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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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フリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用した場合の法的責任

自社で作成をしたウェブサイトのボタンやアイコンにフリー素材を使用することもあるかと思います。その際、検索エンジンなどで、例えば、「フリー素材 画像」や「著作権フリー 画像」などで検索し、表示された画像を使用するケースもあるかと思います。

ただ、検索エンジンで検索して表示された画像であるからという理由で、フリー素材だと思い込んで、ボタンやアイコンに使用することは実は危険な行為です。なぜなら、検索エンジンで検索して表示された画像は、必ずしもフリー素材というわけではなく、使用するために許諾が必要な画像も表示される可能性があるからです。また、フリー素材を紹介しているサイトに、実はフリー素材ではない画像等が紛れ込んでいる場合もあります。そこで、本記事では、フリー素材であると信じてフリー素材ではない画像等を使用した場合の法的責任について説明をします。

フリー素材と信じてフリー素材で画像等を使用した場合に考えられる法的責任

フリー素材と信じてフリー素材でない素材を利用した場合の裁判例について説明しています。

フリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用した場合、著作権を侵害するものとして、権利者から以下のような請求を受ける可能性があります。

  1. 不法行為に基づく損害賠償責任(民法第709条)
  2. 侵害行為等の差止請求等(著作権法112条)

不法行為に基づく損害賠償責任①

民法第709条では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定されています。フリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用した場合、「他人の権利」である著作権を「侵害」したものといえそうです。また、本来であればライセンス料などを受け取ることができたのに、無断で著作物が利用されている以上、ライセンス料を受け取ることができませんので「損害」も生じているといえそうです。なお、著作権侵害における損害については、その算定が困難であることから、著作権法第114条で損害額の算定に関する事項が規定されています。

ただ、もし皆さんが、フリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用した人の立場であれば、「フリー素材だと思って使用していたので、故意過失はありません。」と主張したくなると思います。実は、これと類似した裁判例(東京地裁平成26年(ワ)第24391号同27年4月15日判決)があり、フリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用した人について、約20万円の損害賠償義務が認められています。

事案の概要

本件は、被告が、平成25年7月5日から平成26年1月15日までの期間、被告ウェブサイトで、写真を掲載したところ、本件写真の著作権者、独占的利用権者又は著作者であると主張する原告らが、不法行為に基づく損害賠償請求をするとともに、当該請求の一部と選択的に不当利得返還請求をした事案です。

被告の主張

原告の請求に対して、被告は以下のような主張を行っています。

  • 被告ウェブサイトを作成するに当たり、写真を掲載したのは被告の従業員であるが、「フリー素材である」と誤信していたものと思われる
  • データをどのように手に入れたか記憶していないが、ヤフーやグーグルの画像検索をした結果表示されるサムネイル画像をコピーして写真を集めたことはない
  • 写真には原告らの著作物であることを示す情報がなく、原告らの著作物である旨の認識がないことから、過失は認められない
  • 一般的にも、フリー素材を使用することが禁止されているわけではなく、著作権侵害であると注意を受ければ写真を削除する注意義務があるとされており、被告はこれに従い、原告らの指摘の後、速やかに本件各写真を被告ウェブサイトから削除している

つまり、被告としては、適切な方法によりフリー素材として入手した、写真から誰の著作物かわからないので過失は認められない、と主張しました。

裁判所の判断

上記の被告の主張に対し、東京地裁は以下のように判断し、被告に約20万円の支払義務を認めました。

被告は,フリーサイトから写真等を入手する際に,識別情報のない著作物についてまで権利関係の調査を要するとすれば,表現の自由(憲法21条)が害されるとし,警告を受けて削除すれば足りるかのような主張をする。

しかし,仮に,E(被告従業員)が本件写真をフリーサイトから入手したものだとしても,識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきことは,著作権等を侵害する可能性がある以上当然であるし,警告を受けて削除しただけで,直ちに責任を免れると解すべき理由もない。被告の上記主張は,いずれも独自の見解に基づくものであって,採用することができない。

つまり、フリーサイトから写真を入手したとしても、出所が不明な写真を利用すれば、著作権等を侵害することは予見できるのであるから責任を免れることはできないと判断したことになります。フリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用した場合、「フリー素材だと思っていた」と主張しても、損害賠償義務が認められてしまう可能性があるので注意が必要です。

ただ、フリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用した場合でも、故意過失が認められないような特段の事情が認められるときには、損害賠償義務が否定されることも理論上はありえます。

侵害行為等の差止請求等②

侵害行為等の差止請求とは、著作権等の権利侵害自体を辞めさせる事です。

著作権法112条では、以下のような請求が規定されています。

  • 侵害行為をする者に対する侵害の停止請求(著作権法第112条第1項)
  • 侵害行為をする者に対する侵害の予防の請求(著作権法第112条第1項)
  • 侵害の行為を組成した物、侵害の行為によって作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置の請求(著作権法112条第2項、この請求は上記の請求のいずれかとともにのみ請求することができます。)

①の請求が、著作権等が侵害された者が被った損害を賠償するものであったのに対して、②の請求は、著作権等の権利侵害自体を辞めさせるものであり、①の請求と②の請求は、請求の内容に違いがあります。

①と②の相違:故意又は過失の要否

①と②については、理論上、故意又は過失の要否という観点から区別することができます。前述のように、①の請求が認められるためには、「故意又は過失」が必要でした。

一方、②の請求については、侵害者に侵害についての故意や過失があることは要件ではありません。このように、請求①と請求②については、故意又は過失の要否という観点から区別することが可能です。

まとめ

以上、フリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用した場合の法的責任について説明をしました。ボタンやアイコンにフリー素材と信じてフリー素材でない画像等を使用してしまうと、フリー素材ではないことを知らなかったとしても法的責任を問われてしまうことがあり得ます。そのため、ボタンやアイコンに他者が提供する画像等を使用する場合には、おそらくフリー素材だとは思うけど確証はないという状況であれば、使用をしないことがよいものと考えられます。ボタンやアイコンに他者が提供する画像等を使用する場合には、客観的に確実にフリー素材であるといえるときにのみ、使用をするようにしましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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