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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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サプリメント定期購入。初回限定割引を行う際の注意点とは?

サプリメントのネット通販では、定期購入を条件に、「初回送料のみ500円」「1回目90%オフ」といった初回割引が行われる場合があります。消費者の購入意欲喚起のための工夫ですが、運用方法を誤ると、法律に抵触する場合があるので注意しなくてはいけません。

本記事では、販売者向けにサプリメント定期購入の初回限定割引を行う際の注意点を解説します。

定期購入が問題となる例

ネット通販サイトでは、定期購入を条件とする初回限定割引の契約について、トラブルが増加しています。独立行政法人国民生活センターが行った調査によると、健康食品等の通信販売「定期購入」契約に関する相談は、2014年時点の1,925件に対し、2019年には29,177件と、5年で15倍に急上昇を遂げています。

参考:独立行政法人国民生活センター|相談激増!「おトクにお試しだけ」のつもりが「定期購入」に!?

以下購入者側のクレームとして問題になった具体的な事例をいくつか見ていきましょう。

クレーム例①

SNSにて「初回トライアル無料!」と書かれた広告をクリックし、リンク先の通販サイトで酵素ダイエットサプリを購入した。「トライアル商品0円、送料500円」という条件だったので魅力的に感じ購入したが、後日、利用明細を確認したところ、9,000円商品が2つ、計18,500円分の請求があった。驚いてすぐカスタマーセンターに問い合わせたところ、「注文後14日以内にキャンセル・返品しない場合、自動的に9,000円が請求され、毎月商品が届く」とのこと。しかし、そのような記載はサイトや注文画面、メールにも見当たらず、そもそも最初の商品が到着した時点で、すでに14日を経過していた。

クレーム例②

スマホでGoogle検索していると「飲むだけで痩せられる!初回は実質無料」というサプリメントの広告が出てきた。早速購入し、使用してみたが、効果があるように思えなかった。継続しないつもりでいたが、2週間後に同じ商品が届き、8,000円を請求された。そこでサイトを読み返したところ、5回受け取るまでは解約不可能な定期購読コースであることに気づいた。すぐ販売会社に問い合わせしたが、電話がなかなかつながらない。

クレーム例③

SNSにコンブ茶の広告が出おり、著名人が「血液がサラサラになった」と宣伝していることもあって、思わず購入した。届いた商品を早速利用してみたが、口に合わず胃もゴロゴロしたので利用をやめることにした。クーリングオフしたい旨を伝えたが、「ネット通販ではクーリングオフは受け付けていない。また、規約に4回目まで購入してもらう必要がある旨記載している。」と言われてしまった。

初回限定割引は違法なのか?

一定回数、定期購入を条件として割安価格で商品を販売している場合、途中解約をした契約者に対し、割引無しの不足料金を請求することは適法なのかという問題があります。結論これは違法ではありませんが、表示方法に注意が必要です。

表示方法の注意点

通信販売の広告は、2回以上売買契約を継続する定期購入契約について、特に「販売条件の表示」に規制が定められています(特定商取引法施行規則8条7号)。通信販売の広告やインターネット通販における申込み・確認画面上に、以下の事柄を記載する義務があります。

  • 定期購入契約である旨及び金額(支払代金の総額等)
  • 契約期間
  • それぞれの商品の引渡時期や代金の支払時期等

顧客の意思に反する売買契約締結の禁止

特定商取引法について消費者庁が平成29年11月にとりまとめた資料によると、通信販売においては、顧客の意思に反する売買契約の申込みをさせることは禁止されました。具体例は以下の通りです。

  • 申込みの最終段階の画面上において、定期購入契約の主な内容の全てが表示されていない場合
  • 申込みの最終段階の画面上において、定期購入契約の主な内容の全てが容易に認識できないほどその一部が離れた場所に表示されている場合

参考:消費者庁|特定商取引に関する法律等の施行について

サイトや注文画面、メールにも定期購入契約の記載がないクレーム例①は、違法の可能性が極めて高いです。

定期購入や解約方法について容易に認識できない表示をすると、禁止事項に該当し「顧客の意思に反する売買契約の申込み」 と判断される可能性があります。

たとえ購入を促す目的だとしても、違法と判断される可能性があるため、表示には注意が必要です。

違法だと判断されないためには

解約条件を明示する

定期購入回数や支払い方法など契約に関する記載のみならず、解約条件も明確にに表示しておきましょう。記載が分かりにくいと「契約条件の主たる内容が全て記載されている」と認められず、違法と判断されるおそれがあります。

クレーム例②③の場合、「5回受け取るまでは解約不可能」「最低でも4回は定期購入を続けないと解約できない」といった具体的な条件を、申込画面に明示する必要がありました。

解除の方法が分からない消費者は、電話やメールで事業者に問い合わせするでしょう。連絡が付きにくく、消費者生活センターに相談されてしまうケースも少なくありません。

返品対応の可否について明示する

実はネット通販の場合、クーリングオフ制度の適用がありません。

クレーム例③のようなトラブルにならないためにも、返品対応の可否についてもきちんと表示する必要があります。

サイト構成の工夫

契約内容や解除条件など記載すべき内容が適切に表示されていたとしても、消費者がその内容を見つけるのが難しいデザインや表示方法の場合も、違法だと判じられる可能性もあります。

スマホはパソコンよりも画面が小さいですから、記載事項のチェック漏れが発生する確率も高まるため、注意しなくてはいけません。

また、SNSや動画サイトから販売サイトに飛んできた購入者は、サイトの内容をよくチェックせずに購入ボタンを押す可能性もあります。

消費者側に落ち度がある場合でも、サイトの記載に不備があると認められれば、違法だと判断されるリスクもあります。

消費者の認識不足を招く危険を少しでも減らすには、サイトをシンプルで見やすい構成にすることがポイントです。文字を小さくしたり、聞こえの良い言葉だけ装飾を派手にしたりといった表示方法は避けましょう。

まとめ

顧客がサプリメントの売買契約後に定期購入であることに気づき、解約した場合、初回限定割引の扱いはどうなるのか解説してきました。

結論からいうと、途中解約の場合、初回限定割引を適用せず通常料金を請求することは違法ではありません。ただし、商品購入時の申し込み・確認画面において、定期購入契約であることなど、条件を明確に記載する必要があります。

また、記載があったとしても、記載の位置がかけ離れているなど記載方法に不備がある場合、違法だと判断される可能性もあります。

サプリメントの定期購入契約の初回限定割引は、消費者とのトラブルが発生しやすい事案です。判断が難しい内容ですので、迷ったら弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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