ステマは不当表示?規制強化への動きと景品表示法について解説
SNSやYouTubeでの自然な投稿を装いながら、実際には事業者が商品やサービスを宣伝する「ステマ(ステルスマーケティング)」が広がっています。このステマによって公正な市場秩序が乱れることが懸念されており、国はこの問題に対する規制強化の方向に動き出しました。今後は、広告を企画する際には、ステマに関する規制にも注意を払う必要があります。
ここでは、2022年12月27日に消費者庁から出た報告書を元に、ステマの問題点や、景品表示法における不当表示について解説します。
この記事の目次
ステマの問題点とは
ステマとは、ステルスマーケティング(Stealth Marketing)の略で、消費者に宣伝だと気付かれないように、広告主が広告であることを隠したまま宣伝することをいいます。
スマホの普及に伴い、誰もが情報を発信できる中で、SNSやYouTubeなどで、インフルエンサーが更新する写真や動画を毎日チェックしている人も多いのではないでしょうか。これらの中には個人の自然な投稿だと見せかけて、さりげなく商品やサービスを宣伝する「ステマ」が問題となっています。消費者庁の調査では、インフルエンサーのうちおよそ4割が、企業などから“ステマ広告”を依頼された経験があることが分かったということです。
中立的第三者の体裁をとりつつ、実際には事業者が金銭等の対価を提供する「広告」であるステマは、公正な市場秩序をかく乱する行為として問題視されてきました。
ステマの2つのタイプ
一般的に、ステマは「なりすまし型」と「利益提供秘匿型」という2つのタイプに分かれます。
「なりすまし型」のステマとは、事業者自身または事業者から経済的対価を受けた者が口コミサイト等に口コミを投稿しているにもかかわらず、純粋な第三者が口コミを投稿しているかのように誤認させるものです。
「利益提供秘匿型」のステマとは、事業者が第三者に経済的利益を提供して、商品やアプリなどの広告や宣伝などを行わせているのに、その事実を表示しないものです。
どちらのタイプのステマも、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為であるといえます。
ステマは景品表示法違反?
景品表示法とは、「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする」(景品表示法第1条)法律です。
この景品表示法とステマとの関係では、第5条が問題となります。ステマと景品表示法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:YouTuberがステマをすることは景品表示法違反?企業案件との違いは?
景品表示法における不当な表示の禁止
景品表示法では、事業者が自己の供給する商品・サービスについて行う以下の表示を不当表示として禁止しています(景品表示法第5条)。
- 優良誤認表示:商品・サービスの品質、規格その他の内容についての不当表示(第5条第1号)
- 有利誤認表示:商品・サービスの価格その他の取引条件についての不当表示(第5条第2号)
- 指定告示:商品・サービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ内閣総理大臣が指定する不当表示(第5条第3号)
優良誤認表示
優良誤認表示については、景品表示法第5条第1号に「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示」と規定されています。
つまり、商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも著しく優れているかのように偽って宣伝したりする行為が優良誤認表示に該当します。
例えば、サプリメントについて、実際には効果がないのに、「食べながら痩せる」などとダイエット効果があるかのようにうたうようなケースが該当します。
有利誤認表示
有利誤認表示については、景品表示法5条第2号に「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」と規定されています。
つまり、商品・サービスの取引条件について、実際よりも有利であると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に安いわけでもないのに、あたかも著しく安いかのように偽って宣伝したりする行為が有利誤認表示に該当します。例えば、普段1,000円で販売している実態がないのに「通常価格1,000円のところ本日限り500円」といった表示をするケースが該当します。
指定不当表示
また、これらのほか、景品表示法第5条第3号に、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示」を不当な表示として内閣総理大臣が指定できるとあり、この規定によって現在までに以下の6件が指定されています。
1.「無果汁の清涼飲料水等についての表示」(昭和48年公取委告示第4号)
果実の名称等を用いた無果汁の清涼飲料水等について、無果汁である旨が明瞭に記載されていない表示
2.「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公取委告示第34号)
原産国の判別が困難な表示等
3.「消費者信用の融資費用に関する不当な表示」(昭和55年公取委告示第13号)
実質年率が明瞭に記載されていない表示等
4.「不動産のおとり広告に関する表示」(昭和55年公取委告示第14号)
実際には取引することができない又は取引の対象となり得ない不動産についての表示等
5.「おとり広告に関する表示」(平成5年公取委告示第17号)
取引を行うための準備がなされていない場合、その他実際には取引することができない場合のその商品又は役務についての表示等
6.「有料老人ホームに関する不当な表示」(平成16年公取委告示第3号)
取引の対象となる有料老人ホーム等の施設やサービスの内容が明瞭に記載されていない表示
例えば、6について具体例をあげれば、有料老人ホームの施設・設備、サービスについて、「入居後の居室の住み替えに関する条件等が明瞭に記載されていない表示」や「夜間における最小の介護職員や看護師の数など、介護職員等の数が明瞭に記載されていない表示」などが、「有料老人ホームに関する不当な表示」として、禁止されています。
景品表示法の規制の限界
不当表示を行った事業者に対しては、行為の差止めや一般消費者に生じた誤認を排除するための措置を命じる措置命令がなされます(景品表示法第7条第1項)。
また、優良誤認表示・有利誤認表示については、一定の要件を充たす場合には、当該商品または役務の売上額に一定の率を乗じて得た額により計算された課徴金額を国庫に納付するよう命じる課徴金納付命令がなされます(景品表示法第8条第1項)。
このように、優良誤認表示や有利誤認表示がある場合には、ステマに対しても、現行の景品表示法による措置が可能です。ですが、表示が不当表示に該当しなければ、つまり、優良誤認、有利誤認、または指定告示で指定されている不当表示に該当しなければ、景品表示法でステマを規制することはできません。
例えば、2019年にウォルト・ディズニー・ジャパンが映画「アナと雪の女王2」の宣伝のために複数の漫画家に感想などを描いた漫画をSNSで発信してもらうよう依頼していたのに、広告と明示していなかったというケースがありました。他にも、京都市が、市の取り組みをPRするため人気漫才コンビにTwitterで情報発信をしてもらう対価として100万円を支払う契約を吉本興業と結んでいたのに、「広告」と明示していなかったケースなどが問題となりました。ですが、これらは、景品表示法で禁止される不当表示とは言えないので、景品表示法の規制対象とはなりませんでした。
一方、外国でのステマ規制に目を向けると、米国連邦取引委員会法(FTC法)第5条は、一般規定として、不公正な競争手法や欺瞞的な行為は違法であるとしています。「金銭を受け取っていながら、公平な消費者や専門家の独立した意見であるかのように装って推奨表現をすること」がこれに当たるとしています。また、ガイドラインにおいて、商品またはサービスの推奨者と、マーケターや広告主との間の重大な関係の有無及び金銭授受の有無などを開示する義務を課しています。
EUの不公正取引行為指令も、一般規定として「不公正な取引行為は禁止されるものとする」とした上で、「事業者が金銭を支払って記事を書かせておきながら、そのことを隠してその記事を販促活動に利用すること」を禁じています。
ステマに関する報告書の内容
このような状況下でまとめられた消費者庁の有識者検討会の報告書では、ステマに対する景品表示法による規制が必要と報告されています。
景品表示法の目的との関係
景品表示法は、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為」(景品表示法第1条)を規制することを目的としますが、一般消費者が表示全体から抱く印象や認識と、実際のものに乖離があれば、それがたとえ「著しく」ない場合でも、一般消費者に誤認が生じます。そして、一般消費者が自主的かつ合理的な選択をするためには、消費者を誤認させない正しい表示、つまり、表示と実際に乖離がないことが前提となります。
広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す行為は、事業者の宣伝であるにもかかわらず、消費者の自主的な情報発信であるという誤認が生じていると考えることも可能です。その誤認が、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択を阻害しているといえます。
したがって、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す行為は、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為」であるといえ、景品表示法の目的に反するものといえ、同法で規制すべき必要性がある、と報告書は提案しています。
ステマを規制する法律について
報告書では、ステマについて「規制の必要性がある」と結論づけたうえで、早急に規制する必要があることから、景品表示法の第5条3号の不当表示の対象に、「消費者が、事業者=広告主の表示であることを判別することが困難であると認められるもの」という内容を新たに加え、「禁止行為として新たに指定することが妥当」としています。
事業者が行う広告は、SNSだけでなく、インターネット、テレビ、新聞などあらゆる媒体で、消費者に広告だとわかるように「広告」「宣伝」「PR」といった表示が必要とし、周囲の文字よりも小さな表記など、不明瞭な場合は禁止行為に該当するとしています。景品表示法における不当表示にこれを追加し、違反した場合は広告主が行政処分の対象となるという提案も出されています。
なお、報告書では今後検討すべき課題にも触れています。ステマは、悪質な不正レビューを募集する「仲介事業者」が中心となって実施している場合もあり、景品表示法では事業者=広告主しか対象にならないため、「広告主だけを規制しても不当な表示をなくすことはできないのではないか」と指摘されています。規制の対象範囲を広告主だけでなく、仲介事業者やインフルエンサーまで拡大するよう検討すべきなど、現行の景品表示法の見直しも含めた更なる規制が必要となってくるという提案もされています。
(追記)この報告書を受けて、令和5年10月からステマ規制が強化されることになりました。詳細については以下の記事をご参照ください。
関連記事:令和5年10月より「広告」明示が義務に。ステマ規制の運用基準について解説
まとめ:ステマは専門的な判断が必要、弁護士に相談を
ここでは、消費者庁の「ステルスマーケティングに関する検討会」の報告書に基づいて、ステマの問題点、景品表示法や不当表示との関係などについて解説しました。
執筆時点(2023年4月)では、この報告書を受けて2023年3月28日に「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」が公表されました。この指定告示は、2023年10月1日から施行されます。
表示が景品表示法に違反しているかどうかというのは専門的な判断が必要になります。広告は、弁護士のリーガルチェックを受けておくと安心です。
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