社外取締役の責任限定契約とは?手続きの流れと契約書作成の注意点
近年、会社の不祥事が相次ぐなか取締役会が経営陣を十分に監督することが求められており、そのための取り組みの一環として社外取締役の活用が進んでいます。
2021年3月1日に施行された改正会社法では、上場会社などで社外取締役の設置が義務化されました。そのため、上場企業のみならず、今後上場を目指す企業にとっても社外取締役の確保は大きな課題となっています。
また、非上場会社であってもVC等から出資を受けるときに、社外取締役の受け入れが条件とされることもあります。このように会社が外部から取締役を受け入れる際、会社と取締役との間であらかじめ責任限定契約を締結しておくケースが多く見られます。
そこで、この記事では、責任限定契約とはなにか、責任限定契約を締結するためにどのような手続きが必要なのかについて詳しく解説します。
この記事の目次
社外取締役の責任限定契約と適用範囲
社外取締役の増加に合わせて、責任限定契約の活用が進んでいます。
東京証券取引所の「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2015」(36頁)によると、会社との間で責任限定契約を締結している社外取締役の割合は、2014年の時点で東証上場会社全体の78.6%に上っており、責任限定契約の締結が実務上定着しつつあることが分かります。
ここでは、そもそも責任限定契約とは何なのか、どのような取締役が責任限定契約を締結できるのかについて解説します。
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取締役の責任限定契約とは
責任限定契約は、取締役に損害賠償責任が生じた場合に、その取締役の責任を一定の金額内に制限することを内容とする取り決めです。
責任限定契約は、実際に取締役が損害賠償責任を負う前に締結されます。具体的には取締役に就任した時に締結されることが一般的です。
責任の免除に関しては、後述の通り、株主総会や取締役会の決議によって免除することができる制度も設けられています。しかし、これらの制度では、決議によって本当に責任が免除されるのか、免除額がいくらになるのかについて不明確なため、社外取締役になる者としては高額な賠償責任を負わされる不安を払しょくできません。
対して、責任限定契約では、損害賠償責任が発生する前に責任を限定することができます。このように、責任限定契約によって高額な賠償責任を負わされるリスクを減らすことで、社外取締役となる人材をより確保しやすくするという効果を望めます。社外取締役と責任限定契約を締結するケースが増加しているのは、このような事情があるものと考えられます。
もっとも、責任限定契約において、責任の上限額を自由に決められるわけではありません。会社法では、この上限額について、次の2つのうちいずれか高い額であると定められています。
- 定款で定められた金額
- 会社法の定める最低責任限度額(会社法第425条第1項)
後者の最低責任限度額は、社外取締役の場合、「報酬」(会社法施行規則第113条)の2倍と定められています。
業務執行取締役は責任限定の対象外
責任限定契約を会社と締結することのできる取締役は、業務執行取締役でない取締役に限定されています。そのため、代表取締役や、業務を執行する取締役として取締役会の決議によって選定された取締役は、責任限定契約を締結することはできません。
社外取締役は業務執行取締役以外の取締役から選任されるため、社外取締役であるならば責任限定契約を締結することに問題はありません。もっとも、社外取締役から業務執行取締役に就任する場合には、責任限定契約の効力が失われるため、注意が必要です(会社法第427条第2項)。
責任限定契約を締結するための手続
責任限定契約を締結する場合、単に契約を締結するだけでなく、あらかじめ会社法の定める手続きを履践することが必要になります。ここでは、責任限定契約の締結をするために、事前に行わなければならない手続きについて解説します。
責任限定契約をできる旨の定款の作成
責任限定契約を締結するためには、会社の定款において責任限定契約を締結することができる旨が定められている必要があります。そこで、まずは定款を変更して責任限定契約の締結に関する規定を盛り込むことになります。
責任上限額を定款で定めるかを判断
責任限定契約を締結した場合の責任上限額は、定款で定められた金額か、法律によって定められている最低責任限度額のいずれか高い額となります。そのため、定款においてこの最低責任限度額よりも低い額を責任上限額と定めても意味がありません。
したがって、責任上限額を定款で定める意味があるのは、責任上限額を法定の最低責任限度額よりも高くしたいケースです。そこで、会社としてはそもそも責任限度額を定款で定めるかどうかを判断することになります。
実際に定款で責任上限額を定めるかは会社によってさまざまです。役員に責任追及する株主の立場からすると会社法第 425 条第 1 項に定める最低責任限度額より高い上限額を定款で定めてもらったほうがよいことになります。
一方で、投資家から社外取締役を受け入れる場合、送り込む側は株主ではあるものの、責任上限額は低い方が好まれることも考えられます。
責任上限額を定款で定める場合の規定例
責任上限額を定款で定める場合には、次のような規定を設けることが考えられます。
第○条(取締役との間の責任限定契約)
当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)との間で、会社法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく賠償責任の限度額は、○円以上であらかじめ定めた金額または法令に定める最低責任限度額のいずれか高い額とする。
責任上限額を定款で定めない場合の規定例
責任上限額を定款で定めない場合には、次のような規定を設けることが考えられます。
第○条(取締役との間の責任限定契約)
当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)との間で、会社法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく賠償責任の限度額は、法令に定める最低責任限度額とする。
監査役の同意
責任限定契約を締結できる旨の規定を定款に定める場合、この定款の変更について、株主総会の決議によって承認を得なければなりません。
監査役設置会社の場合、このような定款変更を行うとの議案を株主総会に提出する際には、あらかじめ監査役全員の同意を得なければなりません(会社法第427条第3項・第425条第3項第1号)。なお、監査役会設置会社であっても、この議案の提出に対して監査役会の決議による承認は不要です。
株主総会の特別決議
定款変更をする旨の議案について監査役から同意を得ることができた後は、この議案について株主総会の決議による承認を受ける必要があります。
定款変更を行う場合には、株主総会の特別決議による承認が必要となります(会社法第466条・第309条第2項第11号)。
特別決議では、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成がなければ決議が成立しません。
定款変更のような会社の基礎の変更に関わる行為では慎重な判断が求められるために、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められています。
変更の登記
責任限定契約に関する定款の定めは、登記事項となります。そのため、株主総会の決議により定款変更が承認され定款に責任限定契約の締結に関する規定が設けられた場合には、この定めを登記する必要があります(会社法第911条第3項第25号)。
そのための登記は、定款変更の効力が生じてから2週間以内に行う必要があります(会社法第915条第1項)。
責任限定契約書を作成するうえでの注意点
社外取締役との間で責任限定契約を締結する場合、責任限度額の定めなどについて、定款に定めた内容と齟齬が生じないように注意をする必要があります。
具体的には、以下のような条項が定められることが考えられます(甲は株式会社、乙は社外取締役)。
第○条(賠償責任の限定)
乙が甲の取締役として任務を怠ったことにより甲に損害を与えた場合、乙がその職務遂行にあたり善意かつ重大な過失がないときは、甲の定款で定められた金額または会社法第425条第1項に定める最低責任限度額のいずれか高い額を限度として甲に対し損害賠償責任を負うものとし、当該金額を超える部分について甲は乙を免責する。
また、責任限定契約の有効期間が満了した後も、当該取締役が契約期間中に行った行為に関して本契約が適用される旨の規定や、会社法上の制約などに関する条項を盛り込むことも考えられます。
業務を執行する取締役の責任を軽減する方法
社外取締役とは異なり、代表取締役などの業務執行取締役は、責任限定契約を締結することができません。
もっとも、このような取締役についても、株主総会の特別決議によって、法定の最低責任限度額を限度として責任を軽減することができます(会社法第425条第1項)。
また、取締役会の決議によって、法定の最低責任限度額を限度として責任を軽減することができます(会社法第426条第1項)。この場合、取締役会決議によって責任を軽減できる旨を定款に定める必要があります。なお、株主全員の同意があれば、取締役の責任を免除することができます(会社法第424条)。
まとめ:責任限定契約書を作成する際は弁護士へご相談を
会社が社外取締役を導入するケースが増えるなかで、社外取締役を迎えやすくする方法として、責任限定契約の利用が一般的になっています。もっとも、責任限定契約の締結には、あらかじめ定款の定めが必要な点や、締結できる取締役や限度額の制限など、事前に確認すべきポイントが数多く存在します。
特に、定款の変更など会社法上定められている手続きを怠ってしまった場合、契約の効力が認められない可能性があるため、十分に注意が必要です。社外取締役と責任限定契約の締結を検討されている方は、企業法務に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。
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