弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

「知らなかった」ではすまされないステマ規制──確約手続事例から読み解く景品表示法違反のリスク

SNSや口コミ、インフルエンサーを活用したプロモーションは、今や多くの企業にとって欠かせない手法となっています。一方で、そのやり方次第では、「知らないうちに法律違反になってしまう」リスクがあることは、あまり意識されていないかもしれません。

こうした背景のもと、令和5年(2023年)10月1日から、景品表示法に基づくステルスマーケティング(いわゆる「ステマ」)規制が施行されました。この規制は、広告であるにもかかわらず、それを広告だと分からない形で表示する行為を不当表示として明確に禁止するものです。

近年、消費者庁はこのステマ規制を含む景表法違反の疑いについて、「確約手続」という制度を通じて、具体的な事例を次々と公表しています。そこからは、どのような行為が「事業者の表示」と判断され、どこに企業が見落としやすいリスクが潜んでいるのかが、具体的に読み取れます。

本記事では、こうした公表された確約事例をもとに、どのようなプロモーションが問題とされたのか、広告を出す際には何に気をつけ、どのような体制を整えるべきなのかについて解説します。 

ステマ(ステルスマーケティング)規制とは

ステマ(ステルスマーケティング)規制とは、広告であることを隠して口コミや感想を装う「ステルスマーケティング」を、景品表示法が禁じる「不当表示」として規制する制度です。令和5年(2023年)10月から施行されました。

この規制により、事業者が第三者に依頼してSNSや比較サイト等で宣伝を行う際、「広告」「PR」といった表記が不可欠となりました。消費者が「広告である」と判別しにくい表示は、たとえ内容が事実であっても違反とみなされます。

規制の対象は実際に情報発信を行ったインフルエンサー等ではなく、依頼した事業者(広告主)です。違反した場合は、措置命令などの行政処分が下されます。消費者の純粋な感想と広告を明確に区別させ、適切な商品選択を守るための重要なルールです。

ステマ規制については、こちらの記事で詳しく解説しています。

景品表示法の確約手続とは

景品表示法の確約手続とは、不当表示などの疑いがある事業者が、自ら是正措置や再発防止策を盛り込んだ改善計画(確約計画)を提出し、消費者庁がそれを認定することで、行政処分(措置命令・課徴金納付命令)を受けることなく事案を早期に解決できる制度です。令和6年(2024年)10月から施行されました。

事業者は「行政処分」という不名誉なレッテルや高額な課徴金を回避でき、迅速に信頼回復を図れるメリットがあります。一方、消費者庁側も、長期間の調査を待たずに速やかに不当表示を是正させ、消費者利益を守ることができます。

ただし、過去に違反がある場合や、虚偽と知りつつ表示していた悪質なケースなどは対象外となります。

確約手続については、こちらの記事にて詳しく解説しています。

ステマ規制等の景品表示法のルールは法令の条文だけを読んでも分かりにくい部分がありますが、消費者庁が公表している事例を見ることで、「どのような行為が問題とされ、企業に何が求められたのか」を具体的に把握することができます。

以下では、実際に消費者庁が公表した確約手続の事例を取り上げ、違反と疑われた行為の内容と、それに対して求められた是正措置を確認していきます。

caname株式会社(パーソナルジム「かたぎり塾」)の事例

公表された確約事例の具体的な分析

caname株式会社が運営するパーソナルジム「かたぎり塾」に関するこの事案は、ステマ規制そのものが問題となったケースではありません。

しかし、景品表示法における「有利誤認表示」の疑いに対して確約手続が適用され、その対応内容が、後述するステマ規制事案においても共通して重要となる「被害回復(返金)」の考え方を示している点で、参考になる事例です。caname株式会社から申請があった確約計画の認定について

消費者庁は、令和7年(2025年)2月3日にcaname社に対して本件について通知を行い、同社が提出した確約計画を同年2月26日に認定しました。

参考:消費者庁|caname株式会社から申請があった確約計画の認定について

事案の概要

問題とされたのは、同社のウェブサイト上の入会金に関する表示です。通常5万円とされる入会金について、「無料体験を行い、かつ表示された期限内に当日入会した場合に限って値引きされる」かのような表示がされていました。

しかし実際には、表示されていた期限を過ぎていた場合でも、無料体験を受けた当日に入会すれば、同様に値引きが適用されていた疑いがありました。このような表示は、消費者に対して、実際よりも取引条件が有利であるかのような印象を与えるおそれがあるとして、景品表示法上の有利誤認表示に該当する疑いがあると判断されたものです。

確約措置の内容

認定された確約計画では、まず、景品表示法の確約手続において基本として求められる対応が盛り込まれました。具体的には、

  • 今後、同じような行為を行わないことの確認
  • 問題となった内容について、一般消費者に周知すること
  • 再発防止のための体制やルールを整えること
  • これらの措置の履行状況を消費者庁に報告すること

といった措置です。これに加えて本件では、実際に影響を受けた消費者に対する返金措置が取られた点が大きなポイントとなりました。問題となった表示が行われていた期間中に入会した一般消費者に対し、支払われた入会金の一部を返金する対応が確約計画に含まれています。

消費者庁は、この返金措置について、

  • 近年、景品表示法第5条違反が認定された事案で命じられてきた対応内容と整合していること
  • 単なる形式的な是正ではなく、消費者の被害回復に実際に役立つ内容であること

を重視し、措置内容は十分であると判断しました。

この事例が示しているのは、確約手続を利用して措置命令や課徴金といった法的措置を回避しようとする場合でも、優良誤認や有利誤認といった不当表示の疑いがあるときは、返金などの「経済的な被害回復」が強く求められるという点です。

たとえ問題となった表示がすでに修正・削除されており、過去の行為(いわゆる「既往の違反被疑行為」)であったとしても、「もう直したから終わり」とはならず、消費者への補償まで含めた対応が必要になるという運用が、この事例からも読み取れます。

株式会社イングリウッド(冷凍宅配食「三ツ星ファーム」)の事例

株式会社イングリウッドが販売する冷凍宅配食「三ツ星ファーム」に関するこの事案は、「表示内容そのものの問題」と「ステマ規制」の両方が同時に問題とされたケースです。

事案の概要

この事例で問題となったのは、

  • 景品表示法における優良誤認表示
  • 景品表示法に基づくステルスマーケティング規制

という、2つの違反の疑いに対して確約手続が適用されました。消費者庁は、令和7年(2025年)8月28日にイングリウッド社へ通知を行い、同社が提出した確約計画を、同年9月19日に認定しています。

参考:消費者庁|株式会社イングリウッドから申請があった確約計画の認定について

この事案で問題とされた行為は、大きく分けて二つあります。

一つ目は、自社ウェブサイトなどにおける表示内容です。同社は「ご好評につき3冠達成!」「プロの料理人がオススメする宅食ランキングNo.1」といった表現を用いていました。

しかし、これらの表示について、客観的な調査や根拠が確認できない疑いがあり、実際よりも品質や評価が優れているかのような印象を与えるとして、景品表示法第5条第1号に該当する優良誤認表示の疑いがあると判断されました。

二つ目は、SNS投稿の利用方法です。同社は、第三者に対して対価を提供することを条件に、Instagramへの投稿を依頼していました。そして、その投稿内容を、自社ウェブサイト上の「レンチン5分のご褒美ご飯 SNSでも話題に!」といった箇所を抜粋して表示していました。

ここで問題となったのは、第三者に対して対価が提供されていた点です。対価の提供がある場合、その表示は、第三者の自主的な感想ではなく、「事業者の表示」と評価される重要な要素になります。

それにもかかわらず、これらの表示が、一般の消費者から見て広告であると分かりにくい形で利用されていたため、ステルスマーケティング規制に違反する疑いがあると判断されました。

この「三ツ星ファーム」の事例は、

  • 表示内容そのものの裏付けが問われた点(優良誤認)
  • SNS投稿の使い方が問われた点(ステマ規制)

が同時に問題となった代表的なケースです。

以降の確約措置の内容を見ることで、こうした複合的な違反の疑いに対して、消費者庁が企業にどのような対応を求めたのかが、より具体的に見えてきます。

確約措置の内容

この事案では、優良誤認表示とステマ規制という複数の違反の疑いがあったことから、それらを是正するための確約計画が提出・認定されました。確約計画には、景品表示法の確約手続において基本として求められる対応として、

  • 今後、同様の行為を行わないことの確認
  • 問題となった行為について、一般消費者に周知すること
  • 再発防止のための体制やルールを整備すること
  • これらの措置の履行状況を消費者庁に報告すること

といった内容が盛り込まれています。

それに加えて本件で特に重要なのが、一般消費者に対する被害回復措置(返金)です。具体的には、2021年6月16日から2025年2月9日までの間に本件商品を購入した一般消費者に対し、 購入金額の一部を返金する措置が確約されました。消費者庁は、この確約計画について、「一般消費者の被害回復に資するものであること」を重要な判断要素として、措置内容は十分であると判断しています。

また、確約手続の運用基準においても、返金措置は、 「措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮する」 と位置づけられています。本件では、優良誤認表示の疑いも含まれていたことから、被害回復措置(返金)が、確約計画の認定において重要な要素となったことがうかがえます。

この事例は、事業者側の視点で見ると、 確約手続を利用して措置命令や課徴金といった法的措置を回避しようとする場合でも、場合によっては、課徴金を上回る規模の返金措置を計画せざるを得ないという、現実的な負担が生じ得ることを示しています。

株式会社LAVA International(フェイシャル専門サロン)の事例

事例3:株式会社LAVA International(フェイシャル専門サロン)

株式会社LAVA Internationalが運営するフェイシャル専門サロン「DanjoBi」および「MUQU」に関するこの事案は、有利誤認表示とステルスマーケティング規制という、二つの景品表示法上の違反の疑いについて、令和7年(2025年)8月28日に確約計画が認定されたケースです。

参考:消費者庁|株式会社LAVA Internationalから申請があった確約計画の認定について

事案の概要

この事例の特徴は、口コミを操作する形でのステマ行為が問題とされた点にあります。本件では、ステマ規制との関係で、主に二つの行為が問題とされました。

一つ目は、顧客に対し、口コミサイト(ホットペッパービューティー)の口コミ欄で「星5」の口コミを投稿することを条件に、次回の施術料金から500円を割り引くと伝えていた行為です。

この行為では、

  • 金銭的な利益に当たる「割引」という対価
  • 表示内容である「星5の評価」

が強く結びついています。そのため、この口コミ表示は、顧客が自主的に行った第三者の感想とは客観的に認められず、事業者が関与した「事業者の表示」と評価されるおそれがあるとされました。一般の消費者からは、第三者の正直な口コミであるかのように見えてしまう状態になっていた点が、ステマ規制違反の疑いにつながっています。

二つ目は、LAVA International社の従業員が自ら、同じ口コミ表示欄に「星5」の口コミを投稿していた行為です。

従業員が販売促進を目的として行う表示は、その立場や役割から、事業者自身の表示とみなされます。第三者のレビューであるかのように見せかけて表示していたことが、ステマ規制に違反する疑いがあると判断されました。

本件では、ステマ規制に加えて、有利誤認表示の疑いも指摘されています。

具体的には、クーポンメニューにおいて、最近の相当期間にわたって実際に提供された実績のない価格を比較対象として併記し、実際よりも安価であるかのように表示していた点です。このような表示は、消費者に対して取引条件が実際よりも有利であると誤認させるおそれがあり、景品表示法上の問題となる可能性があるとされました。

このLAVA Internationalの事例は、

  • 口コミへの金銭的インセンティブの付与
  • 従業員による口コミ投稿
  • 実態のない比較価格の表示

といった行為が重なった結果、ステマ規制と有利誤認表示の両方が問題となったケースです。

次の確約措置の内容を見ることで、これらの行為に対して、消費者庁がどのような是正対応を求めたのかが、より具体的に分かってきます。

確約措置の内容

認定された確約計画では、まず、取締役全員が同様の違反行為を行わないことを決定すること、問題となった内容について一般消費者に周知すること、再発防止のための措置を講じることといった、確約手続において基本となる対応が盛り込まれました。

これに加えて、有利誤認表示の影響を受けた一般消費者に対し、支払われた料金の一部を返金する措置が含まれています。消費者庁は、この返金措置について、「一般消費者の被害回復に資するものであること」を重視し、措置内容は十分であると判断したうえで、確約計画を認定しました。

この事例は、口コミの点数のように、一般消費者の判断や選択に大きな影響を与える要素に対して、金銭的なインセンティブを与えたり、従業員が関与して操作したりする行為が、ステマ規制の中でも特に重要な対象とされることを、具体的に示したものといえます。

味の素株式会社及び株式会社イングリウッド共同事案(冷凍宅配食「あえて、」)の事例

この事案は、冷凍宅配食「あえて、」を共同で販売していた味の素株式会社と株式会社イングリウッドの2社が、ステルスマーケティング告示(景品表示法第5条第3号)に違反する疑いのある行為について確約計画を申請し、消費者庁が令和7年(2025年)9月19日にこれを認定したケースです。

参考:消費者庁|冷凍宅配食の販売事業者2社から申請があった確約計画の認定について

事案の概要

問題とされた行為は、両社が自社商品の宣伝を目的として、第三者に対し当該冷凍宅配食を無償で提供することを条件に、SNS(Instagram)への投稿を依頼していた点にあります。さらに、その依頼に基づいて第三者が投稿した内容を、両社が自社の販売サイト内にある「使ってみた方の感想 Instagramでの投稿レビュー」といった箇所で抜粋して表示していました。

このように、第三者に対して経済上の利益に当たる無償提供が行われていた場合、その投稿は、客観的に見て第三者が自主的な意思で行った表示とは認められず、景品表示法上の「事業者の表示」と評価されます。それにもかかわらず、これらの表示が、一般消費者にとって事業者の広告であると判別しにくい形で利用されていたことから、景品表示法第5条第3号に基づくステルスマーケティング規制に違反する疑いがあると判断されました。

確約措置の内容

認定された確約計画では、まず、問題となった行為をすでに行っていないことを確認するとともに、今後同様の行為を行わないことを取締役会等で決議する対応が盛り込まれました。あわせて、違反の疑いがあった行為の内容について一般消費者に周知すること、同種の行為が再び起こらないよう再発防止のための措置を講じること、そして、これらの対応状況を消費者庁に報告することが確約されています。

消費者庁は、この確約計画について、近年の景品表示法第5条違反が認定された事案で命じられてきた措置と同様の内容を含んでいることなどを踏まえ、「措置内容の十分性」と「措置実施の確実性」のいずれの要件も満たしていると判断しました。その結果、本件については、措置命令や課徴金納付命令を適用しない対応が取られています。

この事例は、金銭の支払いがなく、商品を無償で提供しただけであっても、ステルスマーケティング規制の対象となり得ること、そして第三者による投稿や表示を事業者が自社サイトなどで利用する場合には、それが広告であることを明確に示す必要があることを示した、ステマ規制運用の初期段階における代表的な事例といえます。

確約手続の事例から読み解く重要論点と対策

確約事例から読み解く企業法務上の重要論点と対策

公表された確約事例を通して見ると、ステマ規制や景品表示法は、単なるルールの話ではなく、デジタルマーケティングの実務と直結する問題であることが分かります。特に企業法務部門にとっては、「どのような行為が違反と判断されやすいのか」「どこにリスクが集中しているのか」を具体的に把握できる点に、大きな意味があります。

以下では、これまでに見てきた確約事例をもとに、企業が特に注意すべき重要な論点を整理します。

「事業者の表示」と認定されるリスクが高い行為

ステマ規制の適用において最大のポイントとなるのが、第三者による表示が「事業者の表示」と判断されるかどうかです。LAVA Internationalやイングリウッド/味の素の事例が示すとおり、この判断が分かれ目となり、ステマ規制が適用されるか否かが決まります。

金銭的対価や無償提供を伴う第三者表示には以下のケースが考えられます。

対価性のある利益供与

第三者に対して、

  • 金銭的な報酬を支払う場合
  • 商品やサービスを無償で提供する場合
  • 割引などの経済的なメリットを与える場合

これらはいずれも、「経済上の利益の提供」に当たります。

このような利益供与があると、その表示は、第三者が自主的な意思で行ったものとは客観的に認められにくくなり、「事業者の表示」と判断されるリスクが非常に高くなります。

その結果、広告であることを明確に示していなければ、ステマ規制に違反する疑いが強まります。

不特定の者に対するサンプリングとの違い

一方で、運用基準では、事業者が不特定多数の第三者に対して試供品などを配布し、その結果として、受け取った人が自主的な意思で投稿や表示を行った場合には、通常、「事業者の表示」には当たらないとされています。

しかし注意が必要なのは、

  • 特定の人物を選んで提供している場合
  • その提供の目的が「宣伝」であると評価される場合

です。このようなケースでは、たとえ明示的な投稿依頼がなくても、事実上、見返りを期待して提供していると判断される可能性があり、「事業者の表示」と認定されるリスクが高くなります。

公表された確約事例群は、特にデジタルマーケティングに関わる企業法務部門に対し、景表法順守の重要性を示す具体的な教訓を提供しています。

従業員による投稿・口コミ操作

LAVA Internationalの事例では、従業員が自ら「星5」の口コミを投稿していた行為が、ステマ規制違反の疑いとして問題になりました。

従業員が販売促進に関わる立場にある場合、その投稿は、形式上は第三者の口コミに見えても、実質的には事業者自身による表示と評価されます。そのため、「事業者が自ら表示しているにもかかわらず、第三者の表示であるかのように見せる行為」として、ステマ規制の対象となる疑いが生じました。

また、この事例では、顧客に対して「星5」の口コミ投稿を条件に割引を行う行為(いわゆるインセンティブレビュー)も問題とされています。

このような行為は、たとえ表示内容自体に虚偽がなく、優良誤認や有利誤認に直接つながらない場合であっても、口コミが第三者の自主的な評価ではないと判断される可能性があるため、ステマ規制の対象となり得ることが示されました。

是正措置に必須とされる共通要素と経済的負担

景表法違反の疑いが発生した場合、確約計画の認定を受けるためには、公表された事例全てにおいて共通して、以下の措置が必須とされています。

  • 経営層による行為の非反復確認(取締役会決議など)
  • 一般消費者への周知徹底
  • 再発防止措置(コンプライアンス体制の整備など)
  • 履行状況の消費者庁への報告

加えて、優良誤認や有利誤認の疑いが複合した事例(三ツ星ファーム、LAVA International、かたぎり塾)では、確約措置として一般消費者に対する返金措置が盛り込まれています。

これは、返金措置が「措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮する」という運用基準の考え方を具体的に示しています。事業者は、法的措置を避けるために確約手続を選択する場合、金銭的な被害回復を伴う可能性が高いことを認識しておく必要があります。

確約手続における被害回復措置は、迅速な問題解決に資しますが、その一方で事業者にとって多額の経済的負担となる可能性があります。

令和5年改正景表法では、課徴金制度における返金措置(自主返金制度)について、従来の金銭による返金に加え、消費者の承諾を得ることを条件に、第三者型前払式支払手段(電子マネー等)による返金も認められるようになりました。この改正は、課徴金の減額という本来的な場面での利用促進に加え、確約手続における被害回復措置の実施を促進する意味合いも大きいと考えられています。電子マネー等の利用により、振込手数料の削減や購入者からの口座情報取得の負担が軽減され、返金措置の利用が進むことが期待されます。

企業が取るべきコンプライアンス強化策

確約事例から得られた教訓を踏まえ、企業は以下の点を重点的に強化すべきです。

第三者への依頼・指示における「広告明示」の徹底

インフルエンサー、アフィリエイター、協力者に対し、金銭的対価の有無にかかわらず、プロモーションを依頼・指示する場合、その表示が事業者の表示であることを明瞭に示すことを契約上義務付け、その実施を徹底する必要があります。明瞭な表示としては、「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言が推奨されます。

不明瞭な表示方法の排除

明瞭な表示とは、一般消費者にとって表示内容全体から分かりやすい表示となっていることが必要です。以下の、一般消費者が認識できないような表示方法を排除するための社内ガイドラインを整備すべきです。

  • 認識できないほど短い時間でしか表示しないこと(長時間の動画の冒頭のみの表示など)。
  • 他の情報に紛れ込ませること(例:大量のハッシュタグの中に埋もれさせる)。
  • 一般消費者が視認しにくい小さい文字や薄い色を使用すること。

従業員のSNS利用ガイドラインの明確化

従業員が自社製品・サービスに関するSNS投稿を行う場合、その立場や業務内容によっては「事業者の表示」と見なされるリスクがあるため、社内規程を整備し、個人の感想と誤認されるような投稿を行わないよう指導する必要があります。

被害回復を見据えた即応体制の構築

優良誤認や有利誤認、ステマ規制違反の疑いが生じた場合、確約手続の利用を選択する可能性を考慮し、被害回復(返金措置)の対象者特定、返金方法(金銭または電子マネー等)、および資金調達を迅速に検討できる体制を平時から整えておくことが求められます。

まとめ:広告には弁護士のリーガルチェックを

今回の確約事例の公表は、景品表示法の執行がデジタル領域、特に第三者の表示を利用したプロモーションにおいて、その透明性が厳しく求められることを示しています。

企業法務部門は、これらの事例を教訓として、プロモーション活動における「広告であることの透明性」を最優先で確保し、消費者からの信頼を維持するための体制を構築することが、今後の企業活動の持続可能性を高める鍵となります。

デジタル領域におけるプロモーションの成功のためには、広告規制とインターネット上の広告やインフルエンサー等の業界慣行に精通した専門家への相談が有用です。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所では、東証上場企業からベンチャー企業まで、さまざまな案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。契約書の作成・レビュー等については、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る