります。問題の書き込みにより、被害者の品性、名声、信用などの人格的価値について社会的評価が低下したという客観的な事実があるかどうかがポイントとなるからです。

ただし、問題とされている表現行為が、特定人の社会的評価を低下させるものであっても、公共の具体的な利害に関係があることを事実をもって摘示するもので(公共性)、その目的が専ら公益を図ることにあり(公益性)、摘示した事実が真実(真実性)または真実であると信ずるについて相当な理由のあるとき(真実相当性)には、違法性が阻却され、名誉毀損は成立しません。

また、名誉毀損罪は「親告罪」なので、被害者が刑事告訴しない限り、犯人が起訴されることはありません。この点が、他の3つの罪と大きく異なるところです。

なお、「虚偽の風説を流布し」「人の信用を毀損」した場合、同時に対象者の社会的評価を低下させることも多くあります。この場合、信用毀損罪と名誉毀損罪の両方が成立します。

このような、1つの行為で2つの罪が成立することを「観念的競合」といい、重い方の刑罰が適用されます。

信用毀損罪の刑罰は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」であり、名誉毀損罪のそれは「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」なので、観念的競合の場合には、信用毀損罪の刑罰が適用されることになります。ただし、この場合には、実際はほとんど変わりません。

民事上の「名誉権侵害」とは

また、本記事は刑事手続に関して解説していますが、刑事ではなく民事で削除や投稿者特定を求める場合、多くは名誉権侵害(≒名誉毀損)を主張することになります。例えば、企業に対する「ブラック企業」という誹謗中傷は、一定条件を満たせば名誉権侵害と主張できます。これに関しては別記事で詳細に解説しています。

名誉を侵害する行為がなされたとき、被害者が会社や団体出会った場合に、精神的苦痛を慰謝するために慰謝料という損害賠償が認められるかについては以下の記事で詳しく解説しています。

電子計算機損壊等業務妨害罪

1987年(昭和62年)、コンピュータによる業務が人の業務に代わりつつあるということで、電子計算機損壊等業務妨害罪が刑法第234条に付け加えられました。

人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、5年以下の懲役又は 100万円以下の罰金に処する。

刑法第234条の2

業務に使用するコンピュータやデータを破壊したり、コンピュータに虚偽のデータや不正な実行をさせる等の方法によって目的に沿う動作をしないようにさせたり目的に反する動作をさせたりして業務を妨害する行為が、電子計算機損壊等業務妨害罪になります。

DoS攻撃を行い、コンピュータによるサービス提供を妨害する行為や、RMTを目的としてオンラインゲーム運営企業が保有するサーバー上で不正にプログラムやデータを操作する行為等も、この罪に該当します。

企業への誹謗中傷による影響とは?

企業は不当な理由による誹謗中傷によって自社の社会的評価や信用が落ちたり、自社の商品が売れにくくなったりする等の被害を受けることがあります 。また、その企業で働いている社員も働きづらくなり会社を辞めていき会社自体の存亡の危機に終われたりすることもあります。さらに、誹謗中傷によって企業の社会的評価が下がることによって将来的に企業にとって非常に大事な人材が集まらなくなるなどの不利益も生じます。

まとめ

本記事で紹介した以外にも、インターネット上の誹謗中傷行為は、様々な犯罪に該当し得ます。ただ、例えば、脅迫罪は原則的には法人に対しては成立しないなど、各犯罪にはそれぞれ独自の議論が存在し、成否を判断するにはどうしても専門的な知識が必要です。

対象者をはっきりと特定せずに行われた誹謗中傷に対しても、名誉毀損、侮辱罪、プライバシー侵害などを問うことが可能となりうる場合があります。

企業がネット上で誹謗中傷被害を受けたとき、どのような対応を取ればいいのか、ネット犯罪における犯人をどういう罪に問えるのか、当事務所の経験豊富な弁護士にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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