弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

人の名前を勝手に載せると罪になる?個人情報が晒された事例についても解説

風評被害対策

ハッキングしている男性

現代は、インターネットやSNSの普及によって誰でも簡単に情報を発信できる時代となりました。その反面、個人情報の取り扱いには細心の注意が必要です。他人が自分の名前を勝手に載せるとどんな罪に問えるのか知りたい人も多いでしょう。また、自分の名前を晒されたときにどう対処すればいいのかもわからず放置してしまうケースもあるのが現実です。

本記事では、インターネットやSNSにおいて名前などの個人情報を無断で公開されて放置した場合のリスクを紹介します。また、どのように対処すればいいのか、法的にどのような責任を追及できるのかを具体的な例を提示して解説します。

人の名前を勝手に載せる行為はプライバシー権の侵害

インターネットやSNSに他人の名前(実名)などの個人情報を無断で載せて晒す行為は、プライバシー権の侵害になる可能性があります。プライバシー権とは誰もが持っている権利で、私生活上の情報を無断で公表されることを防ぐ権利です。個人の私的領域を守り、「個人の権利の源」となる重要な人権であるといえます。

プライバシー権は、日本国憲法第13条の解釈によって保障される、基本的人権の一つであるとされています。法律で明文化はされていませんが、憲法の解釈や判例によって確立されてきました。インターネット上に人の名前を勝手に晒すなどの行為は、個人の私的領域を侵して私生活上の情報を公表する行為になるため、プライバシー権の侵害となりえます。

人の名前を勝手に載せる行為が違法になるケース

違法になるケース

プライバシー権の侵害だけではただちに違法とはなりませんが、晒した内容やあわせて書き込まれた内容などによっては、プライバシー権の侵害だけでなく刑事罪が科されるケースもあります。

インターネット上に人の名前を勝手に載せる行為が罪に問われるケースについて、適用される刑法の例を交えながら解説します。

誹謗中傷による刑法の適用

インターネットやSNSに他人の名前を載せるだけでなく、相手を誹謗中傷する内容の文面もあわせて投稿した場合は、プライバシーの侵害だけでなく刑法の名誉毀損罪(刑法第230条)や侮辱罪(刑法第231条)に問われて刑事罰を科される可能性があります。名誉毀損罪は、以下のように定義されています。

公然と事実を摘示し,人の名誉を毀損した者は,その事実の有無にかかわらず,三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

引用:侮辱罪及び名誉毀損罪の規定の沿革|法務省

また、侮辱罪は以下のように定義されています。

事実を摘示しなくても,公然と人を侮辱した者は,拘留又は科料に処する。

引用:侮辱罪及び名誉毀損罪の規定の沿革|法務省

つまり、インターネットやSNSなどに他人の名前を勝手に載せて晒しただけでなく、その相手に対して公然の場であるインターネット上で名誉を毀損したり侮辱したりした場合は、名誉毀損罪や侮辱罪などの刑事罰に問われる可能性があります。

リベンジポルノ

人の名前を勝手に載せるだけでなく、その相手の性的な画像や動画もインターネット上に載せて晒すことは「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(通称:リベンジポルノ防止法)」に違反し、刑事罰が科されます。リベンジポルノの成立には性別を問わないため、女性だけでなく男性が被害者にもなり得ます。

関連記事:リベンジポルノの法律とは?罰則の内容や対応方法についても解説

個人情報の晒しが犯罪にならない場合もある

インターネットやSNSに他人の名前などの個人情報を勝手に載せて晒す行為が罪になるケースがあると先述しました。しかし、個人情報を晒す行為のすべてが犯罪になるわけではありません。

投稿内容があきらかな名誉毀損の文面だったり、性的な画像も一緒に投稿されていたりなど、罪にあたる要件が明白な場合はわかりやすいのですが、罪に問えるのかの判断が難しいケースもあります。プライバシー権の侵害だけではただちに刑事罰とはならないため、罪に問えるかを見極める必要があります。

インターネットやSNSでありがちな個人情報を晒してしまう例

実際にインターネットやSNS上でよく見られる、他人の個人情報を晒してしまう実例について解説します。感情的になってついやってしまったり、意図せずうっかりやってしまったりするケースもありますが、個人情報の晒しが違法とされる例をいくつか挙げて解説します。

実名を公開するとともに誹謗中傷を行う

他人の実名を公開して晒すとともに、その相手への誹謗中傷や社会的地位を下げる投稿をすると、名誉毀損罪に問われることがあります。具体的な文例として、以下のような投稿が挙げられます。

  • 〇〇は消費者金融(サラ金)で多額の借金をしていて破産の一歩手前だ
  • 〇〇は昔、窃盗罪で警察に逮捕されたことがある
  • 〇〇は実は勉強が全くできなくて、試験で全教科赤点を取って留年している

上記のように、実名を晒すとともに具体性のある事柄まで公然の場で晒す目的で、相手の社会的評価を下げる内容を発信・投稿した場合には名誉毀損罪が成立するケースがあります。投稿した事実の内容が真実であるか虚偽であるかは名誉毀損罪の成立には関係ありませんが、ある程度の具体的な事実である必要があります。

迷惑行為やトラブルを公開する

近年は、X(旧Twitter)などのSNSにおいて、迷惑行為やトラブルの様子を撮影し、正義感から公開するというケースが増えています。相手が迷惑行為をしている事実はあったとしても、投稿の内容によっては名誉毀損罪が成立する可能性もあります。

また、相手の実名のみならず顔をモザイクなしで晒した画像を掲載すると、プライバシー権の侵害や場合によっては肖像権の侵害にもなり民事責任の追及が可能です。

個別のやり取りを公に公開する

SNSでのDM(ダイレクトメッセージ)やLINE、メールなどで2人の個別のやりとりを公開することも場合によっては罪に問われるケースがあります。

やり取りの内容をスクショした画像をSNSにアップするなどのインターネット上に公開する行為そのものは違法とはなり得ず、公開したやり取りの内容が名誉毀損にあたる投稿であったり、実名を隠さずにアップする晒し方だったりすると、その責任を問われる可能性があります。

個人情報を晒す行為が違法かどうかの判断が難しい例

インターネットやSNSに実名などの個人情報を晒す行為は、場合によって名誉毀損罪やリベンジポルノなど違法になるケースがあると先述しました。また、刑事罰を科されることがなくても、民事責任を問われるケースもあります。しかし、個人情報を晒す行為がすべて違法になるわけではなく、違法であるかどうかの判断が非常に難しいケースもあります。

匿名で活動している場合に実名が晒された

インフルエンサーや作家など、匿名やペンネームを使って実名を明かさずに活動している人たちも数多くいます。また、ホストクラブやキャバクラなどの店舗で源氏名を使って仕事をしている人もいます。それらの人が実名を明かされることを望んでいないのに、実名を公開してしまう行為はプライバシー権の侵害となるケースがあります。

実名の伏字やイニシャルが晒された

実名を明かさずに活動している人の実名をそのまま晒すのではなく、実名を伏字にしたりイニシャルにしたりして名前を公開する行為自体はプライバシー権の侵害にはなりません。伏字やイニシャルでは、特定の個人一人に絞り込むのが難しいためです。

しかし、いくら伏字やイニシャルにしていても、その他の関連情報と合わせて誰なのかが容易に特定できてしまう投稿や書き込みの場合は、実名を晒した行為と同じでプライバシー権の侵害が成立します。さらに、誹謗中傷にあたる内容の投稿もしていれば名誉毀損罪にもなりえます。

インターネットやSNSでの晒しで追及が可能な法的責任

インターネットやSNSで実名などの個人情報を晒された場合、プライバシー権の侵害だけでなく刑事罰や民事上の損害賠償請求などの法的責任を追及できる可能性があります。インターネット上に名前を勝手に載せて晒された場合、どのような法的責任を追及できる可能性があるのかを解説します。

刑事罰による刑事責任

投稿された内容に誹謗中傷が含まれていた場合には、名誉毀損罪(刑法第230条)や侮辱罪(刑法第231条)の適用で刑事罰を問える可能性があります。名誉毀損罪は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金、侮辱罪は拘留または科料の罰則です。

関連記事:侮辱罪とは?具体的な言葉の例や名誉毀損罪との違いを解説

損害賠償による民事責任

実名などの個人情報をインターネット上に晒した加害者を特定できれば、民事責任を追及して損害賠償の請求が可能です。民事責任は刑事罰とは別のため、刑事罰が科されなかったとしても損害賠償の支払いが裁判所から命じられる可能性もあります。個人情報を晒したのが誰なのかを特定するには、「発信者情報開示請求」によって法的に請求できます。

関連記事:発信者情報開示請求とは?改正に伴う新たな手続きの創設とその流れを弁護士が解説

ネットやSNSで個人情報の晒しを放置するリスク

インターネットやSNSで実名などの個人情報を晒されてしまった場合、どうすれば良いのか悩んでしまうケースもあります。よほど悪質な内容の場合にはなんらかの対応を取らないといけない気持ちになりますが、それほど悪質とは思えず実害もなさそうなケースでは、とりあえず様子見をしたいと思う場合もあるでしょう。

しかし、誰でも簡単に閲覧できるインターネット上に個人情報が晒されたまま放置すると、さまざまなリスクが生じる場合があります。

個人情報以外のデマやウソが拡散される

名前などの個人情報が晒されたまま放置することは、個人情報の晒しだけでは終わらず、個人情報の他にデマや事実無根の書き込みまで投稿されてしまうリスクがあります。個人情報が晒されたことで、名前の一部が一致しているなどの理由から憶測でデマが投稿されてしまうケースもあります。

過去の実例として、あおり運転の被疑者と名字が同じことや事故現場と住所が近いことから、事件とは関係のない全くの別人が被疑者であるとのデマを流されるという被害に遭ったケースがありました。被害者が経営する会社が、「あおり運転の被疑者の父親が経営する勤務先」としてインターネット上に詳細な住所などの情報が晒されてしまい、抗議の電話が全国から殺到する事態になったのです。

他の媒体を通じてさらに情報が拡散される

最初に投稿されたSNSや掲示板だけにとどまらず、個人情報がほかの媒体にも投稿されて情報が拡散されてしまうリスクがあります。ほかのSNSやサイトにも情報がどんどん拡散されていくことで、さらに多くの人の目に触れる事態になって実害が大きくなっていくこともあるため、注意が必要です。

多くのSNSやサイトに個人情報が拡散されてしまうと、投稿の削除などの対処がさらに困難になってしまいます。また、多くの人の目に触れることで前述したデマやウソがさらに書き込まれるリスクも高くなります。

嫌がらせやいたずらによる実害が発生する

実名のみならず、住所や電話番号などの個人情報まで晒されてしまうリスクも否定できません。特に、前述した憶測によるデマの投稿などで何らかの事件の被疑者とされてしまった場合のように、エスカレートして自宅や勤務先の情報まで晒されてしまうケースがあります。

その情報が拡散すると、全国から大量のいたずら電話・抗議の電話や郵便物が来る実害が発生します。興味本位や軽いいたずらのケースから、デマを信じて間違った正義感で抗議の電話をしてくるケースまであるため非常に厄介です。

人生のライフイベントに影響が出る

インターネット上に公開された情報は誰でも簡単に見られるため、晒された個人情報をいつ誰が目にしてもおかしくありません。晒された情報の内容によっては、結婚や就職などの人生の転機に悪影響を及ぼしてしまうリスクがあります。相手にとっては、内容が真実か否かは確かめようがないため、真実か否かに関わらず悪影響が出ます。

自分の身に危険が迫る

実名のほかに自宅や職場の住所まで晒されてしまった場合、第三者が自宅や職場に押しかけてきて自分自身に危険が迫るリスクがあります。個人情報を晒した張本人だけでなく、情報を見た人たちが突然押しかけてくるケースもあるため非常に危険です。自宅に第三者が押しかけてくることで、自分自身だけでなく家族の身にまで危険が生じる場合もあります。

ネットやSNSでの個人情報の晒しへの対処方法

インターネットやSNSで個人情報を晒されるとさまざまなリスクが生じる場合があり、そのまま放置していると最悪のケースでは自分や家族の身に危険が及ぶリスクまであります。そのため、なるべく早めに対処することが非常に重要です。個人情報をインターネット上に晒されたときの対処方法を解説します。

人権相談窓口へ相談をする

法務省では、電話による「みんなの人権110番」やインターネットによる「インターネット人権相談受付窓口」などの相談窓口を設置しています。プライバシー権の侵害や個人情報を勝手にさらされて実害が生じるリスクがある場合、まずは相談をしてみましょう。

投稿先の媒体へ削除依頼やアカウント凍結を依頼する

SNSや掲示板などに個人情報が晒された場合、個人情報が投稿された媒体の運営会社や管理者に削除依頼をすることで、投稿の削除ができます。また、投稿したアカウントの凍結も同時に依頼できるため、悪質な投稿をするアカウントを凍結すれば、その後の二次被害も防げます。

刑事責任を追及するために警察へ相談をする

プライバシー権の侵害だけでなく、誹謗中傷も含まれる際は警察に相談して刑事責任の追及ができます。刑事責任を追及するには捜査機関による捜査が必要なため、被害届や告訴状の提出などが必要です。インターネットやSNSでのトラブルは、警察が設置している「サイバー犯罪相談窓口」への相談もできます。

民事責任を追及するために弁護士へ相談をする

刑事責任の追及とは別に、民事責任も追及して損害賠償の請求も可能です。民事責任を追及するためには、法律の専門家である弁護士への相談をおすすめします。

弁護士に相談すると、投稿者が誰なのか判明していないケースでも、発信者情報開示請求によって投稿者の特定が可能です。さらに、投稿者に民事責任を追及する際に注意すべき点や専門的なアドバイスなどを弁護士から聞けます。

まとめ:名前や個人情報を晒されたときばまず相談を

インターネットやSNSに人の名前などの個人情報を勝手に載せて晒す行為はプライバシー権の侵害になり、さらに刑事責任や民事責任が生じるケースもあります。名前などの情報が勝手にインターネットに晒されてしまった場合、現段階では実害がなくても今後にどのようなリスクがあるのかわかりません。

最悪の場合、自分自身や家族の身に直接的な危険が及んでしまうケースもあり得ます。実名などの個人情報が勝手に載せられた場合は、まずは弁護士に相談をしてください。早めに相談して対処すれば、実害が生じたり被害が大きくなったりするのを適切に防止できます。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面で豊富な経験を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報は「デジタルタトゥー」として深刻な被害をもたらしています。当事務所では「デジタルタトゥー」対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:デジタルタトゥー

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る