代理店契約書の正しい書き方と種類について弁護士が解説
ビジネスにおいて、自社の商品またはサービスを代理店に販売してもらうことは比較的よく行われています。代理店を利用すれば、営業人員等の人件費に関するコストを削減できるだけでなく、比較的早く大規模な販売網を構築できる点も魅力的といえます。
そこで、代理店との間で締結する代理店契約書の作成方法やポイントについて解説します。
この記事の目次
代理店契約とは
代理店契約の仕組み
代理店契約の基本的な仕組みとしては、委託者の商品やサービス等の販売を販売代理店に委託し、販売代理店が顧客に対して当該商品やサービスの広告宣伝活動などを行うものです。
代理店契約の種類
代理店契約による販売に関しては、法的には取次型と売買型の2種類にわけることができます。
取次型とは、販売代理店は契約締結の代理をするだけであり、商品やサービスの提供に関する契約の効果は委託者と顧客との間で直接発生するというものです。取次型の販売代理店の場合、販売代理店の売上となるのは委託者からの販売手数料となります。
他方、委託者の商品やサービスに関して委託者と販売代理店が仕入れという形で売買契約を締結し、その仕入れた商品やサービスを販売代理店が直接顧客に対して販売するのが売買型です。売買型の場合には、商品やサービスの対価が販売代理店の売上となります。
取次型と売買型のいずれとするかは、販売代理店にどのような売り上げを立てたいかという会計上の判断にも絡みますので自社でよく検討しておくことが大切です。
代理店契約書のチェックポイント
委託者が販売代理店との間で締結する契約が代理店契約書です。ここでは、代理店契約の典型的な条項例を紹介した上で、各条項例のチェックポイントを解説します。なお、条項例において「甲」とは委託者を指し、「乙」とは販売代理店を指しています。
取次型の販売方法に関する条項
販売方法が取次型の場合、以下の定めに従うものとする。
(1)甲は乙に対し、取扱商品を、別紙記載の販売条件で販売することの代理権を付与する。ただし、代金受領権限を付与するものではない。
(2)乙は、本件商品の販売に関して、利用可能性のある利用者を紹介するものとする。
(3)乙は、甲の支援のもとで、本件商品が継続的に利用されると同時に、本件商品利用者が利用に関して満足を得られるように努めるものとする。
(4)乙は、甲の事前の指定のある場合、甲の指定した契約書をもって本件販売を行うものとする。事前の指定のない場合、乙に代金受領権限がない旨を契約相手に明示しなければならない。
(5)乙は、前項の契約書に、乙が甲の代理人として本件販売にかかる契約に携わる旨の記載を行わなければならない。
(6)契約ごとに、委任状その他の代理権限を示す文書は交付しないものとする。
(7)契約締結に関連する経費その他の一切の費用は、乙の負担とする。
(8)契約成立後、甲に、契約相手からの金銭回収不能の事態が生じても、乙は、一切その責めを負わないものとする。
(9)甲は乙に対し、取扱商品の最終利用者に対する販売仲介のみを許諾するものとし、別紙にて特段の定めのない限り、復代理人の選任その他のこれ以外の一切の許諾を行うものではない。
(10)前号にかかわらず、別紙にて特段の定めのある場合、乙は甲への事前の書面による通知によって復代理人を選任することができるものとし(販売方法が取次型の場合、復代理人による代理の行われた取扱商品の販売を「二次取次」という。)、当該書面の甲への到達時、甲はこれについて許諾を行ったものとみなす。ただし、当該復代理人の再販に関わる表見代理、取引的不法行為その他のこれらに類する行為によって甲が当該復代理人に対して損害賠償請求権を有することとなった場合、乙は当該債務を当該復代理人と連帯して保証するものとする。
条項例は、前述した代理店契約の種類のうち取次型を前提としたものです。取次型では、販売代理店は顧客と委託者との間に効果が帰属する契約の締結行為を代理するにとどまります。したがって、販売代理店の代理権の範囲を明確に定めておく必要があります。
条項例(1)の但し書きでは、代金受領権限を代理店に付与しないことが定められています。代金受領権限を代理店に付与するか否かは両方あり得るところですが、代金受領権限の重要性に鑑みると委託者としてはこれを代理店に付与しないことが無難といえます。
条項例(10)は、復代理人の選任について定めています。復代理人や更にその代理を認めていくと、顧客との間でトラブルが発生したときの責任の所在があいまいになりがちです。もっとも、大手の販売代理店に一括で委託する場合には復代理人の選任が前提となっていることもあります。したがって、復代理人の選任を許容するかは個別の取引に応じて判断する必要があるでしょう。
売買型の販売方法に関する条項
販売方法が売買型の場合、以下の定めに従うものとする。
(1)甲は、乙より、取扱商品を別紙記載の販売方法及び販売条件で購入する旨の申出を受けた場合、これを承諾しなければならない。
(2)甲は、乙より、取扱商品を、別紙記載の販売方法及び販売条件以外で購入する旨の申出を受けた場合、速やかに承諾又は拒絶を行わなければならない。
(3)乙は、本件商品の利用者への販売に関して、利用契約を含む一切の行為について自らの責任の下で、甲から支持された書式、方式に従って実行するものとする。
(4)乙は、甲の許諾なく、利用者に対する利用許諾の承認を甲の決めた書式、方式以外で承認してはならない。変更の場合は書面にて甲からの承認を得るものとする。
(5)販売、契約締結、料金の授受に関する一切の費用は乙の負担とする。
(6)利用料金の受領に関しては、乙が自らの責任で受領するものとする。甲は料金の授受に関する損害等に対する一切の責務を負わない。
(7)乙は、別紙にて特段の定めのない限り、甲の役務提供の相手方を契約相手として、取扱商品の販売を行わなければならない。乙による、甲の役務提供の相手方以外の者に対する取扱商品の販売(以下「二次再販」という。)は、乙の甲に対する債務不履行とみなし、甲による解除その他の行為によって、乙に損害は発生しないものとみなす。
(8)前項にかかわらず、別紙にて特段の定めのある場合、乙は、甲の役務提供の相手方以外の者(以下「再販先」という。)に対して取扱商品の販売を行うことができる。ただし、再販先への営業、技術その他一歳に関連する支援についての一切は乙がその責を負うものとし、甲は一切の責務から除外される。
この条項例は、代理店契約の種類のうち売買型を想定したものです。売買型の場合には、顧客との間で契約を締結し、なおかつ契約上の責任を負うのは販売代理店であるため、委託者の販売代理店に対する拘束は取次型と比較してそれほど大きくないことが一般的です。
したがって、当然ながら代金受領権限は販売代理店にあります。条項例(6)はこの点を注意的に規定するものです。
多少特徴的なのは条項例(1)にあるように、あらかじめ定められた販売条件等に従う限り、委託者は販売代理店に対して商品又はサービスを必ず売り渡さなければならないとしている点です。
もっとも、代理店契約において、販売代理店は委託者から商品やサービスを必ず仕入れられることを前提として販促活動をするわけであり、顧客から申し込みを受けたにもかかわらず、商品やサービスを提供できないことは代理店からすればあってはならないことです。したがって、条項例(1)は代理店にとっては重要な条項といえます。
取次型の販売手数料に関する条項
1.販売方法が取次型であって、本件販売にかかる契約の成立した場合、甲は乙に対し、別紙記載の手数料を支払う。
2.本条の手数料の支払後、本件販売にかかる契約が無効であることが判明し、取消若しくは解除され、又はその契約の瑕疵に関連して甲が契約相手に損害賠償その他の金銭を支払った場合、乙は甲に対して手数料を返金するものとする。
売買型の代理店契約の場合には、単純に商品の仕入価格と顧客への販売価格の差額が販売代理店の売上となります。これに対し、取次型の代理店契約の場合には、仲介による手数料が販売代理店の売上となりますので、手数料額を代理店契約において定めておく必要があります。
取次型の代理店契約の場合には、顧客と委託者との間で商品やサービスの提供に関する契約が成立したことを条件に、代理店が手数料を受領することが一般的です。手数料の金額としては、「契約1件につき○円」と定額で定められることもあれば、「販売価格の○%」と売上に連動して定められることもあります。
販売手数料に関する条項で最も重要なのは、手数料が発生する条件です。顧客と委託者との間で契約が成立した時点とする場合でも、扱っている商品やサービスによって具体的な表現が異なります。例えば、アプリに関する販売代理店の場合には、委託者が提供するアプリに顧客が登録した時点と表現することになります。後から疑義を生じないように、扱う商品やサービスに応じて明確に手数料が発生する条件を定めておくことが重要です。
また、条項例第2項のように、いったん顧客と委託者との間で契約が成立した場合でも、手数料支払いの対象としないケースを定めておくことも有効です。後から契約が無効や取消になった場合にも手数料の支払い義務があるとすると、販売代理店がいわゆるサクラを使って契約申し込みをさせ、すぐに解約させることにより契約件数を水増しするリスクがあるためです。
商品の引渡しに関する条項
取扱商品が有体物の場合、以下の定めに従うものとする。
(1)甲は、契約相手に対して、取扱商品を直接交付するものとする。
(2)甲は、前項の定めにかかわらず、あらかじめ、乙に取扱商品を交付し、乙において、契約相手に対して、直接、取扱商品を交付させることができる。ただし、乙が取扱商品を直接交付したときには、直ちに、商品名、数量、単価、金額、送付日を、甲に対して通知しなければならない。
(3)前項の費用は甲の負担とする。
代理店に販売を委託するものが商品である場合には、顧客への引渡し方法を定めておく必要があります。在庫を委託者と代理店のいずれが抱えるかにもよりますが、一般的には委託者が在庫を持ち、顧客に対して委託者が直接商品を交付する例が多いと思われます。条項例(1)は、このような場合を想定したものです。
ただし、商品の在庫は委託者が抱えるものの、実際の商品の引渡しは販売代理店に依頼することもあり得ます。顧客の窓口になっているのは販売代理店であるため、販売代理店から顧客に直接商品を交付する方がスムーズに取引が進むケースもあるためです。条項例(2)は、このような場合があり得ることを想定したものです。
条項例(1)と(2)のいずれか一方しか想定されない取引であれば、一方の条項のみ定めれば足ります。他方、販売代理店や顧客ごとに条項例(1)(2)両方の場合が想定されるのであれば、上の条項例のように定めておくことがよいでしょう。
商標の使用に関する条項
1.乙は、甲が使用権限を有する商標の使用を希望するときは、予め甲に申請し、甲の承諾を得なければならない。尚、承諾の対象となった商標の使用条件は、甲の定めに従うものとする。
2.前項にかかわらず、甲は、取扱商品の仲介又は再販先への販売に必要な限度で、本契約の存続期間中に限り、商標の使用を許諾したものと推定する。
商標とは、事業者が、自社の取り扱う商品・サービスを他社のものと区別するために使用するマーク(識別標識)をいいます。これらを特許庁へ出願して商標登録を受けると、商標権を取得することになり、登録者が独占的に商標を使用できるようになります。商標権を含む知的財産権に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。
販売代理店が委託者の商品またはサービスについて販促活動をする際には、商標を利用することが想定されます。商標については権利者の承諾を得ないと第三者が利用することはできませんので、条項例の第1項において、権利者である委託者の承諾を得る旨が定められているということになります。商標権侵害に対する罰則に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。
また、条項例の第2項は、代理店に販売を委託する以上当然に商標を代理店に利用させることが想定されているので、商標の権利者である委託者が特に禁止したような場合をのぞいては、商標の使用許諾がされたと推定するものです。
まとめ
IT企業に限ったことではありませんが、自社の開発したツールやアプリ等を販売する際に、販売代理店に委託するケースはよくあります。代理店契約には法的にはいくつかの種類があり、いずれを選択するかはどこに売り上げを立てたいかという会計上の視点や、どの程度委託者が契約上の責任を許容できるかというビジネス上の判断も必要となります。このような判断を法的に実現できるように契約書をアレンジすることが重要となりますので、代理店契約書を作成する際には弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務