独自ドメインサイトのサーバー管理者を「aguse.jp」で調査
いわゆる独自ドメインで運営されているウェブサイト上の記事について、削除や投稿者のIPアドレス開示請求を行う場合、それらの請求の相手方は、大きく言って、
- サイトの運営者(多くの場合はドメイン登録者と一致する)
- ウェブサーバーの管理者
と、2通りあり得ます。例えば削除請求であれば
- サイトの運営者に対して、「貴方が運営しているサイト上で誹謗中傷被害を受けている、記事を削除して欲しい」と請求する
- ウェブサーバーの管理者に対して、「貴方が管理しているサーバー上でホスティングされているサイト上で誹謗中傷被害を受けている、記事を削除して欲しい」と請求する
ということです。インターネット上の記事に対する削除請求の相手方は、単純に言うと、
- その記事を消す権限を持っており
- その記事がインターネット上で公開されていることについて一定以上の関与をしており、条理上当該記事を削除すべきと言える
という者に対してなし得ることができ、サイトの運営者とウェブサーバーの管理者は、共にこれに該当するからです。IPアドレスの開示請求も、論理構成は異なりますが、同じような結論となります。
この記事の目次
「ウェブサーバーの管理者を調査する」とは
ただ、「独自ドメインで運営されているサイトについての、そのサイトを管理しているウェブサーバーの管理者」というのは、具体的には誰でしょうか?例えば、当サイト(モノリス法律事務所のサイト)の場合、具体的には誰でしょうか?
独自ドメインで運営されているサイトについて、そのサイトを管理しているウェブサーバーの管理者が誰なのか、「aguse.jp」というウェブサービスを利用して調査する方法を解説します。
サイトの運営者=ドメイン登録者の調査方法
なお、冒頭でも書いたとおり、記事の削除請求にせよ、IPアドレスの開示請求にせよ、そのサイトの運営者が判明している場合は、その運営者に対して請求することも可能です。独自ドメインのサイトの場合、サイトの運営者は、多くの場合、そのドメインの登録者と一致します。そして、独自ドメインの登録者に関する情報は、「whois」という仕組みで調査することが可能です。この方法は別記事で解説しています。
ウェブサーバー管理者 の調査方法
独自ドメインで運営されているサイトは多くの場合、いわゆるレンタルサーバーを用いて運営されています。「独自ドメンのサイト」というのは、大まかに言うと、
- まず、「お名前.com」や「GoDaddy」などのドメイン登録サービス(ドメインレジストラ)を用いて独自ドメインを取得する
- 次に、「さくらインターネット」などのレンタルサーバーと契約し、ウェブサイトをホスティングして貰うウェブサーバーを確保する
- 当該ドメインのURLにアクセスしようとした際、当該ウェブサーバーに繋がるように設定を行う
という手順で開設するのです。
「aguse.jp」の使い方
そして、このウェブサーバーを調査するため、比較的多く利用されているのが、「aguse.jp」というウェブサービスです。
「aguse.jp」の使い方は簡単です。まず、トップページで調査対象となるURLを入力します。この際必要な情報は、URLの
http://www.monolith-law.jp/article/index.html
「www.monolith-law.jp」部分までです。この部分を「ホスト名」といいます。
上記の例で言えば、「/article」以下は、そのウェブページの、サーバー内での位置のような情報であり、サーバーを特定するための情報として不要です。一方で、「www」の部分は「サブドメイン」であり、一つの独自ドメイン(monolith-law.jp)の中にいくつでも設置可能ですが、サブドメインが異なると、ウェブサーバーは別である可能性があります。つまり、仮に、
https://monolith.law
http://www2.monolith-law.jp
http://blog.monolith-law.jp
のようにいくつもサブドメインがあった場合、一つ一つのサブドメインに関して、ウェブサーバーは別である可能性があります。これは、ドメイン登録者の情報を「whois」を用いて調査する場合とは異なります。
「aguse.jp」調査結果ページの読み方
「調べる」をクリックすると、調査結果ページが表示されます。
「逆引きホスト名」に表示されるのが、当該ウェブサイトをホスティングしているウェブサーバーの「ホスト名」です。
そして、「正引きIPアドレス ●●.●●.●●.●●の管理者情報」に表示されているのが、当該ウェブサーバーの管理者に関する情報です。
管理者の調査方法
ここに表示されている文字列をGoogle検索するなどすれば、ウェブサーバーの管理者を特定することができます。この場合、「さくらインターネット株式会社」が「www.monolith-law.jp」を管理している、と判明しました。
「aguse.jp」はどのように調査を行っているのか
ウェブサービスとしての「aguse.jp」の使い方は、基本的に上記で尽きているのですが、この時に技術的にはどのような処理が行われているのか、何故この方法で独自ドメインサイトをホスティングしているウェブサーバーの管理者情報を確認できるのか、もう少し詳しく解説します。結局、「何をしているのか」が分からないと、少しでも例外的なケースに対応できなくなってしまうからです。
「IPアドレス」はインターネット上の住所
まず、この話は、「IPアドレスとは」というところから始まります。IPアドレスとは、「インターネット上の住所」とも呼ばれる、インターネットに接続しているあらゆるマシンが(原則的に)固有に保有している情報です。例えばこのウェブサイトをスマホで閲覧する際も、そのスマホは固有のIPアドレスを持っています。
そして、ウェブサイトを閲覧する側のデバイス(スマホなど)が固有のIPアドレスを持っているのと同様に、ウェブサイト側、そのサイトをホスティングしているウェブサーバーもまた、固有のIPアドレスを保有しています。インターネット上のマシン同士の通信、例えば「スマホでモノリス法律事務所のウェブサイトを閲覧するための通信」は、常に、固有のIPアドレスを保有しているマシン同士で行われているからです。
IPアドレス●●.●●.●●.●●のスマホと、
IPアドレス●●.●●.●●.●●のウェブサーバーの間で、
ウェブページのデータなどをやり取りする
これが、「インターネットを使ってウェブサイトを閲覧する」ということです。
「URL」と「ウェブサーバーのIPアドレス」の関係
しかし普段、ネットサーフィンをしているときに、閲覧対象であるウェブサイト(正確にはそれをホスティングしているウェブサーバー)のIPアドレスは何か、ということを、ユーザーは意識していません。上記のようなIPアドレスベースの通信は、もっぱらスマホなどのデバイス内部で行われており、ユーザーは「IPアドレス」を意識しない設計となっているからです。IPアドレスの代わりにユーザーが意識しているのは、URLです。
https://monolith.law/article/index.html
ユーザーは、こうしたURLを意識しながらウェブサーフィンを行っている訳です。上記のようなURLをユーザーが開こうとした際、スマホなどのデバイスは、
- まず、そのURL(のウェブサイトをホスティングしているウェブサーバー)のIPアドレスを調査する
- そのIPアドレス相手に通信を行う
という処理を行っています。
ホスト名の「正引き」とは
上記の1の処理、つまり、URL(正確にはURLの中の「www.monolith-law.jp」の部分であり、「ホスト名」)を、IPアドレスに変換する、という処理を「正引き」といいます。
「aguse.jp」でURLを調査した際、「IPアドレス」に表示される情報は、当該URL(正確にはその中のホスト名部分)を「正引き」して出て来たIPアドレスです。
IPアドレスの「逆引き」とは
「正引き」の逆、つまり、IPアドレスをホスト名に変換する処理を、「逆引き」と言います。
「aguse.jp」の「逆引きホスト名」に表示されるのは、
- URL(の中のホスト名部分)を一度正引きして
- それを逆引きして出て来たホスト名
です。
ここで複雑なのは、「正引き→逆引き」を行うと、独自ドメインサイトの場合、レンタルサーバーのホスト名が出てくる、ということです。この仕組みは少しややこしいのですが、以下、簡単に説明します。
「ネームサーバー」とは
まず、「逆引き」は、インターネット利用にとって、必ずしも必要な処理ではありません。上記のように、普段のネットサーフィンの際、「URLを元にウェブサーバーのIPアドレスを調べる」という「正引き」は行われていますが、「逆引き」が普段のネットサーフィン(や普通のインターネット通信)で登場する場面はありません。そして、この「正引き」を行うために用いられているのが、「ネームサーバー」というものです。
- まず、そのURL(のウェブサイトをホスティングしているウェブサーバー)のIPアドレスを調査する
- そのIPアドレス相手に通信を行う
この1の際に行われていることは、もう少し正確に言うと、
- ネームサーバーに対して、自分がアクセスしようとしているURL(のウェブサイトをホスティングしているウェブサーバーのホスト名)を問い合わせる
- ネームサーバーが、そのURL(のウェブサイトをホスティングしているウェブサーバーのホスト名)のIPアドレスを回答する
という処理です。つまり、ネームサーバーは、「ホスト名と、それに対応するIPアドレス」という割当情報を、いわば辞書のように保有している訳です。
「ネームサーバー」と「ルートネームサーバー」
そして、ネームサーバーは、インターネット上に無数に存在します。上記のような問い合わせ処理は、ネットサーフィンの過程で大量に行われており、例えば「インターネット全体について、1個のネームサーバーが全ての問い合わせに応える」というような仕組みだと、そのサーバーの負荷が膨大となってしまうからです。したがってネームサーバーは無数に存在し、それらは、「ルートネームサーバー」という、ネームサーバーのマスターを起点に、ツリー上に配置されています。「ルートネームサーバーの下にあるネームサーバー(例えばA,B)がぶらさがり、ネームサーバーAの下に別のネームサーバー(例えばC,D)がぶら下がり……」という具合です。
そして、これらインターネット上の無数のネームサーバーは、なるべく全てが常に同じ辞書情報を保有することが望ましいのですが、これを実現しようとすると、その同期作業もまた、膨大な負荷になってしまいます。そこで実際問題として、完全な同期も行われていません。「ツリー上のネームサーバーのどこかに情報があり、どこかに情報がある以上、順番に問い合わせればいつか回答を得られる」というような仕組みです。
IPアドレスの「逆引き」とは何なのか
「逆引き」の際には、ルートネームサーバーから他のネームサーバーへ、順々に問い合わせが行われます。普段の問い合わせ(正引きの際の問い合わせ)とは逆の問い合わせ、「IPアドレス●●.●●.●●.●●に対応するホスト名を回答してくれ」という問い合わせです。この問い合わせの回答は、多くの場合、そのウェブサイトをホスティングしているウェブサーバーに関連する文字列となります。上記の例で言えば
- 「monolith-law.jp」というホスト名を「正引き」すると、回答されるIPアドレスは「59.106.27.183」
- 「59.106.27.183」というIPアドレスを「逆引き」すると、回答されるホスト名は、(「monolith-law.jp」ではなく)「www1943.sakura.ne.jp」
です。
そして、「そのウェブサイトをホスティングしているウェブサーバーに関連する」ホスト名は、レンタルサーバーの場合、レンタルサーバー事業者の保有するドメイン、上記の例であれば「sakura.ne.jp」を含んでいます。
レンタルサーバー事業者のドメインのwhois情報
レンタルサーバー事業者は、多くの場合、whoisに正しい情報を登録しています。
したがって、このドメイン名を「whois」で調べれば、そのレンタルサーバー事業者の情報、上記の例であれば、その「運営組織」が「SAKURA Internet Inc.」であるという情報を取得できるのです。
まとめ
このように、「独自ドメインで運営されているサイトについて、削除やIPアドレスの開示請求を行うため、そのホスティングサーバーを管理しているレンタルサーバー事業者を調査する」というのは、非常にIT的な意味で複雑な話です。この記事で解説したのはあくまで「基本」であり、「基本的な知識だけでは突破できない問題が生じた場合に、その問題をどう解決するか」というのが、「応用」となります。
インターネット上の風評被害対策は、このように、ITと法律の両面において非常に専門的なのです。