アメリカの法律は日本とどう違う?現地法人設立の前に知っておきたいポイントを解説
自社のビジネスを海外に広げる施策の一つに、アメリカ進出があります。具体的な検討を進める段階では、アメリカでの法人設立に関する法律を知りたいと考えるのではないでしょうか。アメリカの法律体系は日本とは異なります。会社を立ち上げるためには、現地の法律に関する正しい知識が欠かせません。
本記事では、アメリカの法律の特徴や留意点を分かりやすく解説し、さらにアメリカで法人を設立する際の重要なポイントも解説します。
この記事の目次
アメリカの法統治の仕組み
アメリカの法統治の仕組みは、下記の2つに特徴があります。
- 州政府単位の組織
- 州政府の役割
連邦制を採用している米国では、中央の連邦政府から州・地方政府に至るまで、政府の階層が細かく分岐しています。そのうちの2層である連邦政府と州政府については、合衆国憲法の中で規定されるものです。
州政府単位の組織
アメリカの法統治は、州政府単位で組織されています。
合衆国は50の州から成り立ち、各州はそれぞれ自治権を有し、州政府が独自に法律を定めて行政を運営します。この分権的な組織は、中央集権的な統治体制とは異なるものです。アメリカでは、地域ごとのニーズや文化に合わせた統治が行われます。
各州は州法(ステートロー)を制定し、中央政府(連邦政府)が管轄する範囲外の対応が可能です。
州政府の役割
州政府の役割は、独自の州憲法をもって政治を行うことです。州憲法は詳細で具体的な内容を含んでいます。
具体的には、教育・税制・法の執行・司法制度など、各州が自らの運営において担当する事項が明記されています。例えば、州ごとに異なる教育制度や税制度が存在し、各州が独自の文化や社会構造を尊重した形で法を定めることが特徴です。
このため、アメリカ全体の法律体系は連邦法と州法の複合体制を取っており、中央と地方が協調して統治しています。
参考:AMERICAN CENTER JAPAN|米国の統治の仕組み – 連邦政府
日本の法制度との違い
アメリカと日本の法制度にはいくつかの大きな違いがあります。
まず、法律の根拠が異なります。アメリカは合衆国憲法に基づく合衆国法が最高法規であり、各州も独自の憲法を有しています。これに対し、日本は日本国憲法を最高法規とし、国会制定法がこれに従います。アメリカの憲法は原則として修正可能ですが、日本国憲法は改正手続きが厳格に定められています。
次に、権限に違いがあります。アメリカは連邦制度であり、各州が自治権を持つ一方で中央政府も強力です。これに比べて日本は中央集権的であり、地方自治体は中央政府から権限を委譲されたものです。例えば、日本の地方自治体は法の制定ができず、中央政府の法に基づいて事務を執行します。
最後に、アメリカと日本の法制度の違いとして日本国憲法の独自性が挙げられます。アメリカは、歴史的な経緯や独立戦争の成果を反映して合衆国憲法を制定しました。対照的に、日本国憲法は第二次世界大戦後にGHQにより制定され、平和主義や基本的人権の保障が特徴です。例えば、日本国憲法第9条は「戦争の放棄」を宣言し、自衛隊の存在について特異な文言が見られます。
これらの違いから分かるように、アメリカと日本は歴史や文化の違いに基づき、異なる法制度を有しています。
アメリカの「契約」に対する考え方
アメリカの「契約」に対する考え方について、下記2つの契約を例に解説します。
- 労働契約
- 不動産賃貸契約
特徴としては、文化的な背景やそこに住む人々の国民性が関係しています。アメリカは多民族国家であり、さまざまな民族や人種で構成されていることが大きな理由です。
また、アメリカでは契約書に法的な拘束力があります。契約の遵守が強制され、もし紛争が生じた場合は契約書が訴訟の基準となります。
労働契約
労働契約では、雇用者と労働者の双方が、労働の明確な条件を契約書に基づいて定めます。労働者は、給与や労働条件、雇用期間などについて契約書で確認できます。
また、アメリカはAt-Will雇用(任意雇用)制度が一般的で、雇用主も従業員も理由を示さずに解雇・退職できる柔軟性があります。ただし、労働法により差別的な解雇は禁じられ、最低賃金などの基準が規定されています。
不動産賃貸契約
不動産賃貸契約では、賃料・契約期間・退去条件・修繕の責任などが契約書で規定されます。アメリカの不動産市場は契約条件が比較的柔軟で、交渉の余地があります。また、賃貸者と賃借人の権利義務は契約書に基づいていますが、州ごとに不動産法が異なるため、地域によって契約条件が変わることも特徴的です。
アメリカで法人を設立する際に知っておくべきこと
アメリカで法人を設立する際に知っておくべきポイントは、次の3つです。
- 法人設立には数ヶ月かかる
- 数千ドルの費用がかかる
- エリア選択が重要
経済成長の著しいアメリカでの起業は、メリットが大きいと言えます。以下を理解した上で、法人設立の準備を進めましょう。
法人設立には数ヶ月かかる
アメリカでの法人設立には手続きや審査があり、数ヶ月かかることが一般的です。
州によって要件が異なり、必要な書類や審査プロセスが異なるため、スケジュールを考慮した計画が重要です。また、法人の種類や所在地によっても設立に要する期間が変動するため、余裕を持って計画を立てましょう。
数千ドルの費用がかかる
一般的に、法人設立には数千ドルの費用がかかります。これには登記手数料や法務書類の作成、弁護士や会計士のコンサルティング料などが含まれます。
州や法人の種類によって設立費用が異なるため、十分なリサーチが必要です。法人設立に伴う費用を事前に正確に見積もり、適切な予算を立てましょう。
エリア選択が重要
アメリカは広大な国であり、ビジネスを展開するエリア選択は極めて重要です。
例えば、エリアによって、税制やビジネス環境、人材の採用可能性などが異なります。事前に各州の特性を把握し、ビジネスの性質に最適なエリアを検討しましょう。事業の目的に合わせて州を選定すれば、法人設立後の運営がスムーズに進むはずです。
アメリカで法人を設立する際の注意点
アメリカで法人を設立する際にはいくつか注意点があります。
まず、言語の壁への対応が必要です。アメリカでは、ビジネスのやり取りや法的手続きが英語で行われます。特に、契約書や法的文書は正確さが求められるため、専門家のサポートを受けて誤解や問題を回避しましょう。自社内のリソースで不十分な場合は、代行サービスなども一つの選択肢です。
加えて、州ごとの法制度の理解が重要です。法人を設立する際には、選んだ州の法律に対する理解が不可欠です。また、州ごとに税制や規制が異なるため、ビジネスの性質や戦略に合った州の選定が成功の鍵となります。専門家に相談し、あらかじめ正確な情報を得ましょう。
まとめ:現地での法的トラブルは専門家に相談を
アメリカの法律は、中心となる連邦政府が定めた法律と、州政府による州憲法の2つが主たるものです。国の成り立ちや歴史から、日本の中央集権的な制度や日本国憲法のルールとは異なる特徴があることを知っておきましょう。ビジネスで海外進出を目指し、アメリカで法人を設立するためにはこれらの理解が不可欠です。
法律に関しては専門的な部分が多く、正しい理解を踏まえて慎重に判断する必要があります。安易に決めてしまわず、疑問点は専門家に相談して解決しましょう。
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