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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

noteの誹謗中傷記事の投稿者を特定する方法

風評被害対策

「自分自身の経験やノウハウを手軽に共有できるサービス」として、note社が運営するメディアプラットフォーム「note」では、「テキスト」「画像」「映像」「音声」「つぶやき」が投稿でき、コンテンツの有料販売、有料マガジンの発行、クリエーターをサポートする「投げ銭」機能等により、収益化が狙えます。

そのため、収入を増やすために、差別化を図ろうとして、他人を誹謗中傷したり、プライバシーを侵害したりする事例も多くみられるようになってきました。noteでは匿名での投稿が多いので、ここでは、noteの悪質な投稿者を特定する方法について解説します。

noteと発信者情報開示請求

noteにおける権利侵害は、例えば漫画の連載のような形で繰り返し行われる場合が多く、またnoteで発表した作品を順次Twitter、Facebook、pixivといった他のウェブサイトに転載するケースも多いので、記事削除だけで対応しても、被害を食い止めることが難しくなっています。

また、記事が削除されても、別の場所に次々と同じ内容の記事の投稿が続くといった悪質なケースも多く、そうした場合には個別の記事を削除しても、いたちごっこになってしまい、被害者の損害回復には役立ちません。

一般に、インターネット上の違法な投稿により名誉を毀損したり、プライバシー権や肖像権を侵害したりした者は、被害者に対して、民法上、不法行為に基づく損害賠償責任を負い、被害者は、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。また、内容によっては刑事上の犯罪が成立しますが、この場合、加害者は刑事上の責任をも負うことになります。

しかし、noteのようなプラットフォームにおいては、加害者がどこの誰なのか、わからない場合が多くあります。こうした場合、加害者を特定できないままでは、被害者は、加害者に対して損害賠償責任を請求することができません。そこで、加害者である投稿者を特定し、その責任を追及することが必要となるのですが、これを、発信者情報開示請求といいます。

プロバイダとは何か

発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法という法律に基づいて、発信者情報の開示をプロバイダに対して求めるものですが、プロバイダには、2種類があります。

2種類のプロバイダ

インターネットを利用している人は、まずインターネット回線を提供する回線事業者と契約し、さらに経由プロバイダ(インターネット・サービス・プロバイダ)と契約する必要があります。経由プロバイダとはインターネットに接続する事業者で、回線をインターネットに接続するにはまず、経由プロバイダとの契約が必要なのです。

固定回線系のサービスだけではなく、携帯やスマートフォンであっても、オプションとして料金が一緒になっているのであまり意識されていませんが、対応する経由プロバイダと契約しなければインターネットに接続することはできません。

一方、note社のようなプラットフォームの運営等を指してコンテンツ・サービス・プロバイダといいます。結局、プロバイダには、コンテンツ・サービス・プロバイダと経由プロバイダという2種類があることになります。

投稿者特定の手順1:IPアドレスとタイムスタンプ開示請求

noteへの投稿者を特定するためにはまず、note社に対して発信者情報開示請求を行います。

IPアドレスとタイムスタンプ

note社に限らず、匿名掲示板等の運営は、投稿者の氏名や住所を知りません。だから、「投稿者の氏名・住所を開示してください」と請求しても「知らないので開示できません」と言われてしまうだけです。

ただ、運営が確実に知っている情報があります。それは、投稿者の「IPアドレスとタイムスタンプ」です。

「IPアドレス」とは、インターネット上における住所情報のことです。インターネットに接続しているマシン、自宅のPCやスマートフォンなどは、固有のIPアドレスという住所情報を持っており、サイトに接続したり、投稿が行われたりした場合には、その投稿者のIPアドレスとアクセスした時間である「タイムスタンプ」が、コンテンツ・サービス・プロバイダに記録されます。そこで、発信者情報開示請求は、コンテンツ・サービス・プロバイダに、投稿を行った者のIPアドレスとタイムスタンプを開示してください、と求めることから始めます。

note社に「発信者情報開示請求書」を提出することになりますが、これを送っても、IPアドレスとタイムスタンプが開示される可能性は、あまり高くはありません。それは、note社にも投稿者の秘密を守る義務があるためであり、note社に限らずコンテンツ・サービス・プロバイダは、「裁判所の命令がなければ開示できない」と回答する場合がほとんどなのです。

そこで、「発信者情報開示請求書」の発送と並行して、note社に対して投稿者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求める「仮処分」を提起することが必要となります。

「発信者情報開示仮処分命令申立」は、「発信者情報開示請求書」をnote社に送ってもIPアドレスとタイムスタンプが開示されなかった場合に、裁判所からnote社に対して開示に応じるように命じる決定を出してもらう手続きのことです。

この場合、正式な本訴訟という裁判ではなく仮処分という、迅速な手続きを取ります。裁判は時間がかかるのですが、順調にいけば1か月程度で裁判所から仮処分が出て、すると運営は速やかにIPアドレスとタイムスタンプを開示してくれます。

発信者情報開示請求の条件

投稿者を特定するためには、プロバイダ責任制限法に基づき、投稿者つまり発信者の情報開示を請求するのですが、発信者情報開示請求を行うには、いくつかの前提があります。

権利が侵害されたこと

投稿記事の削除を請求する仮処分の場合も同じですが、発信者の情報開示を請求するには、投稿記事によって「権利が侵害された」ことが明らかでなければなりません。「こんな投稿をするのはどんな人か知りたい」などという好奇心で情報開示を請求しても、認められません。

例えば名誉毀損の場合、被害者の社会的評価が低下したという客観的な事実が前提となりますが、名誉毀損が成立するか否か、またプライバシー侵害となるのか、といった権利侵害の見極めは難しい場合が多いので、経験豊かな弁護士の判断を仰ぐとよいでしょう。

正当な理由があること

発信者情報の開示請求は、請求者が発信者情報を取得する正当な理由があるときにのみ、認められます。

つまり、

  • 発信者に対する削除要請に必要だから
  • 民事上の損害賠償請求権の行使に必要だから
  • 謝罪広告などの名誉回復の要請に必要だから
  • 差止請求権の行使に必要だから
  • 刑事告発などの法的手段をとるにあたり本人を特定するのに必要だから

といったような必要性がある場合にのみ、「正当な理由がある」と認められます。目的が不明確な場合や、私的制裁のような不当な目的による場合などには、認めてもらえません。

投稿者特定の手順2:ログの削除禁止

手順1で投稿者のIPアドレスが開示されたら、そのURLにより、もしくは「WHOIS」等のプロバイダ特定サービスを用いて、発信者が使用した経由プロバイダを特定することが可能となります。

そこで、次に、特定した経由プロバイダに、「〇月〇日〇時〇分に当該IPアドレスを用いた契約者の住所氏名」という、ログ情報を請求することになりますが、このログ情報の量は膨大なものになっています。携帯キャリアなら数千万人分、経由プロバイダであっても数百万人分になるので、経由プロバイダは、ログを一定期間で削除することとしており、携帯キャリアの場合3ヶ月程度、固定回線のプロバイダの場合せいぜい1年程度で削除してしまいます。だから、投稿から訴訟提起までの間にあまり時間をかけていると、その間にログを消されてしまう可能性が高くなるという問題が生じます。

一方、経由プロバイダに対しては、発信者の氏名や住所という重大な個人情報の開示を求めることになるので、仮処分ではなく、通常の民事訴訟による必要がありますが、民事訴訟が終了するまでには数か月程度を要することがほとんどです。そこで、その間にプロバイダが保存しているログを消去してしまい、証拠がなくなってしまうと困るので、ログを消去することを禁止する仮処分の手続きが、別途必要となります。

もっとも、経由プロバイダは「裁判所を通じて住所・氏名の開示を求めるので、しばらくログを保存しておいてほしい」と通知すれば、ログを保存しておいてくれる場合がほとんどなので、通知だけで足りるケースが多くなっています。

投稿者特定の手順3:発信者情報開示請求の訴訟

アクセスログが保存されていることが保証されたら、経由プロバイダを相手として、発信者情報開示請求訴訟を提起し、発信者に関する「住所・氏名・メールアドレス」等の情報の開示を求めることとなります。

経由プロバイダは原則として発信者の同意がない限りは発信者情報の開示に応じませんし、住所氏名は、重大な個人情報です。裁判所は訴訟という正式な手続きで違法と認めた場合にしか、住所氏名の開示を認めてくれませんから、経由プロバイダを相手とする発信者情報開示請求は、仮処分ではなく、本訴訟となります。訴訟の主な争点は、対象投稿の記載内容が、原告(開示請求者)の権利を侵害するものであることが明白か否かになります。

投稿者特定の手順4:損害賠償請求

裁判所が「投稿記事により権利が侵害された」とし、「正当な理由がある」と判断してくれれば、裁判所は経由プロバイダに対して、記事投稿の際に利用された契約者の氏名、住所、メールアドレス等の開示を命じてくれます。

発信者情報が開示され、発信者が特定されたら、損害賠償請求を行うことができますが、以下の選択肢も可能となります。

  • 今後は誹謗中傷を繰り返さないと誓約させる
  • 必要とした経費(調査費用・弁護士費用)を請求する
  • 刑事告訴をする
  • 謝罪広告を要求する

損害賠償を請求する以外にも選択肢はありますし、複数を選択することも可能です。

最後の「謝罪広告を要求する」は、名誉毀損の場合には、被害を拡大させる可能性が高いので、一般にはあまりおすすめできません。しかし、すでに被害が拡大している場合や、著名人や企業の場合、また相手が法人等である場合等には、これも選択肢に入るでしょう。

なお、選択肢にありますが、経費は、IPアドレス開示については着手金が20-30万円程度、成果報酬金が15-20万円程度、削除&IPアドレス開示の場合には着手金が30万円程度、成果報酬金が30万円程度で、住所氏名開示については着手金が30万円程度、成果報酬金が20万円程度、が「相場」とされています。

また、削除依頼についてはこちらの記事で解説しております。

https://monolith.law/reputation/note-comment-delete

まとめ

名誉毀損や誹謗中傷をする記事を削除するだけでは問題は解決されないという場合が多くあります。投稿者を特定し、責任を取らせることにより、事件の再発を防ぐことが可能となります。

悪質な記事を見つけたら、経験豊かな弁護士に相談し、被害が拡大しないうちに、早急に対処しましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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